虚無の魔神   作:千本虚刀 斬月

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36話 明星

 

 

 

 

 自分の周囲にいきなり得体の知れない実力者が降って湧いたらどう対処するか?

 

第一に、排除する。強制的な実力行使も視野に入れる。第二に、徹底的に無視して関わらないようにする。第三に、懐柔するか協定なりを結ぶ。

 

第一は、先ほどの分身体とASTとの戦闘の様子を見るに非常に困難と判断せざる得ない。第三は、現状では相手の行動原理が不明すぎる。

 

しばらく影からの様子見に徹して、臨機応変にプランをシフト。ベストは懐柔、ベターは不干渉、最悪は敵対と言ったところか。

 

雑に指針を定めたところで、立ち去ろうと踵を返し

 

「貴様が本体か」

 

気が付いたときには既に眼前に居た。

 

 

 

 先程の女共の本体がコイツであるのは疑いない。

 

霊圧は抑さえているようだが、霊威が段違いだ。

 

だが、些か風体は異なる。

 

「――たしか、甘ロリとか言うファッションだったか?…理解し難いセンスだ」

 

ボソリと呟く。

 

「なにゅを!?―――」

 

噛んだのか…

 

「っっ~~~!!――神威霊装・三番(エロヒム)!!」

 

霊装とやらに換装し、短長2丁の古式銃を両手に構えた。

 

「きひひひひひっ!まぁさか極上の獲物がワザワザ出向いてきてくださるなんて!さあさあさあ、どう料理いたしましょうか!?」

 

「………成程、大した霊圧だ。刀剣解放(レスレクシオン)した十刃(エスパーダ)にも匹敵するだろうな」

 

訊きたかった情報は粗方聴き終えているため、正直言って戦う理由は特にないのだが。しかし、銃を向けられて何もせずに引き下がったとあっては舐められる。それは不快だ。仕方ない。

 

ウルキオラも斬魄刀を抜き構える。その刀身は刃文も反りも無くなり樋は空洞になっていた。

 

ただ、またASTとやらに集ってこられても鬱陶しい。反膜(ネガシオン)の応用で開発した結界をそれなりの規模で展開する。外界から隔絶された事で、時喰みの城(影の異能)による転移を封じる結果となっていた。既に周囲に居る分身体の数では戦力としては誤差の範疇、結界を破壊しない限り数の暴力を押しつけ圧殺する戦法は使えない。何より、これなら逃がさずに済む。

 

「っ!?――おいでなさい!〈刻々帝(ザフキエル)〉!!」

 

精霊の女(ナイトメア)の背後に身の丈を上回るサイズの時計が出現する。

 

おそらくは死神の卍解に匹敵する、()の切り札。

 

ウルキオラも霊力を上昇させる。ただし無駄に範囲は広げずに、その身体と斬魄刀に纏う。重厚に、濃密に、硬く、鋭く。

 

時崎狂三(ナイトメア)は影の領域を最大最強に展開しながら引き撃ちする。分身体の援護射撃も、正確に急所を狙い撃つ。

 

ウルキオラは刹那の虚脱感に襲われ、霊圧が揺らぐ。その機を逃すこと無く影の弾丸が全身の急所に迫り来る。

 

「――甘い」

 

その全てを斬魄刀で切払い、分身体共を瞬く間に掃討。

 

「っ!?――〈刻々帝(ザフキエル)〉【七の弾(ザイン)】!!」

 

巨大な時計の『Ⅶ』の部位から銃に力がリロードされた。

 

剣であっても、得体の知れない弾を直接受けるは悪手だろう。虚弾(バラ)での迎撃を選択する。

 

しかし、弾がぶつかり合った距離が近すぎた。敵の魔弾の効力は虚弾(バラ)のみならずウルキオラ本体にまで及んでしまったのだ。

 

「あはははははははっ!!いかに強大な力を持っていようと止めてしまえば意味がありませんわねぇ?」

 

時崎狂三(ナイトメア)は哄笑とともに弾幕を見舞う。

 

魔弾の効力が切れ、復活したウルキオラは全身に衝撃を感じ、面貌を歪める。

 

だが、それだけだ。時崎狂三(ナイトメア)の通常弾では鋼皮(イエロ)破り貫くほどの威力はなかった。精々が血が滲む程度だが、超速再生で瞬く間に完治した。

 

 

もし今のが空間震かそれに匹敵する破壊力の技であったならそれなりのダメージは負わせられたであろう。しかし、空間震は結界のせいで発動不可能。分身体の動員による数の暴力もまた同様に結界のせいで不可能。近接戦闘能力の差でリロードの隙もほとんど見いだせない。時崎狂三(ナイトメア)の手札の大半が殺されている、極めて不利な状況である。そして、それを理解したとしても逃走すら困難極まる有様。絶望が脳裏を過り、冷汗が滴り落ちる。

 

 

一方、ウルキオラも内心で驚愕していた。時計の形状からして予測はしていたが、それでもまさかと思わずにはいられなかった。

 

「(まさかこの女は十二通りの方法で時間に干渉できるのか?・・・・・だが恐らく、制約なり燃費なりの問題も抱えているはず。でなければ道理に合わない。――確かめてみるか)どうした?そちらが来ないのなら、こちらからいくぞ」

 

「ッ〈刻々帝(ザフキエル)〉【一の弾(アレフ)】!!」

 

先程までの憎まれ口を叩く余裕すら無くしたようだ。今度は『Ⅰ』の部位からリロードする。その際に、金色の時計盤となっている左眼の針が急激な動きを見せた。霊力もそこそこ減衰している様に見える。あれだけの能力なのだ、バラガンくらいの霊圧でなければ多用は相当な負担だろう。

 

「ああ、成程。その欠点を補うための『影』という訳か」

 

それとて恐れるものでは無い。虚脱感を感じるのは足が触れている間だけだった。現に、虚空を足場にして『影』から離れている今は何の問題も無い。

 

短銃を自身のこめかみに発砲したナイトメアもとい時崎狂三とやらが動き出した。ともすればゾマリの響転(ソニード)にも匹敵しかねないスピード。

 

「…時間加速か。だが、そうだと分かってしまえば対処可能だ」

 

時崎狂三は加速された己が五体を武器としてウルキオラに突撃を敢行する。だが、格闘技術そのものは卓越しているとは言い難いレベルであり、先読みして捌ききるのにさしたる苦は無かった。一分程して魔弾の効力が切れたのか、大きく飛び退る。

 

どうやら、一度発動した能力は永続では無く短期で効力が切れ、使用の都度にリロードが必要なのだろう。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉【「その隙は与えん」

 

今のウルキオラは開放状態で使用していた投槍技(ルス・デ・ラ・ルナ)虚閃(セロ)と全く同じモーションで放てるようになった。着弾時か任意で炸裂させる事が出来、さながらスティンガーミサイルといった感じだ。円錐状に拡散していき、ミドルレンジの面制圧の虚閃(セロ)と自在に使い分けられるのだ。

 

時崎狂三は古式歩兵銃を持った左腕どころか、背後の刻々帝(ザフキエル)まで穿たれて『Ⅰ』『Ⅱ』『Ⅲ』の部位が欠落していた。そして、膝を屈し嗚咽を漏らす。

 

「満身創痍だな。…万事休す、か?」

 

首筋に刃を沿い当てながら訊く。

 

「…わ、わたくしは、まだ死ぬわけには……」

 

総身を震わせながら、血反吐を吐くように喉から絞り出したその言葉には、怨念にも近しい『心』が込められていた。

 

「…ふむ、それならば――」

 

 

ウルキオラが提示した()()()()()を、時崎狂三は呑み、この案件は手打ちと相成ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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