フランカフェの日常   作:杉崎 三泥

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玖の巻 「時計塔整備士主任です!」

 「ボンジュール!いらっしゃいませでござるー!」

 

 『メイドカフェの島』。たくさんの喫茶店があちらこちらに乱立する島。噂によると、この島のどこかに、とある平和を願う人が永遠の平和を望んで作ったルーンがあるそうだ。そんな中、そのルーンを調査しているお店があった…そのお店とは…。

 喫茶店「フランカフェ」。それが店の名前である。

 

 

 

 山の調査に行ってしばらく経っても、特に何とも変わらない日々が続いた。もしかすると、調査に気づいた誰かが何らかのコンタクトを仕掛けてくると思ったのが、特に何事もなく日々が過ぎていった。

 特に変わったことといえば、山の調査の翌日からアヤメがカフェの営業にもいろいろ力を入れ始め趣向を凝らすことにしたことだろうか。

 

 例えば、今までは店内の静かな空気を尊重し音楽などは書けていなかったのだが、老人たちの要望をアヤメたちが聞いて、お店にモダンな渋めの曲が流れることとなった。ジャンルはジャズやクラシックなどである。人通りの多いところに入り口が面しているのもあって、雑踏が今まで中途半端に気になっていたのだが、これのおかげで一定の落ち着いた雰囲気が確保された。

 それに加えて、各席ごとで自分たちの空間ができるようになった。

 例えば、老人たちはアヤメと楽しくお話しながら紅茶を飲んでいるし、親子連れと思われる3人の団体さんは子供がスヤスヤと寝かけているのを親2人で温かい目で見守っていたり。他にも、仕事に行く前に地方紙を読みながらコーヒーを飲んでいる人もいる。

 

 コーヒーといえば、アヤメがコーヒーのブレンドに挑戦し始めたのだ。紅茶一筋の彼女にしては珍しい話で、気になったフランがどうしたのかと聞くと、

 

 「いえ、みなさんが調査で頑張っているのですし、私も何かがんばれないかな、と」

 

 と多少、照れながら笑って答えていた。アヤメも老人たちからいろいろ聞いてくれているのだし気にしなくていいのに、ともフランは思ったのだが、素直に彼女の頑張りに感謝することにした。

 

 

 

 スイカも山の調査から毎日アヤメと鍛錬とすることで大金棒をただ振るだけでなく、コントロールがうまくなった。

 というのも、彼女は今まで目一杯自分の力を使ってふるうことで敵をなぎ払ってきたのだが、アヤメはスイカとはいわば真逆の、技術で敵を倒すタイプだ。もちろん基礎体力などは男性にも引けを取らないが、それでも力はどうやっても追いつけない敵がいることをしっているので、その対策方法をいろいろ学んできた。

 そう、『剛』で勝てない代わりに『柔』を取り入れることで彼女は強くなったのだ。逆にいえば、スイカは最初から『剛』を極めているのでそこに『柔』を加えれば確実に強くなると、アヤメは確信したのだ。

 なので、アヤメはスイカにいかにその力のすごさを利用して、かつうまく動けるかをひたすら叩き込んでいた。おかげでスイカはフルスイングをやめ、力加減をすることで連続で重い攻撃を叩きこむことを覚えた。普通の人が力加減をすると、一撃一撃が弱くなってしまいあまりよくはないのだが、スイカに至っては加減をしても、岩を粉砕するレベルだ。問題はない。

 それに加え、彼女の力の補正で攻撃は単純だが、その攻撃速度と敏捷さはその体からは想像もできないほどに速い。アヤメの剣速とほとんど変わらず、それでいて、忍者の敏捷さに衰えはない。彼女の力はそれほどまでに武器となった。

 そういった感じでスイカはめきめきと成長していった…。

 

 

 

 そのようないろいろな変化が影響したのかもしれないが、店もおおむね良好な状態で営業が続いた。

 そういえば、こんな話が山の調査からの1週間の間であった。

 

 とある日、昼頃のいつもの常連さんたちぐらいしかいない、午後のティータイム時間ごろ。

 常連メンバーでその時来ていたのは鬼の人にマグマジンの人、そして、師匠と呼ばれる蜂だ。なにやら近いうちに大きなイベントがあるとかなんとか、と話をしてたくさんの高いコーヒーを飲んでいた。最近はコーヒーの飲みすぎだから少し辞めなきゃなぁ、なんて話を鬼の人が言って、それに2人もうんうんとうなずいていたのだが、今日はうってかわって、まるでわんこそばのようにコーヒーを飲んでいた。その鬼気迫る勢いはスイカを怯えさせるのに十分の勢いがあった。

 そんな中、最近この時間帯になると、お店に足を運ぶ常連客が一人増えた。

 

 そのお客さんは身長が少し低く、綺麗な長い金髪をそのままおろし、瞳はぱっちりとした水色、頭には歯車の装飾が特徴の赤と黒の帽子を付けていた。服はメイド服の上に黒のコルセットを付けたようなもので、スカートは特徴的で、赤、赤、黒のスカートを3つ重ね、フリルのようにし、スカートの端っこは白のフリルをつけ、動くたびに全体が揺れるかわいらしい子だ。その彼女の名前は…

 

 「アヤメちゃーん!ティータイムしに来たよー!」

 

 「ユッカさん!いらっしゃいませ、いつものでよろしいですか?」

 

 「うん!」

 

 そう、彼女はユッカ。彼女は別の世界で『時計塔エターナル・クロノス』という施設を整備する整備士たちの一人で主任らしいのだが、ひょんなことでこの世界に迷い込んだらしい。それから帰る方法を見つけ、一度は戻ったのだが、こちらの世界にもちょくちょく遊び来ている。

 なぜ、彼女がここにいるかというと…

 

 「いやーまさかこっちの世界でも時計塔の整備するなんて思ってもみなかったよー。それにティータイム好きの友達までできるし!」

 

 「それはおつかれさまです。それでしたら疲れを香りで癒す紅茶などもありますよ?」

 

 「そんなのあるの?!わーい!飲んでみたーい!じゃあ、私も秘蔵のお菓子を出しちゃうよー!」

 

 「なんと!それは楽しみです…♪」

 

 店の静かな雰囲気とは別でわいわいと楽しそうに話す二人。紅茶好きというのもあり、お互い通じるものがあるのだろう。

 

 

 さて、2人がワイワイ楽しく話している中。常連客でガタッと席を立っている人がいた。その人は…

 

 鬼の人である。

 

 どうか、思い出してほしい。いつだったか、『ユッカLOVE』と書かれた服を着ていた人がいたことを!ユッカちゃんのけん玉もいいよね、なんて言ってた人たちがいたことを!

 今回は偶然であったためもう一人はいないが、片割れである鬼の人はその巨体をわなわなと震わせ、

 

 「ああ…女神だ…女神が降りてらっしゃる…」

 

 などとつぶやいていた。マグマジンの人と蜂は首をすくませながら、さっきまでのペースよりは遅いが黙々とコーヒーを飲んでいる。だが、いざとなったら抑え込めるように立ち上がる準備はしているようだ。

 

 フランとミカンは奥で食事をしていて、唯一、その2グループを遠くから眺めているリンゴは、

 

 「……………………………………まぁ、私には関係ないな…シャクリ…」

 

 と、りんごを食べていた。以前、フランが彼女に食事休憩は必要なのか、と前に聞いたが、彼女曰く、りんごは別腹、だそうだ。

 

 幸いにも鬼の人は落ち着いたようで、席に着いた後、薄い長方形の端末を取り出し、1分ほどパシャパシャと効果音をだして、満足したようだ。音は『ルーンカメラ』とおなじ音がしたのだが、リンゴはカメラというものを知らず、ユッカとアヤメは紅茶に夢中なので気づかないままだった。

 鬼の人はその後、端末を見ながらにへらーっとした後、

 

 「そうだ、あいつにもこの情報を送らないと…」

 

 と、何やら操作していた。マグマジンの人と蜂は落ち着いたのを確認した時点で再びわんこそばのペースでコーヒーを飲んでいた、すでにそれぞれ20は超えているが大丈夫なのだろうか…。

 

 

 しばらくすると、ティータイムが終わったのか、

 

 「じゃあ、アヤメちゃん!またねー」

 

 と、ユッカは勘定を済ませて、アヤメに手を振りながら帰っていった。アヤメも店の外までそれを笑顔で見送ってユッカの姿が見えなくなったところで店の中に戻っていった。

 

 それから5分後…。

 すごい勢いでバァンッ!!!とフランカフェの扉が開け放たれた。リンゴが多少驚きつつもそれに応対する。

 

 「いらっしゃいませ…1名様ですか?…シャクリ…」

 

 リンゴがこうやって普段からりんごを食べる癖は最初の頃こそ直すようにフランに言われていたが、この店に来ている人では日常の光景となり、もはやとがめられていないそうだ。なので、リンゴもこの癖を直すことなくおいしくりんごを食べている。

 

 さて、来た人はというと、前にTシャツに「3&PEACE」と書かれた服を着ていた人だった。今日は同様にTシャツの前に「3&PEACE」と書かれているだけでなく、後ろには『ユッカ愛』と達筆で書かれた服を着ていた。彼は、全力で店内を見回していたが、目的のものが見つからなかったのか、妙に落胆し、効いてきたリンゴに、

 

 「あ…いや、連れがいるので大丈夫です…」

 

 と、鬼の人たちの席に向かっていった。

 その後、鬼の人とTシャツの人の会話を抜粋すると…

 

 「さっきの画像、他にもあるならくださいな…」

 

 「ふっふっふ…コーヒー2杯で手を打とう…」

 

 「ぐっ…背に腹は代えられぬっ……!!!」

 

 「毎度あり♪マスター!コーヒー2杯追加でー!じゃあ、画像はこれだ…」

 

 「おお…女神や…」

 

 だ、そうだ。詳しくは書かないでおく。

 

 

 

 さて、山の調査から一週間。

 キョンシーを思わせる格好の彼女が来た。

 

 「ふぇっふぇっふぇ~フランや。げんきしとったかえ?」

 

 「おお、シャオフー殿!ご無沙汰でござる!」

 

 彼女はシャオフー。とある理由で命を落としてしまったのだが『束縛のルーン』によって魂をその死んだ体にとどめることとなり、数百年以上生きているらしい。今では飛行島のみんなと楽しく過ごしているのだが、彼女が持っている飴や道具は当時のもので腐っているものが多かったりする。なお、大丈夫な品は今まで出たことがない。

 ちなみに彼女の体は『束縛のルーン』の影響なのか腐敗はせず、あくまで死んだときの状態が維持されている。なので、体は腐敗しないが、血は流れず、寒さで体が動かなくなることもしばしば。

 ちょうど近くにいたフランが応対に向かい、懐かしさからかそのまま話し始めてしまう。

 

 「シャオフー殿が珍しいでござるねぇ、いったいどうしたでござるか?」

 

 いつもならキャトラや赤髪の少年と一緒に飛行島で過ごしているはずだが、どうしたのか、とフランが疑問に思う。

 シャオフーも普段は笑顔で穏やかな顔を珍しく曇らせ困った顔で答える。

 

 「それなんじゃがのぅ~?フランが何やら調べとるとアイリスからきいてな~?」

 

 「ふむふむでござる」

 

 「なにやら『平和のルーン』という話があったから来たんじゃよぉ~」

 

 「?何か知ってるのでござる?」

 

 もしかしたら、という思いを抱きつつ、フランがシャオフーに聞いてみる。

 シャオフーは1分ほど答えにくそうにしていたが、その重い口を開く。

 

 

 

 

 

 

 「もしかするとのぅ?そのルーンはわしの母が作ったものかもしれんのじゃぁ…」

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