めざめてソラウ   作:デミ作者

20 / 22
お久しぶりです(白目)
お待たせしました(土下座)
せめてZero編くらいは収拾つけないとな、と。

いやあ、うん。それもこれもFGOやらFakeが面白いのがわるい。アガルタ楽しみ。ところでヘラクレスのモーション改定いつですか。ヘラクレスすき。
あと最近『青剣って弱いよね』みたいなのよく見るのでめっちゃ強くしてやりました。snからずっとやってる老害としてはやっぱり青剣好きです。

あ、あと「いくらギルでも使い魔越しにソラウちゃん見抜くの無理じゃね」みたいなご意見を頂きましたが、その辺はあれです。「全知なるや全能の星」の名残みたいなものです。使用を控えていたとしてもそれだけの眼を持ってたのなら、たかが一魔術師くらいギルなら見通せるでしょと。ギルTUEEE?はははご冗談を。ギルがこんな程度なはずないでしょう。

長々と書きましたが、それでは本編どうぞ。


ソラウちゃんとZeroとstay/night

 ギルガメッシュ相手に意地を張ってから数日。殺されこそしなかったものの何が起こるか分からない、怯えながら陣地に引き篭もっていると、冬木市民会館から原作通りの連絡がされた。それはつまり、最終決戦が近いことを意味する。

 光陰矢の如しとはよく言ったもので、第四次聖杯戦争ももうすぐ終わりを迎えようとしている。俺――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの死亡フラグであるこの戦争を策通りに切り抜けられさえすれば、一先ずは安心と言って良いだろう。

 勿論、慢心するつもりはない。ここまで来て死因が慢心による死亡など笑い話にもならない。故に、俺は眼前の事象を睨み続ける。隣に立つは我らがケイネス先生、前に立つは深緑の騎士ディルムッド。そして、彼が相対する敵こそ――

 

「お前と矛を交えるのもこれで三度めか。こんな乱戦の中で三度戦い、一度ならず肩も並べた。互いに中々の因縁だとは思わないか、セイバー?」

「同感だ、ランサー。そして、この局面まであなたが生き残り、こうして尋常に雌雄を決することが出来る。……今ここで決着を着けなければならないことは惜しいが、一人の騎士として戦えることを嬉しく思う」

「フッ――」

 

 一瞬の休息ののち、再び始まる剣戟の嵐。

 小柄な体格を魔力放出スキルで補いながら、地下駐車場を駆け巡る影。金の髪に青い戦装束の彼女――セイバー、アルトリア。それが、ディルムッドと戦っている者の名前だった。

……何故俺たちがこうしてアルトリアと戦っているのか。この地下駐車場でアルトリアと戦う役目、それはディルムッドではなくランスロットが担っていたはずだ。

 ランスロット、延いては間桐雁夜の居所は現時点では不明。だが、推測程度なら可能だ。彼は言峰綺礼と組んでおり、最後にその姿を確認したのは言峰教会から出て来た時――遠坂時臣を使った一連の悪趣味な遊戯が終わった直後のこと。その事と、今回の冬木市民会館からのしるし……言峰綺礼の仕業であるそれとを結び付ければ自ずと答えは見えてくる。

 あれは言峰綺礼が、衛宮切嗣を誘き寄せるために打ち上げたもの。確か、その信号の意味合いは『達成』と『勝利』だったか。つまり、それは聖杯戦争の勝者は自分であると喧伝しているに等しい行為。そして、それを効果的に行うには、それ相応の状況でなければならない。

 そう、例えば――残るサーヴァントがあと僅かであるとか。

 間桐雁夜は茫然自失、そうでなくとも言峰綺礼ほどの手練れならば背後から一刺しすることなど容易いだろう。であれば、アイリスフィールを攫わせ、愉悦を最期の一雫まで搾り取り、万が一他の陣営と手を組まれた場合に厄介なランスロットを抱える間桐雁夜は処分されている可能性が高い……尤も、俺の読みの悉くが的外れであり未だどこかに控えている可能性も高いのだが。

 

「……ケイネス」

「ああ、ソラウ。やはり周囲に罠らしきものは存在しないようだ。あのセイバーの語った通りにね。だとするならば、やはり私たちはここでセイバーを打倒するしか無いだろう」

 

 ケイネスが答える。彼の言う「語った通り」とは、そのままアルトリアの口から出た話を言う。その内容とは、アルトリアが俺達ランサー陣営の足止めをする、と言うことだ。

 彼女が俺達の前に姿を現した際に提示した選択肢は二つ。結託し、ディルムッドとアルトリアの二人がかりでギルガメッシュを下し、その後に剣槍二騎で雌雄を決するというものがひとつ。もうひとつが、今すぐに、ここで決着をつける、というものだ。

 それに対し、ケイネスとディルムッドは後者を選んだ。普通に考えれば、ギルガメッシュという強大な相手を前にしての決裂など愚策下策に当たるだろう。しかし、そうしなかった理由は明白。

 なぜなら――その理由は。ケイネス・ランサー陣営は、一騎討ちでアルトリアと切嗣に勝利することが、不可能だからである。

 

「風よ、舞い上がれッ! 『風王鉄槌(ストライク・エア)』ッ!」

「――ッ、切り裂け、『破魔の赤薔薇(ゲイ・ジャルグ)』ッ!」

 

 アルトリアの巻き起こした嵐をディルムッドが断ち、その余波が地下駐車場を荒れ狂う。サーヴァントの宝具、残滓と言えど明確な破壊力を残したそれに煽られ体勢を崩しつつも、俺の思考は止まらない。

 ケイネス・ディルムッド陣営では、アルトリアと衛宮切嗣に勝利することは出来ない。一見すれば、その理論は可笑しいと断ぜられるだろう。魔術協会にずぶずぶの魔術脳どもどころか、ケイネスの名と実力を知っている者ならばほぼ全てがケイネスの勝利を予感し、衛宮切嗣の魔術師殺しとしての性能を知っている人間が判断するならば五分、あるいは衛宮切嗣優勢。しかし、少なくとも、勝ち目が全くないとまでは言わない筈だ。他でもないこの俺――『原作知識』から乖離した、この勇ましく紳士的なケイネスを知っている俺もまた、彼の実力ならばと思ってしまう。

 

 しかし。勝てないのだ。二人に。

 理由はいくつか――あるいは、いくつもある。まず第一に、ケイネスと衛宮切嗣の戦力差。原作で語られた通りの相性の悪さは健在であり、仮にギルガメッシュを倒したとしてその後一騎討ちをする羽目になったなら、ケイネスが切嗣の魔の手から逃れられる道理はない。

 衛宮切嗣の思考回路と性能、取り得る手段をいくら吟味しようと無駄だ。あれは、衛宮切嗣は根本的に俺達とは違う存在。戦う者でも研究する者でもなく、殺す者(アサシン)。俺達の張り巡らせた思考や策ごと、気付かぬままに殺されるだけだろう。

 それを踏まえた上で、次にサーヴァントの戦力差が問題だ。これは、単にステータスや持ち得る最大攻撃力の話をしている訳ではない。確かにアルトリアのステータスとスキル、宝具は脅威以外の何物でもないが、クラスカードを夢幻召喚し宝具を追加し、いざとなれば令呪を切ることもするケイネスをマスターとした今のディルムッドならば、『Zeroのセイバー』を打倒することならばなんとか可能だ。では、何が問題なのか?

 ――答えは簡単。『全て遠き理想郷(アヴァロン)』だ。

 現在は衛宮切嗣の内部に格納されているそれであるが、衛宮士郎に使用した例を鑑みれば取り出しは容易なはず。取り出しが容易ならば格納もまた容易であり、何より本来の担い手たるアルトリアがそれを使用した際の凄まじさは――Fate/staynight(原作)で示された通り。それがある以上、いかに強化されたディルムッドだとしても、概念的に鞘を打ち破ることが出来ない以上、勝ち目はない。令呪を用いて衛宮切嗣を襲わせようとも、向こうだって令呪は残している。結局は同じだ。

 ……これだけでも、絶望的。だというのに、俺の頭は――俺だけの頭は、もう一つ、絶対に勝ち目がないということを知らせている。

 その思考のままに、俺は荒れ狂う嵐と嵐を直視した。強化の魔術を掛けようとも、殆ど視認できないほどの高速戦闘。赤と黄の旋風を引き連れ、尋常な騎士として戦うディルムッドと、それを迎え撃つアルトリア。攻勢をかけるディルムッドの表情(かお)は強大な好敵手との戦いにまさしく二つ名の通りに輝いており、俺にZeroアニメでの彼の顔を思い出させる。

 対して――それを迎え撃つアルトリアの双眸(かお)。口を真一文字に引き結び、口端だけを少し上げ、顎を引き、目を見開き、瞳孔の収縮したその顔。その顔にもまた――俺は奇妙な懐かしさと感慨を覚えている。

 あれは、『騎士王』だと。

 ディルムッドの双槍がアルトリアの剣を跳ね上げる。ディルムッドにしては珍しく、力任せに行われたそれは、彼の槍の柄に浅くない傷を付けつつも隙を作ることに成功する。

 武器の差、その数の差。聖剣一振りを得物とするアルトリアに対し、今のディルムッドは槍に加え剣さえ持つ。故に彼は跳ね上げたままの双槍から手を離し、瞬時に双剣を顕現させると更に一歩踏み込んだ。

 赤剣が光を帯びる。身体を打ち付けるような魔力の奔流は、見ずとも宝具の真名を開帳するのだと理解できるほど。その威力――大なる激情(モラルタ)の鋭さは、神話において『あらゆる敵を両断する』と語られた通り。

 決まれば、アルトリアすら殺し得る一撃。横薙ぎに振るわれるそれは、聖剣を上段に打ち上げられた彼女の腹へ吸い込まれてゆく。その一刀が振るわれる瞬間、しかし、俺は、

 

「――駄目、避けてディルムッドッ!」

「っ!?」

 

 思わず叫んだ俺と、踏み込んだ片脚を起点に距離を離そうとするディルムッド。瞬間、首を思い切り後ろに倒して背筋を逸らした彼の鼻先、胸先を、轟音を立てて分厚い空気の層が駆け抜けていった。

 跳躍。彼女の剣の間合いから離れるディルムッド。その緑色の胸鎧は見るも無残に剥ぎ取られ、逞しい胸板には浅い抉り傷。それだけで、躱した攻撃の威力を推察できるような傷跡に、俺を除く三人はそれぞれ息を呑み、あるいは息を吐いた。

 

「っ、ディルムッド!」

「ご心配めされるな、主よ。掠っただけです――しかし。まさかかの騎士王が、隙を作り攻撃を誘い、あまつさえそこを聖剣以外で突くとは」

「さて、それはお前の見積もりの甘さだぞランサー。お前が槍と剣を使うように、私にも他の戦い方がある。槍か、あるいは飛び道具か。もしかすると、このセイバーというクラスさえ偽装する宝具を持っているかも知れないぞ?」

「抜かせ、セイバー。聖剣の担い手が剣士以外であるものか。……しかし、感謝致しますソラウ殿。今の一瞬、このディルムッドでさえあの隙を偽装だとは見抜けませんでした。あなたの一声が無ければ、私は痛手を負っていたでしょう」

 

 ディルムッドの言葉に、三人の視線が集中する。思わず叫んだだけとはいえ、ここでだんまりは不可能そうだ。ソラウ流美少女奥義で乗り切るのはもっと不可能そうだ。故に、俺は口を開く。

 

「……私も、今のを見切れた訳ではないの。ただ……なんというか。今の動作はフェイントなんじゃなくて、『全部知っていた』から対応したような、そんな気がして。だから、つい声を……」

 

 無論、俺の言いたいことは『直感スキルのせいで対応された』ということだ。未来予知にも等しいとされるほどの『直感』は、アルトリアの戦闘能力の基盤の一つと言って良いものだろう。

 ――しかし。その直感スキルよりも先に、今は考えねばならないことがある。場合によっては、この戦闘の結末すら決めてしまうだろう要素。

 ――恐らく結末すら加味した上で、ギルガメッシュに対しての共闘を持ちかける、あるいはその切嗣の提案に賛成する精神構造。

 ――彼女の表情、視線に籠る敵意と殺意、直感スキルを用いたフェイントすら織り込んだ必殺の数々。

 ――半ば煽るようにすら聞こえてしまう、『アルトリア』らしからぬ、しかし俺に……『原作』を知る俺には、頷きたくなる物言い。

 やはり、彼女は。

 

「……それよりもディルムッド、ケイネス。彼女は……騎士ではなく、『騎士王』。あなたは王である……そうよね、セイバー」

 

 彼女は何も答えない。ただ、こちらを見据える瞳が雄弁に、それは是であると語っていた。その姿が、『セイバー』と被ってしまって――俺は、まさしく『直感』のごとく、

 

 ――これ、ZeroセイバーじゃなくてSNセイバーじゃねーか!

 

 ダメだ、と確信した。

 SNセイバー。『Fate/stay night』。言わずと知れたFateの原点に登場した、『アーサー王』。高潔さを持ちながらも王としての視点を失わず、大局のためならば少しの犠牲も止むなしと認めてしまえる騎士王。――人の心が分からない、とさえ形容された、孤独で貴き聖剣の担い手。

 俺たちの前に、ディルムッドの前に立っているのがそんな『騎士王』だとしたら。それは、もう、どうしようもないとしか言えないだろう。

 仮定の話だが、ディルムッドが対峙していたのがZeroセイバーであったならば、勝機は十分にあっただろう。公正を重んじ、尋常な立会いを望み、ある種『自分のレベルを此方と同じ程度にまで落とす』ように真っ直ぐに向かってくる、それでいてマスターと折り合いをつけられていないZeroセイバーならば、二剣二槍を用い優秀なマスターに恵まれたディルムッドにならば、確実とは言えないまでも五分の勝機はあった。

 

「セイバー。折角の機会だ、ソラウ様の言うようにお前が王だと言うのならば、一つ問わせて貰いたい。あの問答の場に於いて、お前は故国の救済、つまり過去のやり直しが願いであると言った。それがどのような意味を持つ所業であるか、承知の上で言ったのか」

「無論だ。……ランサー、そう言えばあなたもまた、自らの過去を良しとした上で今生の主に仕えていたのだったな。ならば、私の願いは理解し難いものなのかも知れない。それでも、私はこの願いを曲げられない」

「それは、何故だ」

「簡単なことだ、ランサー。私の見た理想に、私の治世に、夢を見た騎士がいたからだ。――アグラヴェイン、という騎士を知っているか?」

「……鉄の騎士アグラヴェイン。かの太陽の騎士の弟、円卓に於いて尚邪悪なる騎士だ、と()()されている、あの騎士か」

 

 アルトリアはディルムッドの言葉に薄く笑みを浮かべ、頭を振る。やはり、その姿、声音、表情から想像できるのは――騎士ではなく、騎士王としての姿。

 

「そうだ。しかし――いや、私もこの時代に伝わる円卓の騎士達の話を聴いて驚いたのだが、アグラヴェインはそのように伝わっていたのだな。尤も彼ならば、それを気にする筈も無いだろうか」

「……それで、セイバー。よもや、その邪悪なる騎士こそがお前の治世に理想を見ていたと?」

「そうだ。そして訂正するならば、彼は邪悪な騎士などではない。不平一つ漏らすことなく働き続け、どれだけ仕えようと忠義に揺るぎなく、欠点といえば働き過ぎることくらいしか無い。そんな騎士が、私と同じ理想を見た。彼だけではない、各々の選んだ道こそ違えど、かつて円卓に集った騎士達は、みな同じ理想を掲げていた。――ブリテンという疲弊した国を護り、そこに住まう民の生活を護る。その為に、我らが治める国を少しでも長く存続させる、と」

「セイバー、お前は」

「だからこそ、私は王として在った。彼等に、そして民の望むものに応えるために。……征服王は、自らの王の形を民の野望(ゆめ)の総算だと言ったな? それに倣えば、私の王道とて民と騎士の‪希望(ゆめ)の総算だとも。私は王として、その希望(ゆめ)を背負っている。その証こそが、我が手にある聖剣の輝きだ」

 

 戦闘能力、単純性能だけでなら、今のディルムッドはアルトリアに比肩し得る。特に対人、一対一。「果し合い」に持ち込むことが出来れば、それでどうにかなる可能性はあったのだ。

 しかし。此処にいるのがSNセイバーだ。公正を重んじながらも必要に応じて手段を変え、尋常な立会いを望みながらも王として優先すべきことを優先し、自らの持てる力全てで立ち塞がる敵を粉砕する、そして信条はともかく『戦争の手段』として、マスターの方針を受け入れられる器を持った彼女だ。

 ならば――

 

「……まあ、征服王の宝具に驚かされたのは事実だがな。円卓の末路を考えると、思うところが無い訳でもない。だが、戦力として見るならば、我が太陽の騎士一人いればどうにでもなるものだ。征服王も、自分が部下を引き摺り出しておいて、私には認めないなどと言うはずも無いだろう。尤も、彼が居らずとも、どちらにせよ聖剣の一振りで片がつくだろうが」

 

 そう言って、アルトリア(SNセイバー)は、

 

「さて、ランサー。お互い()が控えているだろう。遠くから伝わっていた、英雄王と征服王の魔力のぶつかり合いも収束を迎えつつあるようだ。故に――」

 

 此方へ向けていた射殺すような視線をそのままに、聖剣の切っ先を真っ直ぐにディルムッドへと向けた。瞬間、その刀身が帯びる光が膨れ上がり、地下駐車場を照らし上げる。

 

「我が全力で、あなたを葬ろう。願わくば、もっとただの騎士として技を競いたいものだったが……私は、聖杯を得なければならない。そちらの女性の言うように、私は、王であるが故に」

 

 聖剣から放たれる魔力に、殺気が乗せられる。あまりに濃密なそれは、その姿を見るものに畏怖を抱かせるほど。そのさまに俺とケイネスは思わず一歩後退り、ディルムッドは全身を強張らせる。

 放出されていた光が刀身に収束する。

 聖剣が掲げられる。

 振り翳す、黄金の輝き。

 地下になど収まらない、フレアのごとき光が、一刀に込められてゆく。

 

「――ッ、我が僕、ランサーに令呪を以て命ず! ソラウのみならず、この私からも魔力を絞り取れ!」

 

 真っ先に動いたのは、なんとケイネスだった。黄金の光の中に、真紅の閃光が一つ疾る。同時に身体を強い倦怠感が襲う……も、視界の端に映るケイネスはそれ以上の怠さを感じていることだろう。

 

「主よっ、何を――」

「重ねて命ず! この一瞬に全てを賭け、自らの最大以上の力を発揮しろ! お前の持てる技全てを駆使して、あの騎士王に打ち勝て!」

 

 二つ目の紅い閃光。強制的に魔力を充填され、ディルムッドの気迫が漲ってゆく。同時に、膝をつくケイネス。彼ほどではないものの連鎖的に魔力を奪われ、俺もコンクリートの床へへたり込む。

 ディルムッドは、そんなケイネスを振り返らない。声音から、彼の覚悟を感じ取ったからだろう。翠の騎士はぎりぎりと全身の筋肉を引き絞り、その瞬間に備えている。

 

「……いいマスターだ。戦争の手段に限れば私のマスターに軍配が上がるが、精神の高潔さならばあなたの主ほどの者はそうは居ない。……あなたに、あなたのマスター、そしてその婚約者。あなた達は、素晴らしい陣営だ」

「無論だセイバー。ケイネス殿は俺がこの剣と槍を捧げた相手であり、ソラウ殿はこの剣を私に再び授けて下さった方。そして……主は、聖杯を掴むお方だ。その為にも、お前を越えさせて貰うぞセイバー……!」

 

 言って、ディルムッドはそこで一度だけケイネスを振り返った。視線が交錯し、ケイネスは三度右手を高く掲げる。

 

「――重ねて命ず! 我が騎士ディルムッドよ、お前の騎士道を全うせよ! 何に憚ることもなく、その槍で私に勝利を齎せ! この一連の令呪三画を以て、これをお前への勅命とする……!」

 

 光が疾る――その令呪の魔力すら置き去りに、ディルムッドは光よりも速く駆けた。いかなセイバーと言えど、絶対に追い付くことの出来ない神域の速度。この一瞬に限れば、ディルムッドを凌駕する英霊など一握り以下だろう。

 

「セイ――バーァァァアァァァァァァッ!!!」

約束された(エクス)――」

 

 遅い。ディルムッドの黄槍がセイバーの左肩へ突き刺さる。紅剣が右手の腱を断ち、黄剣が腹へ深々と突き刺さる。そして、ディルムッドは、「ケイネスの命令通り」に、その赤薔薇を、

 

「――勝利の剣(カリバー)ァァァァァアァァアアァァッ!!」

 

 縦一閃、袈裟懸けに振り下ろされる聖剣。それを捉えられたのは、たった一瞬だけ。刹那以下の交錯は人である俺――ソラウやケイネスの目には残像としてしか残らない。

 その交錯が終わった時、ディルムッドは、二剣二槍のうち三つをアルトリアの身体に突き立て、自身は残る赤薔薇を振り抜き、その疾走を終えていた。

 アルトリアは、俺達に向かって聖剣を振り下ろした体勢のまま硬直している。ディルムッドは、疾り抜けたまま此方へ背を向けている。

 アルトリアの身体に刻まれた傷口からは夥しい血が溢れており――ディルムッドの身体からは、血の一滴たりとも垂れてはいなかった。

 

「……見事だ――」

 

 そして、先程まであれほど身体から抜け出ていた魔力の流れが、全くぴたりと止まっていた。

 サーヴァントは血を流さない。否、正確には、霊核を破壊されたのならば、サーヴァントは無駄に血を流さずに消えてゆく。

 

「――セイバー」

 

 ディルムッドもまた、足元から金色の粒子へと変わりつつあった。

 

「……ええ、ランサー。あなたのような騎士がいたこと、私の記憶に留めておきましょう」

 

 『直感』。その瞬間に於いて、最も最適な解答を得るスキル。アルトリアのそれは最早未来予知の域にあり――その直感を以って、アルトリアは、ケイネスの言葉とその令呪による強制から、ディルムッドの一撃を読み切った。

 『魔力放出』。全身から魔力を放出する文字通りのスキルで、小柄なセイバーが大柄な相手と対等以上に渡り合う生命線。特に、高速機動をする際には鎧の魔力まで回すが――逆に言えば、高速機動する必要が無いのならば、その魔力放出は極限まで使用箇所を絞ることが出来る。今回は剣を振り下ろす一瞬と、ディルムッドの槍を逸らす一瞬との二回だけ。残りはすべて、防御へ回したのだろう。

 その結果が、これだ。ディルムッドの、そしてケイネスの一撃は、届かなかった。

 そして、俺はこの結果に安堵している。伏せた策の全てが十全に作用し、原作が原作通りに進むだろうから。

 なのに、どこかで悔しさも感じている。端々だけとはいえ、ディルムッドとケイネスの駆け抜けたこの聖杯戦争を知っているから。

 全く、と、俺は少しだけ独り言ち、必死に立ち上がろうとしているケイネスの肩を抱えてやった。胸を押し付けてやっているのはよく頑張ったサービスである。

 

「……しかし、ああ、無念だ。申し訳ありません、我が主ケイネスよ。あなたに勝利を、と思っていたのに……私は」

「……何を言う。お前の矜持、魅せて貰った。お前は、私などには勿体無いほどの忠義の騎士だった。……もう二度と会うことも無いだろうが、な。我が騎士ディルムッド・オディナよ。お前が私の騎士で、本当に――」

 

 言って、ケイネスは崩折れた。軽く解析の魔術を掛けてみると、どうにも魔力切れが原因のようだ。俺はそんなケイネスの身体を膝枕のように抱え込みながら、同じくコンクリートの床にへたり込む。

 

「私も、あなたを主としたことを、誉と感じます――ケイネス・エルメロイ・アーチボルトよ。そして――ソラウ様、あなたに力を頂きながらこの結果。あなたの愛する夫へ勝利の誉を齎すことの出来なかった私を、どうか恨んで下さい」

 

 俺はふるふると頭を横に振った。もちろん、愛する夫云々のところを否定している。というかケイネスの頭がいい具合に乳置きとして役立っていて肩が楽だ。本人も意識は無いが嬉しいだろう。

 

「……あなたたちは、本当に。――セイバー、」

「言われずとも、私は彼女らに手出しはしない。我がマスターも、この局面で二人に手を出す余裕は無いだろう。……とはいえ、何が起こるかも分からないもの。なるべく早く、ここから脱出して下さい。それで良いですね、ランサー?」

「ああ、感謝するセイバー。……不謹慎だが、俺は幸せ者だ。これだけ良い主と好敵手に恵まれたのだから。願わくば英雄王でなく、お前に聖杯の言祝ぎあらんことを。そして、主とその奥方に良き未来があらんことを――」

 

 そう言い残し、翠の騎士は金の粒子となって消滅した。彼がいた場所に残っていたのは、俺が彼に預けたクラスカード一枚のみ。俺はケイネスを目覚めさせないように寝かせると立ち上がり、カードを拾い、そしてそのままアルトリアへ近付く。近付いて、

 

「――『heal()(治癒)』」

「これは、傷が。……しかし、何故?」

「……あら。ディルムッドも言っていたでしょう? せめてあなたに聖杯を、と。なら、傷付いたまま戦われちゃ困るじゃない。……どうせなら、ディルムッドに勝ったあなたに願いを叶えてほしいのよ、私も」

 

 ――嘘だ。実際、片手が塞がったままでは黒き聖杯に聖剣を振り下ろせないからこうしているだけだ。けれどアルトリアは何も言わない。俺の内心を見透かして、何らかを思っていることを看破した上で敵意がない故に放置しているのかも知れない。けれどそれは、どちらにとっても好都合だ。

 

「……十全ですね。感謝します、魔術師(メイガス)

「礼には及ばないわ。……私達も、少し休んだらすぐ出て行くわ。あなたも早く行って頂戴。……さようなら」

 

 アルトリアは振り返ることなく俺の前を後にした。それを見送って、俺は未だ落ちたままのクラスカードを拾い、胸の谷間の収納ゾーンへそれを格納する。格納して、ケイネスの元へと戻り、彼の身体を抱えれば駐車場の奥……冬木市民会館の中心部へ近い位置へと近付いてゆく。

 策は成った。ケイネスの生存自体は、これで成し遂げられた。しかし、これでは片手落ち――この世界でも「エルメロイ二世」を誕生させる為には、ケイネスが死んでいなければならない。

 

「――そろそろだな」

 

 遠くに感じる、禍々しい気配を感じつつ俺はそう独り言ちた。ケイネスは未だ、目覚める気配を見せない。よほど魔力を振り絞ったこともそうだが、そもそも倒れるほど魔力を使ったこと自体初めてなのだ。好都合、と言わざるを得ない。

 ケイネスの胸元へ手を突っ込み、そこからアミュレットを取り出した。俺――ソラウが手ずから作成し送った、銀製のアミュレット。『魔除け』の効果を付与したそれ。

 

「魔力が近付いて来てるな。間違いなくあの泥……さて、ここからは賭け、かぁ。嫌だ嫌だ、ケイネスを置いて逃げればどうにでもなりそうだってのに」

 

 ――ところで、唐突だが、降霊術という魔術がある。読んで字のごとく、霊を降ろす魔術だ。サーヴァント召喚の際に用いる魔術の基盤の一つにもなっているこれだが、その派生、あるいは本質として、ソフィアリの家で学ぶ降霊術を駆使すれば、同じく英霊を降ろすことも出来る。

 と言っても、英霊をサーヴァントとして現界させる訳ではない。英霊の概念を少しだけ借りて、それをモノに付与する、とりたてて特筆することもない魔術だ。

 勿体ぶらずに言ってしまえば、この二つのアミュレットは、その「英霊降ろし」に似た工程を踏んで魔術礼装としてある。

 似た工程、と言ったのは、アミュレットに封じてあるのが英霊の概念ではないからだ。過去の文献を漁り、置換魔術を駆使し、『反則』を暴き出し、その術式を用いた逸品。

 不安を押し潰すように思索を巡らせる俺。その目の前の壁がどろりと溶けた。向こうから染み出してくるのは、視界に入れることすら悍ましい黒色の泥。

 

「――出たな、この世全ての悪(アンリマユ)。――『suggest_slf(64)(自己暗示・強)』」

 

 がちり、と理性に縛りをかける。fakeの、俺が敬愛するヘラクレスを歪ませたバズディロットの真似事だ。俺は彼ほどぶっ壊れた精神をしている訳ではない。その代わり、泥に呑まれないために、別のものを使う。

 この世全ての悪(アンリマユ)に対してのみ魔除けの効果を発揮する、対この世全ての悪(アンリマユ)用の概念を降ろしたアミュレット。アインツベルンが嘗て犯した反則を使用し、降ろし得ない神霊の座する場所までパスを繋いだそれ。

 

「――礼装、発動。『この世全ての善(アフラ=マズダ)』」

 

 どろり、と泥が俺とケイネスを覆う。

 意識が、一瞬で暗転した。




『もしもソラウちゃんの中の人の憑依先が桜ちゃんだったら』みたいな案も無くはないですがこの投稿ペースだと番外編書いていられなさそうなので別の形で案を供養してやろうかなと。

ちなみにソラウちゃんの中の人が桜ちゃんになった場合、完全にBBちゃんみたくなって、呼び出す英霊は黒ひげです。

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