虚無の魔神   作:千本虚刀 斬月

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大変長らくお持たせ致しました。


33話 虚無の魔神

 清明は極限まで強化した永劫輪廻を形成し、羽衣狐に対して射出する。そして今の羽衣狐には、背後に庇護すべき部下達が居る以上は躱すという選択肢はなく、しかし防ぎきる事は叶うまい。例え致命傷には到らずとも、戦局を傾けるには充分過ぎる一手。その一撃は重力云々の域を超えてマイクロブラックホールじみたモノとなっている。回避も防御も不可能な必滅の攻撃。

 

「さあ、これで終わりだ!!」

 

 

 

「ああ。ソレが後、もう少し速ければな。」

 

虚無黒閃(セロ・オスキュラス)

 

「!!?・・・なん・・だと・・?!わ、私の渾身の永劫輪廻を・・・っ!?貴様、一体なにをした?!!」

 

清明は疲弊の極致にあるようで、膝を着き息も絶え絶えである。しかし、其れも無理からぬ事であろう。何せ無限の重力による特異点を造り上げたのだから。天文操作の制御さえ危うい有様である。

 

しかし、ウルキオラの『虚無』はあらゆる存在を完全消滅(ゼロ)に帰す。物理を超越した概念による強制干渉、事象の上書きである。それは無限の重力による特異点(マイクロブラックホール)でさえも例外ではない。

 

まさしく神の権能と言えるチカラ。だが、それだけに消耗も激しい。況してや、地獄の咎人達を相手にした直後でもある。

 

両者は一度体勢を立て直して仕切り直そうとするが、他の連中がそんな絶好の隙を黙って見逃すはずが無い。

 

地獄の鬼達がウルキオラに殺到し、京妖怪達がそれを阻む。

 

清明の元に疾走するは、やはり羽衣狐。

 

決死の呪詛を込めた刃を閃かせる。

 

 

無垢式・伊弉冉

 

 

彼岸の彼方より放たれる幽世の一太刀は、あらゆる生命に安寧(おわり)を与える。これ則ち終熄の理である。

 

日本神話において、伊弉冉(イザナミ)軻遇突智(カグツチ)を産んだ所為で死亡。その後、伊弉諾(イザナギ)によって黄泉比良坂を大岩で鎖されて、黄泉に閉じ込められた。これによって両者は決別したという。その後、伊弉冉は黄泉國の主宰神となった。

 

呪術においては『名称』とは単なる識別記号や体裁以上の意味を持つ。その名を冠する事で()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

故に、清明は当然()()する。

 

「道反の大神よ!今一度その身を以て伊弉冉尊を黄泉路にて押し留め給え!」

 

羽衣狐の斬撃は、清明の大岩によって阻まれる。抑、清明は黄泉帰りを果たした身。黄泉の誘いなど躱すのは容易い事だ。

 

だが、其れは詰り『死』に対する畏れに他ならない。清明はあくまで生命にしがみついているに過ぎない。そして、無垢式・伊弉冉の本質は()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

この世に存在する全てのモノには何時か必ず『死』が訪れる。生命は言うに及ばず、星の息吹や人の意志、果ては形而上の概念にすらもだ。何であろうとも存在を確立した以上は『死』という結末は絶対だ。そこに例外は無い。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 勝敗は決した。

 

かつて清明は羽衣狐を希望の光を与えてくれる太陽だと表した。そして今、自ら堕とそうとした太陽によって(いのち)を絶たれたのだ。

 

清明が斃れた事で、天文操作の術は解け、螺旋城も崩壊していく。

 

戦いは終わった。清明の完全敗北という形で。

 

暁の世界に、無事に帰還を果たす。

 

其れは、紛う事無く奇跡の結果。

 

だがしかし、無償の奇跡など存在しない。奇跡には須く対価が要る。

 

この世界が紛れ込ませた黒崎 一護とウルキオラ・シファー。彼等は個でありながらも世界を滅ぼすに足るだけの存在となってしまった。鵺という滅びの要因を排斥し終えた以上、メリット以上にリスキーだ。この世界にとっては、本人の意図などは些末事であり、可能性がある時点で危険と見なすには充分すぎる。

 

そして、生者のままで『死』に到った羽衣狐。命と死は常に背中合わせであっても、決して相容れる事は無いもの同士。故に、『死』に触れながらも生き存えたモノは世界から特異物と見なされる。今や彼女もまた、世界にとっては排斥対象というわけだ。今回世界を滅ぼしかけた鵺の生みの親というのも要因の1つではあるだろう。

 

黒崎 一護には、彼を必要とする帰るべき元の世界があり、名残惜しくはあるが仕方ないと納得している。

 

ウルキオラは既に一度消滅したところをこの世界に拾われた身であり、仮に帰れるとしても今更元の世界に未練は無かった。そんなことよりも羽衣狐や京妖怪達の方が余程気がかりだった。

 

そして羽衣狐は、正直に言えばこの先もずっとウルキオラと一緒に居たい。だが狂骨をはじめとした京妖怪達も到底放ってはおけない。じゃあ皆で一緒に異世界に行けるかというと、其れもまた不可能である。通常なら世界に弾かれた時点で詰み、異世界に行く事さえ出来ず、次元の狭間に墜ちて消失する。況してや、自らの意志で自己を保ったままに異世界に行くなど、妖怪を超えて神域の業である。このままこの世界に無理矢理に留まり続ける場合、羽衣狐自身が急速に『死』に侵食されていく。そのことに今更恐れは無い。羽衣狐にとっては馴染んだモノだ。違うと事があるとすれば、今度は帰ってこられない事か。

 

 

羽衣狐は瞑目し想いを巡らせる。もしも、これから先もウルキオラと皆一緒に居られたら・・・だがそんな可能性は有り得ない。

 

そして自分はこの世界に残り続けると決めたのだ。京妖怪を率いる魑魅魍魎の主として、最後の最期まで誇り高くあろうと決めたのだ。共に戦い、寄り添ってくれた『虚無の魔神』が、アイツに手を貸したのは決して間違いでは無かったと、そう思って貰える様に在ろうと決めたのだ。

 

「━━━━━━━━━━━━っ!」

 

離別する事は既に分っていた筈なのに、既に決めたはずなのに、我ながら未練がましく思う。だけど、それでもちゃんと言わなければ。

 

「有り難う。ウルキオラ、其方に会えて良かった。―――感謝する。」

 

応答は何時も通り、愛想の無い簡素なモノだった。だがそれが羽衣狐には嬉しかった。

 

地平の彼方より陽が昇り、金色の光が目を灼く。同時に、一陣の風が駆け抜ける。

 

刹那の隙に、気付いたらウルキオラはもう居なくなっていた。

 

「・・・・・まったく、結局言い損なってしまったな。――――――ウルキオラ、其方を愛している。」

 

その呟く様な告白もまた風に乗ってどこかに運ばれていく。

 

願わくば、この(想い)がダレカの元まで届きますように。

 

 

 

 

 




続編を書くかどうかは、デアラとバレットが完結してから考える。
書くかも知れないし、書かないかも知れないし、予定変更して別作品とクロスさせるかも知れない。

とにもかくにも、これで一旦終わりです。
今までお付き合い頂き誠に有り難う御座いました。

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