鬼子   作:なんばノア

2 / 31
file2.異能者

file2

 

 

 

 

ピピピ、ピピピ、

 

ーーーガシッ!

 

目覚まし音が不愉快なので、寝起きがいい日には即座に消してしまえ。

7月21日、今日から夏休みだ。夏休みといえば、みなさんは何を思い浮かべるだろうか。たいていは暑い夏を乗り過ごすための、プールとか海とかかき氷とか、そういった涼しげな物を想像するのでしょう、しかし、高校二年生の夏は違う。夏休みを満喫できるのは高校一年生まで、来年の受験に向けてセミナーと課題が山積みなのである。

「さて、朝ごはんのあとは図書館で」

 

ーーーガチャ

 

「やぁ、おはよう」

「ーーー」

リビングのドアを開けると、ソファに長身の外国人がふんぞり返っていた。

はぁ、思い出した。夏休みを満喫出来ないもう一つの要素。髪を下ろしてるから一瞬わからなかったけど、

「朝ごはん作るよ、座ってて」

「え、いいわよそんなの」

「いいから、いいから。君の下僕なんだ、これくらいはしないとね」

ブラハムはそう言い私をテーブルに座らされた。

ちょうど昨日の夜の事だ、清々しい顔で人の家のキッチンに立つあの男、死徒と呼ばれる吸血鬼ブラハムに私は血を吸われた。それからなんやかんやあって、ブラハムが人の血を吸わないように私と主従関係を結んだのだ。

「カオ〜、嫌いな物とかはある?」

「特に無いわ」

それでまさかこんな事になるとは思わなかった。同居すると聞いた時はビックリしたが、こう見てみれば普通の男の人だな、と思う。ーーーいや、そういう問題ではなかった、!問題なのは男の人と同居するということだ、こんなのを友達やおじいちゃんに知られたら……。ーーー考えたくない。

 

「ーーはぁ」

「どうしたんだい?ため息なんてついて」

ブラハムが私の分の朝食を持ってきてくれた。

「いいや、あなたには関係ないことよ」

関係しかないことだ。まったく、

朝食の皿を覗いてみるとなかなか美味しそうなフレンチに仕上がっていた。

「美味しそうね」

「食べてみなよ」

では、

「いただきます」

パクリとベーコンエッグを上に乗せたトーストを1口、

「ーー、!」

美味しい!これはなんだろう、表現しづらいが絶妙な味付けでベーコンエッグがトースト独特の香ばしさと見事な融合性を醸し出している。ベーコンエッグトーストは割とよく作るので食べ慣れているが、これほど美味しいものは作れたことがない。

ブラハムが私の反応を察してか、妙に嬉しそうな表情でニヤニヤしつつ私の顔を覗き込んできた。

「ーーー何よ?」

「いや、別に?」

ーーーくっ、腹が立つ。この得意気な表情がなんとも忌々しい、この態度が少し気に入らないのでこうしよう。

「ブラハム、お使い」

「え、本気かい?」

「牛乳」

「ーーーは〜い……」

ブラハムに五百円玉を握らせてコンビニに向かわせた。

しかし、本当に私は御主人様になったんだ。素直にお使いに行くなんて、今更だけど驚きだ。

驚きと言えば、今から考えてもやはり不可解だ。昨日のあれは夢ではなかったのかと、いや、ブラハムが家にいる以上そんなわけはないのだが。しかし、あの昨日の不可思議な現象全てを現実として受け入れるには、私の器は小さすぎる。とてもではないがアレが現実とは思えない。

朝食を食べ終えたところで一息、

 

「ーーーふぅ、大変なことになったなぁ」

「まったく、君も人使いが荒いなぁ……」

「ーーーえ、早いわね、?」

まだ3分くらいしかたっていないのに

「そりゃ急いで行ってきたからね、それと君には教えとかないといけないことがあるみたいだね」

「何よ」

「死徒はね、本来日中に陽の下では活動できないんだ」

ーーーあ、なるほど。色々察した、

それで、こんなに汗だくで息づかいが荒いのか。

「え、でも、活動できてるから行ってこれたんでしょ?」

そうよね、活動できないなら家から出られないはず、でも行ってこれたという事は、

「これは僕の能力の1つでもある。それに、力をつければ多少は克服できるのさ。だから、こういう事は知っていてもらいたい」

「ーーーわかったわ」

「うん、ありがとう。わかってもらえて良かった」

そう言いブラハムはきらびやかな笑顔を返した。

うっ……苦手だ。昨日から思ってたけどこの笑顔は対応に困る。あまりにも純粋な笑い顔なもので、否応なしにドキドキしてしまう。ーーーいや、いかんいかん!平常心、平常心。惑わされるな、この男は吸血鬼ーーー。

そう思いブラハムを覗き込むと、その考えはあやふやになった。

前言撤回、なんでだろう。やっぱり普通の人間にしか見えない。本当に吸血鬼なのだろうか、この男は。

「さぁ、朝食も済んだところで今日の予定はどうなってるんだい?」

「図書館で課題をするんだけど?」

「ーーーえ、それじゃあ僕は?」

そうだったそうだった、太陽の下では辛いんだったわね……

「それじゃあ、あまり使ってない物置蔵の掃除でも頼もうかしらね?」

「えぇぇー……」

 

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

 

AM 11:10

 

ーーーガチャ

 

ブラハムが物置蔵の鍵を開け中に入る、

香桜の言っていたとおりあまり使っている痕跡がなくホコリや害虫、ネズミの巣窟となっていた。

「うわぁ、これを掃除しろと本気で言ってるのかい?カオは」

蜘蛛の巣がブービートラップのそれを体現している、ここはまさに戦場と言うわけだね。

十七年前に前のマスターの使い魔だった時、日本の知識を蓄えようとして観たアニメーション映画に出てきた「腐海」ってやつに似てるかな。

「それにしても、カオは可愛い顔の割に意外とサディストだったんだね、考えを改めねば。ーーーハッ!カオは可愛い顔って、ちょっと洒落てるよね?これはイケるな!僕もなかなかセンスがあるよね〜」

まぁ、そんな事ばかりも言ってられないんで、そろそろ掃除しましょうかね〜。

 

「ーーー明かりは……これか」

そう呟き入口のすぐ横にある電気のスイッチを押した。

すると天井の電気に明かりがつき、蔵内の汚さがより一層はっきりした。

「うわぁ...。どこから手をつければいいのやら」

腐海の一部に目をやり、ため息をひとつき、これを今日一日でどうこうしろと言うのはあまりにも無茶だ。まぁ、手始めにゴミから捨てていこう。

どれが捨てていいものかはわからないけど、明らかに要らないものが多すぎるね。ガラクタや古くホコリだらけの書物や置物は捨てていいのかな?まぁいいや、捨てちゃえ。

曰く片付けとは、どれだけ物の大切さを棄てれるかーーー、と言う。それは多分あまり物事に執着するな、という意味だろう。カオに無断で勝手に物を捨てるのは忍びないけど、これもすべてはカオのためさ!

本棚に目を向けた際に気がついた、

 

「ーーーアルバムとかは、絶対に捨てちゃダメだよね」

本棚や書物類は慎重に捨てることにしよう。

 

 

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

 

AM 12:28

 

中央図書館にてーーー

 

朝のアレ、ブラハムには悪いことしちゃったかな。まぁ、今日の事を忘れず覚えておけば大丈夫よね。いや、でも朝のが原因で栄養が足りなくなってまた血を吸うようになったら……あぁ!もう!考えるのやめ!そもそもなんで私があいつのためにイライラしなきゃいけないのよ!!

「なぁ、香桜。聞いてる?」

突然の声に考え事が吹き飛んだ。

「すみません、聞いてませんでした。先輩」

「もー、しょうがないなぁ。香桜は昔と全然変わんないなぁー」

「先輩程じゃないですよ」

この人は私の小学生以来の先輩、柴月麗華(シバヅキレイカ)である。

麗華先輩は何かと行動力のある人で、まさに本能のままに生きる人間なのである。そのため子供の頃はよく色んなところに連れ回されたものだ、

「まぁ、どうでもいい話なんだけどさーーー。てか悪いなー、アタシの受験勉強に付き合わせちゃってさ」

「いいですよ、私は暇ですし」

少し酷な言い方をするが、先輩はあまりと言える程も頭が良くない。出席日数が100%なのと、毎テストぎりぎり赤点だけは回避しているから補習には呼び出されないものの、麗華先輩はソレを自覚しているため休みになると図書館で涼みながら勉強をしているというわけだ。

 

「ーーーあ」

「ん、どうしたんですか?」

先輩が本棚の近くにたむろしている男子の集団に指をさす、すると向こうもそれに気付き怯えるように本棚の裏に隠れた。まぁ、大体の事は察することができたが、念のため聞いてみよう。

「あの人たちがどうかしたんですか?」

「いや、この前あいつらがよー、香桜の事をどうとかこうとか言ってたからよー、ちょっとだけ痛めつけてやったわけよ」

ーーーやっぱり、、、典型的だがこの人は頭は悪いけど運動ができる人種で、特に極真の空手を昔から習っているため、男と喧嘩をしても勝ってしまうとんでも先輩なのだ。

「そういうのは放っていたらいいんですよ。私もそういうのは気にしないですから」

「アタシは気になんだよ」

私は、小さい頃に両親を亡くしている。それが原因で、先程の話同様昔から何かと周囲からは色んな目で見られる事があった。

そんな時に私の見方になってくれたのが、当時近所に暮らしていた麗華先輩だった。私がいじめられている所を助けてくれたり、相談に乗ってくれたりしてくれた。そのため、どんな友人や知人よりも心を許せる人だ。あの頃は本当にお世話になりっぱなしだった、だから今度は私が少しでも力になれればと思っている。

「あ、先輩そこ違います」

「え!?ウソ、本当か?」

「本当です、嘘言ってどうするんですか」

「え〜!、どこ!どこだよ!?」

「ここです問Bの1番、ここはこういう場合、y座標の符号が変化するのでxとzの座標は不変ですからA'の座標は3、2、4になるんです」

「やべぇよ〜、香桜が違う次元に行ってるよ〜」

先輩が駄々をこねだした、その手で来ても手は抜けないこれは先輩のためなのだ、先輩の将来がかかっているのだそのためなら私は心を鬼にでも何にでも変えるつもりだ。

「ダメです先輩、ちゃんと勉強してください」

「なぁ、そんなことより腹減らねー?」

む、確かにお腹は空いていた、腕時計を除くと時刻は12時半を超えていた。しかし、図書館内は飲食禁止である、だからどこか別のところへ移って食事をしないとならない。

「お昼ご飯ですね、どこに行くんです?」

「マックでいいだろ、近いし安いし安いしさ」

「ここからなら駅に入って食事した方が早いんじゃ無いんですか?」

「いや、駅は人が多いからな〜。割と待たされる。だからマック一択だ」

駅以外にも中華料理屋とかも近くにあるのだが、まぁマックに行きたいのであろう、そこはつっこまないでおこう。

「わかりました、それなら急ぎましょう。先輩の勉強もまだすんでませんし」

「ていうか、図書館に戻らなくてもそのままマックで勉強すればいいんじゃね?学生らしくよ」

「ダメです!!」

 

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

 

PM 13:30

 

 

「よーし、書物類の整理はあらかた出来たぞ」

それにしても、アルバムの類が一つも見つからないとは何か不自然だなぁ。まぁ、土蔵の中にしまってないだけかもしれないしね。

「あとは、小物類の整理から置物だな〜」

 

ガシャん!

 

「いてっ!」

足元に何かあると、その足の痛さが物語った。どうやら何かに足をぶつけたみたいだ。

「なんだこれ?」

なにやら木箱のような物が足元に置かれていた。

「ふむ、木箱か。にしては変わった作りだね」

そう、変わった作りがしてあった。

魔術、人避けの魔術が一番それに近い。何故かこの箱に触れるだけで、「この箱は決して開けてはならぬ。」そんな暗示が頭の中で響いた。

 

「さて、誰がこれを仕掛けたのか」

 

見たところ感じたところ、カオはちがう。彼女は見た目通り一般的かつどこにでもいそうな学生。ただし、少しだけ他人とは違うようだけど。まぁ、この際それは置いといて、とにかくだ、彼女は魔術師などではない。

本来魔術師とはある一つの目標のために死にものぐるいで研究を重ねる人種であり科学者の事を示すのだ。

しかし、この家には何処にも工房らしきものが存在しない、それに彼女自身魔術師としての気力も気配も全く感じられない、なにより昨日の知識の無さ。あのような無知な人間が根源を追い求めるような人間には思えない。

「だとしたら、この木箱に魔術を施したのは一体誰だ?」

まぁいいさ、この程度ならほんとに暗示みたいなものだから、僕が解けないレベルのものではないからね。

「よいしょっと、」

 

木箱の蓋をとるなりなにやら布のような紙をぐるぐる巻にしたような物がが出てきた。そして、これには見覚えがあった!

「こ、これはッ!ジャパーニズマキモノ!!?」

時代劇やニンジャ映画などで観てきたあの!?マキモノを、生で拝めるどころか触れる日が来ようとは、、、!!

「僕はなんて幸運なんだ・・・!」

いや、そうじゃなくて。

それにしてもこのマキモノ随分と古いな、結構年季が入っている。

そして、箱には開けた形跡などは無かった。つまりこれは、かなり昔に作られたこのマキモノを木箱にしまって開かないように魔術をかけられていた、ということになる。

木箱自体の質は悪くなっていない、推測するに木箱は出来てから新しく魔術をかけた人間はおそらくカオの親族の内の1人だろう。

 

「さて、それでは中身を拝見。」

 

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

 

PM 18:40

 

「はぁ、また今日も先輩の勉強をカバー出来なかったなぁ……」

結局あのままマックで勉強をすることになったし、勉強をするといいつつポテトしかかじってなかったし。ダメダメだな、私。

「ただいま」

と、玄関の扉を開けるとブラハムが廊下を雑巾で磨いていた。

「おかえりー!」

「なにやってるの」

「何って見てわからない?土蔵の掃除が済んだから家の中を掃除してるんだけど?」

「ーーえ?あの汚い物置蔵の掃除が終わったの?」

「うん、2時頃には終わったよ」

「そう、ちょっと確認してくるわね」

「はいなー」

驚いた、あの汚い物置蔵を半日やそこらで綺麗にしてしまうなんて。実際未だ半信半疑だが、

 

ーーーガチャ、

 

扉を開け壁伝いに近くにある電気のスイッチを探す、

この土蔵にはあまり近づかないし入ったりしないから慣れた作業ではなかった。

 

パチッ

 

「うわっ」

ブラハムの言う通り土蔵の内部はホコリ一つなく綺麗に片付いていた。あの汚かった蔵がこんなに綺麗になるなんて……。

「アイツ、なかなかやるわね」

そんな事をつぶやきながら家の中に戻ると、ここでもまた驚かされた。なんと土蔵だけではなく、家の中のところどころが綺麗に整理整頓されていたのだ。リビングやキッチン、客間、応接間、和室までもがピカピカに掃除されていた。

「ウソ、これ全部を半日足らずでやってのけたの……?」

「まぁね、かなり大変だったけど」

こう言ってはなんだが、私が同じことをしてみろと言われても絶対に出来ない自信がある。それほどまでに綺麗に片付けられていたのだ。

「すごいわね、ブラハム。見直したわ」

掃除の腕だけで言うなら超一流だ、加えて今朝の料理の腕前、とんだ家政婦スキルだ。

「うんうん、そう言ってもらえると僕も頑張ったかいがあったってものだよ!」

 

ヘヘンと言わんばかりに得意気な顔になったがそれは正解、得意になるべきだ。今日のは私も認めているし素直に感心している。

「まぁ今日のご褒美と言ってはなんだけど、一つお願いをしてもいいかな?」

「えぇ、いいわよ。出来る限りのことなら聞いてあげるわ」

「うん、じゃあ遠慮なく!」

こんなに働いてくれたんだから褒美の一つもあげないとね、出来る限りのことならなるべくしてあげるつもりだ。

「今夜から死徒狩りを手伝って欲しいんだ!」

「ーーーは?」

「は?て、死徒狩りだよ、死徒狩り」

死徒ってたしかブラハムの事よね、吸血鬼の事でしょ?たしかに昨日吸血鬼が嫌いって言っていたけど

「死徒って、吸血鬼の事でしょ?ブラハムとか」

「そうだよ?あれ、昨日言わなかったかな?そもそも僕がこの街に居るのは死徒を狩るためだって。」

たしかに死者を殺していたわけだからその親元である吸血鬼も狩る対象になるのはわかってはいたが、それが目的でこの街に居るという事は知らなかった。

「言ってない、初耳よ!記吸血鬼狩りを手伝えってそんなの無理よ、私は人間なんだから」

「さっきの土蔵で面白い書物を見つけてねー」

「なんで話を逸らしてんのよ」

「まぁ、聞いてよ。ミナミカオ、やはり君はただの人間ではない」

「なんで、そう断言できるのよ。少なくとも私はこれまで普通の人間として生活してきたわ」

「これ」

そう言いブラハムはなにやら古い本のような物を懐から出した。

「これは、ミナミの家に代々伝わる書物らしくてね。こう記してあった、『―――南、これより生まれでるはそれ即ち法を司る鬼。法とは常世の規律、これを振るうは鬼の子ぞ。其は鬼と交わりし者の因果、末路、成れの果て』とね、意味わかる?」

私は静かに首を横に振った。

「これに記してある事が本当なら、君は間違いなく異能者だ」

「異能者って…?」

「そうだね、短く説明すると人の身において人の身では成し得ない力を有し、行使する者の事だね」

「私が、それ?」

「そう、君がそれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。