鬼子   作:なんばノア

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こんにちはTYPE-MOONの世界が大好きな私「なんばノア」です。
今回は型月世界観でオリジナルの物語を作ってみました、よろしければご覧下さい。


第一章 百花繚乱
file1.契約


どこであろうか、この光景をおよそ体現し得るのは。

―――それは少なくとも、私の国では恐らく無理だ。

視界の全てにその広がりを強調させる向日葵の群、点々と乱立する風車や流れる小川、その光景はまるで童話やお伽噺に出てくるソレのようであった。

あぁ―――しかし、最早ソレを素敵とか、綺麗などとは思わなかった。

そう、空は真っ赤。太陽と呼ばれるソレはとっくに意味を成さず、辺り全てが赤く、光々しい程にただ赤く染まっていた。

血の雨が降り頻る黄色い丘。

否。黄色いはずのソレは、おぞましくも美しい見事なまでの赤色に染まっていた。惨劇と言う言葉を、光景として体現した赤い向日葵畑。そこには、真っ赤な人間が佇んでいた。

赤い人物は泣いているようで、顔から血涙と共に大きな雄叫びを上げていた。

雄叫びの如き泣き声は男の声色で、真っ赤な地面にただひれ伏し泣き叫んでいた。

それは、己の犯した罪に、許しを乞う様にも見えたから―――。

 

 

 

 

 

 

 

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―――7月 20日

 

 

 

ピピピ、ピピピ、

 

耳元で大きな音が鳴っている。

それは言うまでもなく、私の睡眠を妨げる類の物。ならばそれに応じるかは皆無。断固として徹底抗戦だ。

 

ピピピ、ピピピ、

 

未だ鳴り止まないコレは、一体何者なのか。

そこまで必死になって、私の眠りを邪魔する必要がお前にはあるのか

 

ピピピ、ピピピ、

 

まるでソレしかやる事の無い、コレが仕事なのだと言わんばかりの猛攻で、私の眠りを更に妨げる。

それにしても一体いつまで鳴るつもりだ。と徐ろにベッドの隣に設置した、目覚まし時計に目を向ける。

そこで気づいた。先程からの機械音はこの目覚まし時計の仕業であり、時刻が午前7時30分を指していたのだ。

とりあえず時計の音を止めて数秒考え込む。

 

「―――あ、」

 

―――なんと言うか、私も間が抜けている。今日は学校、それも終業式。でもこの時刻で目が覚めたのは不幸中の幸い。これなら急げば、遅刻しない程度に間に合うだろう。

「よいしょ」

起き上がろうと身体に力を入れる。―――途端、

 

――ガクッ!

 

「―――へ、?」

 

ゴツン、―――・・・

突然の目眩に襲われ、半身立ち上がりかけていた身体が崩れた。そのついで、ベッドに頭をぶつけてしまった。

「うぅ……あの変な夢のせいだ」

そんなどうでもいい事を、1人でに呟きベッドから起き上がった。

 

 

 

 

第一章「百花繚乱(ヒャッカリョウラン)」――――――――

 

 

朝ごはんを作る暇など無いため、冷蔵庫からプリンをワンカップだけ取り出し急いで食べた。

寝間着を脱ぎ、ソファに掛けておいた制服に着替える。

もう2年も学校に通っていると、制服の着替えなんてものは朝飯前で、一分もかからず着替えてしまう。

後ろ髪を結ぶためにゴムを取る。同じテーブルにあったテレビのリモコンも取り、テレビに電源を入れた。

ピっと電源をつけ、朝のニュース番組に目を向ける。

すると、テレビから毎日同じ顔の男が、あまり良くないニュースを流していた。

 

―――殺人事件、

なんでも首筋に鋭い歯型が残っており、全身の血が無くなっているのだとか。

いわゆる猟奇殺人というやつだ。

「ふーん、福山も物騒になったものねぇ。―――おっと、そんな考え事をしてる場合じゃ無かった」

テレビを見ていて忘れていたが、急がないと遅刻をしてしまうのだった。

机の隣に置いていたスクールバッグを手に取り、急ぐように家を出る。

「鍵、鍵」

寝起きで寝ぼけてるせいか、鍵を忘れたので、机の上にリモコンと一緒に置いていた家の鍵を取りに戻る。

鍵を取り家の戸締りを確認し、玄関を締め学校に出発する。

学校への距離は少しばかりあり、毎日バスに乗って登校している。バスの経路はいつもと同じ。乗車すること20分、学校に最寄りのバス停に到着。通常なら10分や15分で到着できたのだが、私が通っている高校は割と街中にあるため交通の行き交いが激しく、渋滞に遭えばバスでも少しばかり遅れる事がある。

 

学校に最寄りのバス停に到着。腕時計を覗くと8時10分を指していた。バス停からは徒歩5分程度で学校に到着するため、遅刻せずに済んだ事に安堵のため息を漏らした。

「はぁ。―――なんとか間に合った・・・」

校門前で一息つき、足早に教室へ向かう。

教室は三階にあるため、私にとっては登るのが大変で少し困るのだが、こう言う暑い日は風通しがいいため何かと助かる場面もある。

三階分の階段を登りきると生徒が廊下に出て騒いでいた。

全く、朝だと言うのに元気のいいこと。

男というものはよくわからない。だるいだるいとはよく言うが、そのくせ気だるい筈の朝からどんちゃん騒ぎ。―――理解不能だ。

騒いでる連中のその中で、同じクラスの男と目が合った。

 

「おっすー、みなみーじゃん。どした、今日は遅刻か?」

などと訳の分からない事を喋るので、やはり男子というものは理解が出来ないのである。

「おはよう西谷、それと今日は遅れ気味だけど遅刻はしてないでしょうに。」

「いやいや、毎日8時前にはがっこーにくるみなみーがこんな遅くにに来るとは、雪でも降るのか??」

 

この男は西谷翔(ニシヤカケル)。中学の頃からの腐れ縁で、何故か毎年毎年同じクラスになる訳の分からないやつ。こいつは女子の私にも気兼ねなく喋りかけてくるので、デリカシーが無いのか羞恥心がないのか、どちらにしろ気を遣わなくていいから楽なやつだ。

薄目の茶髪で左耳にはピアス。傍から見れば完全に不良と呼ばれる類の人間にしか見えないであろうが、この男はそう言う(やから)ではない。喧嘩をすれば負け無しらしいが、悪ぶる事に興味など無く、ピアスは祖父の形見だとかなんとか。私が言えることではないが、あの薄い茶髪も地毛らしい。

「西谷も早くしないと遅刻するよ」

 

キーンコーンカーンコーン、

 

そんな事を言っていると、それ見たことかと言わんばかりのタイミングで、10分前の予鈴が学校中に鳴り響いた。

「おおっと、本当だ」

そう言うと西谷は、ひとりでに走って教室へと急いだ。

まったく、何ていうか本当に忙しないやつだ。テンションの波が読めない、と言うかやつはおそらく何時でも満潮なのだろう。

 

教室へ入ると、これまた知った顔が話しかけてきた。

「香桜ちゃーん!遅いから今日はお休みかと思っちゃったよー☆!」

「おはよう美香子ちゃん、とりあえず暑いから抱きつくのはやめて!」

そう言うと茅野美香子(カヤノミカコ)は私を拘束する両手を離し、不機嫌そうな顔で私を見つめた。

「なによー、スキンシップくらい大目に見てよぅ!」

ぶーぶーと何故かブーイングを浴びせられるのだが、それはいつもの事。

このやりとりは実に数え切れないほど繰り返しており、本人も飽きないのか同じボケと同じツッコミによる反論を繰り返している。

彼女とも中学校の頃からの付き合いで、1年生の時に仲良くなってそれからだ。身長は176cmと長身で、バレー部のエースだ。黒くて長い髪が特徴的な顔立ちが可愛らしく、愛嬌のあるいい女の子なのだが、少しだけ抜けている所がある。所謂天然と言うやつだ。勉強も苦手で、度々それを教えるのが私の仕事になっている。何故だ、解せぬ。

「それはそうと香桜ちゃん!朝のニュース見た?」

 

朝のニュース、そう考えるとそれらしいのがひとつだけ思い浮かんだ。

「猟奇殺人の?」

「そうそう!怖いよねー、この街も物騒になったよねー」

 

どうやら私の見たニュースと同じらしく、美香子ちゃんの見た時間帯と私の見た時間帯を考えると、かなり規模の大きい話題になっているようだ。

新聞やニュースでは「現代に現れた吸血鬼」、「ラストヴァンパイア」などと騒がれてはいるが、私はそうは思わない。幽霊や超能力、そういった超常的な類のものは信じないたちである。

もちろん神様なども。

「もしも、もしも私の香桜ちゃんがそいつに襲われたりしたら・・・・・・私、心臓飛び出て死んじゃうよぅう!!!」

そう言い再び私の身体に抱きつく。すると、

―――ガラガラガラ、と教室のドアが開いた。瞬間教室中の視線が、一斉にそちらへと向く。そして、ドアの向こうには私たちのクラスの担任の教師が立っていた。

「本日の予定が変更された。予定していた授業を中止して、1時限から終業式になるので、そのつもりで」

教室中が一気にざわつく。

それは男子達による歓喜の声と、女子達による疑念の声とであった。

これは私も少し不思議に思えたので、

「勝又先生、何故中止になったんですか?」

「お前達も知っているだろう。最近物騒な事件が多発しているからな、生徒は早めに下校との事だ。」

なるほど、もっともらしい理由だ。

しかし、何度も言うがこの街も物騒になったものだ。

 

福山市、この場所は恐ろしい程に平和で有名な街だ。地震はおろか台風さえも年に数回、それもどれもこれも大事に至らないほどの規模で。無論、犯罪や物騒な事件なども少なく治安は恐ろしく安全。名実ともに過ごしやすい街と言うやつだ。

だと言うのに、最近では物騒な事件が連発していると来た、そうなるとこの事態は必然だろう。

「わかったら廊下に並べ」

「はーーい」

先生の命令と共に教室中の生徒が廊下へ並びだす。

 

 

終業式もこれと言ったものは無く、ただ単にいつも通りの内容をこなすだけだった。いつも通り。ただ舞台の上に立つ先生の話を聞くと共に、時間が過ぎるのを待つだけであった。

式を終えると教室に戻りHRと担任が話を少しだけした後、先程言っていた通り2時限目終了のチャイムが鳴ると、同時に全校生徒の一斉下校となった。

朝の登下校とは異なり、全校生徒が一斉に帰るものだから、その光景は言うまでもなく異様だった。

渋滞、停滞、混雑、満員、過密、輻輳――。色々な言葉があるが、どれもこれも正確な意味として正しいとは言い難く、校門に滞る生徒達のそれはまさに群れ、蟻の群を彷彿とさせた。

授業が無くなったのがよほど嬉しいのか、早く帰宅したいためか、大半の人間は我先にと校門を出ようとしている。

 

「まるで群蟻附羶(ぐんぎふせん)ね、」

 

突然隣から声がしたもので驚きつつ振り向くと、やはり知った顔の人物が立っていた。

「鴉夜さん、ビックリしたぁ・・・」

「御機嫌よう南さん。これから帰り?」

彼女の名前は鴉夜雛乃(カラスヤヒナノ)クラスメイトの1人で気の許せる友達の1人だ。

彼女を一言で表すなら「才色兼備」が適当であろう。その顔立ちは凛としており、日本人系の美しい顔。化粧なども興味が無いのか全くの皆無。いや、私も化粧など興味もないが、すっぴんでこの美しさは異常だ。髪の毛は絹のように滑らかで肩に届くか届かないかという所まで伸ばしており、まるでお人形の様な風貌だ。いや、女の私が美人というのだ、それは本当に彼女が美人である証拠に十分だ。

彼女はお金持ちの令嬢であり、それでもって成績も優秀。学年1位の学力と運動神経を兼ねし持っており、男子にもかなりモテている、才色兼備の代名詞ならぬ代名者である。

というか群蟻附羶って、私の蟻の群れって例えはあながち間違いでは無いようね。

「鴉夜さんは1人?」

「いいえ、」

「ラッキーだねっ私もいるよ☆!」

鴉夜さんの背後からどうやってその高身長を隠していたのか美香子ちゃんが飛び出してきた。それと、別にラッキーでは無かった。

「おっ、珍しいメンツだな」

私達のちょうど背後、西谷が靴箱から声を掛けてきた。

「何よー、私らはいっつも一緒に居るんだから別に珍しくはないでしょー?」

「いやいや、ここに俺が入ればね、って事よ」

確かに的は得ている、が、何故昂然のように自分がこの中に加わる事を確信しているのか。

「そうね、西谷君とはあまり喋ったことが無いからなんだか新鮮だわ」

いいのか、まぁ、別につっ込むつもりは無いけど。―――いいのか?

と言うか、

「西谷、あんたもう帰ったと思ったけど。何してたの?」

そう聞くと西谷は鼻をふふんと鳴らし誇らしげな顔で答えた。

「ふっ、聞いて驚くなよ?なんと、夏休み明け早々から新しい先生が来るんだとかなんとかっ!!しかも超絶美人っ!!!」

高らかに声を上げた。しかし、

「「「へぇー」」」

3人揃って心底どうでも良さそうに返事をする。私達のリアクションが気に入らないのか西谷は不満げな顔でこちらを睨む。

「何だよ、もうちょっとくらい驚けよ」

「いや、驚けよって。さっきニッシー驚くなって言っちゃってたし。」

美香子ちゃんのナイスツッコミ。その通りこの男は先程、自ら驚くなと口にしたのだ。ならこの反応は当然、いや必然。

「いや、あれは前置きじゃんよ・・・」

「て言うか何でニッシーがそんな事を知ってるの?」

「んぁ?さっき校長室で話してたんだよ。廊下を通る時に話が聞こえたもんだからよ、覗いてみるとこれがまたゴイスーな美人でよ!赤みのかかった髪の毛に色っぽいお姉さんだったぜ!!」

どうでもいいけど、やはりこの手の話になると騒ぎ立てるのは男の性か。どうせならイケメンの大人っぽい男の先生が良かったな。

その時、美香子ちゃんが何かに気がつき校門を指さした。

「そろそろ通れるみたいだよ?校門」

先程までの人混みは程よく無くなっており、通りやすい状態に仕上がっていた。

「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」

鴉夜さんの声と共に4人揃って校門へと歩みを進めた。

 

 

PM 20:52

 

 

気がつくとそこは自宅の自室、それもベッドの上。

「あれ、?何で寝て・・・・・・あ」

思い出した。一斉下校になった後、4人で帰る途中に西谷に色々と連れ回されたのであった。

それで色々と疲れてたもんだから、帰宅即ベッドインだったんだ。

「あいつと関わると何かと疲れる思いをする」

まぁそんなのは分かりきった事、なので無理に考えても仕方ない。

それにしても、妙な時間に目が覚めたものだ。9時間は寝たから今からすぐにはもう寝つけない。

こういうのはあまりガラじゃ無いのだが。

「コンビニにでも行こうかな」

ちょうど歯磨き粉が無くなりかけていた、ついでなので一緒に買っておこう。

 

階段を下りる途中でまたまたふと思い出した

 

「あ」

今朝はやるのを忘れてたから、遅くなったけどやっておこう。

階段を降りてすぐの和室へ入り、部屋の奥に設置してある仏壇の前に座った。そう、忘れてたというのはそういう事だ。

「ごめんね、今日は慌ただしい1日だったんだ」

線香をいつもより多く焚く、これが謝罪の気持ち。許してください。

「これで許してね」

香炉に焚いた線香を起き、鈴を一度鳴らすとチーンと言う甲高い音が部屋中に鳴り響く。

 

私は幼い頃に事故で両親を亡くした。

私の両親は揃って化学者であった。あれは私が5歳の時、私の両親はとある実験に失敗し研究施設ごと大爆発を起こしてしまった。当然、施設内にいた私の両親は黒焦げ。私だけが残されたというわけだ。

でも私は父と母が大好きだった、幼かった為か記憶が鮮明ではないがあの頃はとても楽しかった。色んな所へ連れて行ってもらい、沢山のものを貰った気がする。

だから私は私だけを残して逝った両親を恨んではいない。

そして身寄りのない私を引き取ってくれたのが現在私の後見人であり、実の祖父でもある南権三(ミナミケンゾウ)だ。

こう言ってはなんだが、私の祖父はいわゆるお金持ちと言われる類いの人で、世界でも有数の企業家として名を知らしめている。祖父は放任主義者で現在はアメリカに身を置いている。月に一度仕送りをくれるのだが、時々とてもじゃないが使いきれない程の金額が送られてくる。実際問題、私は祖父についてあまり知らないし、何をしているのかも興味が無いわけではないが知ろうとは思わない。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

立ち上がり、和室を後にする。

 

 

家から最寄りのコンビニまでは徒歩で5、6分と、割と近い場所にある。

しかし、最近はまた蒸し暑くなったものだ。歩くだけで汗が流れてしまう。夏なのだから仕方の無い事だが、どうにかなるならどうにかしてもらいたい。

近道として途中に公園の中を通る。ここも懐かしいな、子供の頃はよくここで遊んでいたものだ。あの錆び付いた滑り台の支柱なども昔のままだ。

公園を抜けるとコンビニはすぐで、もう目に見えるくらいの距離にある。

コンビニに入ると先程までの蒸し暑さは一瞬で癒され、心地よい冷気が私を包んでくれた。

「あぁあ、癒される〜」

まぁそんな事はさて置き。歯磨き粉と、そうだ、まだ今晩は食べてなかった。コンビニの惣菜で済ませてしまおう。明日の朝の分もついでに買っておこう。

歯磨き粉とサラダとハンバーグを2つ買い物かごに入れレジに向かい、会計を済ます。

自動ドアから外に出ると外はやはり暑いまま。

「しまった。 」

何か飲料も買うべきだった、と悔やむもそれは一瞬。コンビニの目の前に自動販売機があった事を思い出す。ミネラルウォーターを1本だけ買い、その場で少しだけ飲む。

「―――ぷはァ」

生き返る、喉に潤いが戻ってきた。実に爽快な気分になった。

「さて、そろそろ帰ろうか。」

と、一言呟いたその瞬間。

 

ゾクッ、―――。

 

なんとも表現し難い感覚が私を襲った。何かはわからない、しかしそれは何故かその違和感を発する場所は正確に理解出来た。

「―――何、?」

それは帰り道、すぐそばの来る途中に通った公園であった。

 

気になった、とても気になった。

近づいてはいけない、そう本能的に察知した。しかし、ソレを察知しようともそれが気になって仕方がなかった。

私は、気がつけば公園へと歩みを進めていた。園内に入るとすぐに気づいた。

「―――うっ、!」

先程通ったばかりの場所、そのはずなのに、知らない、こんなのは知らない。園内に満ちているのは噎せるほどの鉄の匂い。生暖かいなんとも嫌な雰囲気、これら全て私が通った数分前には無かったものだ。

更に歩みを進める、遊具の設置してある付近まで近づくとそれは現れた。

「―――ひっ・・・・・・」

声すら上がらない、絶句。地面に落ちていたのはバラバラの手足や胴体。それも1人や2人ではない、辺り一面を真っ赤に染め上げたその場所は朝の夢を彷彿とさせた。

「―――、っ」

息が出来ない、恐怖で感覚が無い。どこか遠くからこの光景を目にしているような気分だ。身体にある感覚と言えば、強烈な嘔吐感。場に漂う死の匂いがそれを一層強めた。

「―――っ、はぁっ・・・・・・!」

硬直していた私の時間が、ようやく動き始めた。だが、動けない。脚がすくんで動けない、本当は今すぐにでも逃げ出したい。そう思っていた矢先、気づいてはならない事に気づいてしまう。

「―――っ、!」

死屍累々の中心、屍の上にひれ伏す一人の男の姿があった。男の瞳は真っ赤に染まっており、とても正気とは思えなかった。

 

―――ザッ、

 

脚が動いた、今すぐ逃げよう。しかし、その思いはいとも容易く裏切られ、瞬間、男は私の気配に気付きこちらを振り向く。

見えなかった、瞬きすら許されない。一瞬の内にソレは私を地面に抑え込み、私に顔を近づけた。

 

「―――すまない」

 

そう聞こえたのは空耳か、男は口を開け鋭い牙を私の首筋に突き立てる。

「――っ!」

男は牙で私の肉を刳り、そこから染み出る血を啜り上げる。

「―――はっ・・・・・・っあ・・・っ」

しかし、吸い始めてからすぐ。時間にして実に3秒、男が血を啜るのを止めた。

否、止めるどころの話ではない。

「っく、ぐぁぁぁあっ!っっ!」

何か恐ろしいモノを見たかの如く、怯えながら唸り声を上げる。同時に私から逃げるように後ろへ距離にして4m程飛び離れた。

「はぁ、はぁ、―――はぁ」

男はガリガリと首元を掻き毟る、まるで何か不純な物を飲み込んだみたいに。

男が苦しそうにしていたのはあまり長い時間では無かった、すぐに持ち直し息を落ち着かせた。

 

ダメだ、このまま襲われたら次こそは殺されてしまう。あちらはもう動けるようだが、私はそう言う訳ではない。震えて立つことすら儘ならない。

男がこちらに近づいてくる。ザッザッと砂音を立てながら、平然とこちらへ近づく。

男が私の目の前まで近づく。その時、私は死を悟った。あぁ、こんな所で死んでしまうのかと、無力な自分を呪うようにソレを受け入れた。が、

「―――君、何者だ?」

 

以外、男は私に声をかけてきた。それに何の意味があるかはわからない。が、男の眼は先程までのとは違っていた。

「―――あ、あなたは、吸血鬼・・・・・・?」

「あまりその言われは好きじゃないんだけど、まぁそう言う事になるね」

男は明るい笑顔でそう答えた。それは先程の顔とはまったくの別人、表情以前に理性の問題。一応、話は通じるみたいだ。というか聞きたい事は山ほどある。

「なんで、私を襲わないの・・・・・・?」

男は不思議そうな表情で首を傾げた、そして再び笑顔で答える。

「なに?襲って欲しいの?」

そんな事を言うものだから頭にきた、それもあんなに無邪気な笑顔で。

「そ、そんな訳ないでしょう!あなたさっき私を襲ったじゃない!それにこれ、私の首筋に噛み付いたじゃない!忘れたとは言わせないわよ!?」

そう言い私の首筋の歯形を見せた。

「なのに今は襲わないって事は何か理由があるんじゃないの?」

「言ったじゃないか、僕は吸血鬼と呼ばれるのは好きじゃないんだよ。だから自分の意思じゃ人の血は吸わない」

意味がわからない、なぜ嫌いだと言った吸血鬼まがいの行動を自分でとるのか。それより・・・・・・

「それより、吸血鬼って本当にいるの?」

「ん?目の前にいるじゃないか」

いや、そう言う事じゃなくて。吸血鬼とかって物語とか伝承とかそういう物だけのものだと思ってた。まさか本当に実在するなんて、

「混乱している様だけど、質問があるのはこちらも同じでね」

男の顔つきが真剣なものとなる、先程まで見せていた笑顔が一変した。

「君、本当に何者だい?」

何者かと言われても、そんなものただの人間としか言いようがないのだけれど。というかこの質問に意味はあるのかな、どう見ても普通の高校生でしょう。

「ただの高校生ですけど、」

男はまたまた不思議そうな表情で首を傾げる。何がそんなに不思議なのかが全くわからなかった。

「いや、ただの人間じゃ無いことは確かだね」

「私は普通の人間です!」

怒号混じりの声で訴えた。流石にコレにはびっくりしたみたいで、驚いた顔をしていた。

「―――うーむ、自覚なしか〜」

「自覚も何も私は―――」

最後まで喋ることなくソレは男の声に遮られた。

「いや、君の味はとてもじゃないが人のモノでは無かった」

「あ、味って、血の?」

「あぁ、君の血はとても熱くて味が濃い。だから喉を潤すどころか逆に渇いてしまうほど恐ろしく辛かった。おかげで理性も取り戻せたよ」

えーと、理解がついていけない。この男が吸血鬼なのは確かで、私の血はとても辛くて、だから私はただの人じゃなくて―――。

「それで、ここからが本題なんだけど」

「な、何?」

「君が、僕の主人(マスター)になってくれないか?」

 

「―――へ?」

 

冷静に、頭を正常に、今この男は何と言ったか、

さっきまで訳のわからないことを頭の中で必死に整理しようとしていた私の脳内は、この一言でいっきにパンクした。

ま、マスター?一体何を言ってるんですか?ま、マスターて御主人様の事よね?本気で言ってるのこの人?も、もしかしてそう言う趣味があるんじゃあ・・・・・・。

「どうしたの?話、聞いてた?」

「ちょ、ちょっと待って!何で今の話からそんな事になるのよ、ちゃんと説明して!」

そうよ、何の説明も無しにそんな話をされたって何が何やらよ。

「う〜ん、順を追って話すとなると時間がかかるかな〜。

僕が吸血鬼と呼ばれるのは嫌い―――て話はしたよね?」

「えぇ、」

「では、何故吸血鬼と呼ばれるのが嫌いなのか、わかるかい?」

「―――。何故と言われても、吸血鬼には悪いイメージしか無いから否応にも悪者扱いされるからかな」

吸血鬼と言うのが実際どういう存在なのかと言うのは、話に登場するモノの特徴しか知らないし、実際に存在するなんて事は今日初めて知ったわけで、特徴なんてそんなものは知る由もない。

「う〜ん、いい所はついてる。まぁ、実際そんなところなんだけどね。では次の問題、何故僕が嫌いと嫌悪する吸血鬼まがいの行動をさっき君に対してとったのか」

「それは、―――」

 

そう、私もそれがわからなかった。

何故この男は自分が嫌う行動をとってまで私を襲ったのか。

「そうだね、まず先に話しておく必要があるか。吸血鬼・・・・・・まぁ僕はその中でも『死徒(しと)』と呼ばれる吸血鬼の1種なんだけどね。吸血鬼には必ずと言ってもいい吸血衝動が存在する。吸血鬼が生きていくために必要不可欠な養分が人間の生血なんだ。―――なら、僕みたいな吸血行動が嫌いな吸血鬼でも、血に飢えて狂気と化し制御が効かなくなってしまったら、何をするかわかるね?」

「―――あ、なるほど。つまり、暴走して襲いかかったと言う事ね」

自我制御が効かないんじゃ仕方がない、と言いたいところだけど。

「でも、お腹を足すためにこんなに人を殺すなんて。それに、主人になれなんてまた足りなくなったら私の血や人の血を吸うんでしょう?言ってる事がめちゃくちゃよ」

「―――?何を言ってるんだい?人?殺してないよ?」

「嘘よ!さっき死体の山を作っていたじゃない!!」

そう言い死体の方を指さした―――が、

「―――え?」

その先には最早何もなく、先程の光景が幻だったのかと思うほどにきれいさっぱり消え去っていた。

 

「さっきの人形どもは『死者(ししゃ)』、死徒に血を吸われた人間の事。奴らにはとっくに自我などなく、ただ親元の死徒に養分を送るだけの存在」

「そ、そんな・・・・・・」

「では聞くけど、人間は死んだらこんな風に塵になって消えるのかい?証拠としてはこれだけで充分だろう」

確かにこの男の言う事は理にかなっている。

人間は死んでも消えない。しかし、まだ他に疑問はある。

「なんでシト?のあなたが死者を殺す必要があるの?」

「そりゃ、僕は吸血鬼が嫌いだからね、嫌いなやつの手下は殺すに決まってる。神の名の元に平等に、ね。それに、君に主人になって欲しいと言ったのは血を吸うためじゃない。逆さ」

「―――どう言うこと?血を吸わないために主人になれって言うの?」

殺すなど、簡単に言うやつの言うことだ。そう安安と信用は出来ない。

「僕は血が足りなくなると自我を失う。それは死徒の吸血衝動によるもの、しかしこれは代わりのもので補う事は出来る。それの一つが魔力」

「ま、まりょく―――?」

「そう、俗に言う気力や精力と呼ばれるもの。人間である君のコレを分けて貰えれば血の代わりとしての養分は補えて吸血衝動も抑えられる。そのための血の契約だ」

「保証できるの?血は絶対に吸わないと」

「出来る、過去にも経験はあってね。このシステムを提示してきたのは、僕の前の主人でもあったある女性でね。最初は僕も半信半疑だった、でも何日たっても渇きが来ない、吸血衝動も疼かない。経験者は語るってやつかな、まぁそんなところさ」

それが本当なら信用するとこは出来る、しかし―――

「ねぇ、それって私には何も影響は出ないの?魔力、精力が取られるって言ってたけど、私生活や学校生活で支障はない?」

「そうだね、君の魔力の量がどの程度かはわからないけど、質としては一級品だと思うね。一般人は言うまでもなく魔術師の血はいくらか吸ってきたが、どの人間でも君ほど血の濃いモノはいなかった。それなら量より質と言う事で、少量の魔力で代用が効く」

なるほど、そういう類のことでも量より質という概念は存在するのか。

「それに、悪い事より良い事だと思うけどね、この契約は」

「どう言うこと?」

「死徒に血を吸われた人間はどうなるんだったかな?」

「―――あ、」

え?でもさっきの話だと自我のない死者になるはずじゃ。え、まって、どう言うこと?

「説明不足だったね、死徒に血を吸われた人間は確かに死者となり、親元に血を運ぶ人形になる。しかし、数年、数十年、数百年の年月を経て次のステップへと進化する。それが死徒、死徒は死者を作り死徒へと進化させ配下の死徒を増やしていっている。この意味はわかるかい?」

「―――」

私は静かに首を横に振った。

「君は今、僕の配下って事」

「―――え、?」

どう言うこと?つまり私は死徒になったって事?いや、でもコイツの話によると血を吸われた死者は死徒になるに数十年や数百年かかるって―――、あぁもう!わからない!!

「どう言うこと!?」

「君は僕に血を吸われた、ここで普通の人間なら死者になる。普通の人間ならね?でも、どうやら君は普通の人間では無いみたいだ。君は死者のステップを踏まずに自由意志を持った生命体へと進んだ、それも秒台の時間で。君は普通の人間では無いのでそれが死徒になったかどうかは不明だが、多分そうだろう。だから僕が命令を出せばどんな行動をも取らせれる。そうならないための血の契約だ」

「血の契約をするとあなたはどうなるの?」

「もちろん、僕は君に命令なんて出せないし逆に君の下僕(しもべ)になるわけさ。死徒の親子としての契約よりも強制権は格段に高い、だから僕は君に命令をできないししない。君は僕にどんな命令をも下せる、どうだい?魅力的だろ?まぁ僕を使えば出来ない事なんて多分ないし、ギブアンドテイクってことで、ね?」

なるほど、理解はできた。そして不覚にも納得してしまった。確かにこの話は私に不利益は無いし、利益が無いわけではない。だが、契約と言う言葉が少し引っかかる。こういった重要そうなモノは苦手だ、でも、この男は悪い男ではなさそうだ。話をしていてわかった、こちらを騙すというより信用して欲しい感じが伝わってくる。

「―――いいわ、契約を結びましょう」

「!、本当かい!?」

男の顔が子供みたいに明るくなった。どうやら本当に嬉しいようだ。

「えぇ、どういう感じで結ぶの?」

「右手を出して、ちょっと痛いけど我慢してね」

そう言い男は私の右手の親指を針で少しだけ刺した。

「痛っ、」

男も同じく親指を針で刺し、私の親指を男の手首に押し当て男の親指を私の手首に押し当てた。

「我は誓い守る、我は貴殿を裏切らず貴殿も我を裏切る事なかれ。―――血の契約をここに、我は貴殿を助け、貴殿は我を行使す、貴殿の命の果てまで、これを誓う」

親指から流れる血が何やら暗号のような模様を描く。まるで生きているみたいに血は踊る。模様を描く血が赤く光る、すると血は皮膚へと染み込み消えていった。しかし、数秒たたないうちに模様の一部が浮かび上がってきた。それはまるで刺青のようであった。

「これで、契約は終了だ」

「―――そう、」

何故かはわからないが疲れがどっと来た、気を抜けば倒れてしまいそうだ、

「顔色が悪いね、やっぱり疲れたかい?」

「それはいい、それより、あなたの名前を聞いていないわ」

「あ、そうだね。忘れてたよ、僕はブラハム・レコッツ。好きに読んでくれ」

やっぱり外国人か、背が高くて金髪で、―――こう言ってはなんだけど、なかなかの男前で。

「じゃあ、ブラハムで」

「うん、それじゃあ君の名前は?」

「私は南、南香桜(ミナミカオ)よ」

「ミナミ カオか、じゃあカオで」

ブラハムが私の顔を見てニコリと笑った。あぁ、なんて清々しい笑顔をする男だ。いや、清々しいというより無邪気に近いか。

「さて、契約も完了した事だし家に帰ろうよ。君ん家どこ?」

「―――は?」

何を言ってるのかコイツは、私の家なんか聞いてどうするつもりなのだ?

「なんで私の家なんか聞くの?」

「なんでって、今日から僕が暮らすからに決まってるじゃあないか」

 

―――。

 

「――はぁ!?」

何を考えているのかコイツは!同居!?頭おかしいんじゃないの!?

「はぁ?って従者が主人の傍にいる事は必要不可欠だろう?何がおかしいんだい?」

「いや、それはそうなんだけど・・・・・・」

男の人と同居するなんて―――・・・・・・。あ、いかんいかん。余計な事は考えるな!そんな事よりこんなことを学校の人や知り合いに知られたら……。

「どうしたのさ、顔が赤いよ?熱でもあるんじゃ」

「無いわよッ!!!」

「じゃあなんで顔が赤いのさ?」

「あー!もう、知らない!!勝手にしたらいいじゃないっ!!」

もう、なるようになれだ!知らないし考えたくない!!

「わかった!なら家まで案内してよ」

はぁ、これから私、どうなるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

―――、同刻

 

 

 

同じ街のある場所、福山の夜景を一望出来る高い場所。

おそらくビルの屋上か何か、1人の男が佇む。

 

「ようやく到着したか、我が兄弟」

 

そう呟くと一瞬にして2人の人物が現れた、

1人は男、1人は女。

 

「待たせて悪かったな」

 

「ごめんなさいね?」

 

「構わん、ギリギリであったが間に合った。これで、計画は狂わん」

 

「ハハ、母の仇の地。この街を死都に変えるってやつか」

 

「不満か?」

 

「大賛成よ、お兄様。忌々しい埋葬者見習いの小僧がいないのが腹立たしいけど」

 

「奴は死んだ、つまらぬ死に方よ」

 

「けどよぉ、兄貴と姉貴、他の兄弟には声をかけたのか?母上の名前を出せばすっ飛んで来るぜ」

 

「いいや、我々以外はすべて狩られてしまった。此度は兄弟の弔い合戦でもある」

 

「ええ、ゾクゾクするわ、お母様、見ていてくださいね?」

 

「我が母、ルー=シェシカ・アルナウィンドウ。貴方に我々からの最後の手向けです、あなたを埋葬せしめたこの地を死の都に変えてみせましょう。必ずや」

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