虚無の魔神   作:千本虚刀 斬月

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38話 探偵

 

 

 

 

 ウルキオラがこの世界に来て凡1年。現在、(うつろ)探偵事務所を構え、時崎狂三と2名で活動している。

 

「探偵って思っていたよりずっと地味、というか暇ですわね」

 

どうやらフィクションの名探偵よろしく難事件を解決していく様を期待していたらしい。

 

「私立探偵、それもモグリならこんなものだろう。事件性のある案件などはまず警察の方に話がいく。仮に此方に来るとしたら、被害者では無く加害者の側だろうな。何時かの輩の様な」

 

あるいは、()()か…

 

「……まあ、それはそうなのでしょうけれど…」

 

時偶来る依頼と言えば、浮気や素行の調査、ペット探し、何故かオカルト現象の解決、と言ったものだ。

 

いやまあ、オカルト関連については時崎狂三が噂の溜り場に行く度に亡者や死霊を喰い尽すため、結果的に一旦浄化されるからなのだが…

 

「それで、()()()()()()?」

 

全身至る所に包帯を巻き消毒薬の臭気を纏わせたオリジナルの時崎狂三に問い掛ける。

 

「…まずまず、と言ったところですわ」

 

「あらあら、実に痛ましいですわね。わたくし」

 

先程までウルキオラと話していたビジネススーツにタイトスカートの時崎狂三(分身体)が揶揄う。

 

この傷はウルキオラによって付けられたものである。

 

ウルキオラの使う『鬼道』なる霊術を知った時崎狂三が師事を申し込んできたのだ。修行の一環として模擬戦も度々行うのだが、その後は大体このような有様だ。これでも最初の頃に比べれば大分マシになってきているのである。負傷は『回道』の修行も兼ねているため治癒に〈刻々帝(ザフキエル)〉の使用を禁じているのだが、まだ未熟なため完治にはあと数日はかかるだろう。

 

「……まったく、嫁入り前の乙女の身体をキズ物にしたのですから、しっかりと責任を取ってくださいまし。お師匠様」

 

「――随分と聞こえの悪い言い方をしてくれる。…まあ、お前の目的には最後まで協力してやるさ」

 

「存分に頼りにさせていただきますわ」

 

並の男なら見蕩れるどころか骨抜きにされかねない蠱惑的な微笑みを向ける。まあ、ウルキオラは素っ気なく流すだけなのだが…

 

全くそういう目で見られないというのも、それはそれで少しムッとする時崎狂三である。

 

 

暫しの静寂の後、デスクの業務用PCに依頼のメールが来た。

 

内容は、怪奇現象多発地の調査。肝試しに行った者が霊障を抱えたり、ときには行方不明者が出たりするらしい。

 

だが、その場所にはつい最近行った覚えがあった。数日前に赴いた際、時崎狂三に下心丸出しでウザ絡みしてきた挙げ句にまとめて喰われた連中が居たのだが……まあ、些事だろう。

 

「━━━━━━━━━━━━━━━━━━どういたしましょう?」

 

「あの場所は澱が溜まりやすい地形だからな。数日前にお前が一掃したが、また何処かから流れてきて数ヶ月もすれば雑霊であふれるだろうな。定期的に大掛かりな除霊をするか、周囲一帯の地形ごと改変するか、関わらずに済ますしかあるまい」

 

「霊的な被害者達については?」

 

「知らん」

 

そちらについては依頼内容に含まれていないし、サービスボランティアしてやる義理も義務も無い。そんなもの、神社か寺院か教会にでも当たれば良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラはとある屋敷の応接間で如何にもカルトな胡散臭い男達に歓待されている。時崎狂三は気を利かせたつもりか、影から見守っている。

 

対面の黒い三角頭巾で素顔を隠した黒装束に少し派手なローブの男は、実はそれなりの黒魔術結社の幹部候補。素は、山吹という中肉中背中年のフツメンで、ついでに言えば小学生の娘がいるらしい。

 

ウルキオラを真面に認識し会話できるだけの霊感、偶然とはいえ召喚し得た術法、身体から溢れ出ている魔力、何れの要素も只人とは一線を画す。

 

連中の扱う黒魔術の技術と知識には多少の興味がある。故に、時折こうして召喚に応じ、依頼を受けている。明らかに探偵の仕事ではないが気にしない。

 

ウルキオラは正真正銘の霊子体なので魔力を自己生成できないが、精霊であるが人間ベースである時崎狂三は自前で魔力を練れるので、多少の意味はあるだろう。それに、前の世界で視た陰陽師や妖怪達の業も、応用を利かせれば真似事くらいは出来るようになるかもしれん。

 

 

その只者ではない黒魔術師が実に深刻そうな雰囲気で言葉を発する。

 

「――本日、お越し頂いたのは他でもありません。この呪物の処理をお願いしたいのです。恥ずかしながら、これ程に禍々しく強大な怨念は我々の手に余るのです」

 

一見すればそれはアンティークな懐中時計。なれど、耐性の低い人間では直接触れずとも側に長時間居るだけで障りを起こすだろう。取り憑いているモノは人のカタチなど遠に逸脱し、振り撒く瘴気は無差別に障りを起こす。

 

だが、雑魚である。妖怪で言えば、地方の幹部クラスと言ったところだろう。

 

問題があるとすれば、時崎狂三が懐中時計を凄く欲しがっている点か。何がそこまで琴線に触れたのかは解らないが、わざわざ『天挺空羅』で直接催促してくる有様だ。

 

「……確認するが、時計諸共こちらで好きに為ても良いと言う事か?」

 

「ええ。お願いいたします」

 

「いいだろう。引き受けよう」

 

感涙に咽び平伏する黒魔術師共の一々大げさなリアクションに辟易しながらも、しっかりと報酬に貴重らしい魔道書の類いをいくつか貰っていくのは忘れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回  特異点 炎上混迷都市『天宮』








反膜(ネガシオン)
本来は大虚が同族の虚を助ける際に使用する結界。
対象が光に包まれ、内と外は干渉不可能で完全に隔絶される。

反膜の匪(カハ・ネガシオン)
対象1名を平次元に幽閉する封印結界。
ただし、時間は対象の実力に拠り変動する。

反膜の庭
ウルキオラが黒崎一護との修行のため、鬼道と虚の能力を組み合わせて開発した霊術。
術者を中心に一定範囲を隔絶空間と為す結界。
中からは脱出できず、外からは介入どころかも観察も出来ない。

反膜の鑑
ウルキオラが鬼道と虚の能力を組み合わせて開発した霊術。
前面に壁のように展開される。
霊術、魔術、物理、etc.何であれ、接触したものをそのまま反射する。

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