第1話『ゲートHERO』
1
学校が終わる。チャイムが鳴り響き、生徒たちは部活だなんだと言うが、この俺は違う。
遊戯王デュエルモンスターズのカードゲーム。それがこの俺、
帰る支度を終えると自転車にまたがり、行きつけのカードショップへと足を運ぶ。
この小さな田舎町にできたカードショップは大繁盛だった。なぜなら、カードゲームの遊び場に困っていた子供たちに突然できた場所だ。そりゃ小学生や中学生に限らず、高校生や大学生も足を運ぶ場所になっていた。
この春、中学生に上がったこの俺もこのカードショップにお世話になっている。
そこでできた新しい友達もいる。コミュニケーションがたくさんとれる場所で、とても居心地が良い。
世間一般からしたら、カードゲームは子供の遊び道具という認識になってしまうだろう。やっている身からしたら、気軽にバイトして稼げるようになった高校生からカードゲームは本番なんじゃないかと思うが。
そんなことはどうでもよく、カードショップの扉を開ける。そこに居たのはいつもの友達。
「よう、
「おせえぞ、待ちくたびれたんだからな」
この目の前の男が、このショップで知り合いになった友達の一人。名は
優は基本的にはデッキビルダーをやっているそうだが、ちゃんと大規模な大会でも結果を残している人で、プレイヤーの間では有名人らしい。俺はそういうガチな環境で戦うのではなく、こうやって友人間で楽しくする派だから彼の事はここで友達になるまで知らなかった。
「そりゃごめんな優。じゃ、早速やるか」
「おう! ふふふ……俺のヲーデッキが火を噴くぜ!」
「まったく……優はロマンの塊だよな」
「俺はこういうデッキが好きなんだ。放っておいてくれ」
「へいへい」
椅子に腰かけ、俺はバッグからデッキケースを取り出す。
ヒンズーシャッフルとファローシャッフルを織り交ぜながら、お互いにデッキを念入りにシャッフル。これは不正がないように、という事と相手を信用するための行為だ。
小さい規模だが、このショップの大会によく出る俺と優はシャッフルをしっかりとするという癖をつけるためにこういったフリーのデュエルでも行っている。
スマートフォンで遊戯王用の計算アプリを立ち上げ、準備は完了。
じゃんけんをした結果、俺の勝利、優は敗北。先攻はもらったわけだ。
東條創:LP8000
七城優:LP8000
「じゃあ、先攻ね。ドロー。お、いい感じじゃん。俺はE・HERO プリズマーを攻撃表示で召喚。効果を発動。エクストラデッキからE・HERO ネオス・ナイトを見せて、E・HERO ネオスを墓地に送る」
《E・HERO プリズマー》
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1700/守1100
自分のエクストラデッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を自分のデッキから墓地へ送って発動する。
このカードはエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
この流れ、いわゆるネオスビートのように見えるが、俺のデッキはそのタイプではない。HEROはその種類ゆえデッキタイプはたくさんあるが、俺のデッキは融合するために組み上げたデッキだ。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「相変わらず安定のスタートを切るよなぁ。俺のターン。ドローフェイズ……ん? これ揃ったんじゃね? スタンバイ。メインフェイズ。おろかな埋葬を発動し、N・エア・ハミングバードを墓地へ」
《おろかな埋葬》
通常魔法
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。
優のデッキは、彼が言うにはヲーことラーの翼神竜のデッキらしい。ライフを回復するエア・ハミングバードを墓地に送ったことから彼の狙いが見えてくる。
エア・ハミングバードで手札からライフをちゅっちゅして大きく回復し、ラーの翼神竜にライフをちゅっちゅさせて攻撃力を上げる気だ。さすがはヲー。ライフちゅっちゅギガントという名は伊達ではない。
そして、墓地に送ったという事は、墓地から特殊召喚してあのカードを発動させて一気にリリース要因をそろえる気らしい。
「死者蘇生を発動。N・エア・ハミングバードを特殊召喚。何かある?」
「ないよ」
「オッケー。特殊召喚成功時、地獄の暴走召喚を発動してN・エア・ハミングバードを二体特殊召喚」
「俺もE・HERO プリズマーを二体特殊召喚」
《地獄の暴走召喚》
速攻魔法
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。
《N・エア・ハミングバード》
効果モンスター
星3/風属性/鳥獣族/攻 800/守 600
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
自分は相手の手札の数×500ライフポイント回復する。
「じゃあ、キモちゅっちゅ三体の効果を発動してライフを回復。ヴェーラーは?」
「残念、ないな」
「じゃあ、6000回復してライフポイントは14000な」
七城優:LP8000→14000
優はエア・ハミングバードの効果でライフポイントを稼ぐことが出来た。そして、召喚権を残している。
つまり、攻撃力14000のヲーの欲心竜が登場するというわけである。
これは脅威だ。ただし、罠カードへの対策等があればの話だが。
「エア・ハミングバード三体を生贄に、ラーの翼神竜を召喚」
「出た! ヲーだ!」
《ラーの翼神竜》
効果モンスター
星10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?
このカードは特殊召喚できない。
このカードを通常召喚する場合、自分フィールド上のモンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
このカードの召喚は無効化されない。
このカードが召喚に成功した時、このカード以外の魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
このカードが召喚に成功した時、ライフポイントを100ポイントになるように払う事で、このカードの攻撃力・守備力は払った数値分アップする。
また、1000ライフポイントを払う事でフィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。
ついに現れた神のカードの一枚。
だが、遊戯王OCGにおいては残念なカードの一枚である。
特殊召喚が不可能という原作ファンに喧嘩を売ったかのような条件を付け、マリクが行った死者蘇生からの流れを再現できなくした。これでは不死鳥の名はどこへ行ったのやら、である。
さらに生贄にしたモンスターの攻守の合計値がこのモンスターの攻守の値となる効果と、フィールド上のモンスターを生贄に捧げて攻撃力を加算する能力もなくなっている。
ライフポイントをモンスターの攻守にする効果が召喚成功時になっているため、モンスター破壊効果『ゴッドフェニックス』は何らかの方法でライフポイントを回復してからでないと使えないという噛み合わなさ。
正直、神がOCGで使えるとなったときはファンとして興奮したものだ。
最初にOCG化した《オベリスクの巨神兵》は原作に近い効果になっていて満足のいくものだった。
だが、次にOCG化されたこの《ラーの翼神竜》は残念だった。このカードテキストを作った人は原作へのリスペクトはないのか、と思ってしまったものだ。せめて墓地から蘇生して『地より蘇生し天を舞え! 炎を纏いし不死鳥となりて!』とできなかったものか。ただでさえ、ライフポイントが100になって魔法・罠・モンスター効果への耐性もないというのに。
まぁ、ゲームバランスを考えるとこうなるのが妥当だという考えもあるが……ラーが可愛く思えるような強力なカードが暴れまわっているのはどういうことなのか。ゲームバランスとはいったい何なのか。
ただ、そんなことを考えていては遊戯王を楽しむことは出来ないだろう。トーナメント用はトーナメント用、フリー用はフリー用と住み分けという形で納得するしかない。
ちなみに俺が使っているデッキはトーナメントで使われるような、いわゆるガチデッキにも対応できるように考えて作っているつもりだ。
それがどういった動きをするのかはこの後のプレイを見ていれば分かるはず。
「ラーの召喚成功時に効果発動。ライフが100になるように支払い、払った数値分がラーの攻守になる。と、いうことで、ラーの攻守は13900だ」
七城優:LP14000→100
《ラーの翼神竜》
攻撃力:13900
守備力:13900
「で、バトルフェイス。何かある?」
「ないっすよ」
「よーし。通れ! ラーでプリズマーを攻撃」
「残念ながらそれは通らないよ、優。ミラフォ発動」
《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》
罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。
これが原作通りに罠が効かない効果だったら俺はこのまま負けていた。
これが原作完全再現だったら神のカードに勝てるのだろうか?
「ああああああああああ!! なんだよ、平然と発動すんなよ!」
「だってしょうがないじゃん。発動しないと負けるんだもん。伏せカードの対策なしに突っ込んできた優が悪い」
「だってしょうがないじゃん。おろ埋と死者蘇生と暴走召喚が揃ってなおかつラーがあるんだぜ? 召喚したくなるじゃん」
「まぁ、その気持ちは十分わかる。だけど、せめて伏せカード対策が出来てから動くべきだろ。そのままじゃファンデッカスと呼ばれるぞ」
「いや、俺はちょっと違うから。それはガチデッキ完全否定、汎用完全否定の奴だから。一応俺は勝ち筋とか考えて作ってるから!」
「分かってるよ。優は誰も使わないようなカードに目を向けて、それを生かすようなデッキを作ってるもんな。双頭のサンダー・ドラゴンとかライトニング・パニッシャーとか、よくやるよ」
「俺はみんなと同じになるのが嫌だからね。それに、なんだそのカード、って反応されるのが面白くて面白くて」
「あー分かる分かる。お前のデュエルの対戦相手の顔は面白いよな」
「そうだよなー。ま、とりあえずラーはただでは破壊されないんだなーこれが。ミラフォにチェーンで手札から神秘の中華なべを発動。」
《神秘の中華なべ》
速攻魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、その数値だけ自分のライフポイントを回復する。
これによって原作で行われた《融合解除》でライフに還元する演出を完全再現とまでいかないが、似たようなことは出来るのだ。
これで優のライフは13900ポイント回復して14000となる。
七城優:LP100→14000
「中華なべ持ってたのかよ! 初手六枚の引き良すぎだろ……。どうなってんだオイ!」
「俺も分からん。だけど、これで多分即死はなくなったんじゃね?」
「さて、それはどうだろう」
「ま、いいや。俺はメインフェイズ2で一枚伏せてターンエンド」
東條創 LP4000 手札4枚
場 《E・HERO プリズマー》、《E・HERO プリズマー》、《E・HERO プリズマー》
魔法・罠 なし
セット なし
七城優 LP14000 手札0枚
場 なし
魔法・罠 なし
セット 1枚
雑談を交えながら行うデュエルは楽しい。大会のようなピリピリした雰囲気より、こういう風に会話しながらラフなデュエルを行った方が気が楽だし面白い。
七城優はこのカードショップで出会った奴で、その場の流れで友達になった。
使うデッキはどれもこれも面白いものばかり。先ほど言った《双頭のサンダー・ドラゴン》を何回も融合召喚するデッキ、《ライトニング・パニッシャー》を使ったチェーンビート。他にも《ハネクリボー》でワンターンキルを食らったときは目が点になった。
俺が使っているデッキも彼から相談を受けて作ったもので、漫画版融合HEROを沢山使えてそれなりに強いデッキってなにかある? と聞いたときにとあるデッキ提案してきた。
基本的な形と動かし方を教えてもらって、今では自分で試行錯誤して作っている。
では、そのデッキはいったい何なのかと言うと……。
「俺のターン」
まずはドローフェイズでカードを一枚引く。これで俺の手札は五枚。まずは二体のプリズマーの効果を発動して、《E・HERO ネオス》と《E・HERO バブルマン》を墓地に落とす。
さて、優の《地獄の暴走召喚》のおかげで墓地肥しという準備が終わった。さらに、必要なHEROの数も揃った。
これで勝つる!
「まずはサイクロンっと!」
「容赦ねぇなまったく。もう俺には何もないじゃないかよ」
《サイクロン》
速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
破壊されたのは《激流葬》。モンスターを召喚した時に発動して、フィールドのモンスターを掃討するトラップカードだ。
サイクロンが無かったらフィールドが焼野原になってこのターンで仕留めるのは不可能だった。こればっかりは引きが良かった、と言うしかない。
「そしてミラクル・フュージョンを発動! 墓地のバブルマンとネオスを除外して、E・HERO アブソルートZeroを特殊召喚」
《ミラクル・フュージョン》
通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
《E・HERO アブソルートZero》
融合・効果モンスター
星8/水属性/戦士族/攻2500/守2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に存在する「E・HERO アブソルートZero」以外の水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
《ミラクル・フュージョン》はE・HEROを使うにあたって重要なカードだろう。《融合》では三枚のカードを失って融合召喚するのに対し、《ミラクル・フュージョン》はアドバンテージ的に実質一枚消費で融合召喚できるのだ。
デッキタイプによっては不必要なカードにもなるが、大抵のHEROデッキには入るカードである。
だが、俺のデッキの核はこのカードではない。
いや、展開するにあたっては重要な位置に存在するカードではあるが、メインはこのカードではない。
では、メインのカードとは――。
「お次にフュージョン・ゲートを発動!」
《フュージョン・ゲート》
フィールド魔法
このカードがフィールドに存在する限り、ターンプレイヤーは手札・自分のフィールド上から融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、その融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する事が出来る。
そう、これが俺のデッキの核。
『ゲートHERO』と呼ばれるデッキの核となるカード。これを使うことが出来れば爆発的な展開が可能になる他、《E・HERO The シャイニング》とのシナジーが抜群にある。
まぁ、このカードを引きすぎると邪魔になるだけで事故の要因となる面があるのが玉に瑕である。
このデッキを知った頃は《フュージョン・ゲート》がとても重要なカードに思えて、三枚積んだ挙句、フィールド魔法をサーチする《テラ・フォーミング》まで積んだことがあった。
しかし、優に抜けと言われたのである。
その理由としては、もっと他に入れるべきカードがあるという事と、《フュージョン・ゲート》は事故要因になるという事だった。
手札に複数来てしまったときの処理方法が《超融合》のコストか、破壊されたときに張り直すぐらいしかないからだ。
つまり、サーチカードまで積むのはやりすぎなのである。
「フュージョン・ゲートの効果を発動して、場のプリズマー二体を除外して融合し、E・HERO The シャイニングを特殊召喚!」
《E・HERO The シャイニング》
融合・効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻2600/守2100
「HERO」と名のついたモンスター+光属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターの数×300ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターを2体まで選択し、手札に加えることが出来る。
このデッキにおけるエースカード。
ゲートHEROは《フュージョン・ゲート》を使う関係でE・HEROが沢山除外される。つまり、このカードの攻撃力が大きく上がることになるのだ。
さらに、破壊されて墓地に送られても効果でE・HEROを二体まで手札に加えられる効果を持つ。つまり、そのモンスターで次の《E・HERO The シャイニング》を《フュージョン・ゲート》の効果を使ってそのまま召喚することが出来る。
いかにこのカードをうまく使えるかがカギとなってくる。
さて、今出した《E・HERO The シャイニング》の攻撃力は、除外されているE・HEROが四体のため、攻撃力が1200ポイントアップして3800となっている。
これで俺の場には攻撃力1700の《E・HERO プリズマー》と攻撃力2500の《E・HERO アブソルートZero》、攻撃力3800の《E・HERO The シャイニング》がいる。
この合計値は8000ポイント。優のライフを削りきるにはあと6000ポイント。
「そして、E-エマージェンシーコールを発動。E・HERO エアーマンをサーチして――そのまま召喚。サーチ効果を発動して――バブルマンを手札に」
《E-エマージェンシーコール》
通常魔法
自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
《E・HERO エアーマン》
効果モンスター
星4/風属性/戦士族/攻1800/守 300
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●このカード以外の自分フィールド上の「HERO」と名のついたモンスターの数まで、フィールド上の魔法・罠カードを選んで破壊できる。
●デッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
「続けてエアーマンとプリズマーをゲートの効果を使って融合。二体を除外してE・HERO The シャイニングを特殊召喚」
二体目の《E・HERO The シャイニング》が出てきた。除外されているE・HEROは六体。つまり攻撃力は4400になる。
これで場のモンスターの総攻撃値は11300ポイント。
これこそがゲートHEROの醍醐味。流れるような連続融合。爆発力のある展開。これこそ俺のやりたかったこと。
漫画版遊戯王GXの登場人物、響紅葉の使うHEROをカッコいいと思ってしまった俺が優に相談しながら作ったデッキだ。
「あはははは……。容赦ねえなまったく。さすがはゲートHEROだよ。相変わらず一瞬の爆発力は凄いな」
「Zeroから攻撃力の低い順番で攻撃するけど、大丈夫だよな?」
「手札ないんだからゴーズとかあるわけないだろ。あと2700か」
七城優:LP14000→2700
攻撃は終わったように見えるが、このデッキにはまだ攻め手が残されている。
手札もちょうど二枚あるし、全てが噛み合った。今回の引きは優も俺もすごく良い。
「まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ。手札から超融合を発動。バブルマンをコストにしてZeroとシャイニングを融合。シャイニングを召喚だ」
《超融合》によって更なる追撃が可能となる。今回は三枚目の《E・HERO The シャイニング》を召喚した。
これも使い始めた頃は勘違いしていたカードで、守りの札として認知していた。だけど、今回のような攻撃的な使い方をする方が強いと優に教えてもらった。
特にゲートHEROのような攻めのデッキでは守りとして使う事は悪いことではないが、弱い使い方だと教わった。
とりあえず、これで優のライフを削りきることが出来た。
「あーあ。俺の負けか」
「よっしゃ! やっぱゲートHEROいいな。使ってて面白いよ」
「使われている側はまったく面白くないけどな。特に今回のような一方的な展開になると」
「それは優のプレイングミスが原因だろ? 伏せカードに警戒しないで突っ込んできたし」
「それは……。すみません、俺が原因です」
二人は笑い合う。
この後も続々とお店に来た人と沢山デュエルした。
ゲートHEROといえば東條創だと覚えられる程に顔は広くなっていた。
今がすごく楽しい。カードゲームを通していろんな人と触れ合える。それこそがカードゲームの醍醐味と言ってもいいかもしれない。
「あ、もうこんな時間か。じゃあ優、俺はそろそろ帰るよ」
「おう、また明日な」
時間を忘れてデュエルしまくってた俺は、ふと外を見ると暗くなっていることに気付く。時間はもう夜の7時を回っている。
いい加減疲れてきたし、そろそろ帰ろうかと思ったのだ。
店を出て、駐輪場に止めた自転車にまたがり、ライトを忘れずに点灯して帰路に着く。
冬に段々と近づいている今日この頃、日が沈むのが早い。周りはすっかり真っ暗だ。
交差点の信号が赤になったのでいったん止まる。
今日のデュエルを通して脳内でデッキ構築を見直す。一、二枚の差だが、これが結構響くのだ。
あれは結構邪魔になったな、減らそうかな? とか。
あれ欲しいタイミング多かったな、増やそうかな? とか。
そんな事を考えながら、信号が青になったので道路を横断する。
――その時の事だった。
「え……?」
真横に見えた強い光。
それはすごい勢いで自分の方へと向かってくる。
避けようと思ったが、身体よりもその光の方が早かった。
その光を発する鉄の塊が自分の方へと突っ込んでくる。
突如、強い衝撃。
そして、浮遊感。
いったい何が起こったのか理解するのに時間がかかった。
身体に激痛が走り、乗っていた自転車はどこかへ飛んで行ってしまった。
意識が薄れる。
酷い痛みを感じる。身体に力が入らない。立ち上がれない。
(あれ……? 俺は……車にはねられたのか?)
理解した時にはもう手遅れだった。
それが俺の最後の思考となった。
意識が完全になくなる。
強い不安に襲われるが、その不安でさえ、段々と消えていった。
2
「うわああああああああああああああああああ!!」
俺はベッドの上で飛び起きる。
「……夢? 夢オチ? それにしてはリアルだったな。はぁ、朝からなんていう夢を見たんだよ。外に出たくなくなるじゃん。車怖いよ」
あまりにも怖い夢だったので、自分を落ち着かせるためについ独り言をぶつぶつ言ってしまう。
額には冷や汗。だけど、見慣れた自分の部屋にいるので凄まじく安心する。
俺はベッドから降りて、着替えようとした。目覚まし時計のカレンダーを確認すると、今日は10月23日土曜日。今日もショップに行って遊戯王をやろうと思う。
だが、猛烈な違和感に襲われた。
見慣れた自分の部屋なのに、一つだけ、違和感を抱かせるあるものがあった。
「え? 俺、こんなもの買った覚えがないぞ。こんな古い物、今じゃプレミアじゃね? なんであるの?」
そこにあったのはデュエルディスクと呼ばれるもの。それも、バトルシティで使われた一番最初のデザインのものだ。
これが発売したのは大分前だ。それこそ、俺がまだ小学生より前の頃の話で、こんなものを買えるほどのお金なんてなかった。しかも、操作が恐ろしく面倒くさくてライフポイントはボタンをカチカチ音を出しながら合わせる方式だ。もちろん、モンスターが実体化することなんてない。精々ごっこ遊びに使うかコスプレに使うかしか使い道がないだろう。遊戯王をゲームとして遊んでいる身からしたら正直言って必要ない存在だ。強いて言えば、特典としてついてくるカードだけが必要な存在だろう。
ここは自分の部屋なのにそれだけが違和感として残ってしまう。どこか違う場所のようにも感じてくる。
それに先ほどの夢があまりにもリアルだったことから変な想像をしてしまう。
どう考えたらそんな結論に行きつかは分からない。あまりにも突拍子もない話で、現実味のないことこの上ない。
そんな想像をしてしまうのは、この俺の精神年齢が低いせいなのだろうか。
――もしかして、ここって遊戯王のアニメの世界?
もっともありえないことだ。
だが、心のどこかでその考えを肯定してしまっている。
それを証明するためには机の上にあるデュエルディスクを調べてみる事が一番だろう。
俺は恐る恐るそれに手を伸ばす。
つかみ取ったそれはプラスチックのおもちゃとは思えない質感と重さ。……これはプラスチックじゃない。明らかに金属だ。
スイッチに指を伸ばし、ONにする。
すると、機械音が発され、真ん中で別れていたフィールドが一つにつながり、アニメで見たデュエルディスクとなったく同じ形になった。
まさか、これにカードを乗せると実体化するなんてことはないよな?
そう思いながら机の上に散らばったカード群に手を伸ばす。
その時だった。
家のインターホンが鳴り響く。ピンポーン、という音が何度も繰り返されて、正直煩わしい。
俺は部屋から出て階段を降り、リビングへと出る。
誰が来たのか確認するためにテレビモニターの前に立つ。
「!?」
言葉が出なかった。
カメラの向こうに立っている二人は、俺がよく知る人物。
だが、その二人がインターホンの前に立っているだなんてありえない。なぜならその人は――空想上の人物なのだから。
「はい……どなたでしょう?」
通話のスイッチを押し、インターホンの目の前にいる人物に恐る恐る話しかける。
「あ、やっと出た。今日は兄さんと一緒に遊びに行く予定だったでしょ? まさか、今起きたばかりだったりしないわよね?」
その声は、やはり聞いたことのあるものだった。
間違いない。彼女は――。
「なッ!? 痛ッ――なんだこれ……頭が割れ……割れちまいそうだ……あ、ああああああああああ!!」
インターホンに映る彼女が誰なのか、信じられないが確認した瞬間だった。
ひどい頭痛と共に、リビングに俺の叫び声がこだました。