「ボンジュール!いらっしゃいませでござるー!」
『メイドカフェの島』。たくさんの喫茶店があちらこちらに乱立する島。その中でも最近オープンしたばかりなのに、あっという間に島の有名どころとなったお店があった。その店の名前とは…。
喫茶店「フランカフェ」。それが店の名前である。
前回、島の町外れにある森林地帯に忍者組3人が調査に向かった。町のいたるところを調べてはみたものの、何も見つからないので、町外れなら何かしらの隠し通路があるかもしれない、という可能性からの行動であった。
結果的にいえば、森での収穫はなかった。
森にある湖になぜか、ディーネがいたので聞いてみたが、特に変わったことはないそうだ。その周辺も調べてみたが、変わったところもなかった。
なので、次回は山のほうに調査に向かうことにした。しかし、リンゴが森にて大変精神的な疲労を抱え、調査は少しの間休みということになった。
昼の間は、そんな様子を微塵も感じさせないのだが夜になると一人で眠るのが怖くなっているようで、休みの間は姉妹3人でフランの部屋に集まり、こっそり寝ることにしている。休みの間、彼女たちが一緒に寝るのが久し振りなので、一緒に寝る時間になるとテンションが上がり、寝る前に今までやってきた任務の話などをワイワイしてから眠ることとなっていた。
里を出てからの姉妹水入らずであった。
そして、昼の営業はいつも通りにこなされている。アヤメはカウンター席で長年付き合いのあるかのようなレベルで老人たちと紅茶を飲みながらしゃべっている。完全にその一帯だけで茶飲み仲間が構成されていた。
カウンター以外の席もたくさん人がいるため、人手が必要であった。最近、リンゴが分身の術に成功し、フランの負担を減らすことに成功していた。もちろん、分身のほうはリンゴを持たずに丁寧に対応している。自己分析もせずにだ。ただ、代わりにその分リンゴが自己分析の時間とリンゴを咀嚼する回数が増えていた。
ミカンも熱心に分身の術を練習しているようなのだが、うまくいってないらしい。というのも、分身に力を入れすぎて分身が本体と同じように感覚を持ち、その情報がリンクしてしまい、本体にいってしまうのである。これでは、分身すればするほどミカン本体にたくさんの感覚の情報が行ってしまうため、危険なのだとか。力の入れ方の調節が今後の課題である。
フランは言うまでもなく無事に仕事をこなしている。姉の矜持をいかんなく発揮しているといったところであった。奥の厨房の忍者さんがその姿をルーンカメラに収めているのは秘密だが。
そういった感じで営業を続け、森の調査から4日ほど過ぎた朝から昼にかけての客の少ない時間帯のころ。
ピンク色のドレスを着て、青い目に長い黒髪に大きなピンクのリボンを頭の横につけ、手にはくまのぬいぐるみをつけた貴族のような少女がやってきた。彼女は終始周りをきょろきょろ見回しておびえているように見える。
そして、しばらく周りを見渡してミカンを見つけるとササッと素早い動きで近づいて、ミカンでもようやく聞き取れるかくらいの小声で、
「こん……に…ちは…」
と、あいさつした。どうやらミカンと面識があるらしい。
その時、リーゼロッテの手元にあるくまのぬいぐるみから声がした。
「リーゼロッテ!挨拶はもっとハッキリしないといけないぞ!我輩の33億飛んで55の交渉術によると、第一印象が決め手だからな!」
「こんにちは、リーゼ、クマロン!といってもまだおはようかな?」
ミカンは2人と面識があるらしい。
先ほどしゃべっていたくまのぬいぐるみはただのぬいぐるみではない。中にはピンク色のドレスの少女、リーゼロッテに命名された悪魔、クマロンが入っている。
リーゼロッテは極度の人見知りで友達ができず、とあるときに出会ったクマロンに友達が欲しいという願いで契約したのだが、クマロンのほうもリーゼロッテに情がわき、仲良く過ごしている。
もっとも、クマロンがいらないことをするときが多く、よくクマロンがリーゼロッテにしばかれているが。
「リーゼ!あれからけん玉はどう?うまくなった?」
「…うん………5回に…1回……………くらい…は…」
ミカンの質問に何回も口ごもりながらもこたえるリーゼロッテ。
実は、飛行島にいるときに陰でこっそりけん玉の練習をしていたリーゼロッテをたまたまミカンが見つけ、仲良くなったのだ。その時はまだ、中皿に何とか乗るくらいだったのだが、剣にはうまく刺さらず失敗していた。
今回の任務でミカンがしばらくいない間も練習し、その成果を見せに様子見もかねて降りてきた、ということらしい。
「まぁ、5回に4回は吾輩にぶつけているのだがな!毎日一生懸命練習しているリーゼロッテのおかげでフルボッコだ!」
「……クマロン……うるさい……」
いらないことをしゃべりだしたクマロンをリーゼロッテが容赦なく絞る。
「ぐえぇぇ!やめるのだリーゼロッテ!」
「……ちょっと……………黙れ………」
「わかったわかった、だから絞るのをやめるのだ!」
といわれ、リーゼロッテが絞る手を弱める。少したって多少ましになったのか、クマロンが、
「それでリーゼロッテ。練習成果を見せるのではないか?」
「私もみたいよ!リーゼ、お願い!」
ミカンが期待に満ちた目でリーゼロッテにお願いする。
リーゼロッテが持っているけん玉は特殊でけん玉の玉がクマロンの顔になっている。そのうえ大きさはリーゼロッテの身長ほどあるため、やるのは外だ。
「………うん……わかった………」
大きくうなずき、ミカンとリーゼロッテが外に出る。
人通りもまばらな時間帯だったが、リーゼロッテの大きなけん玉と有名店の一員のミカンを見て何か始まるのかと、通行人が集まり始めた。リーゼロッテも緊張し始める。それを長年の付き合いで感じ取ったクマロンが、
「リーゼロッテ、最初は簡単だし、大丈夫だ。何回も成功したであろう?剣は確かに難しいが何回も吾輩にぶつけているのだから今更物怖じすることはないぞ!わっはっは!」
「…クマロン……」
リーゼロッテが怒り顔で容赦なく絞る。
「ぐぎゃああ!やめろリーゼロッテ!黙るからー!!」
「……なら………よし……」
すぐに絞るのをやめたリーゼロッテ。そしてけん玉をやる用意をする。
今回は大皿、中皿、小皿、剣に乗せることにした。ミカンに練習の成果を見せたいので、一通りやる、とのリーゼロッテからの提案だった。ミカンも観衆に紛れて一緒に見守り、応援する。
「頑張ってね!リーゼ!」
「…うん…」
ミカンのほうにサムズアップするリーゼロッテ。
そして、最初の大皿のせが始まる。
「………………ほっ」
クマロンの形の玉が余裕で乗った。観衆がワッと盛り上がる。
続いて、中皿。けん玉をはじめたころはこれでも苦労した。
「………………よっ」
リーゼロッテ自身の掛け声とともにクマロンの形の玉が宙に浮かび、これまた余裕で乗った。クマロンの頭はきれいに垂直にのっている。
続いて小皿。ここからはミカンも乗っているところは何回かしか見ていない。剣に至っては見ることがなかったため、とてもドキドキしている。
「………………やっ」
再び玉が宙に浮かぶ。リーゼロッテも若干緊張で焦ったが、すこし揺れながらも小皿に無事にのった。若干だが、クマロンの頭は斜めになっていた。リーゼロッテもこの成功に笑顔だった。周りの観衆もさらに盛り上がり、ミカンも飛び跳ねながら喜んでいる。成功にテンションの上がったクマロンがしゃべりだす。
「すごいぞリーゼロッテ!3回に1回は吾輩にぶつけていたのに一発ではないか!」
「…………………」
笑顔から一転、むっとした表情になったリーゼロッテは小皿から降ろす際にクマロンに球をぶつける。
「どぅるわ!?」
激突したクマロンはもちろんダメージを食らい悲鳴を漏らす。
「クマロン…………黙って……じゃないと……雨水につける…………」
クマロンはぬいぐるみに入っているため水につかると重くなる。そして、雨は彼にとって魔除けの水らしく簡単に言ってしまうと死んでしまう。
「わかった、黙るから雨水につけるのだけは勘弁してくれ、リーゼロッテ」
どうやって動いてるかはわからないが全力でクマロンの頭が上下に動く。中に入ってるからといっても、自分で動かせるわけではないはずなのだが…。
そんなやり取りも終わり、最後の難関、剣だ。先のとがったところにちょうどクマロンの玉の穴の開いた部分に差し込まなければいけない。
通常のけん玉であればただの球であるが、これはクマロンの頭の形をしているため、そこに若干のやりにくさがある。しかし、基本的には左右対称。うまくいけば十分に可能性はある。
みんながドキドキと見守る中、緊張の瞬間が訪れる。
「……………………………えいっ」
玉が宙に浮かぶ。まっすぐには上がったが玉は傾いている!
それにリーゼロッテは気づかず剣はそのまま真下に待機させている。クマロンがそれに気づき指示を出す。
「リーゼロッテ!横からさすのだ!」
「……!」
クマロンの言われたとおりにましたに待機させていた持ち手を右にひき玉を横からさす。そして、その勢いを殺すために、徐々にスピードを下げながら持ち手を上に向ける。そして…
リーゼロッテの持っていたけん玉にはきれいにクマロンの顔がリーゼロッテをむいて刺さっていた。
観衆が一気に歓声を上げる。無事に成功したのだ。ミカンもリーゼロッテの成功を喜ぶ。
「リーゼーーーーー!かっこいいよぉーー!!」
そんな歓声をききながら、リーゼロッテがいつもの小声でクマロンに感謝する。
「クマロン…ありがとう……」
「なぁに、吾輩の108億飛んで666の遊戯術にかかれば造作もないことよ!」
フランカフェの店の前で2人は喜んだ。彼らにとって、一番の親友同士でこの成功をともに喜んだのだった。
そして、それをフランカフェから眺めていた一同はというと、
「おーすごいでござるねぇ。あれがけん玉でござるかーセッシャもやってみようでござるかねぇ」
「シャクリ…ふむ…私の技量ならあれくらい造作もないな…さすが私だ…」
「美しい友情を見ながらの紅茶…あーおいしい…」
「……(厨房の奥で拍手)」
とそんな感じだ。
常連メンバーもこれを見て拍手を送っている。ボーンソルジャーの人は拍手をしようとしたら、何回目かに左手の骨が折れていた。そのあとちゃんと拾ってくっついたが、今度は吹っ飛ばないようにそっと拍手していた。
鬼の人とTシャツに「3&PEACE」と書かれた者を着ている人も拍手を送り終わった後、両方同時に手元のカードらしきものを見ながら「ユッカちゃんのけん玉もいいよね…」とつぶやいていた。
今日はコーヒーが各自一杯だけでゆっくりと過ごしていた。さすがに財布がきついのだろう。
今日もフランカフェは平和です。