壱の巻 初回は暑苦しいあの人で
「ボンジュール!いらっしゃいませでござるー!」
『メイドカフェの島』。たくさんの喫茶店があちらこちらに乱立する島。その数ある喫茶店の中で今日オープンした店があった。
喫茶店「フランカフェ」。それが店の名前である。
オープンする日の朝、フランがまず、来てくれた少女にお礼を言う。
「アヤメ殿が手伝ってくれるなんて嬉しいでござるよ!」
「いえいえ、私も飛行島で一緒に生活する身。私にできることがあれば協力しますよ!」
笑顔で手を振って、気にしないように、というアヤメ。青く長い髪を頭の後ろでくくったポニーテールにカチューシャをつけており、真っ白ないつもの軍服ではなく、フランカフェの制服であるメイドのような服に着替えており、まだ慣れないのか照れくさそうに得意の紅茶をつくっていた。
制服は袖が短く二の腕の半分のところまで露出しており、全体の基調は青で胸のところは白のシャツのところに赤のリボン、また、スカートは短くまぶしい太ももが見えており、靴下は白いニーソックスとなっている。腰のあたりには白の前掛けが巻かれており、ポケットのところに縁《ふち》が赤く丸いワッペンがついていて、『アヤメ』と書かれていた。靴はピンヒールのピンをなくしたようなもので色はそれぞれ違っている。アヤメは青色であった。
「ミカンもお礼を言うのでござるよー?セッシャ達の任務を上の忍者方が忙しいからとはいえ、手伝ってもらってるのでござるからー」
「もちろんだよ!ありがとね!アヤメ!お礼にミカンどうぞ!」
どこからともなくミカンをだし、アヤメに渡そうとするミカン。緑の髪に毛先がオレンジ色の髪を頭の両側で右側はシュシュのようなもので、もう片方は蜜柑がついている輪ゴムのようなものでくくられていた。服はアヤメと同じく、ワッペンには『ミカン』と書かれ、靴はオレンジ色の靴であった。
もちろん、フランも茶熊の制服から着替えており、同じものを着ている。髪型は頭の後ろのほうで小さなツインテールを作っており、残りの後ろ髪をそのままおろした形になっている。もちろん髪をくくる際に使うのはおなじみのトレードマークともいうべき洋ナシがついている輪ゴムである。いつもの首にまいている全体が赤く先が青いマフラーはメイドの時であっても付けていた。また、ワッペンには『フラン』と書かれており、靴の色は明るい黄色であった。
「これはご丁寧にありがとうございます♪」
お礼を言って、白い手袋をつけた手で蜜柑を受け取るアヤメ。あとで紅茶のお供にするつもりらしい。
ミカンはともかく、なぜ、アヤメがここにいるかというと話はフランがやってくるころ、オープンの前日にさかのぼる。
実はフランがきたときはお店をやるにあたって、ミカンとナップルと喫茶店に詳しい忍者が2人ほどいたのだが、ナップルと忍者の1人が呼出しを受けたために急遽、メニューの料理や飲み物を用意できる別の人が必要になった。
もちろん、予定では先に用意をしている人たちにいろいろ教わるつもりだったため、フランはそういった料理スキルはないし、ミカンは言わずもがなである。もう一人の忍者の人も料理はできるものの、やはり飲み物関連である紅茶などは苦手で市販のものを使うしかなくなる。
「でも、店をやるにあたってやはり、ある程度紅茶やコーヒーの種類に精通した人間が必要でござる!」
と、フランが強く希望したので、まだあの3人(正確には2人と1匹)がこの島にいるかもしれない、と全員で忍者のスキルを駆使して探してみたところ、5分後に白い猫、キャトラと白い髪の少女、アイリスと赤い髪の少年が一緒に食べ物を買っているところをフランが見つけた。
少年とアイリスのほうはしっかりと食べ物を買っていたが、キャトラは魚屋を見かけてはもらえるように愛嬌を振りまいていた。もちろんもらった魚は美味しくいただいていた。
フランは急いで声をかける。
「シショー、アイリス殿、キャトラ殿!」
八百屋で野菜を選んでいた、少年とアイリスが声のほうに顔を向ける。キャトラは一生懸命魚を食べていた。
「あ、フランさん。どうしたんですか?」
「え、フラン?」
フランの名前に顔を挙げるキャトラ。一生懸命に食べていたのだろう、口には魚の欠片がいくつかついていた。
「実は…」
フランは事の顛末を話す。
全部聞いたところで、少年がこう提案し、フランが驚く。
「え?飛行島のメンバーを連れてきてくださるでござるか!?」
「それは名案ね」
アイリスも賛成する。それに続きキャトラが人員の候補を挙げる。
「飲み物関連だと、ウィリアムが全部そつなくこなすだろうけど、あいつは執事だからねぇ。もともと飛行島にきたのはセイクリッド侯爵だっけ?その人の命令だからダメかしらねぇ」
「それに執事っていう仕事に信念を持ってるから、お店には向かないかもしれないわね」
アイリスも難しそうだと納得する。
アイリスとキャトラが悩んでいると、またもや少年が提案をする。それを聞いたアイリスとキャトラはそれだ、と納得した。
フランには聞こえなかったため、だれでござるか?と、聞いたが、キャトラに
「本人の了解が得られてからのお楽しみよ!」
と言われたので、全員で飛行島の元まで向かう。
その後、フランが5分ほど待っていると、3人に加えもう一人降りてきた。
それがアヤメである。帝国軍も今のところ特に何もないらしく、アヤメもよっぽどのことがない限りしばらく休みだったため、ずっと鍛錬というのも退屈らしく、二つ返事で引き受けてくれたそうだ。
そんな説明を言っている間にボソリとアヤメが言っていたが、
「それにかわいい服も着たいですしね…」
というのも理由の一つらしい。
そういった経緯もあったが、フランに連れられカフェに案内されたアヤメはミカンと忍者の方との挨拶を済ませ、みな、制服に着替えた。
裏方である忍者さんは忍者の格好のまま奥の厨房に立つそうだ。ちなみに話していると外見では全く分からないが、男の方らしい。
アヤメは表のカウンターのほうで紅茶やコーヒーなどを作り、フランとミカンが表で注文を取る役割で落ち着いた。
初日は普通の店だとあまり人がこないのが普通ではあるが、キャトラの発案で「
アヤメ、ミカン、フランが店の前に出て、店の『close』の札を『open』へとひっくり返す。そして、店に向かってアヤメ、フラン、ミカンの順に並んで振り返り、ミカンがイメージガールの仕事をやってた時の経験を活かし、最初に言う。
「みんなー!おっはよー!」
元気な声量に道行く人たちが何かと立ち止まる。イメージガールをやってた時のしゃべりだしの勇気はミカンならではだろう。
「朝は眠いよね!朝食は食べたかな?眠い方やおなかが減った人は是非!」
ミカンがフランとアヤメに目くばせをする。
「「「フランカフェへお越しください!」」」
同時に言い、頭を下げる。2秒後に頭をあげ、フランが続けて言う。
「今日、初の開店でござるので是非是非お越しくださいでござる!」
「おいしい紅茶もありますよ!」
アヤメも一言言って、再び頭を下げ、店の中へ戻る。
その後、ミカンはよくできたと、飛び跳ねながら笑顔で喜んでおり、フランとアヤメも無事できたと、満足していた。
この宣伝の影響もあってのことか、客足はすぐに伸び、昼頃には席が半分以上埋まっていた。もともとフランカフェの大きさは学校の教室ほどあり、一部分がアヤメのカウンターコーナーであることを引いてもある程度大きい。それが半分以上埋まるというのは初日にしては上々といえるだろう。
また、内装は木材によりモダンチックになっており、昔ながらの喫茶店を思われるような感じになっている。落ち着いた雰囲気がもっともな特徴だろう。
なお、レジに関してだが、頭領にお願いしたところ、暇そうにしていたリンゴに出向くように指示し、昼頃になってきてくれた。本人曰く、
「このパーフェクトの私にかかればお金の勘定など余裕だ…シャクリ…」
と、リンゴを片手にレジにいた。彼女はおかっぱのような髪型かと思いきや、後ろのほうで短く三つ編みにしており、制服はもちろんのことワッペンには『リンゴ 』とどこかで見たようなマークをつけ、靴は赤色であった。こうみえてもれっきとした忍者である。
なぜ、そんな文字通り色々な靴があるのかというと、服を任された忍者の趣味らしい。
普段は話を全く聞かないことが多いリンゴだが、さすがにお店という場所の影響があるのか、意外にもまじめに働いていた。
ただ、片手のリンゴは離すことがないため変な感じではあったが。
そういった感じで、いろいろな客を迎える。もともとこの島は珍しい島で魔物によっては人を襲わず、人間と共存する魔物が少なからずいる。
もちろん、全部が全部ではないために、対策がなされており、人間と共存を希望する魔物には専用のカードが渡されており、それによって害がないということを証明することができれば、なんら人間たちと差別なく暮らしていける。
初めて来た人はみな驚くが、ここの町の人たちにとっては普通なのであまり気にしていない。
もちろん、フランカフェの店にも来たが前情報を知っているため特に全員違和感は覚えたものの問題が起こることはなかった。中には肋骨の骨が1本折れたボーンソルジャーがコーヒーを飲みまくっていたが、いったい飲んだコーヒーはどこに行ったのだろう。
謎の闇が残ったがそこはまた別の話。
さて、お客もある程度落ち着いた昼を過ぎたころ、思わぬ来客があった。
それは金髪トゲトゲに黒く焼けた肌、筋肉は情人よりもはるかに鍛えられ、海パン一丁に虹色のサングラスをかけ、サンダルと首にマフラーをまいた…そうあいつがきた。
「わ た し だ - !!!!!!」
「うわ、だれだおまえ!?」
入り口に一番近いリンゴが、あまりの声の大きさにびっくりしていた。これだけ見ればただの営業妨害である。サマーソウルに気づいたフランが対応しにいく。
「これはサマーソウル殿!元気がいいでござるねぇ」
「うむ!なにやら、楽しそうなことをしていると少年から聞いたのでな!来てみた!」
自信満々にいつものポーズを決めながら言うサマーソウル。夏の天使という謎の彼はとにかく暑苦しい。
「それで、今日は何か飲んでいくのでござるか?」
ひとまず、接客をすすめようとするフラン。
「いや!ざっくりしっかり様子を見に来ただけだからな!ぶっちゃけ冷やかしだ」
堂々と言い放つサマーソウル。いっそすがすがしい。驚いたリンゴはというと、なんだこいつは…この私がおそれているだと…シャクリ…、とこちらも自分の世界に入りだして逃げていた。
ミカンは接客があるのでこちらを見ているものの目の前の客の対応に追われており、客は特に気にもしていなかった。
だが、と人差し指をまっすぐたて、左右に振りながらサマーソウルが続ける。
「さすがに手ぶらで来るほど私もくさっちゃぁいない…仲間には援助…というわけで!」
入り口のほうに何かおいていたのだろう、サマーソウルがドアのほうに手をだし何かを持ってくる。最初から持って来いよ、とは言わずに出てきたものを見る。
「私、ということで大量の夏野菜だーーーー!!!」
5,6㎏はあるのではないかと思われる野菜がそこにあった。うれしくはあるが、謎の登場の意味はあったのか、とリンゴがこっそり思っていた。
フランはというと…
「オーララー!こんなにたくさんメルシーでござる!」
「構わない!これは私からの開店祝いだからな!ガッハッハ!」
手を合わせ笑顔で普通に喜んでいた。野菜だけでなくいくつか果物系も混ざっておりあって困ることはなかった。
そして、サマーソウルは用もすんだのか、うんうんと満足げにうなずき、
「それでは淑女諸君!またどこかで会おう!夏が私をよんでいる!」
と、ドアを開け放って出ていった。走り去っていくサマーソウルにフランは、
「お気をつけて~でござる~」
と言って見送っていた。多少変な登場ではあるものの、野菜のプレゼントがあったのでありがたかった。
ひとまず、おいていった、野菜はフランが奥の厨房にいる忍者に渡すと無言でグッジョブと握りこぶしから親指を立てていた。フランも合わせてグッジョブと返し、表に戻っていった。
それからはいたって、平和でカフェは夜まで続き、無事初日は終わったのである。途中ミカンとリンゴがねむくなったりもあったが、アヤメとフランがしっかりと仕事を行い、特に問題はなかった。
さて、カフェの前の『open』を『close』へとひっくり返し、全員が元の服装に着替え終わった後、忍者の男の方は里へ、アヤメは2階で就寝したころ、忍者の3人はというと、全員忍びの服に着替えていた。
フランは髪型を変え、頭の左上で髪をいつもの洋ナシ輪ゴムでくくり、束ねていない髪はすべておろしている。首にはいつもの赤いマフラー、そして忍び装束にはやはり洋ナシの絵がプリントされていた。靴はそれで動きやすいのかはわからないがゲタであった。
ミカンはフランとは打って変わって、水着のビキニの上のような物をつけ、全体が赤でチェック柄が首に近いほうにだけ印刷されているマフラーをつけている。下は少年のような短いズボンをはいていた。靴はスニーカーのようなものでミカンらしい。
リンゴは巫女と忍びを足して2で割った服装で、黒く体にしっかりとフィットするズボンと前を覆って後ろで結ぶ上の服に、男の神主が付けるような服の白の前の部分が覆っていた。靴はミカンと同様スニーカーのようなものをはいている。
もともとここに来た理由は長期間にわたる情報収集が目的だ。つまり、これからがある意味本当の「お仕事」となるわけだ。
『フランカフェ』の屋上に集まった3人。フランがミカンとリンゴに言う。
「我がスール達よ。セッシャ達はこれから町全体の調査を開始するでござるよ。もちろん皆さんには迷惑をかけずに、でござるからな」
「わかってるよ、お姉ちゃん!私だって日々精進してるんだよ!」
大きな声で返事をするミカン。もちろん、今は夜なので声がよく響く。なので、フランが慌てて口を押えて止める。
「ミカンはもう少し忍ぶことを覚えるでござる…」
「ごめんなさい…」
しょぼくれるミカン、反省しているのだろう。リンゴはというと…
「フッ…夜は私の華麗なる活躍が行われるとき…その眩しさたるや、あの月さえも超えるだろう…まったく、自分の天才性が恐ろしい…シャクリ…」
いつも通りだった。もともとの能力は高いため心配はないが、自分の分析でまた周りが見えなくなることだけがフランとしては心配だった。
もちろん、シショーがリンゴに訓練をして、いつでも周りが見えるようになったとは聞いていたので、さすがシショー!と思い、信じてはいるが。
改めてフランが言う。
「では二人とも、3時間後にまたここにでござるよ」
「了解…シャクリ…」
リンゴはいつも通りのりんごを食べながらその場から消える。
「わかったー!」
ミカンはさっきの忠告とは関係なく返事をし、その場から消える。
あとでまた言わなきゃいけないでござるな、と考えながらフランもその場から立ち去る。
そう、今回の任務の本当の時間は夜の情報収集のこの時間であり、彼らが最も活躍する時間である。なぜならば彼女たちは
夜はまだまだ更けていき、3人の忍者が町を駆けていく…。