リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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今話では大魔王様が初めて戦闘で負傷してしまいます。
苦戦する大魔王様なんて大魔王様じゃない!と思われる方は、読まないことをお勧めします。
あと、強殖装甲とは「強殖装甲ガイバー」のことです。長期連載している名作です。アニメにもなっています。皆さん、ご存知ですよね?


大魔王と強殖装甲

ある日、お空の散歩に飽きたからトラックの上でお昼寝をしていた。

 

走るトラックの振動が心地よくて気が付くと真夜中になっていた。

 

「やっちゃったあ、お母さんに怒られちゃうよ」

 

どんな言い訳をしようかな? と考えていたらトラックが山の中で止まった。

 

「こんな所で止まって、どうしたのかな?」

 

運転手が野グソを始めたら嫌だなあ。と思い、あたしがルーラで帰ろうとしたときだった。

 

 

“バタン!”

 

 

「てエメッ! 素直に持っているモンを渡しやがれ!」

 

トラックのドアを荒々しく開けて出てきた運転手が、助手席の男を引き摺りだした。

 

おおっ、これは揉め事だね!

 

平和な日本だといっても、完全に犯罪がないわけじゃない。

 

犯罪現場に遭遇することは稀だけど、確実にこの日本でもこういった事件は起きている。

 

「その鞄の中身はどうせ麻薬かなんかだろう? 素直にこっちに渡しな」

 

ガラの悪そうな運転手が、助手席にいた薄汚れた男を脅しているみたいだね。

 

「これは、お前が思っているような物じゃない。これは…機械……のような物だ」

 

「はぁ!? なにを巫山戯たこと言ってやがる!」

 

ククク、最近はすっかり丸くなったあたしだけど、偶にはこんな荒事もいいよね。なんだか血が騒ぐよ。

 

そして、あたしが出るタイミングを計っていると、薄汚れた男がブツブツと言いながら怪物へと変貌していく。

 

「なあっ!? なんだその姿はっ!!」

 

おおっ、ただの強盗事件かと思ったのに、これは予想外の展開だよ!

 

怪物は運転手を容易く屠った後、元の姿に戻ると鞄を拾おうとする。

 

 

キュピーン☆

 

 

あたしの高性能な第六感が、あの鞄にビンビンに反応しているよ。

 

【アクシオ】(呼び寄せ呪文)

 

鞄が浮き上がり、あたしの手元に飛んでくる。

 

「なんだ、鞄が勝手に!?」

 

怪しい鞄、ゲットだよ!

 

えへへ、怪物が守っている鞄だなんて中身が凄く気になっちゃうよね。

 

怪物の実力は大したことなさそうだからスルーしてあげる。見た目が気持ち悪いタイプの怪物だからペットにもしたくないしね。

 

何処にでも行っていいよ。

 

「巫山戯るなっ!! それを返せ!!」

 

男は再び怪物に変身すると、目の前の無垢なる少女に襲いかかる。

 

これは文字通りの美女と野獣だね!

 

野獣の腕が力任せに美女に向かって振り下ろされる。

 

だけど、美女の動きの方が速かった。

 

美女は虚空から“真・光魔の杖”を引き抜くと魔力刃を発生させて怪物の腕を斬りとばす。

 

「ガアッ!?」

 

怪物は激痛に驚き、後ろに飛び退く。

 

だけど、美女もその動きについて行くよ。

 

せめてもの手向けに美女の手で地獄に送ってあげるね。

 

「これで終わりだよっ、カラミティエンド!」

 

「うわぁああああっー!!!!」

 

“ペチン”

 

「あ、あれ? やられてないぞ?」

 

「うぅ…痛いよー」

 

大魔王の強靭な身体と違い、か弱く繊細なこの身体が耐えられる程度の闘気を込めたカラミティエンドは卑劣な怪物に跳ね返された。

 

今の衝撃で手首を捻挫したかもしれない。

 

「やるわね! だけど、肉を切らせて骨を断つことには成功したわ。あたしの方が優勢よ!」

 

あたしは手首を捻挫したけど、怪物は片腕を失った。ダメージは向こうの方が上だ。

 

前世を含めれば数千年に及ぶ戦闘経験は伊達じゃない。

 

たかがトラックを襲う怪物に戦闘での駆け引きで後れは取らないわ。

 

「いや、手首の捻挫は自爆じゃないのか?」

 

うっさいわね。

 

思ってた以上にこの身体が脆かっただけだよ。

 

人間やナンチャッテ吸血鬼相手だったら、闘気で強化すればこの身体でも不足はなかったけど、流石に本物の怪物相手だと荷が重いみたいだ。

 

思えば今世で初めての負傷だよ。

 

あたしはズキズキと痛む手首を押さえながら、思わぬ苦戦に苦笑する。

 

【ホイミ】

 

捻挫が治った。

 

「まあ、この程度なら簡単に治るんだけどね」

 

「なんだそりゃあ!? 卑怯だぞ!!」

 

ふふん、負け犬の遠吠えだね。

 

ちょっとばかり身体が硬いだけの怪物なんか敵じゃない。

 

あたしは素手に拘らなくても“真・光魔の杖”を使えば斬り捨てられるし、魔法を使えばもっと簡単に終わる。

 

ただ…ちょっと悔しいだけだ。

 

「鞄の中身をみせてもらうわよ」

 

「うぅ…」

 

怪物を横目にしながら鞄を開けると、中には円盤型の機械のような物が三つ収められていた。

 

「……一つだけで勘弁してあげる」

 

あたしは一つだけ手に取ると鞄を閉じて怪物に向けて放り投げる。

 

「ど、どうしてだ?」

 

鞄を受け止めた怪物は不思議そうにあたしを見つめていた。

 

「ただの気紛れだよ」

 

そう、これはただの気紛れだ。

 

このあたしに初めて手傷を負わせた相手なのだから、この程度の気紛れを起こしてもいいと思う。

 

「これはついでだよ」

 

【ベホマ】

 

「うぉお!? これは!?」

 

怪物も片腕だと不便だろう。

 

あたしは特別にベホマを唱えてあげる。

 

この大魔王のベホマなのだ。失われた腕の再生どころか怪物の全てを癒すことだろう。

 

あれ、怪物から人間に戻っていくけど、さっきとは戻り方が違うような?

 

「こ、こんな事があるのか? 元の身体に戻っているだと? お、俺は人間に戻れたのか? う、うう…うぁあああああああーーーーん!!!!」

 

男はまるで子供のような大声で泣きだした。

 

彼の目からは滝のような涙が流れ、鼻からは無限に湧き出る泉だと言わんばかりの勢いで鼻水を放出し続けていた。

 

ねちょり。と粘つくヨダレが、男の泣き顔を彩るアクセントになっている。

 

 

【バシルーラ】

 

 

非常に気持ち悪い男は、空の彼方に消えた。

 

めでたし、めでたし。

 

 

***

 

 

あたしの手元に残った機械を解析した結果、これは有機体による強化スーツのようなものだと判明した。

 

なるほど、超魔生物のように自分の身体そのものを改造するんじゃなくて、鎧のように纏うことで身体能力を強化するんだね。

 

しかも、強化だけじゃなくて、各種武装に生命維持機能も備えている優れものだった。

 

だけど問題もあった。これを制御しているコントロール部分が破損すると有機体が暴走するようなのだ。

 

それにコントロール部分には外部とのリンク機能もあるため、下手に装着したら外部からの影響を受ける可能性が高い。

 

「うん、これ自体は使い物にならないね」

 

危険性のあるものを態々使う必要はない。

 

見本があるんだし、危険性を低下させたものを自分で作ればいいだけの話だ。

 

うん、あたしはこの有機体による強化の設計思想は有用だと思うよ。

 

魔法や闘気で身体機能を無理矢理に上げると、どうしても身体の負担が大きい。

 

あたしみたいに華奢な女の子だとその負担が特に大きいし、また強化の上限の問題もある。

 

有機体による身体機能と防御力の上昇のみに機能を限定すればコントロールも容易になり、あたしなら専用の制御機能は不要だろう。

 

よし、そうと決まれば早速作ってみようっと。

 

 

***

 

 

「また現れたのか! ショッカーめ!」

 

十数人の怪しい男達に囲まれながらも、その少年は臆することなく対峙していた。

 

彼の名は、深町晶(ふかまち しょう)、ごく普通の男子高校生だった。そう、つい最近まではだ。

 

それはある深夜のことだった。

 

彼の自宅の屋根を突き破って、彼の部屋に怪しい鞄が突っ込んできた時から彼のヒーロー人生が始まった。

 

彼は親しくしている先輩(もちろん、むさ苦しい男の先輩だから全国の男子高校生達は安心してくれ。綺麗な女子の先輩なんかじゃないから、深町君を妬む必要なんかないぞ!)と謎の鞄を開けてみた。

 

何故、一人で開けなかったというと深町君は割とビビリな所があるごく普通の男子高校生だからだ。

 

謎の鞄からは、円盤型の機械のような物が出てきた。

 

「えらくごっついフリスビーですね、先輩!」

 

「そうだな、恐らくはプロ用のフリスビーだと思うぞ。俺も初めて目にしたから断言はできんがな」

 

深町君は、飛来してきた鞄から出てきたから、中身も空を飛ぶものだろうと推測した結果、ついフリスビーだと口走ってしまった。

 

そして、自分に懐いている可愛い後輩(彼の名誉のために言っておくがホモ的な意味ではないぞ)の深町君が言い切った事を否定できるほど彼は──瀬川哲郎(せがわ てつろう)は空気の読めない男ではなかった。

 

たとえ、腹の中では『こんな重いフリスビーがあるか!』と、突っ込んでいても瀬川先輩は口には出さなかった。

 

「じゃあ、先輩、折角だから公園に行ってこのフリスビーで遊びましょうよ!」

 

明らかに金属に覆われているブツを投げ合う。

 

瀬川先輩は血みどろになった自分達のごく近い未来の姿を幻視したが、『これも青春の1ページだよな』などと、その恰幅のいい(決して肥満体だとは本人が認めないので、このような表現をしております)体格と同じように、デカすぎる器を見せつけるように笑顔で了承した。

 

「おう、いいぞ。いつもの公園でいいよな」

 

瀬川先輩はそう言い放つと、フリスビー(深町君談)に手を伸ばす。

 

“カチ”

 

その伸ばした手から全ては始まった。

 

「うわっ!? なんだこれは!!」

 

フリスビー(深町君談は誤りの可能性が高まった)に触れた手が、何かのスイッチに触れたような音を立てると、フリスビーから粘つく気持ち悪い物体Xが飛び出して瀬川先輩に襲いかかった。

 

「先輩っ!?」

 

深町君は、物体Xに全身を覆われた瀬川先輩を見て思った。

 

『先輩が死んだ! だけど、安心して下さい! 先輩の妹の瑞紀(みずき)ちゃんは僕が幸せにしてみせます!』

 

深町君は尊敬する先輩が安心して旅立てるようにと、先輩の妹にして自身の幼馴染でもある瑞紀の事を請け負うことを男らしく誓う。

 

“フシュゥウウウウウウウッ!!!!”

 

だが、深町君の誓いは無駄に終わった。

 

完全に粘体に覆われて沈黙していた瀬川先輩が、荒々しい呼吸音をたてながら復活したのだ。

 

瀬川先輩を覆っていた粘体はいつの間にか干からびていた。

 

それを中から破って、瀬川先輩は復活したのだ。

 

もちろん、深町君は反射的に叫びまくる。

 

「瀬川哲郎、復活!!」「瀬川哲郎、復活!!」「瀬川哲郎、復活!!」「瀬川哲郎、復活!!」「瀬川哲郎、復活!!」「瀬川哲郎、復活!!」

 

だが、深町君が復活した瀬川先輩の姿をハッキリと認識した瞬間、その叫びは止まった。

 

「先輩…そ、その姿は……?」

 

瀬川先輩の全身を包むのは、まるで昆虫を思わせるようなフォルムをした全身スーツと仮面だった。

 

その姿は、正義のヒーロー仮面ライダーに似ていると、特撮好きの深町君の心を激しく揺さぶった。

 

「はっ!? これは僕の物だぁあああっ!!!!」

 

変身した先輩の姿に激しく感銘を受けた深町君は、鞄に残っていたフリスビーもとい、仮面ライダー変身ユニットを誰にも渡さないといわんばかりに猛スピードでユニットに飛びかかった。

 

「へんっしん!!」

 

“カチッ”

 

ちゃっかりと瀬川先輩が押した部分を見ていた深町君は、自分の運命を変えるスイッチを喜び勇んで押してしまう。

 

こうして生まれた正義のヒーロー二人は、運命が導くように現れた謎の集団と戦う日々が始まった。

 

ちなみに、深町君が襲い来る組織をショッカーと呼ぶのは、初めて彼らに襲われた日の前日に、初代ライダーの動画を見ていたからという事は、口にするまでもない常識だろう。

 

そして、襲いかかった彼らも『いやいや、私達はショッカーという組織ではなくてですね、クロノスという組織の者なんですよ』などと、馬鹿正直に名乗るわけもないために定着してしまった。

 

こうして生まれた二人のライダーは、正義を守るために日夜戦い続けていたのだ。

 

 

そして、今日は運悪く深町君が一人になった時にショッカーに襲われてしまった。

 

だが、正義のライダーが一人で戦い勝利することはお約束なのだから、深町君は一人でも臆することなくショッカーをブチのめしまくっていた。

 

ある程度、ショッカーの戦闘員の数が減ったことを確認した深町君は止めの必殺技を繰り出す。

 

深町君は、胸部装甲に手をかけると一気に開く。

 

内部には正義のエネルギーが充填されている。

 

「くらえっ、正義のおっぱいビィイイイイーームゥウウウウウウウッ!!!!!!!」

 

男のロマン溢れる極太おっぱいビームが、一瞬の抵抗も許さずに戦闘員達を蒸発させていった。

 

そこはライダーキックだろ!!とか、そんなのライダーじゃねえ!!などといった苦情は深町君は受け付けない。

 

彼は特撮ファンではあるが、純粋なライダーファンではないからだ。

 

そしてなんといっても、彼は健全で健康な男子高校生なのだ。

 

おっぱいに興味津々なのだ。

 

おっぱいビームもやむ無しだろう。

 

「ふっ、正義は勝つ!」

 

決めポーズをとる彼は輝いていた。

 

後は、瀬川先輩の目を盗んで、幼馴染の瑞紀をヒロインに引きずり込むだけだ。

 

いけいけ、深町!!

 

ゴーゴー、深町!!

 

日本の正義は君にかかっているぞ!!

 

 

***

 

 

日本クロノス支部は恐慌状態に陥っていた。

 

日本支部が総力を挙げて発掘した降臨者の遺産を奪われてしまったのだ。

 

犯人は行方不明だが、遺産を手に入れたと思しき者達は運良く見つかった。

 

というか、街中を異形の姿で走り回っていた二人組を見つけられないわけがなかった。

 

見つけた瞬間は日本支部は歓喜に包まれたが、すぐにそれは絶望へと変貌した。

 

ただのバカだと思われた二人組を捕らえようとした戦闘員達が全滅したのだ。

 

つまり、途轍もなく強いバカ達だったのだ。

 

これほど手に負えない存在はないだろう。

 

他人を殺める苦悩を感じず、異形に対する恐怖もなく、街中でも平気で大量破壊兵器を使用するバカ二人。

 

今のクロノスは雌伏の時期だ。下手に目立つわけにはいかなかった。

 

まだ相手が一人だったなら、狙う隙もあっただろう。

 

だが、二人組だと隙がなかった。

 

戦闘員の被害が増大し、戦闘部門からの管理部門への苦情が殺到していた。

 

このままでは戦闘部門のストライキが発生しかねない事態にまで事態は追い詰められていた。

 

もう、降臨者の遺産は発掘していなかったことにすればいいんじゃないか?

 

そんな投げやりな意見が日本支部内での大勢を占めようとしていたとき、突然事態が動き始めた。

 

なんと、クロノス本部から獣神将(ゾアロード)達が揃って日本支部を訪れたのだ。

 

日本支部が誇る獣化兵(ゾアノイド)など比べようもない強者であり、クロノスにおける最高権力者達の来訪に日本支部はパニックになった。

 

そして精神的に追い詰められた一部の者達が暴走をして、バカ二人組を無断で襲った挙句にバカ二人組を連れたまま日本支部に逃げ帰ってしまったのだ。

 

ショッカーの本部だと思い込んでテンションの上がったバカ二人組は、普段よりも情け容赦なく暴れまわった。

 

その破壊活動は、とうとうテレビ放映されるほどに目立ってしまった。

 

ことここに至り、獣神将達はその重い腰をあげる決断をする。

 

獣神将の圧倒的な戦闘力は、バカ二人組をも上回った。

 

数で負け、実力でも負けてるバカ二人組は呆気なく追い詰められていく。

 

最早これまでかとバカ二人組が覚悟を決めたとき、獣神将のトップであるアルカンフェルがその姿を現した。

 

降臨者の手によって産み出された唯一の獣神将であるアルカンフェルの力は凄まじかった。

 

なにしろ、最近は引きこもって怪しい研究に没頭していた“彼女”ですら、その力に気付くほどの存在感を発していたのだ。

 

 

「なんだか面白そうな気配がするの!」

 

 

そして、彼女(大魔王)は動き出した。

 

 

***

 

 

高層ビル街から中ぐらいの力を発する存在を感じた。

 

宇宙人との戦争中でも、単体ではここまでの力は感じたことはなかったよ。

 

恐らくは、宇宙人の戦艦主砲クラスの攻撃力を持っていると思う。

 

突然の強敵の出現にあたしは運命を感じた。

 

何故、今のタイミングなのだろう?

 

もう少し前なら、あたしは魔法でこの敵をアッサリと倒しただけだろう。

 

もう少し後なら、“新しい力”の実験も済み、余裕をもって戦えただろう。

 

だけど、現実に強敵が現れたのは今だ。

 

研究していた“新しい力”が完成した直後だ。

 

不安なら魔法で戦う?

 

そんな思いは自分で否定する。

 

そんなことはありえないことだ。

 

このチャンスを逃せば、これほどの強敵が現れるのは、次はいつになるか分かったものじゃない。

 

「絶好の強敵(実験動物)を逃す手はないよね」

 

あたしは魔法に頼らない新しい力を手に入れた。

 

天の采配で手に入れた未知の細胞を元に完成させた武装――強殖装甲こそがあたしの新たな力だ。

 

強殖装甲は、肉体的には脆弱なあたしを、あの超魔生物をも超える存在へと、あたしの健康に害がない程度の負担だけで押し上げてくれる。

 

残念ながら、前世の肉体には及ばないけどそれは仕方ないと思う。そこまでを求めるのは贅沢だろう。

 

そして、あたしは待機状態の強殖装甲の起動スイッチを押した。

 

起動した強殖装甲から現れた強殖細胞が、瞬く間にあたしの全身を覆い尽くし、ある形となる。

 

そして、“ソレ”は急速に巨大化していき僅か数秒で完全体となった。

 

 

「アンギャアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

天を衝く凄まじい咆哮と共に現れたのは、太古の地球を支配した恐竜に似た姿だった。

 

あたしはこの強殖装甲の銘をこう名付けた。

 

大魔王の最強の鎧 “強殖装甲ゴジラ” と。

 

 

 

***

 

 

突如、現れた怪獣王ゴジラによって、高層ビル街付近の混乱は頂点を迎えた。

 

「アンギャアアアアアアアアアッ!!!!」

 

大気を震わす大咆哮。

 

高層ビル街を粉砕する強靭な体躯。

 

最強の怪獣王を前にしては、獣化兵ごときは木っ端に等しい。

 

獣神将ですら怪獣王が発する威圧感だけで格の違いを思い知らされた。

 

怪獣王の体長は100mを超える。

 

だが、大きさだけなら怪獣王に迫る巨大な獣神将が存在した。

 

彼は仲間達から、『いやこんな奴らは仲間じゃない!』と思う奴らに強制させられて怪獣王に立ち向かわされた。

 

「ゴォオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

怪獣王の口から放たれたのは、放射熱線に似たもっとヤバそうな破壊光線だった。

 

怪獣王に立ち向かわされた獣神将はアッサリと塵と化した。

 

その身もふたもない結果に呆然とする獣神将達だったが、すぐに正気に戻り逃げ惑うも、予定調和の如く次々と怪獣王に踏み潰されていく。

 

何故か転移や飛行能力を封じられていた獣神将達には絶望しかなかった。

 

だが、そんな絶望を打ち破らんと我等がアルカンフェルが立ち上がった。

 

他の獣神将達とは違い、飛行能力を封じられていないアルカンフェルは怪獣王の目の高さまで飛んでいく。

 

そして、アルカンフェルは問うた。

 

お前は何者なのだと。

 

“ベチンッ!”

 

怪獣王の尻尾攻撃!!

 

アルカンフェルに9999のダメージ!!

 

アルカンフェルを倒した!!

 

この日、謎の犯罪組織クロノスは壊滅した。

 

 

***

 

 

「えへへ、思ってた以上に強殖装甲ゴジラは強いみたいだね」

 

アリサちゃん達と観に行った怪獣映画を参考にして作った強殖装甲ゴジラは強力だった。

 

防御力の点については文句なしだろう。

 

ただ、ゴジラだと攻撃が大味すぎて面白みに欠けるからそこは要検討かな。

 

質量が大きければ大きいほど防御力は上がるからとゴジラを採用したけど、その代わり動きが鈍くなってしまった。

 

よく考えたら前世での最終決戦時もそうだよね。折角、力を解放して巨大化しても攻撃が大味になり過ぎたからそれが敗因に繋がった気がするよ。

 

「うん、強殖装甲は薄皮一枚程度で良いかもだね」

 

あたしの計算なら、薄皮一枚の強殖装甲だけでもクロコダイン並みの防御力になるはずだ。

 

別に肉体戦闘専門になる気は無いから、その程度に抑えてもいいだろう。

 

その場合は名称も変えなきゃだね。

 

さてと、早速、家に帰って改良しようっと!

 

帰宅するためルーラを唱えようとしたあたしは、ふと気付いて別の呪文を先に口にした。

 

 

【オプス・レパロ】(建物よ、直れ)

 

 

散らかしたまま放っておくと、アリサちゃん達に怒られそうだからね。

 

そして、あたしは姿を消した。

 

 

 

***

 

 

「先輩、どうやらゴジラは帰ったみたいですよ」

 

「ああ、俺達は生き残れたみたいだな」

 

瓦礫の隙間に隠れていたはずの深町君と瀬川先輩の二人は、突然何事もなかったかのように修復された街並みに驚きながらも、生き残れたことを神に感謝していた。

 

「先輩、僕はもう正義のヒーローを卒業しようと思います」

 

「そうか、奇遇だな。俺もだよ」

 

「あはは、気が合いますね」

 

「ふっ、そうだな」

 

長い戦いの日々だった。

 

運命の悪戯で、正義のヒーローという重荷を背負わされた若い二人にとっては苦難の毎日だった。

 

共に戦い、共に笑い、共に泣いた日々を思い出して、深町君と先輩は感慨深い想いにとらわれる。

 

「僕達は勝てたんですね、先輩」

 

「ああ、組織の実力者達は倒された。残っているのは雑魚だけだろう」

 

何度も窮地に陥った。その度に二人は勇気と知恵をもってその窮地を脱してきた。

 

だけど、今回ばかりはダメだと二人は感じた。敵の幹部達はそれ程までに恐ろしい相手達だったのだ。

 

しかし、二人は最後まで諦めなかった。みっともないまでに足掻いた。

 

最後の瞬間まで諦めなかった二人の執念が、最終的に奇跡を呼び寄せたのだろう。

 

二人は敵の幹部達に追い詰められた。そして遂には敵組織の首魁までもが姿を現した。

 

深町君は、せめて先輩を犠牲にしてでも自分だけは助かる手段を考えた。何故なら自分が助かれば、先輩が大事に思っている彼の妹を一生をかけて守れるからだ。

 

そこにあるのは尊敬する先輩への敬愛と、愛する幼馴染への純粋な愛情だけだった。

 

一方、瀬川先輩も考えていた。

 

それは同級生の多賀なつき(たが なつき)のことだ。

 

先輩は彼女に恋をしていた。

 

彼が部長を務めるSF研究会の部員でもある彼女は、妹以外では初めて彼に親しく接してくれた女の子だった。

 

普通なら女の子に笑いかけられただけで、『こいつ、俺のこと好きなんじゃね?』などと、勘違いするお年頃の先輩が彼女のことが気にならないわけがなかった。

 

自分に親しく接してくれて趣味も合う。しかも結構可愛いとくれば、男子高校生の面目にかけても恋をするしかないだろう。

 

いや、ここで彼女に恋をしないようなら、“瀬川先輩は深町君を狙っている説”が濃厚になること間違いない。

 

そんな彼女を残して逝くことなど、先輩には出来なかった。

 

どうせ彼女もいない後輩を囮にしてでも自分は生き延びてやる。と、先輩は決意した。

 

そこにあるのは、同級生の彼女への淡く純粋な想いだけだった。

 

深町君と先輩は、互いに背を預けながらも相手の隙を狙っていた。

 

こいつを犠牲にして生き延びてやる。

 

二人の想いが重なった瞬間だった。

 

その瞬間、奇跡が起こった。

 

伝説の怪獣王ゴジラが日本を襲来したのだ。

 

特撮ファンの二人は知っていた。

 

ウルトラマンシリーズのやられ役の怪獣共と怪獣王ゴジラは格が違うことを。

 

ウルトラマンシリーズの怪獣共なら自分達でも倒せる可能性がある。だが、怪獣王ゴジラはダメなのだ。

 

考えてみてほしい。ゴジラが正義のヒーローに倒されるシーンが思い浮かぶだろうか?

 

特撮ファンの二人は即座に否定する。

 

“そんなことはあり得ない”

 

怪獣王ゴジラは、人類に対する地球からの警告なのだ。

 

地球は決して人間のものではない。

 

驕り高ぶる人間に天罰をくだすのが怪獣王ゴジラなのだ。

 

もちろん、ユーモア溢れるパターンのゴジラを支持する特撮ファンもいるだろう。だが、ここにいる二人は違った。

 

メッセージ性の強い初代ゴジラ版を支持する派だった。

 

「晶、隠れるぞ!!」

 

「はいっ、先輩!!」

 

だからこそ二人は即座に隠れた。

 

怪獣王ゴジラに勝てるわけないと認めたのだ。

 

そして、その判断に間違いはなかった。

 

敵組織の首魁及び幹部達は、自分らの力に驕ったのだろう。愚かにも怪獣王ゴジラに立ち向かい、そして当然のようにアッサリと潰された。

 

戦いは終わったのだ。

 

ショッカーは滅んだのだ。

 

二人の男達は愛する女性の元へと向かう。

 

その傷付いた身体と心を癒すために。

 

 

 

ちなみに、彼らの想いが彼女達に受け入れられるかどうかは別の青春ストーリーとなるので、各自で脳内補完をしてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

〜Fin〜




大魔王は初めての負傷を乗り越えて、見事にパワーアップを果たしたよ!
流石は主人公だよね!
ちなみに番外編での出来事もちゃんと次話に反映されてるからね。
今回もハリポタの呪文を使ってるから常識だよね!
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