虚無の魔神   作:千本虚刀 斬月

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32話 黎明の星

 

 

 そして、羽衣狐は死地に赴いた。その一言が、千年に航る旅の報いだったと微笑みながら。目を閉じ、この想いを確かめる。この胸を焦がす何より大切なもの達の事を。

 

振り返れば仲間がいて、気がつけば優しく包まれてた。

 

「ふふ、ふふふ。――――――――さあ、征くぞ!妾の京妖怪達よ!」

 

「ハイ!!」

 

『ウオオオオオオォォォォォォォ―――――!!!』

 

 

 

 

 羽衣狐は葵螺旋城の最上殿にて清明と再会を果たす。清明自身が敢てここまで素通りさせたのだ。自らの手で、今度こそ葬るために。

 

「会いたかったぞ、清明。一つ聞かせておくれ。お前がこれから造ろうとしている世界とは一体どの様なものなのじゃ?」

 

「・・・・・勿論、平穏で美しい世ですよ。下らぬ人間共の居ない、秩序ある住み良い世界です。」

 

「ほぅ・・・しかし、今の妾には絵空事と思えてしまうのぅ。」

 

「・・・母上、かつて私は京の都を妖の跋扈する魔都とし、支配した。この身が悠久の時を生きられるものであったなら、千年経った今でもその支配は続いていたでしょう。」

 

「悠久の時、か。すべての命には必ず終わりがある。いつかは失うと知ってるからこそ、あたりまえの日々は何より美しく尊い。一秒、一瞬が愛おしいのだ。少なくとも、妾は永遠など少しも欲しいとは思わんがな。」

 

「いいですか母上、弱いとは愚かで醜い事だ!愚かな奴は愚かな行動に走る。だから、要らぬ!」

 

「――――――――――――――・・・・・・」

 

「母上の死によって私は思い知ったのです。この世は強く正しい絶対者によって全てを管理、調整せねばならないと。だから私は誰よりもそう在り続ける。その為には母上達と、何よりウルキオラには死んで貰わなければ困るのですよ。」

 

「それは違うぞ、清明。千年に渡ってこの世を移ろい続けていると嫌でも見えてくる。光と闇、善と悪、正と負、生と死、陽と陰、妖怪と人間、希望と絶望。」

 

「清明よ、お前の言っている事も理解できる。人間とは基本的に醜悪で気を許せば即座に裏切る者達であるのは間違いない。妾の内に在る、そんな人間に対する怨嗟や悲憤は永劫消えはしないだろう。」

 

「であるなら

 

「だがな、お前の言う弱き愚か者の中には妾の京妖怪達も含まれるのであろう?ソレは許容しかねる。」

 

「何だと?」

 

「今やもう、お前だけが守るべき大切な者と言うわけでは無いのだ。」

 

羽衣狐は遂に刀を抜く。

 

「清明よ、お前の気持ちはよう分った。母子の絆を断ち切りたいと申したな。良かろう。ならば妾自らの手で引導を渡してくれる。奴等には手を出させはせん!」

 

羽衣狐の宣誓を聴いた京妖怪達は感極まっている。だが清明は冷めた目で敵として羽衣狐を観ている。

 

「母の小言ほど五月蠅くどうでもいいものは無いな。今度こそ地獄の底に堕としてやろう、母上。」

 

同時に、地獄から鬼の軍勢が顕現していく。

 

「くっ、お姉様の邪魔はさせない!あんた達、やるよ!!」『オウ!!!』

 

 

羽衣狐は響転で一気に間合いを詰め、三段突きを放つ。清明も新たに用意した刀「鬼切安綱」をもって迎撃しようとする。だが遅い。元より清明は陰陽師であって、近接戦闘の達人というわけでは無い。それは羽衣狐にも言える事ではあるが、それでも響転と剣術と9尾を併用することで清明よりも僅かだが確実に上手であった。

 

「くっ、迅い!この私でも捌ききれないとは・・・」

 

それでも清明は重傷を負おう事無く凌ぎ続ける。それは膨大な戦闘経験の蓄積によって培った洞察力の賜物である。しかし徐々に清明の傷は増えていく。

 

「先程までの威勢はどうした、清明。防戦一方ではないか。」

 

「あまり私を舐めるなよ!?呪層界・怨天祝祭!残留思念読込、経験憑依、技量再現!!」

 

清明が持ち出した刀「鬼切安綱」は幾多の武人達の手に渡ってきた業物である。坂上田村麻呂、源頼光、渡辺綱、源満仲、新田義貞。清明は刀が経験した彼等の太刀筋を読み込み再現しているのである。本来ならイタコの十八番である降霊術の極致と言っていい業だ。

 

清明の剣術レベルが跳ね上がり、今までとは逆に羽衣狐を追い詰めていく。しかし清明自身も過負荷による苦痛で顔を歪めている。

 

「ぐぅ・・・厄介ではあるが、このような無茶は怨天祝祭の効果が切れるまでの、僅かな間のものでしかなかろう?その間を凌げれば妾の勝ちじゃ。」

 

「ふっ、その考えは甘いですよ母上。お忘れですか、私は陰陽師ですよ?」

 

そう、清明にとってその剣戟はあくまで必殺の一手に繋ぐための布石。

 

「さあ、逝くが良い。────永劫輪廻!!」

 

「っ縛道の三十九・円閘扇!」

 

羽衣狐は咄嗟に円閘扇で防ごうとするが、あっさりと砕かれる。即座に響転で回避したが、その威力は恐るべきものであった。

 

「ほう、あれを躱すとは。だが、今度は逃がさぬ。」

 

清明は先程よりも更に力を込めていく。

 

「躱すのも良いが、その場合は後ろに居る輩が消滅することになるぞ。」

 

「!!!」

 

「お姉様!我々に構わずお逃げください!!」

 

「そうもいかぬよ。言うたであろう、お主達は妾が守ると。」

 

羽衣狐は両掌で刀を確りと握りしめ

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ」

 

その刀身に青藍の業火を纏わせる。

 

「灰燼灼殺と為せ─────藍焔禍災(かぐつち)

 

羽衣狐の焔刃は清明の放つ永劫輪廻を斬り裂き、そのまま術者ごと焼灼せんとするが障壁によって阻まれてしまう。

 

「あれで仕留められんとは、やはり強いのう。」

 

羽衣狐は深追いは危険と判断し、再度距離を取る。

 

「・・・真逆、な。我が母と言えどここまで食い下がられるとは思っていなかった。だが、何人にも鵺の覇道は阻めはしない!!」

 

清明は永劫輪廻を多数同時展開し、一気に放つことでショットガンのような面征圧を行ってきた。一つ一つの質では先の一撃より遙かに劣る。だが如何せん数量が多すぎて羽衣狐一人では後ろの京妖怪達を守り切れない。質が落ちていようともその威力は9尾を上回り、大妖怪クラスでさえ真面に受け続ければ数撃と耐えられないだろう。

 

「悪いが、後先の事を考えると何時までも貴方一人に手間を掛けては居られないのです。」

 

清明は呪層界・怨天祝奉によって極限まで強化した永劫輪廻を形成する。そして現状の羽衣狐にはアレを防ぐ手立てはない。

 

「やめろ、清明!やめろぉ!!」

 

「さあ、これで終わりだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。ソレが後、もう少し速ければな。」

 

 

 

 

 

 

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