めざめてソラウ 作:デミ作者
今回は型月の魔術に関して独自解釈とか入ってます。
というかほぼ独自解釈です。
原作のどっかで似たようなことはやってたよな、というのは思い返しつつ書きましたが、無理な場合はごめんなさい。
それはそれとして六章とかヤバいですね。
所長のパパの話が出たり、エルメロイ二世では通常時間軸上にオルガマリーちゃんやアニムスフィア家があることが確定したりで大騒ぎです。プロットを練り直さねば。
そんなこんなですが、今回もどうかよろしくお願いします。
ソフィアリ邸に設えられた庭園は、それはもう見事な規模を誇っている。
青々とした広い芝生に、整えられた木々。噴水の周りを囲うように設置された花壇には色とりどりの花が咲いている。庭の周囲を覆う林は、高く大きく育ったオークの木によって構成されている。刈り込まれた芝生の上には大理石で造られた石畳。水場の近くには瀟洒なベンチとテーブル。豪奢にして優雅、そしてその殆どが――魔術的要素を含み、庭園全体で一つの霊的空間を構成し、形成していた。
そんなある種の結界にも似た空間の構成物を、俺の独断で動かすわけにはいかない。庭での鍛錬の際には必ず、俺は物置から古い道具を取り出し片付けるようにしている。
「よい……しょ、っと。
一節一節、過程を意識しながら言葉を紡ぎ、魔術を発動させる。
必要な荷物は多く重く、取り出すには身体強化が必要不可欠。故に、魔術回路を励起し、転換の魔術を応用し、身体強化を未熟ながらも施す。詠唱は我流――『Extra』のコードキャストから流用したが周囲にはそう通している――で、効果も今ひとつ。しかしながら、『元々存在する何か』に魔術を落とし込んでいる為に、未熟で微弱ながらもきちんと発動させられるという訳だ。
そうして発動した身体強化を維持しながら、俺は必要な荷物を庭の隅、生い茂るオークの木々の下まで運び出す。用意したものはいくつかの貴金属製の硬貨や小物、そして小さなテーブル。
「……よし、と。にしても暑いな、こんな布地の厚い服なんて着たかねえよ……とっとと冷却の魔術覚えないと」
周りに人はいない。俺はそれを確認し、俺としての素を曝け出した。
ソフィアリの家という厳格な魔術の大家、そしてその息女という立場に押し込まれても気を違えなかったのはこうして息抜きが出来ることが大きいだろう。そして、息抜きをすると同時にやりたいことを追求出来るということが。
そう、この自主訓練はソラウとしての研鑽を積むと同時に、嘗てこの型月――TYPE-MOON世界観と作品群に触れた俺が、その理想を追究出来る場でもあるのだ。
「よし。先ずはいつものから行くか!
身体強化の魔術を『転換』させることで、筋力強化の魔術へと変える。無論、転換の魔術は応用の効きやすいものとは言えど万能ではない。このような魔術自体を変質させることが可能なのは、この魔術が自身へ作用するものであるが故に操作し易いだからであるのと――俺の強化魔術が、転換魔術よりも未熟だからだ。
まあ、それについてはどうでも良い。筋力強化を施した腕で、貴金属類の中から掴み出した金のティースプーンをぐにゃりと捻じ曲げれば、俺は一先ず強化の魔術を解いて息をついた。
「さて、と……理論の見直しはしたが、今日は上手くいくかね。まあ、やってみなければ分からんか――っ」
捻じ曲がり、完全に奇妙なオブジェと化したティースプーンをそのままに、硬貨を一つ手に取る。これは銀貨、銀製ではあるが銀含有率の低い硬貨としてしか価値のないもの。俺は、手の中へ含んだそれへ魔力を流す。
「――銀含有率九十パーセント。うん、ただの銀貨だな」
解析の魔術――と言っても拙いものだが――で確認したそれは間違いなく銀と呼べるものだった。だから何だと言われそうだが、今回はそれが重要なのだ。
だって、銀貨を銀貨でなくすのだから。
テーブルの上の雑然とした物を横に退け、スペースを空けてそこへ腰を下ろす。銀貨を握った右手は胸の前へ真っ直ぐ掲げ、左手はそこへ添えるように配置する。
頭の中に魔術式は用意した。辿るべき過程も、到るべき結末も。だから、
「魔術行使――」
息を吐き、集中し、埋没する。手に熱が集まるイメージ。その熱はゆっくりと、しかし確実に銀貨へと浸透し、侵食し、塗り替える。含有する銀、貴い金属とされたそれを別の物へと
「――『置換魔術』」
銀を対価として、銅を錬成する。
かつて錬金術より派生し、しかし対価を支払っても同等か下位のものしか錬成することが出来なかった基礎魔術――置換魔術。
「……成功っと。まあ、本番はここからだよな……ッ」
手を開けば、そこに在ったものは陽を受けて赤褐色に光る硬貨。意匠や大きさ、厚さなどは以前のままに含有する金属だけを変質させたそれが、手の中に収まっていた。
その硬貨を、
「――ッ! ぐ、っ……失敗か」
――求められない。開いた手の中には、握り込む前と変わらない銅貨があった。置換魔術――銅を銀へと置き換える魔術は結実することなく魔力の無駄使いに終わったのだった。
「あー……! くそ、難しいな。というか、この魔術で
ぼやきつつ銅貨を傍に置き、強張っていた全身を弛緩させ、魔術回路のスイッチをオフにしながら考えを巡らせる。内容は勿論、行使していた置換の魔術について。ソラウとして魔術訓練を始めてから何年も親しんできた魔術ではあるが、行使の後に思うことはいつも、
「……なんて、
……置換魔術。
文字通り『何か』を『何か』で置き換える魔術。
例えば――『空間』と『空間』の繋がりを置き換えたり。
『死者の魂』を『人形』と置き換えたり。
あるいは……『英霊』を『人間』に置き換えたり。
とかく『置き換える』ことに関してなら万能の魔術――と言うわけではなく。
普通は空間の繋がりの置換なんて出来ないし、死者の概念の置換も、英霊を人間と置換も出来ない。出来るわけがない。父からも、そして前世の知識からも得ている『基本的に下位互換しか出来ない』と言う魔術であるのは嘘ではなく、通常の魔術師であれば見向きもしないと言うのも分かるというもの。
それは俺――『ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ』という優秀な肉体を得て、さらに其処へとある『アドバンテージ』を上乗せした俺でも例外ではなく、同等以上の置換は未だ成功したことはない。
ならば何故こんな魔術の訓練を続けているのかというと……理由がある。ただのロマンだとか、打倒エインズワースを掲げているだとか、奇跡を期待しているからだとかではない。
「……『降霊』と『転換』と『置換』。何故だか他より扱い易いんだもんなあ」
そう。降霊魔術、転換魔術、そして置換魔術。この三種の魔術は何故だかしっくりと馴染むのだ。無論他の魔術だって今の年齢を鑑みれば優秀に過ぎるくらいだし、ソラウの肉体であれば多大なる研鑽さえ積めばどれでも一流を誇れるようにはなるだろう。
だが、この三種はそれを上回る。
修得している魔術がランクとして他より優れているというのもあるが、何より『詠唱を簡略化できる』のだ。
詠唱を簡略化できるという事は、式を用意し過程を辿り……と言った『自己に働きかける』必要がないと言うこと。つまり、その事象が自らの内で確固たる事実として存在し、確立しているということなのだ。
これについても理由はある。仮説ではあるが、納得できる理由が。
「……納得は出来るけど、もっと上を望みたくはなるよなぁ。だって、『ソラウになったこと』が理由なんだったら、もっと別の誰かになってたなら更に優れた魔術師になれただろうに。ケイネスとかになりたかったよ」
そう。その理由とは、俺がソラウになったこと。
もっと言えば、俺の魂がソラウに『降霊』し、俺が男から女に性『転換』し、俺という個人がソラウと言う個人に『置換』したことに因むモノ。
つまり、これは俺……ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリという存在がこうあるが故に発現したモノなのだ。仮説ではあるが、限りなく正解に近いものだと思う。降霊魔術に関してはソフィアリの血もあるだろうが。
「起源……とはまた違うだろうけど似てはいるよな、在り方が魔術に作用するってのは。ま、言ってても仕方のないことだけど。無い物ねだりしてる暇があるんならちょっとでも修行しないと……死にかねないし。よし、最後やるかぁ!」
ともかく、気分を『転換』する。
こうして自己に関わることになら、先程の三魔術は気安く使える。例えばこれ以外にも感じる暑さを置換したり、脳内時間の流れを展開したり。あるいは、俺としての口調とソラウとしての口調とを無理なく切り替えるのも転換の魔術の賜物だ。
そして、これから行うのもまた自己に作用する魔術。ルーチンワークとして息を吐き、両手に二つのものを握り込んだ。片方にあるのは先程の銅貨、もう片方には捻じ曲がった金のティースプーン。
「
――ところで、俺の得意とする置換魔術だが。この魔術に親しむ上で分かったことがある。
置換魔術は錬金術から派生して、ものを下位互換に置き換える魔術。錬金術とは卑金属を貴金属へ『変化』させる魔術だ。それから分岐して、求めるものとは逆方向へ走った――それは確かなのだが、錬金術的なアプローチからだけでは決して原作――プリズマイリヤに於けるエインズワースの『置換』には辿り付かなかった。
空間の繋がりを置換し、魂と人形を置換し、ヒトと英霊を置換する。その魔術は錬金術より出でたかも知れないが、既に錬金術ではないのだ。
ならば、この魔術はどのような過程を辿っているのか――式を解析して見つけた答えは『コピー&ペースト』。置換魔術は、その結果に到るまでの過程において『写し取る』、『貼り付ける』という二つのステップを踏んでいる。
死者と人形の置換や英霊と人間の置換などその最たるもので、それぞれ『死者』『英霊』という情報を――あるいはその情報の一端を――写し取り、媒介となるものに貼り付ける。それが置換魔術なのだ。
先程の硬貨の置換も同じで、置き換え先の『銅』という情報を写し取り、含有する『銀』を等価交換として差し出し貼り付けることで結果を成した。夢幻召喚も、規模が大きくなっただけで同じ理論だろう。
「……置換魔術、発動。
ただし――それはエインズワースに限った話。
置換魔術が下位互換しか出来ない関係上、明らかに下位である人間を、上位存在である英霊と置換するなどどう足掻いても不可能な筈なのだ。衛宮士郎のように彼らだけが特異であるのか、イリヤスフィールのように結果だけを呼び出しているのか、それともまた別のアプローチなのかは分からないが……それを可能にするのが彼らの秘奥であり、俺がそれを成せない理由。
やり方や理論をどうにかすれば良いのではなく、使用するのが置換魔術である以上、『下位互換を成す』という規定を前提としている以上、どうやっても越えられない壁。圧倒的に足りない。同じ土俵で勝負をすれば負けるしかないのだ。
ないのだが――
「……置換魔術、一時停止。転換魔術、発動」
同じ土俵上で勝てないのならば別の土俵で勝負すれば良いだけであるし、足りないものがあるのならば別のものを使用すればいい。それが魔術師なのだから。
転換魔術とは、魔力や精神、魂や概念を変化させる、あるいは
「……
「……っ、魔力のロスが、大きい……っ! こんな情報、入りきらない……!」
瞬く間に溢れ出してゆく魔力に、枯渇してゆく体力。当たり前だ、これは置換と転換の何方もを得意としているからこそ出来る芸当ではあるが基本的に不可能な組み合わせ。自分が行使し、自分が操作し、これに関わること全てを自分が司るからこそ成し得る無茶。
その無茶に耐えかねるように、情報を流し込んでいる銅貨が瞬く間にひび割れてゆき――
「……っあ!!」
弾ける。
魔力を噴出し手から零れ落ちた銅貨は、地面に落ちると同時にひびに沿って幾つかの破片へと砕け散った。結果は失敗、魔力と体力を無駄にしただけ。けれど、
「……はぁ、はぁ、ふう……よし、今までで一番の成果だ」
割れて別れた銅貨の破片のうち、割合にして四分の1程度ではあるが……それだけの破片が赤褐色ではなく黄金色に輝いているのを見て、俺は小さくガッツポーズをした。着実に進歩している。
汗を掻いて身体にじっとりと張り付くワンピースの襟元をぱたぱたとしながら、俺は大きく伸びをする。丁度その時、やって来たメイドの一人に声を掛けられた。察するに、先程執事長が向かわせると言っていた者だろう……口調を転換する。
「……ソラウ様」
「ああ、もうそんな時間なのね。あなたもありがとう、こんな暑い日にここまで面倒だったでしょう」
「い、いえ。そんなことはございません……恐縮でございます」
「うふふ、畏まらなくたっていいのよ。私はあなたを信頼してるもの。さ、お風呂場まで連れてって頂戴」
なんなら私の身体を洗ってくれても良いのよ、なんて冗談を飛ばすと顔を真っ赤にする彼女へ、四十八の美少女奥義の一つであるソラウスマイルを向ける。彼女若いし可愛いんだよな、身体は女同士なんだし添い寝とかしてくれないかな……なんて思いつつ、俺は彼女に連れられて風呂場へ向かうのだった。
タグに独自解釈ありとか独自設定ありとか追加した方が良いのでしょうか。
それも含めてご意見ご感想、至らない点等あれば、良ければどうかお伝えくださいませ。
それでは私は六章の攻略に戻ります。