2287年の荒野から   作:フランベルジェ

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フォールをアウトする様、巣作りBETA様、艦息提督様、曲利様、黒鷹商業組合様、評価ありがとうございます!

戦闘描写が書けない。


Military exercise part2

昔から、夜の海――特に雨の日は嫌いだった。昔、と言うのは、私が元居た世界での事だ。陸の夜は立ち並ぶ建物の明かりや行きかう車の明かりである程度の光量は確保されているが、海にはそれが無い。月明りでもあればまだいいのだが、今夜は重苦しい雲が空を埋め、おまけに小降りの雨まで降らしていた。聞こえるのは波の音と甲板に降り注ぐ雨の音だけだった。

 

 その暗さは海と空の境を曖昧にし、操舵輪を掴んでいなければ自分が本当に両の脚で立っているかすら疑わしく思えてくる。夜の暗さに慣れた眼を凝らすが、やはり海の暗さは変わらない。まるで深淵を彷徨っている様で、とてつもなく不安になる。だから夜の海は嫌いなんだ。

 

 当然、明かりは使えない。演習中だからだ。チャールズの赤い探知センサーすら切り、ひたすらに闇の中に自らの姿を秘匿する。日が落ち、夜が訪れてからもうすぐ1時間。その間、我々はただの一度も砲撃音を耳にしていないし、我々も誰一人として砲撃を実行していなかった。此方も横須賀鎮守府艦隊も、お互いの出方を窺っている様だった。現代の空母艦娘の積んでいる艦載機は夜に飛ぶ性能を備えていない。夜戦を行うには誰かが照明弾を打ち上げるか、探照灯を照射するしか無い。そのどちらも、大きな危険が伴う行為だ。

 

 我々――呉鎮守府艦隊の戦力は、第三砲塔が大破した陸奥、中破した川内、そして中破した私。相手の横須賀鎮守府艦隊の戦力は、小破した長門、中破した北上。実質的な戦力で言えば3:2。此方が有利だが、旗艦のダメージは此方の方が大きく、夜戦で長門を倒すしかない。相手にはあの長門が居る。あの長距離砲撃を決めてくれた長門が。長距離砲撃を行ったのは昼間だったが、夜戦でそれが出来ないと考えるのは楽観的すぎた。因みに、攻撃手段を持たない空母艦娘達は夜戦開始前に他の大破艦と一緒に鎮守府へと帰投した。今頃モニターで我々を見ているだろう。

 

「チャールズ、艦の様子はどうだ」

「浸水は防ぎましたが、飛行は少々困難かと」

「困難とはどういう意味だ? 飛べないのか、飛べるが不安定なのか」

「後者です」

 

 高速修復材の使用は禁止だが、ダメコンは許可されている。乗組員諸君の働きによって不安定ながら飛べる状態まで戻ったらしいが、飛ぶのは避けた方がいいだろう。夜にジェットエンジンに点火すれば格好の的だ。また海面に叩きつけられるのは御免だ。だが、このまま何もしないわけにはいかない。向こうは隠れてても判定勝ちで万歳だろうが、ほっとけば我々は判定負けだ。

 

「ねえ夜戦は? 夜戦夜戦夜戦夜戦!」

「黙ってなさいジャンキー」

「今夜戦してるじゃないか」

「撃ってないじゃん! そんなのマスタードの無いホットドックみたいなもんだよ!」

 

 分かりにくいが、言いたいことは分かる。マスタードの無いホットドックはただのソーセージ挟みパンだ。なぜこの例えを使ったかは兎も角、川内は戦いたくて仕方がないらしい。だが、彼女の言う通りだ。

 

「陸奥、どうするのだ。照明弾でも撃つか、プランBか、Laura――あー、夜偵? でも出すか」

「夜偵なら照明弾も投下できるよ!」

「……待っているのよ」

 

 『待っているのよ』それは陸奥の台詞だった。何を待っているのか? 首をかしげる我々に、陸奥は続けた。

 

「長門は典型的な武人タイプよ。動かずに、判定負けを待つ事はしないわ。必ず、何かしらの手段で自身の居場所を明らかにするはずよ」

「どうして分かるの?」

「姉だからよ」

 

 陸奥は長門型戦艦の二番艦だ。陸奥の発言には説得力があった。姉妹だから――も、そうだが、長門が武人タイプというのは戦い方を見れば分かる気がした。昼間にも、長門は真正面からの戦艦同士の殴り合いを行ったのだから。実際に、陸奥の説は当たっていた。時間にして数十秒という短い間だったが、突如十数キロ遠くの海上から光の柱が立ち上り雲を照らした。探照灯だった。

 

「長門ね」

「誘ってるぞ、始めるか」

「川内、夜偵を出して」

「もう出してるよ! やったぁー! 待ちに待った夜戦だー!」

「次に長門が探照灯を点けたら砲撃するわ、貴方たちは優先的に北上を倒して」

 

 再び光の柱が立ち上る、それが戦闘開始の合図だった。陸奥の41cm連装砲が火を吹き、大気が震える。再び戦艦同士の殴り合いの開始だ。砲撃後、陸奥と長門の間に夜偵から照明弾が投下された。陸奥も長門も、艦首を向け増進している。接近して殴り合う算段か。

 私も気が抜けない。力場はとっくに失っているので、木造船に魚雷が命中でもすれば大変だ。いや、力場が維持できている艦などこの場にはいない。みな自身の装甲を頼りに戦うしかないのだ。コンスティチューションなど、下手すれば火矢の一発で燃えかねない。

 

「ボースン、目を凝らして見ていろ」

「興奮で燃えてきたぞ、うわー」

 

 元々付いていた三本のマニピュレーター全てを失い、ただ浮く事しか出来なくなったMrハンディ――甲板長ボースンに目視での観測を任せる。長門の砲撃でレーダーが壊れてしまったので、夜戦には昔ながらの方法たる目視を行うしかなかった。それなら私が見るよりロボットのセンサーや何やらを駆使して見た方が効果的だろう。鼓膜を破らんとばかりに轟いていた砲撃音が少し抑えめになった頃、川内は無線越しに、ボースンが真横で叫んだ。

 

「見つけた! 近いよ、探照灯照射!」

「艦長、見つけました!」

 

 川内が放った10万カンデラの光は闇を切り抜き、煙を吹く北上の姿を映し出した。近い、数キロしか離れていないだろう。探照灯を使用する目的は照射した艦が攻撃するのでは無く、他の艦に向けた、こいつを撃て! という指示だ。他の艦――この場ではコンスティチューションだ。

 

「ボースン、センサーを付け魚雷を見張れ! 右舷全兵装攻撃準備、狙いが付き次第撃て!」

「承知しました!」

「アイアイサー!」

 

 甲板下でプロテクトロン達がガウスキャノンの照準を付ける頃には、北上の14cm単装砲が川内を捉えていた。放たれた砲弾は、川内の艦首に命中した。沈むような傷では無いようで安心したが、他の艦を心配している場合では無い。北上の副砲は、コンスティチューションを捉えていたのだから。副砲が次々に火を吹き、コンスティチューションが激しく揺れた。

 

「艦首砲が吹き飛びました! 第五砲列甲板で出火!」

「ダメコンだ! 消火しろ!」

「艦長、魚雷だ!」

 

 畜生、踏んだり蹴ったりだ。唯一の救いは北上も突然の会敵とコンスティチューションの小ささに狙いが甘かったことか、もし彼女が冷静ならあれで沈んでいた。しかし、お次は酸素魚雷。北上の魚雷発射管は死んだわけでは無かったらしい。だが、此方に対処法が無いわけでは無い。昼には島が邪魔で迎撃出来なかったが、遮る物の無い今なら十分可能だ。

 

「艦長、第五砲列甲板の消火に成功しました!」

「よくやった! プラズマ魚雷、迎撃モードで発射!」

 

 酸素魚雷を迎え撃つ形で発射したプラズマ魚雷は、すれ違う寸前といった所で炸裂し、酸素魚雷を巻き込んだ。海中で緑色の光がぼんやりと輝き幻想的だったが、我々に見惚れている時間は無かった。

 

「ガウスキャノン、撃ちます!」

「さあ、私と夜戦しよっ?」

 

 ガウスキャノンと14cm単装砲の砲撃を同時に浴びた北上は、船体がボロボロになり穴あきチーズの様に止まった。北上と会敵してから今まで恐らく五分も立っていないだろうが、ひどく長く感じた。

 

「報告します、陸奥中破! 横須賀鎮守府、北上大破!」

「陸奥がやられるぞ!」

「今こそプランBじゃないの!?」

「陸奥!」

 

 一発逆転を賭けた馬鹿みたいな作戦――プランB。その実行許可を得るために旗艦に無線を繋ぐ、帰ってきた答えは、「いいわ、やるわよ!」だった。プランBをまさか本当に使う事になるとは思ってもいなかったが仕方ない。その要点は長門に限界まで見つからずに接近する事。つまり、僅かに海中から光が漏れるジェットエンジンの使用も避けるべきだった。

 

「航海士君、ジェットエンジンを切れ! 帆走を開始する!」

「行くよアイアンサイズ!」

「了解! 右舷か、左舷か?」

「右舷に接近するよ!」

 

 プロテクトロン達に帆を任せ、川内の後について行く。数分間の航行の後、我々は長門を視界に捉えた。41cm連装砲の射撃は凄まじい爆音と炎を吹き、辺りを一瞬明るくした。今ので位置を捕捉されないかと肝が冷えたが、どうやらまだ捕捉はされていない様だ。長門が放った砲弾が陸奥に命中して高角砲を幾つか吹き飛ばし、陸奥の反撃で長門の第三砲塔が吹き飛んだ。意趣返しといった所か。

 

「陸奥、長門の右舷6kmに接近した! もうちょっと頑張って!」

「やるなら早くね! こっちはもう沈みそうなんだから!」

「アイアンサイズ、準備して!」

「本当にやるんだな!? よし!」

 

 無線を操作し、全乗組員に指令を出す。

 

「左舷ガウスキャノンのチャージを開始しろ! フォアセイルとメイントガンセイルを張れ!」

 

 左舷から突き出した22門のガウスキャノンの砲身に蒼い稲妻が走り、海面を蒼く照らした。これで完全に長門に捕捉されたはずだ。今更中止できない。後は出来る限り頑張って、時の運が此方に付く事を祈るだけだ。

 

「さあ、接近するよ! 私の真横から離れないでね!」

「離れたら一瞬で海の藻屑だ!」

 

 更に近づき、長門の真横4kmにまで接近した。現在の陣形は複縦陣――といっても川内とコンスティチューションの二隻しかいないが――長門とコンスティチューションで川内を挟んでいる、と言うよりは川内がコンスティチューションの盾になっていると言った方が適切だろう。

 川内の全長は162.15mだ。それに対しコンスティチューションの全長は62m、つまり全長が三倍近く大きい川内の影に隠れる事が出来ていた。川内が攻撃を引き受けてくれているお陰で、我々は木端微塵にならずに済んでいた。

 

「現在のチャージ率は!?」

「現在約70%です!」

「核融合炉の余剰エネルギーを送れ! 多少砲身が溶解しても構わん!」

 

 川内は長門の副砲、14cm単装砲の嵐の様な砲撃に晒され見るも無残な姿になりつつあった。その時、運悪く川内のへし折れた煙突の上を14cm単装砲の砲弾が通過し、コンスティチューションのメインマストに直撃した。当然耐えきれるはずも無く、メインマストは甲板の木を捲り上げた挙句海へ滑り落ちた。巻き込まれたプロテクトロンの左腕が何処かへ飛んで行った。

 

「舵が壊れた! そっちにぶつかるかも!」

「勘弁してくれよ!」

「全ガウスキャノンフルチャージ! 砲身が溶解します、艦長、発射許可を!」

 

 続けてバウスプリットがもぎ取られる。大破判定まで秒読みだった。

 

「左舷ガウスキャノン一斉射! salvo!」

「撃て!」

 

 コンスティチューションの左舷が蒼い光に包まれ、稲妻の様な砲声が轟く。ガウスキャノンから発射されたプロジェクタイルは川内に突き刺さるが、それでも最大チャージされたエネルギーを消費できずに、川内を貫通し長門に殺到した。その威力は凄まじく、舵の損傷で此方へ寄って来ていた川内を押し戻し、長門の右舷兵装を残らず吹き飛ばした挙句、弾薬庫をも吹き飛ばした。コンスティチューションも無事では無く、無理なチャージを行ったガウスキャノンの幾つかは発射に耐えられずに爆発し、メインマストが開けた甲板の穴から爆炎が噴き出した。

 

「報告します、横須賀鎮守府艦隊戦闘可能艦無し! 呉鎮守府艦隊、勝利です!」

「やったわね!」

「川内、生きてるか?」

「まあね、風通しが良くなったよ」

 

 ギリギリだった。あと少しでも遅ければ、コンスティチューションは戦闘不能になっていただろう。川内も、陸奥も、何より乗組員達の働きが無ければ勝てなかっただろう。

 

「乗組員諸君、よくやってくれた。我々の勝利だ!」

「バンザーイ! バンザーイ!」

「ホアント ホウシニ ツトメマス」

 

 どうにか消火を済ませたらしい下層からも、プロテクトロン達のバラバラな歓声が聞こえてくる。乗組員達がロボットで良かった。もし人間ならばそれはそれはスプラッタな光景になっていただろう。

 

「こちら提督だ、よくやったな。見応えがあったぞ」

「生きてる心地がしなかったぞ」

「そうだろうな、取り敢えず帰ってこい。大金星だな、アイアンサイズ」

 

 初めての演習――それも横須賀鎮守府相手という勝負に、我々は勝った。水平線から顔を出した太陽が、我々を照らしていた。

 

 

 

 




元ネタとか注釈

・ホットドック
 茹でるかグリルするかで温めたソーセージを切れ目を入れたパンに挟んだ食べ物。アメリカ合衆国ナショナル・ホットドッグ・ソーセージ評議会の声明によれば、ホッドッグはサンドイッチの一種ではなく独自の食種に区分されるらしい。味付けはケチャップが基本だと思いがちだが、マスタードが基本。

・プランB
 あ?ねぇよそんなもん。

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