虚無の魔神   作:千本虚刀 斬月

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42話 剣の精霊

 

 

 

 四月九日の日曜日、天宮市は今日も今日とて空間震に見舞われていた。

 

予想される規模はBランク、観測される霊力波長は〈プリンセス〉のもの。

 

数秒程で空間が撓み軋む。そして、大爆発を引き起こす。

 

爆心地に顕現したる精霊は、絶世の美少女と呼ぶに相応しい容姿に、ファンタジーバトル系の姫騎士のような恰好だった。その霊力は正に質実剛健。しかし、その眼はこの『世界』に酷く倦んでいた。

 

 

例に漏れず、ASTが文字通りに飛んできた。否、来ようとしていた。

 

観測不能なナニカによって、端から死なない程度に斬り墜とされて行く。

 

「「「「「!!?」」」」」

 

どれだけ最新精密観測機を使っても一切観測できず、空白地帯としか映らないナニカ。識別名〈ホロウ〉に違いない。

 

間もなく、意気揚々と出撃したASTは全員が現場に辿り着くことさえ出来ずに敗退した。

 

『よしよし、ちゃんと手加減できてるねぇ。いくら魔術師(ウィザード)っていっても、彼女たちはあくまで陸自の特殊部隊員。DEMとは関係ないからね。死なれちゃ寝覚めが悪いってもんよ』

 

 

あの時、本条二亜は日本の虚探偵事務所に連れてこられた。

 

ウルキオラの結界はもう長く維持できないし、その外にはDEMの最強たるエレン・ミラ・メイザース筆頭に数多の軍勢が待ち構えていた。正面から蹴散らして凱旋する事も可能ではあったが、今は情報が最優先だ。

 

「まあ助けてくれたわけだし、それくらいなら……」

 

全知の天使〈囁告篇帙(ラジエル)〉を使って始原の精霊を調べた結果、DEMの創設者の諸々を知り、囚われた過去を思い出して、本条二亜は俯き震えている。

 

だがそれは恐怖や絶望によるものでは無い。失望とも悲哀とも違う。ソレは憤怒よりもなお暗く重い怨嗟、魂魄の奥底を焦がし続ける『憎悪』という感情だ。

 

本来であれば、復讐に駆られ修羅道に堕ちる事などなかっただろう。人への愛想が尽きたといくら口で言っても、希望を捨てきれないお人好しな性分で、完全に割り切った人付き合いも出来なかったくらいだ。だが、DEMの所業と仕打ちは完全に閾値を超えた。

 

「――良いよ、あんたらに協力してあげる。ただし、条件がある!一般人に危害は加えないこと!後、あたしを守護って養って!!」

 

ついでにウルキオラと時崎狂三のことも調べて、自分1人だと『詰み』の状況だと気が付いてしまったのだ。そして、この2人は自分の復讐を決して止めない、むしろ加速させることも。

 

「ていうか、ウルキオラ君?なんで〈囁告篇帙(ラジエル)〉でもほとんど分かんないの?意味不明なんですけど!?」

 

成程、平行世界すら含めて過去と現在の全てを見通せる権能とは言っても、流石に異世界の事象までは観測できないらしい。

 

そもそも、今のウルキオラは存在自体が虚と実の狭間を揺蕩っている状態で、常に不確定な状態となっている。

 

「…なるほどぉ?所謂、シュレディンガーの猫ってヤツかな?」

 

「ええ、私も大凡そのような解釈でおりますわ」

 

「っていうか異世界!?異世界って何さ?!」

 

逆に二亜が根掘り葉掘り質問攻めにしだしたのだった。

 

閑話休題

 

 

これで少しは落ち着いて話が出来る。

 

ウルキオラは敢て常人でも認識できる状態となり、〈プリンセス〉と向かい合う。

 

「貴様、一体何だ!?何故あのような真似をした?――答えろ、真っ白!!」

 

しかし、〈プリンセス〉は警戒心全開で剣の切っ先を向けてくる。

 

「話の邪魔になりそうだったので先に排除した。……俺の識別名は〈ホロウ〉だ。〈プリンセス〉「その〈プリンセス〉というのをやめろ」

 

「では、なんと呼べば良い?」

 

「私には、名など、ない」

 

「そうか。ならば、剣の精霊と呼ぼう」

 

「……もう少しマシな呼び方は無かったのか」

 

「不服なら自分で好きなように名乗れば良いだろう」

 

不満気にむくれる様は幼子のようでさえあり、とことん戦争に不向きな性分なのを窺わせた。

 

「それで、何の用なのだ?貴様も、あのメカメカ団のように私を殺しに来たのか?」

 

「お前をスカウトしにきた。原初の精霊を殺すための戦力として」

 

ソレを聞き最初怪訝な表情を浮かべ、殺すという言葉に対して明らかに動揺した。言外に拒絶の意を示す反応。

 

 

正面切っての戦闘担当のウルキオラ・シファー、陽動と攪乱を主に中衛を担当する時崎狂三、情報収集による後方支援担当の本条二亜。現状の戦力でDEMが相手ならば、正面から戦争を仕掛けても勝ちきれるだろう。それでもやはり足りない。始原の精霊の力はそれだけ圧倒的だ。

 

その戦力候補は、()()()()行動を共にすることを拒否した。

 

つまり、五河士道に救われラタトスク機関に保護される流れがほぼ決まったとみて良い。

 

 

此奴は、相手が誰であろうが、殺傷という行為そのものに忌避感を抱く。完全払拭は極めて困難だろう。

 

「……甘いな。だが、お前は甘さを捨てない方がかえって良いのかもしれん。その甘さが、巡り巡ってお前自身を救うことになるだろう」

 

ウルキオラは立ち去り際、上空15000メートルに浮遊している空中艦フラクシナスに視線を送った。

 

村雨 令音(始原の精霊)に対する宣戦布告の意を込めて。

 

 

「あらあら、フラれてしまいましたわね?」

 

影から共犯者(ナイトメア)の声がする。響く声音は鈴の音を思わせる。

 

「…予定通りだろう」

 

「想定通りではありますが、果たして本当に予定通りといえますかしら?」

 

「想定を予定としていたのだから何も間違ってはいない」

 

クスクスと含み笑いが暫く続いた。

 

「!また、分身体が1体殺られましたわね」

 

「件の、崇宮 真那か?」

 

返事は肯定。

 

DEMの2番手に位置する新進気鋭の魔術師(ウィザード)。時崎狂三の分身体相手に1対1ならば安定して勝利できる実力。

 

利用価値はあるが、邪魔にもなり得る。

 

「邪魔だと判断したのなら、始末しても構わん。判断はお前に任せる」

 

「――ええ、ええ。承知いたしましたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




剣の精霊

名前:夜刀神十香
識別名:プリンセス
総合危険度:AAA
空間震規模:B
霊装:AAA
天使:AAA
STR(力):230
CON(耐久力):202
SPI(霊力):125
AGI(敏捷性):142
INT(知力):32
身長:155cm
スリーサイズ:B84/W58/H83

マテリアルより抜粋
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