鬼子   作:なんばノア

28 / 31
/4

 

 

10月初頭。代行者テオルバス。

俺達は蒼崎橙子の手を借り、アメリカが一大都市ニューヨーク市に訪れている。

「すごいすごい!ねぇ、ブラハム!アレって自由の女神だよね!?生で見れる日がこんなに早く来るなんて夢にも思わなかったよ!」

「ちょっとカオ。はしゃぐ気持ちもわかるけど、他の観光客も居る手前、あんまり騒ぎすぎないようにね」

はーいと大人しく従うも楽しくて仕方がないと言った表情のカオちゃん。完全に保護者と化しているブラハム。そして、俺ことテオルバス・レムドールはその護衛を受け持った次第である。

でも確かに、バッテリーパークから眺めるこの女神は、なんとも得難い美しさを見せつけている。マンハッタンと言えば、昔は核兵器開発実験やらなんやらで物騒なイメージがあったが、今となっては平和そのものだ。多少の治安の悪さは否めないが、実に人間らしい、正に“自由(リバティ)”だ。

「それにカオ、目的を忘れちゃいないかい?」

「失礼ね、忘れるものですか。だって、私の正体(、、)に関わる話だよ?私が一番気にしてる。観光も程々に、でしょ?ちゃんとおじいちゃんに電話もしてるわ。15時に向こうに着ければ大丈夫よ。約束の時間はその30分後だもの」

「そうかい。なら、安心だ。残り2時間、目いっぱい楽しむといいさ」

「言われなくてもそうするつもりよ」

ニッコリと笑うその笑顔は実に爽快で、俺は空腹を忘れる程にお腹一杯になった。アレを向ける相手が俺でなくクソ野郎(アイツ)にだという事実が、少し癪だけどな。まぁ、そこは自重しよう。俺だって大人だからな。

でもまぁ、大手を振って彼女の前に出ていけないのは辛くもある。白状すると、今回の旅は彼女達2人だけで行われる予定だった。俺が付いて来た事は秘密裏に計画された防衛措置。ブラハムだけでも、カオちゃんの身を守る事は叶うだろう。だが、それでも俺は付いていくべきだと、蒼崎橙子に言われた。

ブラハムのヤツは、今でこそ契約のおかげで自我を保てている訳だが、それは土地の霊脈やら、諸々の条件があっての今の状況とも言える。ヤツが福山に居たのはそういう事でもある。昔設置した術式を利用して、土地の霊脈を魔術師さながらに利用しているのもそのためだろう。だから万が一にも、アイツが暴走すればそれを処理する役割が必要となる。考えすぎだと思うかもしれないが、妥当な判断だと俺は言える。蒼崎橙子は、紛れもなく冴えた魔術師であるんだろうな。

 

―――あぁ、なぜ彼女達がこのアメリカの地に訪れているのか、という説明がまだだったな。それは彼女の正体を、彼女の祖父が知っているため、である。彼女の祖父、南権三から文が送られてきたのはつい三週間前。内容はこう、“覚醒したようなのでこの手紙を送る。お前のこと、お前の両親のこと、全てを教えてやる。何時でもいい、一度ニューヨーク(コチラ)に足を運ぶがいい”といった、なんとも簡単な内容。それに従い、蒼崎橙子の最終的な判断のもと、表向きには2人で、秘密裏に俺を護衛として、ここアメリカに足を運んだ次第であった。

 

 

PM 15:05

 

私達は、祖父が経営する超高層ビルに到着した。その高さ、その造形、その形状からとても特異で、見る者全ての眼にその巨大な容姿を植え付けるのであろう。なんでも、1931年までは世界一高い建築物だったらしく、今も尚その姿は偉大であった。

「ロビーの人に話を通してあるみたいだから、おじいちゃんの名前を出せば通してくれるかも」

「なら、僕が話そう。ほら、カオってそんなに英語得意じゃないでしょ?」

む、まぁ彼に比べると発音や諸々劣るでしょうけど、全く話せないと云うわけじゃないもの。

「Excuse me.」

 

 

ロビーの女性に連れられて、僕達はとある部屋へと招待された。ドアを軽くノックすると、中から日本語で入れ、と告げられた。

「お邪魔しまーす・・・」

恐る恐る、部屋に入るとそこには1人の老人が佇んでいた。

「久しいな、香桜」

「うん、久しぶり。おじいちゃん」

どうやら、この人物がカオの祖父で間違いないようだ。その顔つきはカオとは異なる畏怖と威厳に満ちた強強しい者であった。背はあまり高くない、せいぜい170前後といったところで、髪の色はカオと同じく橙色を思わせる明るい色。うん。あの顔にこの明るい髪の色は似合わないな。

「そこな優男は一体誰だ?」

「あぁ・・・それは・・・」

この場合、無闇に話を拗らせるのはうまくない。ここはひとつ、正直に事情を説明すべきだ。

「お初にお目にかかります。ミスター・ミナミ。私は、カオの身の警護を承っている、死徒ブラハム・レコッツにございます。カオとの魔力提供を引換に、彼女の使い魔として、彼女の身を守っている次第であります」

僕のその一言に、ミスターミナミが憤りを上げた。

「ま、魔力提供じゃと!?き、きき貴様ァ!もしや粘膜接触なぞしてはいないだろうな!?」

「なっ、何を言い出すかと思えば・・・!そんなわけがないでしょう!カオとの魔力提供は血の契約(、、、、)により成されている。故に、そのような事実は一切!!」

断っておくが本当だ。事実だ。そのような行為に乗じたことは生涯に一度もない!

「―――ほう。血の、契約か。我が孫娘に、そのような穢らわしい儀式を施したと?ふん、“血と契約の支配者”、黒血の姫君から派生した契約儀式なぞ信用出来るはずない」

「えぇ。致し方ないとは言え、私も悔いが無いとは言えない。故に、その責任として、この契約は永遠。カオを一生涯守り抜くと決めております」

「―――ほう」

ミスター・ミナミは僕の事を完全に信用してはいない。それは当然だと思う。

「それで、おじいちゃん。本題なんだけど」

「おぉ、そうであったな。スマンスマン。

だが、全て事実を話すとなると、辛い話になる。心を傷めるやもしれん、覚悟はいいか?」

カオが頷き、ミスター・ミナミが椅子に座り、僕達も座るよう促す。

 

 

「率直に云うと、我が一族“ミナミ”の家に産まれる者は人ではない」

「やはりか」

ブラハムが相槌を打つ。前に彼から聞いた、私が“異能者”だという話を思い出した。

「鬼種、その混血であると伝え聞いておる。

だが、儂の見解は別にある」

「と言うと?」

「我々は、他の混血とは少しばかり趣が異なった能力を兼ね備えている。恐らく、神代において神々の権威、権能(、、)と呼ばれていたそれと同一機能であると考えている。

儂、そして息子に備わったおった権威は“現象の再現”。この子のそれも、恐らくは同じものだと思うとる」

『その通り』と、私の中のコイツは独りでに呟いた。うん。あの一件以来、なんだか頭の中にもう一人の自分がいるみたいで少しむず痒い感じがしていたが、最近は頻度が増して話しかけてくる。

「うん。実際に目の当たりにした所、君の能力は権能だと考えるのが妥当な判断だと思う。現象、か。なるほど。あの場において僕の固有結界を展開できたのは、僕が発動した時の記憶。つまり、君の記憶に存在した“太陽の死徒”と云う現象を、再現していたと云う訳か。―――だが待ってほしい、ミスター。貴方の理論は大凡的を得ているのだと思うが、その権威を振るうことが叶うのは神性存在のみ。とても、精霊種との混血に震える権威とは思えない。なら、これは空想具現化(、、、、、)だと判断するのが妥当ではなかろうか」

精霊種の一端。世界の触覚たる彼らが可能とする、世界との接続。それに伴い、世界の因果律を捻じ曲げ、本来その場所有り得ない可能性を引き出す亜種固有結界。いや、固有結界こそが、この現象の亜種とも言えよう。

南香桜のそれは空想具現化である。と云う考えは、権能という見解と比べるなら、幾分か現実味を帯びている。

権能とは神々にのみ許された権威。物理法則を無視して、「それは有り得ない」という事象を「こう在りたいから有り得るのだ」という原理で可能とする、現代の地球上において許容されない能力だ。故に、曖昧な物理法則が判定を下していた神代、その上、神々にのみ振るえた権威。である事から、彼女のそれが権能だという見解は、俄には信じられないのである。

「あぁ、そうだ。神秘は刻一刻と消失しゆく中、権能など振るえば間違いなく抑止力が働く。じゃが、それは働かない。同じく星の意思の系列に属する精霊種に対して、それは働かない。そも前提として、我らは鬼種等では無いのだから。我らは神の御使い。伝承における、“天使”と呼ばれる存在。その末裔なのだ」

 

 

second prologue

 

曰く、伝承における天使とは、神の御使いである。創世記、世界創造のその際、神々の手足となって、7日間で世界を創造した。彼らは原初の人類に仕え、被造物として、その指名を全うした。

創世の創造、とは、この世界における万物の創造の起源である。故、彼らが司る権利は“物質・非物質生成”、“時間概念応用操作”、“現象創造”、などが挙げられる。

あぁ、しかし、悲しきかな。如何な彼らと言えど、神の去ったこの世界に、彼らの存在は許容出来なくなった。況してや、生命として生態系に与していない、概念的収束存在、実像幻想たる彼らの存在は、精霊種として、西暦以降の地球上での活動が困難になった。故に混じった。人々と交配した。善概念しか知りえない彼らは、人々と交わることで初めて“悪”を理解する。善と、善悪が混ざるなら、悪が勝る。これは、道理だ。数式的な表現で示すなら、((-1)×(+1))×(+1)。これが示すとおり、最後にはマイナス要素が残る。そうして、善性概念より生まれた存在が新たな悪性幻想種。―――それを、私は“鬼”と呼ぶ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。