「うわー! すごいお屋敷だねー!」
「うんうん、これは相当悪い事をしているに違いないよ!」
あたし達の目の前には大きな屋敷がそびえ立っていた。
すずかちゃんの実家であり、なんちゃって吸血鬼の“夜の一族”の総本山である。
「もう、お姉ちゃんってば、そんなこと言ったらダメだよー!」
「でもね、真面目に働いているだけで、こーんなお屋敷が立つなら、今頃『翠屋』は世界一の大きなケーキ屋さんになっていると思わない?」
「うっ!? それはそうかも知れないけど」
「アリシア、世の中はね。正しい事だけで回っているんじゃないんだよ。どんな手を使っても“勝った者”が正しいとされる世界なんだよ。アリシアは頭が良いから分かるよね」
「う、うん。分かりたくないけど、分かるよ」
流石はあたしの妹は理解が早いね。
「だから、すずかちゃん家の豪邸も弱いものから吸い上げたお金で建てているんだよ。あたし達も見習って、将来はお金持ちになろうね!」
「えと、あの、それは見習うべきなのかな?」
「ふふ、アリシアも美味しいものは食べたいよね?」
「うん、美味しいものは大好きだよ!」
「可愛い服だって着たいよね?」
「うん、可愛い服も大好きだよ!」
「お姫様みたいにお城のような所に住みたいよね?」
「うん、お姫様になりたい!」
「お休みの日には色んな所に旅行に行きたいよね?」
「うん、色んな景色を見てみたい!」
「その為には、すずかちゃん家を見習って、法の隙間を掻い潜り、悪い事をしながらお金を稼ごうね」
「うん、すずかちゃん家みたいに悪い事をしてお金を稼ごうね!」
よしよし、アリシアは理解してくれたようだね。
現代社会ではお金が大事だって事を!
「にゃはは、あたしってば教育者の才能もあるみたいだね!」
「幼い子供を洗脳しているだけだと思われます。それと当家の前で当家を侮辱するような言動は、謹んで頂けますようお願い致します。」
ノエルさんが迎えに来てくれたよ。
この人は月村家のメイドさんだ。
「ほら、本物のメイドさんだよ。すごいよね、自宅にメイドさんが居るんだよ」
「ほわー、やっぱり悪い事は儲かるんだねー!」
「単に悪い事をすれば儲かるわけじゃないから気をつけるんだよ。グレーゾーンを見極めて、薄く広く稼ぐ方法を見つけなきゃいけないからね」
「うーん、難しそうだね」
「もちろん難しいよ。だからお金持ちは少ないの。あたし達もお金持ちになる為には、いっぱい勉強して賢くならなきゃいけないんだよ」
「うん、勉強いっぱいして、私賢くなるよ!」
「うんうん、アリシアなら賢くなれるよ」
ふふ、小さい子は素直で可愛いね。
あたしはアリシアの頭を撫でながら微笑ましい気持ちになる。
「恐れながら、なのは様の教育内容は小さな子には宜しくない影響を与えると愚考いたします」
「そんな事はないよー!世の中はね、そんな綺麗事だけじゃ生きていけないんだよー!」
「うぅ、アリシアってば、立派になったね」
この僅かな時間でも成長するなんて、我ながら自分の教育力が怖いほどだね!
「……悪魔に唆される人を見た気分です」
*
「キューキュー!?」
「ほらほら、この子達みんな、ユーノとお友達になりたそうだよ!」
アリシアの周囲には、にゃんこ達が群がって、アリシアの頭の上のイタチを狙っていた。
その目は獲物を見つめる狩人の鋭さを持っている。
「あの、ユーノ君を助けなくていいの? アリシアちゃんってば、何か勘違いしているみたいだよ?」
「大丈夫だよ、ここのにゃんこ達はすずかちゃんがちゃんと教育しているから得体の知れないイタチなんか食べないよ」
「うん、食べはしないだろうけど、オモチャとして甚振るとは思う」
「あはは、イタチには良い運動になるよー!」
普段はゴロゴロしてばっかりだから、こういう機会に運動をさせてあげなきゃね。
飼い主は、ちゃんと考えているんだよ。
「ユーノより先にあたしを助けろー!」
豪華なソファーの上で、あたしに押し倒されてクンカクンカされているアリサちゃんが叫んでいる。
「アリサちゃん、大声を出すのは淑女として恥ずかしいわよ」
そんなあたし達の姿を高そうな機材を使って録画していたすずかちゃんが、アリサちゃんの無作法を嗜める。
すずかちゃんの、撮影しながら顔を火照らせてハァハァ言ってる姿は、中々にグッとくるものがあるよね。
「すずかぁっ!! 今のあんたにだけは淑女うんぬん言われたくないわよっ!!」
アリサちゃんが更に叫ぶ。手足も振り回すから少し汗をかき出してるよ。
「アリサちゃん、あんまり騒ぐと汗をかいちゃうよ」
「あんたが離せば騒がないわよっ!!」
「あぁ、アリサちゃんの匂いが強くなってきたよぉ」
「ノエル、私の代わりに録画をお願いっ、私もアリサちゃんの匂いを嗅ぐ!!」
「お任せ下さい。お嬢様」
「ちょっ!? あんた達っ、冗談はこのぐらいにしなさいよ! いい加減にしないと怒るわよ!」
「クンカクンカー!」
「私にもクンカクンカさせてーっ!!」
「お嬢様が輝いています」
*
怒られました。
今日はもう真面目にいこうと思います。
「ふふ、イタチがあんなに元気に走り回っているよ。連れてきて良かった」
「そうね、ウチの子達もあんなに生き生きと追いかけているわ。もう、仲良しさんね」
「あんたらの目は腐ってんじゃないの? あたしには肉食獣の群れから必死に逃げる小動物にしか見えないわよ」
大きな屋敷の中を縦横無尽に走り回るイタチとにゃんこ達、そのほのぼのとした光景を見ながらのお茶は格別だよね。
「アリシアは遊び疲れて寝ちゃったね」
「アリシアちゃんって、少しアリサちゃんの小さい頃に似ているよね。性格以外」
「すずかちゃんもそう思うんだ。あたしも思ってたんだ。それに名前も似ているよね。性格は似てないけど」
「ふふ、他人なのに不思議だよね。二人が寄り添っていると姉妹にしか見えないもの。性格は完全に他人だけど」
「妹としては、素直で純粋なアリシアが可愛いよね。ツンデレのアリサちゃんが妹だったら少しウザいかもだね」
「うっさいわよあんたら!! 全く反省してないじゃないの!!」
コブシをブンブン振り回して追いかけてくるアリサちゃん。
「ひぃっ!? アリサちゃんが本気だよっ、すずかちゃんの責任なんだから止めてきてよ!!」
「何を言っているんですかっ!? どう見ても、なのはちゃんの責任分担の方が大きいですよ!!」
キャアキャア逃げ惑うあたし達を、いつの間にか目を覚ましていたアリシアが、楽しそうに眺めていた。
いや、楽しそうなのはいいんだけど、アリサちゃんを止めて欲しいんだけど!?
あたしの助けを呼ぶ声にアリシアが反応してくれた。
「うん! 私に任せて!」
アリシアはメイドさんから割り箸をもらうとニタリと嗤う。
ブスッ!
アリシアは落ちていた、にゃんこのウン◯を割り箸で突き刺す。
ま、まさか、アリシアさん?
「お姉ちゃんは私が守る! 喰らえっ、にゃんこソード!!」
「「「いやぁああああっ!!!!」」」
あたし達三人は、にゃんこソードを片手に追いかけてくるアリシアから逃げ惑う。
「なんで屋敷の中の猫のウン◯を放っておくのよ! ちゃんと始末しなさいよ! 飼い主の義務よ!」
「だ、だって、量が多すぎて掃除が追いつかないんだもん!」
「それならすずかちゃんは慣れてるよね! 真剣白刃取りでアリシアからにゃんこソードを奪い取ってよ!」
「んなこと出来るかっ!! ふざけんじゃないわよっ!!」
「すずかちゃんがアリサちゃん化したっ!?」
「あたしはそんなに乱暴な言葉使いじゃないわよ!」
「キャハハハッ! にゃんこソード!にゃんこソード!!にゃんこソードォオオオッ!!!!」
「ひぃっ!? アリシアまでアリサちゃん化しちゃったよお!?」
「あんたの中のあたしはどんなイメージなのよ!?」
「アリシアちゃんがあんなになるなんて、ストレスが溜まっていたのかしら?」
「幼稚園児なんてあんなものでしょう! うん◯うん◯言わないだけマシだわ!」
「でも、普段は大人しいアリシアが、あんなに楽しそうにはしゃぎ回るなんて…ホロリ」
「ホロリじゃないわよ! いい加減何とかしなさいよ! あんたの妹でしょうが!」
「うーん、とは言われても完全にバーサークしちゃってるし」
キャハハハッと笑いながら追いかけてくる今のアリシアに言葉が届くとは思えない。
どうしたものかな? と考えているとイタチから念話が届いた。
『大変だよ、なのは!』
『どうしたの? 尻尾でも食べられちゃった?』
『怖いこと言わないでよっ、そうじゃなくて、ジュエルシードの反応があったんだよ!』
『ジュエル…シード……って、何?』
『忘れないでよぉおおおおっ!? 』
『じょ、冗談だよ。あれだよね、ナントカがナントカで、ナントカに反応してナントカになるナントカが危ない宝石だよね!』
『ほとんど覚えてないよね!?』
いやいや、イタチの妄想設定は覚えていないけど、ジュエルシードは覚えているよ。
あたしの漏れ出た魔力を吸収した宝石で、その魔力の影響で周囲に悪影響を及ぼしているんだよね。
最近はアリシアの事があったから放置気味だったけど、ジュエルシードの回収はしなきゃいけないと思っている。
『とにかく、僕が案内するから付いてきてっ!』
イタチは、にゃんこ達の追跡を振り切り、裏庭へと飛び出して行った。
「イタチが裏庭に飛び出して行ったわ! イタチはあたしが追いかけるから、二人はアリシアと遊んでいてあげてね!」
「ちょっと待ちなさい! 一人だけ逃げるなんて許さないわよ!」
「裏切り者には死あるのみですよ!?」
「アリシアッ! ターゲットはアリサちゃん&すずかちゃんよっ! サーチ&デストロイ! サーチ&デストロイよ!!」
「イエスマム! サーチ&デストロイ! サーチ&デストロイ!!」
アリシアの瞳が妖しく輝く。
懐から取り出すは、もう一本の割り箸だった。
ブスッ!!
「にゃんこダブルソード!!」
「いやあっ!? なのはっ、あんた後で覚えていなさいよ!!」
「にゃんこは可愛いけど、うん◯はイヤァアアアアッ!!!!」
逃げ惑う二人と、追いかける一人はアッという間に視界から消えていった。
「ふっふっふ、後が怖そうだけど、とりあえずオッケイだね」
あたしはイタチを追いかけて裏庭に向かった。
*
「にゃぉおおおおおん!」
「きゅーきゅー!?」
裏庭では、巨大猫にイタチが遊ばれていた。
「仲よさそうだね」
「そんなわけ無いだろ!? 早く助けてよ!」
巨大猫の前足でゴロゴロされていたイタチは、案外と元気そうだった。
にゃんこ軍団に追いかけ回されて鍛えられたんだろう。
やっぱり適度な運動は有効だね。これからは定期的に連れてこようと思う。
「あれ、何だか寒気がする?」
「気のせいだよ、今日はけっこう暑いよ?」
「う、うん。そうだよね。気のせいだよね(ブルブル)」
巨大猫は暴れることもなく、イタチをゴロゴロしているだけだ。
これなら放っておいてもいいかな? と思わなくもないけど、やっぱりダメだよね。
でも痛いのは可哀想だから、ザキでコロリと逝かせてあげよう。
巨大猫の近くにイタチがいるけど…まあ、大丈夫かな?
そして、あたしが呪文を唱えようとした瞬間の事だった。
突然、あたしの足元に魔力弾が着弾する。
「え…?」
攻撃されるまで気付かなかった。
強大すぎる魔力を持つあたしの弱点はコレだった。
自分と比べて、余りに小さすぎる魔力だと気付くのが遅れてしまうのだ。
もっとも、そんな小さな魔力で攻撃されてもダメージなんか受けないから、弱点といっても致命的といえる程じゃない。
「でも、攻撃されたら腹が立つよ」
あたしは怒りのオーラを…出さなかった。
「そのジュエルシードは渡さない」
あたしに魔力弾を放った相手は、闘志を露わにして空から降りてくる。
彼女の風になびく髪は黄金色だった。
全身を包むのは、黒色で露出度の高い水着みたいな服だ。仄かに痴女の疑いが感じられる。
赤黒のマントは厨二病の匂いがする。
手にした鎌は、死神でもイメージしているのだろうか?
そんな彼女はまるで、少しばかり成長の方向性を間違えてしまった数年後のアリシアに見えた。
「うん、アリシアの教育は見直した方がいいかも」
このまま成長すれば“こうなる”という実例を見せつけられたあたしは、アリシアの教育は、普通の少女になるための教育に方向転換をする決意を固めた。
「ねえ、聞いているの? ジュエルシードは渡さないよ」
反面教師の彼女は、ジュエルシードが欲しいみたいだね。
さっきは攻撃されてムカついたけど、アリシアの数年後みたいな姿を見たら、そんな怒りなんか吹っ飛んじゃうね。
アリシアが厨二病になっちゃったら大変だけど、他人の空似さんだったら別に構わない。
逆に面白くて、気に入っちゃった!
「うん、いいよ。ジュエルシードなんかあたしは要らないからあげるよ」
「あれ、そうなの? 貴女はジュエルシードを集めているんじゃないの?」
彼女はキョトンとした顔になる。
「違うよ。まあ、危険だから見つけたら封印はするけど、別にジュエルシードなんかいらないよ」
「なんだ、そうなんだ。良かった、戦わなくて済んだ」
ホッとした顔になった彼女は、根は優しい子なんだろう。
そんな彼女が、どうしてジュエルシードみたいな危険物を欲しがるのかな?
「ねえ、ジュエルシードは中途半端な魔力石だけど、そんな物が必要なの? なんだったらあたしがもっといい魔力石を作ってあげるよ?」
「えっ、本当に!?」
「うん、あたしにとっては簡単な事だもん。ほら」
あたしは落ちている石コロを拾うと、その石コロを原子レベルから変質させながら魔力を込めていく。
「ウソ…ジュエルシードの何十倍もの魔力が込められているわ」
「ほらね、こっちの方がジュエルシードなんかより安定度も威力も上よ」
彼女に作ったばかりの魔力石を手渡す。
「これをあげるから不安定なジュエルシードは封印するわよ」
本当は処分するんだけど、一応は集めてイタチを納得させてから処分しようと思っている。
だって、妄想設定を中途半端なままにしておくと切りがないから、一度決着を付けてあげないといけないのだ。
本当に飼い主は大変だよ。
アリシアに似ている少女は、渡された魔力石を呆然と見つめていたと思ったら、いきなり抱きついてきた。
「ありがとう! これならきっと母さんも喜んでくれるはずだよ!」
アリシアに似ているから、つい過剰に親切心を出してしまったが、どうやら彼女は母親の命令でこんな事をしているみたいだ。
おそらく彼女はあたしと、あまり年は変わらないだろう。そんな彼女に危険なジュエルシード集めをさせるなんて、お説教が必要だね!!
そうと決まればサッサとこの場は収めよう。
あたしは巨大猫にローリングソバットを喰らわせて沈めると、ジュエルシードを封印する。
そして、アリシア似の少女に問いかけた。
「ねえ、貴女の名前はなんて言うの?」
「あっ、ごめんなさい! まだ名乗ってなかったね。私はフェイトだよ。フェイト・テスタロッサが、私の名前だよ」
そう言って笑う彼女は、やっぱりアリシアに似ていた。
アリシア似の謎の少女フェイト。
彼女の母親の正体とは!?
そしてその目的とは!?
驚愕のフェイトの隠された真実とは!?
謎が謎を呼ぶ波乱の超展開!!
次回っ、『宇宙のど真ん中でイタチが屁をこいた!?』乞うご期待!!(嘘)