IS【Three Heroes ~白・黒・灰~】 作:オブライエン
――――紅。赤。緋。赧。朱。赩。赫。赭。赬。
全てを飲み込み、全てを染める、永遠の紅。
全てを焼き尽くすまで決して消える事のない、人類の罪が具現した炎は全てを灰燼に変えて行く。
彼女と共に過ごした思い出ごと、その紅蓮の焔は全てを包み込んでいく。
護るべきはずだった彼の『全て』を、真紅の獄炎が呑み込み、この世から焼失させていった。
――――その絶望(ほのお)の名は、破滅の枝(レーヴァテイン)
『最凶のインフィニット・ストラトス』と呼ばれた存在が放つ、究極にして絶対の力だった。
今まで彼が見てきた数多の兵器など、この焔の前には影絵の武器に等しい。
ひとたび放たれれば、確実に全てを内から溶かすように燃え散らす。それは、決して消える事のない永遠の炎。その炎に燃やせぬ物など、この世には存在しない。
泣き叫び逃げ惑う人々も、武器を取り決死の覚悟で戦う戦士達も、彼の仲間達も……最強の兵器と呼ばれた『IS(インフィニット・ストラトス)』すらも何の例外もなく燃やし尽くす、究極の炎。
「■■、■――――」
彼は最愛の人の名を呟くも、その言葉に、彼女はもう応えてはくれなかった。
不器用でどうしようもないほど鈍い自分を愛してくれた。本当は寂しがりやのくせに強がりで、自分の背を守ると誓ってくれた強く優しく、そして弱い。美しい女性だった。
けれどその笑顔も、言葉も、もう二度と見ることはない。覆すことの出来ない、たった一つの真実。
―――――彼女は、死んだのだ。
「■■■っ――――――!!」
最愛の人の亡骸を抱きしめながら、彼は絶望した。
彼女の存在こそが唯一自分の人生に価値を与えてくれたのだと、彼は理解していたのだ。彼女の存在がいつも戦いの渦中に自分を癒してくれた。いつしか、彼女の隣が自分の変えるべき場所になっていた。
そんな彼女を……人々を、破滅の枝の焔は、無慈悲なまでに蹂躙し、ひたすらに全てを焼き尽くした。
何の罪もない人々を巻き込みながら、彼らの人生もその魂の叫びも否定するように、破滅の枝の炎は命を糧に大きな豪炎となって彼に襲い掛かかる。
その手に、かつて彼女を象っていたリボンを握りしめて、自身を呑み込むであろう破滅の枝の炎を前にしてただひたすら涙した。
絶望に心を砕かれ、止めどなく溢れる涙もまた燃やし尽くす炎を前に、彼女の温もりが残留しているこの束の間を最後まで噛み締めるように、彼はその場に立ち尽くした。
――――護るべき、最愛の人の『死』
それはただ、単純に彼が無力であったため。
『最凶のインフィニット・ストラトス』と呼ばれた存在から、大切な人を守れないような、ちっぽけな存在だったからだ。
「……俺を、殺すのか?」
ひび割れたような笑みを浮かべ、この世全てを燃やし尽くす炎を纏った『最凶のインフィニット・ストラトス』は彼へ向け、その獄炎を放った。
自身に迫る避けようのない絶対的な死の力を知覚した彼は、小さく、だが、確かにこう口にした。
――――生きてやる。
▼
「どこだ、ここ?」
彼――織斑一夏は道に迷っていた。彼は中学三年。受験の真っただ中にいた。私立藍越学園を受験しに多目的ホールに来ていたのだが、無駄に複雑に作られた構造のせいで完全に迷ってしまっていた。
――中学三年になって迷子になるとは、恥ずかしい、死にたい。
「ええい、こうなれば片っ端から開けて行ってやる。それでだいたい正解なんだ」
一夏は取りあえず、一番に近い位置にあった扉を取りあえず開けた。やたらと広い部屋だった。天井もやたらと高い。明らかに試験会場とは関係なさそうな部屋だったのですぐ立ち去ろうと思ったが、部屋の中央に鎮座している物が目に留まった。
それは、一言でいれば中世の鎧だった。厳密に言えば細部は甲冑とは違うがそれに似た印象の『何か』が置いてあった。それは、人型に近いカタチをしていて、自身を使う主が現れるのを静かに待っていた。
一夏はこれを知っていた。というより、それを知らない人間は世界にいないだろう。――これは、『IS』だ。
インフィニット・ストラトス。通称IS。宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ。しかし、その性能は現存するあらゆる兵器を超えており、当初の目的とは異なり兵器として側面を強化されることになる。現在では各国の思惑から『スポーツ』にと落ち着いた。一種の飛行型パワードスーツだ。
しかしこの『IS』には致命的な欠陥があり、それが原因で一夏にはなんの意味もない存在になっている。
「男は使えないんだよな、これ」
そう、ISは女性にしか使えない。原因は不明だがISは女性以外には反応しないのだ。故に、最強の兵器であるISを使える女性が偉いという図式が成り立っており、今の世は女尊男卑の世界になっている。
だから、一夏の前にあるソレは一夏にとってマネキンと変わりない。動かない、何もしない、できない、ただの置物だ。そのつもりで、何気なく触れた。
――――指先が触れたISに触れた瞬間、キンっと金属質な音が脳内に響いた。
そして脳におびただしい量の情報が雪崩れ込んできた。知りもしないはずのISの基本動作、操縦法、性能、特性、冤罪の装備、活動限界時間、行動範囲、センサー精度、レーダーレベル、アーマー残量、出力限界――――
まるで、長年熟知したものように、鍛錬した技術のように、全てが理解、把握できる、
そして視覚野に接続されたセンサーが直接意識に作用して、視界を作り替えていく。その中で、一夏は不思議なビジョンを見た。
――――鮮血のような赤い炎に包まれる町。そして、その中でこと切れた女性を抱きしめながら慟哭する一人の男。
(……なんだ、今のは?)
突拍子もない映像に疑問を持つ一夏だったが、脳に次々に流れ込んでくる情報にそれも押し流されていった。そして、ISが主の到来を喜ぶかのように一人手に一夏の身体に装着されていく。
世界で唯一の『男性IS操縦者』の登場。
そして、謎のビジョン。
この日を、境に少年、織斑一夏の『世界』は文字通り一変することになる。
次からようやく本編です