めざめてソラウ   作:デミ作者

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「問おう。貴様は聖杯に何を願う?」
「――残業のない世界。人が、定時に仕事を終え、家に帰り、小説を書くことができる世界を、僕は望む」

大変お待たせしましたごめんなさい!!!!!!!


ソラウちゃんと――

 落ちる。

 堕ちる。

 無限の――否、無間の、と表現したくなるほどに真っ暗な闇の中を、俺は頭を先にして墜ちてゆく。手足の感覚は薄れ、心臓の鼓動は凍りつき、一瞬を永遠のように、あるいは永遠を一瞬のように感じる。

 なるほど――と感じる。これが、俺の思う虚数空間か。視界の端に星々の輝きを捉えられないことを除けば、この感覚は「Fate/EXTRA CCC」冒頭のあのシーンの描写と酷似している。それが何故だかは分からないが、少なくとも衛宮切嗣が「この世全ての悪」の泥に呑まれた時は既知の場所をイメージとしてその中に見た。それの延長のようなものだろう。

 

「――さて」

 

 と、そんな風に思索を巡らせている――どれだけの時間巡らせていたかは定かではない――俺の耳に、ひとつ声が聴こえた。その声音(CV.)は大原さやか――つまり、この声の主は。

 

「――やあ、『この世全ての悪(アンリ・マユ)』」

「あら、話が早いのね。流石に、望んで私の中に堕ちてきただけはある……のかしら」

 

 アイリスフィール……ではなく、その人格を殻として被ったアンリマユだ。

 じっ、とその姿を眺めてみる。アイリスフィールの姿は倉庫街の一戦で見た限りだが、こうして眺めているだけならば差異は感じられない。纏う黒いドレスと酷薄そうな口元の笑みだけが違和感を感じさせるが、それさえ消えてしまえば判別はつかない。

 

「……その物言い、既に俺のことは色々と把握されているようだな?」

「ええ。あなたの記憶を覗かせて貰ったわ。この聖杯の器の人格を以てしても俄かには信じがたいけれど……その真偽は置いておいて、少なくともあなたが知っている筈のないことを知っていて、その上で()()()()を望み、あまつさえ狙っていたことは理解しています。その上で、あなたに問いましょう」

「……あー、いや、少し待ってくれ。一つ質問をしても?」

 

 俺が言葉を遮ると、彼女はアイリスフィールと寸分違わない顔にあどけない疑問の表情を浮かべて首をこてん、と傾げる。それだけを見れば和みどころなのだが、此方としてと訊ねておかねばならないことがある。特に、これだけは。

 

「今、外はどんな感じだ? 外と比較して、俺が今いる時間は? 言峰綺礼と衛宮切嗣は既にお前に呑まれ終わった後か?」

「そうね……色々と知っているあなたに言うならば、『冬木大火災は発生した』と言うのが手っ取り早いかしら。あの人も、言峰綺礼も共に私に呑まれ、排出され、今頃は地獄のような街を彷徨っているはず」

「――そうか」

「もしかして、それを止めたかったの? ちらりと眺めただけだけれど、あなたの中にそんな願望は無かった筈。……でも、あなたが願うのならば叶うわ。あなたの目の前にあるのは、万能の願望器なのだから」

「よく言う。お前の正体を知っていると、お前も知っているだろうに」

「ええ。そしてその上で、願望器であることは間違いではない――でしょう?」

 

 じわり、と増す圧力。俺の周囲を取り巻く闇が、一瞬にして氷へと変わったかのような寒気。アイリスフィールのものであるはずの紅い瞳が妖しく、そして恐ろしげに輝く。

 

「質問は終わりかしら?」

「もう一つ。お前は自身を万能の願望器だと言ったが、それは虚言ではないな? 俺の知るところと同じく、俺が望めばどんな願いも――それこそ、魔法さえ体現してみせると?」

「ええ……と言いたいところなのだけれど。『魔法』に関しては否定を返さざるを得ないわ。万能の願望器たる聖杯の成り立ちは知っているでしょう」

「ああ。七騎の英霊の魂――膨大な魔力を聖杯に焚べ、その魂を用いることで根元へと続く路を開くためのもの。それが聖杯、正確には小聖杯か」

「ええ。今の私は小聖杯であり大聖杯の意思でもあるため、どう呼んでくれても構わないのだけれど。ともかく、知っているならば分かるでしょう?」

「……やはりギルガメッシュ、そしてアルトリアが居ないとなると、か」

「その通りよ」

 

 アイリスフィールの殻を被ったこの世全ての悪(アンリ・マユ)は、それが心底不満そうに口を尖らせた。それは願望器という道具であるが故に、役目を果たせないがための自身への落胆か。あるいは、悪性情報の化身として、二騎ものサーヴァントを取り込み損ねたが故の不満か。

 ともあれ、彼女は気を取り直したように口を開く。その顔に、此方を揶揄うような表情を浮かべて。

 

「でも、それはあなたには関係の無いこと。違うかしら? 少なくともあなたに、根元を求める意思はない。……あ、それとも『元の世界』に帰りたかったのかしら。道を開いたとしても、その身体のまま帰ることになるだろうけど」

「いや、それは御免被る。……しかし、うーん。となると、魔法は無理か」

「あら、本当にそれが望みだったの? 想像出来ないわね、あなたが何を欲していたのか聴かせて頂けるかしら。あなたの大好きな大英雄(ヘラクレス)の生きた時代に行って、妻にでもなる気だったの?」

「魅力的ではあるが流石に無理だろ色々と」

 

 主に物理的に。どうやっても入らなさそうだ。入ったとしても入れる気など更々無いが。何とは言わないが、精神的にPC版SN(げんさく)などノーセンキューである。

 

「まあ、そうね。『魔法』の完全再現は不可能だけれど、『魔法』の残滓の真似事程度なら可能じゃないかしら。特に、あなたの特異性を通じてなら平行世界の運営……とまでは行かずとも、観測程度なら可能ね。尤も、十秒も叶わないでしょうけど」

「……なるほど」

「そろそろ、あなたに問うてもいいかしら」

「……ああ。俺のプランは確定した」

 

 言うと、彼女は愉しそうに笑う。嬉しそうに、嬉しそうに、アイリスフィール(この世全ての悪)の口が三日月に裂け――

 

「英霊を従えてすらいないのに、私のところまで辿り着いた魔術師よ。さあ。あなたは、そこまでして求めた『聖杯(わたし)』に何を願うの?」

 

 紡がれる言葉に、俺は、

 

「――お前が欲しい」

「……あら」

 

 瞬間、アイリスフィール(アンリ・マユ)の顔からするりと表情が抜け落ちた。口元に浮かべていた笑みさえ消し、いっそ荘厳な雰囲気すら感じさせる視線で、此方を見据えてくる。

 

「助力を乞いたい、『この世全ての悪(アンリ・マユ)』よ。俺はお前に、純粋な協力関係を築くことを願う」

「それは、なぜ?」

「俺の願いのためには、お前の力を借りることが不可欠だからだ」

「あなたの、願いとは?」

「――死なないこと。訳も分からないままに、終わらせられないことだ」

 

 『この世全ての悪』という英雄を、直接知っている訳ではない。ただ、かつて俺がソラウとなる前に、ゲーム画面を通してその在り方を知っただけ。他の数多の、俺が大好きな英霊たちの一人として、キャラとして知っていただけ。

 それでも、この「死にたくない」という願いを懸けるなら彼しかいないのだ。たとえ俺の敬愛する大英雄ヘラクレスが眼前にいたとしても、この願いだけは彼に懸ける……いや、正直に言うと五分五分だが。

 ともあれ、なぜなら。俺は、彼がその願いを受諾するであろうことを知っているから。

 Fate/Hollow Ataraxia。snのスピンオフであるその作品に於いて、同じく死にたくないと願ったバゼットの願いを汲み取ったことを知っているからだ。

 無様にも程がある、とは自分でも思う。答えの一つを知った上で、その答えが自分にも返されることを期待して問い掛けるなど、情けないことこの上ない。

 

「あなたが私を求めていることは分かったわ。けれど、解せないわね」

「……どこに疑問があるんだ」

「あなたが私を求めること、そのものに。全てではないけれど――私は見たのよ、あなたの中を。あなたは、あなたの言う『原作』を維持し、破壊しないことに執心していた。自分と婚約者を生存させることだって、手段を選ばないのであればもっとやりようもあったことを、『原作』の為だけにこんなに回りくどいことをした。そんなあなたが私に助力を迫る、つまりサーヴァントとして私を従えること……それは『原作』――『Fate/Hollow Ataraxia』を覆すことになるのではなくて?」

 

 アンリ・マユの言うことは尤もだ。俺がここで契約してしまえば必然、バゼットが契約を結べなくなる。そうすればホロウは発生せず、あるいは俺が無理やりに発生させたとしても結末は変わってくるだろう。その行き着く先は、おそらく剪定事象まっしぐらだ。

 けれど、俺が生き延びる為にはアンリ・マユ――『彼女』の助力は必須だ。だから俺はこうして回りくどい準備までして、『第四次聖杯戦争中に』泥の中へ潜った。

 このタイミングしか無かったのだ。第五次後では駄目。第四次から時間が経った後でも駄目。衛宮切嗣と言峰綺礼、その二人の直ぐ後でないと駄目だったのだ。

 

「いや、そうはならない。俺が求めているのは確かにお前ではあり、お前の助力無くしては成立しないが、お前とはあくまで協力者――『共犯関係』でありたいと思っているからな。サーヴァントとして使役するつもりは無いんだよ」

「……ごめんなさい? 正直なところ、訳が分からないのだけれど。私を従えるつもりが無いのなら、何を私に望むというの?」

「そう、だな。端的に言えば、俺がお前に――『この世全ての悪』になる手助けを、して貰いたいと思っている」

「……? 何を――、っ、まさか、あなた」

 

 俺の言葉に、彼女ははっと目を見開いた。

 

「そう。わざわざ自分に暗示までかけてくり抜いたこの身体。霊体、霊的存在を受容しやすくなったこの身体――異なる世界線に於いては、デミ・サーヴァントとなり得るだけのこの身体に、お前を降ろす。お前を降ろし、聖杯の器となる。俺の願いは、それだ」

「……、……そう。よくそんな事を思いつくのね。狂人の発想だとは思うけど、確かにそれなら易々と死ぬことはなくなるでしょう。あなたが懸念しているように、たとえこの歴史が焼却されたとしても、どこぞの影の国の槍使いのように世界の裏側に隠れることだって出来るはず」

「一応、他にも目的はあるけどな」

「でも、やっぱり駄目よ。私を降ろせばこの私はあなたに囚われることになる。あなたがこの聖杯と接続すれば、Hollowどころか原作(SN)まで発生しなくなるわ」

 

 本気で困惑したように――否、実際困惑しているのだろう、アイリスフィールの顔を可愛らしく歪めてこの世全ての悪(アンリ・マユ)はそう宣う。まあ、いきなり現れて「お前を俺の中に受け入れたいんだ」などと言われても困惑するしかないだろう。ましてや精神的にはともかく、今の身体は女同士なわけだし。そのあたりの誤解を解消すべく、俺はなんだか楽しくなって口を開く。

 

「ああ、その辺りについては考えている。まず一つ、先に言ったとおりにお前を従えるつもりはない。お前を俺の中に降ろすとは言ったが、実際に行うのは――コレだ」

「……クラスカード?」

 

 俺が豊満な胸元から取り出したそれを見て、アイリスフィールは漏らす。どうでもいいが、今の俺のスタイルはアイリスフィール以上なのか。全て遠き理想胸(アヴァストロン)なのか。複雑である。

 

「ああ。コレでお前の……『この世全ての悪』の情報だけを模倣し、その全てを俺の中に空いた回路に焼き付ける。あと、これは『魔術師(キャスター)』のクラスカードだ。『復讐者(アヴェンジャー)』でなくな」

「……なるほど。だからあなたは、私がここに居るその時を狙って、このタイミングで堕ちてきたのね。私の存在とアイリスフィールの殻を触媒に、あなたの知る黒き聖杯(アンリ・マユ)のクラスカードを創造するために」

「ついでに言えば、大聖杯ユスティーツァの魔術回路そのものまで写し取りたいところだが……まあ、それは可能であればだ。不可能であっても、魔術師(キャスター)アイリスフィールと同等の器としての資格さえあれば聖杯を扱うには事足りる。……そして、ここまで言えば二つ目の疑問、どこの聖杯と接続するのか、も理解できるだろう? Heaven's FeelとStrange Fakeの合わせ技、さ」

「……あなたもとんでもないことを考えるのね」

「死にたくないだけ――では、ないよな。もう。死なせたくないし、死にたくないだけ……うん。これが近いと思う」

 

 俺が求めた『この世全ての悪』は不定形の英雄。現界の際に取る形は泥であったり、はたまた全身刺青の少年であったりと様々だ。そして、その形によって所持する宝具、自身のステータスも変わってくる。

 ならば、その不定形の英雄に、こちらから『殻』を与えることが出来れば。それもただの殻ではない、それとして機能し得る実績を持った、アンリ・マユにこそ馴染む殻を与えられれば。そこまで求めれば、きっと応えてくれる筈だと。

 

「俺が生き残るために必要なのは『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』じゃない。殺人に特化したサーヴァントの能力でもない。俺に必要なのは、『黒き聖杯よ、謳え(ソング・オブ・グレイル)』、かつて見た汚染されし聖杯の化身――そこで、俺は気付いた。やりようによっては、『刺青の青年(アンリ・マユ)』を残したまま、『黒き聖杯(アンリ・マユ)』と関係を持てるとね」

 

 俺がこの世全ての悪(それ)に手を伸ばしたのは、なんとも卑怯ではあるが「知っていた」からだ。原作をプレイし、彼の人となりを知って、その上で打算を重ねて彼を求めた。知っていたからこそ周到に用意をし、ケイネスまで騙して彼の元へと辿り着いた。

 間違っても格好の良い行為ではない。衛宮士郎や岸波白野、藤丸立香たちのように高潔で強い「主人公」ではない。がむしゃらに足掻いて、もがいて、それで聖杯に辿り着いたのではなく、知っていたからそうする、と裏道を使っただけ。ズルも良いところだ。でも、それでも。

 

「俺は全てを識った上で、打算の上でお前を欲しいと願った。願望器よ、俺に応えるか否か。――教えてくれ」

「是非もありません――願望器、聖杯としても。アイリスフィールの人格を持った存在としても、あるいは――あなたの知る、人間が大好きな悪魔としても。私は、あなたに手を貸しましょう」

 

 そう、彼女は言った。

 安堵する。安堵のあまり腰砕けになりそうになり、慌てて踏み止まる。胸が揺れた。踏み止まり、背筋を正す。胸が揺れた。

 

「――は、はは。はぁ……良かった」

「私としても、そこまで熱烈に求められては応えるしかありませんもの。丁度、あなたも彼女と同じで赤毛ですし? 予行練習と思えば良いでしょう」

「ああ、それでもいいさ。何でもいい。力を貸してくれるならば、それで構わない」

「……あぁ、でも」

 

 ふと、思い出した……そんな風を装って、いかにも軽く彼女は切り出した。此方を揶揄う表情で以って。

 

「その弄り回された身体に『この世全ての悪』を焼き付け、聖杯と繋がると言うのならばそれなりのフィードバックは覚悟することね? この殻の元、アイリスフィールも、あるいは間桐桜も。聖杯と繋がった者がどうなるか、知っているでしょう。いくらデミ・サーヴァントとなるとしても、何かを奪われる覚悟はしておくことね」

 

 やはりその性根は悪辣であるのか、それともどうやって切り返すのかを期待しているのか。美しい顔ににやにやと笑みを浮かべながら、彼女はそう言い放つ。

 よろしい。ならば切り返してみせようではないか。聖杯からのフィードバック? 勿論そんなものは織り込み済だ! というかそれが無いと困ったことになるぞ!!

 

「ふむ。それについては心配ない。もう、何をどうするかは決めてあるからな」

 

 言って、俺はぽん、と自らの下腹を叩いた。

 

「……自信満々に狸の真似事かしら?」

「ははは、そんな訳はあるか。どうせ使わないここ(・・)を使い潰す、と言ってるんだよ馬鹿」

 

 言って、俺はもう一度ぽん、と自らの下腹部――その皮膚の向こう側にある子宮(はら)を叩いた。

 

「…………えっ」

「いやあ、困ってたんだよ。俺さ、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだからさ。ケイネスの婚約者なわけ。で、ケイネスを生き延びさせると……その、まあ、そういう事になる訳じゃんか。だからな」

「いや、あの、私が、というより私の被った殻の人格がとても動揺しているのだけれど、えっ」

「婚約者を守るために『この世全ての悪』を受け入れた代わりに子を成せなくなった――なんとも美談ではないかね、ん? それに――」

 

 『この世全ての悪』は口をぱくぱくさせて、絶句している。然もありなん、とも思うものの、どちらにせよこれ以外の選択肢はない。この身体には馴染んだものの、この身体に焼きついた俺のメンタルはやっぱり男なのだ。ついでに言えば、譲れないところもある。一型月厨としては、やっぱり――

 

「――聖杯は孕むものだろ、原作(SN)的に」

「――っ、あはははははは! あなた、凄いわ! いえ、お世辞抜きに本当に。ええ、これなら楽しめそう。あなたを選んで良かったわ」

「そりゃ重畳。で、此方としても済ませるところはさっさと済ませたいんでな。始めていいか?」

 

 キャスターのクラスカードを取り出して言う。彼女は楽しそうな顔のまま頷くと、此方へ一歩踏み出してきた。

 応えるように彼女へ歩み寄り、クラスカードを構える。慣れ親しんだ文言を口内で唱え、魔力を身体で循環させる。

 基本骨子から順に、目の前の存在――ひいては今、俺を取り囲む空間そのものにまで知覚を巡らせ、情報を読み解いてゆく。目配せをして、彼女に合図を送る――途端、俺の全身へ向けて、彼女が雪崩れ込んできた。

 それらを順に、丁寧に、カードへと織り込んでゆく。必要なものだけを形にし、不要なものは切り捨て、俺の身体へ落とし込むのに最適な形へと組み替え――そうして出来たそれがあまりの情報に綻び切る前に、俺はそれを自らの裡へと、

 

夢幻召喚(インストール)

 

 使い道のなかった身体の中の空間に、英霊の情報が絡み合ってゆく。空けられていた容量が一瞬で満ち、溢れたそれらを身体に刻み込んでゆく。痛みは感じない。ただ、破裂しそうなほどの圧迫感を感じるだけ。

 その圧迫感を丁寧に丁寧に、歪みを正し折り目を揃え、ソラウという身体へと刷り込んでゆく。幸いなのは、本来のように英霊そのものを身体に取り込んでいる訳ではないことか。英霊の力と情報だけを取り出したそれは、困難に、しかし想像していたよりも遥かに簡単に身体へと馴染み、

 

「……ふぅ、これでひとまず――っ、ぷ!?」

 

 ――しな垂れかかってきたアイリスフィール(この世全ての悪)の唇が、俺の唇と触れ合う。彼女の手が腰に回される。胸と胸が押し付けられあい、ぐにゅりとひしゃげる感覚がする。そのまま、彼女は片手を俺の下腹部、子宮の上へと添えて――

 

「…………〜〜ッ!!」

 

 そこから流し込まれる魔力に、背筋を震わせた。今ちょうど生まれたばかりの魔力経路(パス)、アイリスフィールやユスティーツァの備えた聖杯を受け入れるためのそれに、黒い魔力が流れ込んでゆく。脳天まで突き上げるようなそれ。一瞬のような永遠、あるいは永遠のような一瞬の後、彼女は手と口と身体を、俺から離した。

 

「……ぷはっ、ふぅ。ご馳走様?」

「おま、おま……! クロじゃあるまいし、おま……!」

 

 ばっ、と距離を離し口元を覆う。見遣る『この世全ての悪』はアイリスフィールの顔をほんのりと朱色に染め、しかしそれ以上に妖艶に嗤っていた。正直言ってクロにしか見えない。

 メンタルが男である俺だ、興奮しない訳がない。心臓がばくばく言っているのが分かる。側から見ればそれはもうじぃえる時空なのだろうが、一皮剥けばお察しなのは哀しむべきだろうか。

 

「あら。まさか、悪魔と契約するのに何の対価も無しに済むと思っていたのかしら?」

「――――っ、ああくそ。一本取られたよ。正直ラッキーではあったが。男として」

 

 手を上げ、降参のポーズをする。ひとしきり笑うと、『この世全ての悪』は笑みを微笑みに変えて、此方へ視線を送ってきた。受け止めるように対峙し、その紅い目を見つめる。

 

「……さあ、そろそろ時間じゃないかしら。あなたの願いは聞き届けたし、あなたの願いは叶ったでしょう。これより先は、また見える時まであなた一人で歩んでいく道よ」

「ああ、分かっている。世話になった」

 

 言葉を交わしながら、身体の感覚が無くなってゆくのを感じる。聖杯の外に弾き出される瞬間が近付いているのだろう。

 

「ああ、そうそう。ケイネスだけど、ちょっとお前の中で預かって貰うぞ。合法的に死んだことにする為にここまで来て貰ったんだ、それくらいは良いだろう?」

「ええ、共犯者。どちらにせよ、あなたはもう聖杯の器と化したのだからあなたの意思でここを使うといいわ」

「そりゃ有難い。……そろそろだな。じゃあまた、『この世全ての悪』。Hollowまで片付いたら、俺の中へ匿ってやるよ」

「そうやって、並行世界の果ての果てまで人理を守る旅をするのかしらね。それは――何とも、魅力的だわ」

 

 黒い闇が白く染まってゆく。人を呪う悪魔らしからぬ、優しい応援の声を背に――俺の意識は遥か、浮かび上がったのであった。




ドスケベキャスター☆ソラウちゃん爆誕の巻。
ここからSN編挟んでFGO編、またの名を所長救済ルートに入る予定だけどいつまでかかるかなあ…………。

その間に息抜きでソラウちゃんの中の人が桜ちゃんになってたifとか、イリヤちゃんになってたifとか書くかもです。時間と気力があれば。

ともかく、今回もありがとうございました!

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