あたしが通う小学校はいわゆる進学校だけど、あたしの優秀な頭脳の前には文字通りの子供の遊び場よね。
真面目に勉強なんかしなくても、教科書をペラペラとめくるだけで理解できてしまう。
だからあたしは勉強よりも体を動かす方を優先する。
「くそうっ、高町を止めろ!」
「あははははっ、このあたしを止めようだなんて百万年早いわよ!」
「なんてドリブルの速さだよ!」
「まるでボールが足に張り付いているみたいだ!?」
「ボールは下僕よ、あたしを崇め讃えているわ!」
「ボールは友達じゃないのかよ!?」
「ボールなんかと友達になれるわけないでしょう。あんたはボールしか友達がいないボッチなの?」
「うるせえっ!!ボッチはお前だろ!!」
「喰らえっ!!タイガーショット!!」
「プキャラッ!?」
あたしが放ったシュートが見事に敵の顎を捉えてノックアウトした。
「誰がボッチよ!あたしは孤高を貫いているだけよー!」
あたしの咆哮がグラウンドに響き渡る。
この後は男子どもが文句をつけてきたから軽く無双して捻ってやった。
*
放課後も哀れな男子共の相手をしてやろうと思ったのに、塾があるからと断られてしまった。
まったく、あたしみたいな可愛い女の子と遊べる機会なんて小学生時代しかないようなクソガキの癖して生意気ね。
代わりに女子と遊ぼうと誘ってみたら、サッカーや野球は嫌だと言われてしまった。
仕方ないから今日は帰ろう。
トボトボと家に帰っていると黒塗りの車が急ブレーキをかけて止まった。
中からはいかにもな怪しい風体の男共が降りてくる。
鉄火場だわ!
あたしは久々の荒事の予感に血が滾るのを実感する。
両足を広げて大地を踏みしめて左手を天に、そして右手を地に構える。
これぞ、大魔王の無敵の構え。
名も知れぬ雑魚相手には勿体無い奥義ではあるけど、今のあたしはか弱い女の子でもあるから油断をするわけにはいかない。
もしも不埒な男共の手に落ちれば可憐なあたしは、あーんな事やこーんな事をされてしまうだろう。
ウップ、想像しただけで気持ち悪くなってきた。
「さあっ、どこからでもかかって来なさない!」
しかし男共は構えるあたしを無視して、あたしの前を歩いていた女の子二人を捕まえると強引に車に押し込んで発車してしまった。
「………」
後に残されたのは、格好つけた構えをした可愛い女の子だけだった。
ブチッ
「あたしを無視するとは万死に値する愚行だわ。あいつら全員ぶっ殺す!!」
あたしはダッシュで車を追いかけた。
*
あたしの前には汚い廃ビルが建っている。
男共はここに入って行ったが、汚すぎて追いかけて中に入る気になれない。
「ここはやっぱり、いきなりイオナズンでいいかな?」
廃ビルごと木っ端微塵にしてしまえばスッキリするだろうし、それでいいよね。
あたしがイオナズンを唱えようと息を吸ったその時、廃ビル内から女の子の悲鳴が聞こえてきた。
さっきの女の子達かな?
まあ、別にいっか。知らない子達だったから放っとこう。
あたしは改めてイオナズンを唱えようと息を吸った。
今度はビル内から吸血鬼がどうのとか聞こえてきた。
吸血鬼っ!?
この世界に本物の吸血鬼がいるの!?
あたしは胸がドキドキするのを抑えられなかった。
この魔物も魔法も何もない、凄くつまらないと思っていた世界にも隠されたものがあったのだ!!
「あははははっ、義を見てせざるは勇無きなり! このあたしの目が黒いうちは悪は許さないわよ!」
あたしは久しぶりにトベルーラを唱えると廃ビルに飛び込んだ。
*
「とおっ!!」
ガシャーンと窓を蹴り割って廃ビル内に飛び込んだあたしの目に、ロープで縛られた黒髪と金髪の小学生女子が映った。
これは別にいいや。
あたしはキョロキョロを吸血鬼を探す。
他にいるのはチンピラ共と気障ったらしいスーツの男が一人。
あたしの第六感が告げている。
スーツの男が怪しいとっ!!
ビシッとスーツの男に指を差すとあたしは言い放つ。
「お前が吸血鬼ね!!」
「ほう、どうやら助けが来たようですね。ですが私の相手になりますかね」
男は前髪を気障ったらしく搔き上げながら怪しい目をあたしに向けてくる。
ん…?
何かを感じる。これは暗示の類いのようね。
でもっ、この大魔王にはそんな児戯など効かぬわっ!!
「無駄よ!うす汚い吸血鬼如きの暗示など、あたしに効かないわ!」
この世界で初めて出会った魔物だから飼ってやろうと思ったけど、ご主人様に噛み付くような躾の悪い魔物なんかいらないわ。
あたしはこの吸血鬼を処分することに決めた。
「うす汚いとは言ってくれますね。ですが私がうす汚いという事は、あなたのお友達である彼女もうす汚いという事ですよ」
男は黒髪の女の子を指差す。息を飲む黒髪の女の子。
あたしは男のあからさまな挑発になど乗らずに冷静に言い返す。
「そんな小汚い小娘なんか知らないわよ!」
何故か空気が凍った。
これはまさか“凍れる時間の秘法”なのっ!?
「ま、まあいいでしょう。高貴なる吸血鬼であるこの私を侮辱したことを『メラ』ぐぎゃあああああっ!?!!??!!!」
あっさり燃えた。
あの秘法ではなかったみたいね。
「なんなのよ、今の炎はあんたがやったの!?」
縛られている金髪の方があたしに声をかけてきた。
「そっか、見られちゃったんだ。あたしの秘密を見られたからには消えてもらわなきゃいけないわ」
「ちょっと待ってよ!?あんたが勝手に見せたんでしょう!!あたしは誰にも言わないから消す必要なんかないわよ!!ねっ、ねっ!!」
金髪少女は慌てて命乞いする。
生き残るために必死なその様子が、かつての宿敵の一人だったホップ…じゃない、ステップ…でもない、ジャンプ……離れた気がする。
まあ、名前なんかどうでもいいわ。
金髪少女が、かつての宿敵の一人に重なってしまい殺る気が失せてしまった。
それによく見ると金髪少女は可愛い顔をしている。キャアキャア騒ぐのも賑やかでいいわ。
「そうね。あたしの秘密を守れるなら消さないでおいて上げるわ」
「守る! 守るわよ!! あんたの炎の事も、すずかが吸血鬼って事も誰にも言わないわっ!!」
「すずか…吸血鬼…?」
「しまったーっ!!」
「ア、アリサちゃんっ!?」
よく分からないけど、金髪少女の名前はアリサ、そして黒髪少女はすずかというみたいね。
さてと、お話の続きはコソコソと部屋から逃げ出そうとしている吸血鬼の手下共を消し炭にしてからね。
あたしはクズ共に絶望を宣告する。
「大魔王からは逃げられないの」
もうっ、だから期待しないでって、あたしは言ったよね!?