リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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今回はデモンベインです。知っている人は少ないかも?
ちなみに私はPS2版しかプレイしていません。なので今作は全年齢版です。


大魔王とデモンベイン

商店街の福引で海外旅行が当たった。

 

家族旅行だね! と思ったけど、商店街の予算の関係でお一人様だけだった。

 

海外旅行を当てたのはあたしだけど、子供一人での海外旅行だなんて許してもらえないよね。

 

残念だけど諦めるしかないと思う。

 

でも、一応はお願いをしてみようかな?

 

望み薄だけど、当たって砕けろだよね!

 

 

***

 

 

あっさりと許可がでた。

 

うーん、どうしてなのかな?

 

お母さんはニッコリと微笑みながら許可をだしてくれた。(ちなみにお父さんには発言権はないんだよ)

 

お母さんの前では普通の女の子として振舞っていると思うんだけど?

 

まあ、別にいいか!

 

何気に飛行機で旅行に行くのは初めてだから楽しみだよ。

 

いつもはトベルーラで自分で飛んでいくか、ルーラで目的地に直行するからね。

 

そういえば、機内食ってどんなんだろう?

 

きっと美味しんだろうね!

 

皆んなにもお土産を買ってくるから楽しみにしててね!

 

 

***

 

 

機内食は可もなく不可なくって感じだった。

 

目的地に到着してホテルに向かったけど、なんだかボロい。

 

なんだかテンションが下がってきた。

 

はぁ…商店街の福引きならこの程度でも仕方ないか。

 

とりあえず荷物を置いて近くを散策してみよう。

 

 

***

 

 

古くさい町並みを見物しながら散歩をしていると、これまた古い教会を見つけた。

 

日本ではあまり教会がないから少し珍しいかな。

 

うん、折角だから見物してみよう。ちょっと妖しい気配も漂ってくるしね。

 

「お邪魔しまーす」

 

中に入ると子供達が遊んでいた。

 

その中の一人が妖しい気配を発している。

 

翡翠の色の瞳に腰まで伸びた銀髪、そして陶磁器のような白い肌。

 

まるで人形みたいに綺麗な子だ。雰囲気としてはニャンコタイプだね。

 

よしよし、近所のニャンコ達を軒並み手懐けたあたしの手腕の見せ所だよ。

 

「よーし、よし。怖くないよー。こっちにおいでー」

 

優しく声をかけながら、チッチと指を揺らして興味を覚えさせるのがポイントだね。

 

「お主、我を猫と勘違いしとらんか?」

 

呆れを含んだ少女の声。

 

だけどその声は、透き通った水晶を思わせるような美しい響きを持っていた。

 

そして、強い意志を感じさせるその眼差し。

 

これは掘り出し物だね。

 

絶対に確保しよう。

 

あたしはこの場で愛でるだけでなく、ペットにすることを決めた。

 

「なにやら嫌な予感がするのだが?」

 

後ずさる少女。

 

どうやら勘もいいみたいだね。

 

ますます欲しくなっちゃうよ。

 

「ねえ、あたしのペットにならない?」

 

「ペット!? 予感以上にヤバい奴だった!?」

 

少女はパタパタと走っていって、奥にいた若い男の後ろに隠れてしまった。

 

「おいおい、どうしたんだよ アル。お前が逃げ出すなんて珍しいな」

 

「油断するでない、九郎! 此奴は見かけ通りの娘ではないぞ! 上手く気配は消しておるが、上級悪魔以上の存在やもしれん!」

 

アルと呼ばれた少女は必死の形相で、若い男に警戒を促す。

 

「アルちゃんって言うんだ。あたしはなのはだよ。よろしくね」

 

あたしはニッコリと満面の笑みを浮かべて挨拶をする。

 

「おう、よろしくな。俺は大十字 九郎って言うんだ。アルの保護者のようなもんだ」

 

「おい、九郎! なにをフレンドリーに接しておる。もっと警戒をせぬか!」

 

「あのな、アル。彼女はどうみても友好的じゃないか。態々敵対するような言動をするなよ」

 

「何を言うておるか! 彼奴の我を見る目をしかと見よ! どうみても情欲に濡れておるわ!」

 

「お前っ!? こんな子供に対してなんてこと言うんだよ!」

 

むむ、なにやら仲が良さそうな二人だよ。

 

これは引き離すのは無理かなあ?

 

「アルちゃん、そんなに警戒しないで欲しいな。あたしは友達になりたいだけだよ」

 

あたしの言葉に九郎は、“ほらみろ”ってアルちゃんに言っている。

 

肝心のアルちゃんは疑いの目のままだよ。

 

うーん、どうやって警戒心を解こうかな?

 

「まあまあ、アルちゃんもそんなにピリピリしないで仲良くしましょう」

 

近くにいたシスターさんが初めて口を開いた。

 

へえ、アルちゃんに目を奪われていて気付かなかったけど、このシスターさんも綺麗な人だね。

 

金髪でおっぱいの大きい女性だ。

 

「えっと、シスターさんのお名前を聞いてもいいですか?」

 

「うふふ、私はライカよ。ライカ・クルセイドって言うのよ。よろしくね、なのはちゃん」

 

「うん、よろしくお願いします。ライカさん!」

 

あたしは子供らしく元気一杯に挨拶をする。

 

「あらあら、元気でいい子みたいじゃない。アルちゃんも恥ずかしがらずに仲良くしましょうね」

 

「我は恥ずかしがっておるわけではないわ! 貞操の危機を感じておるのだ!」

 

「お前はさっきから何を言ってるんだよ。なのはちゃんは女の子だろうが」

 

「九郎こそ冷静に考えぬか。この世に女ほど怖いものはなかろう?」

 

アルちゃんの言葉に九郎は、チラっとライカさんに視線を向けてからアルちゃんに向き直る。

 

「すまん。アルの言う通りだ。俺が間違っていた」

 

「どおいう意味かなあ!? 九郎ちゃあん!!」

 

九郎の正直すぎる言葉にライカさんが気色ばむ。

 

あはは、男の子ってバカだよね。

 

 

そんな事を考えている時だった。

 

教会の扉が大きく開け放たれた。

 

夕日が差し込む扉から現れた少年。

 

黄昏に照らされて、その少年は立っていた。

 

黄金比を体現したかのような身体をもつ、人外じみた美しい少年。

 

穏やかな笑みを浮かべながらも、どこか狂気を孕んだような微笑みを浮かべて、ゆっくりと此方に向かって歩いてくる。

 

黄金の髪と黄金の瞳をもつ少年は、九郎に向かっていた。

 

九郎の知り合いかな?

 

黄金の少年から感じる魔力は、九郎とは比較にならないほどに大きかった。

 

九郎の師匠なのかな?

 

そう思い、あたしは挨拶をする。

 

「初めまして、アルちゃんの友達で、なのはと言います」

 

愛想よく挨拶するあたしに黄金の少年は目を向けようともしない。

 

失礼な奴だね!

 

「なのはっ! 其奴から離れろ!」

 

アルの悲鳴じみた叫びが聞こえた。

 

「邪魔だ」

 

黄金の少年が呟くと同時に、魔力が炸裂した。

 

“パチン”

 

ちょっぴり身体が震えた。

 

これは…あたしに対する挑戦だと思っていいよね。

 

【バシルーラ】

 

「なに!?」

 

ヒューーーーン!

 

黄金の少年は吹っ飛んでいった。

 

にゃはは、九郎に免じてこの程度で許してあげるね。

 

「マ、マスターテリオンを吹き飛ばすだと? それに今の魔力は……お主は何者だ?」

 

振り向くと、アルちゃんが厳しい目であたしを見つめていた。

 

 

***

 

 

秘密結社ブラックロッジ――それは世界征服を企む悪の秘密結社らしい。

 

そのブラックロッジの大導師(グランドマスター)が、さっきのマスターテリオンというわけだ。

 

九郎の師匠じゃなかったんだ。それなら潰せばよかったね。

 

「そのマスターテリオンを、ああも容易く吹き飛ばすとは……なのはも魔術師なのだな、それも相当な実力を持っている魔術師だ」

 

「そうだね、でも他の人には内緒だよ」

 

「分かっておるわ。我が吹聴するわけ無かろう」

 

アルちゃんは真面目な顔で請け負ってくれた。まあ、お互い様だから当然だね。

 

それにしても世界征服を企む秘密結社かあ。そんな愉快な組織がホントに実在するんだね。

 

……今、ブーメランだと思った奴はぶっ飛ばすよ。あたし(大魔王)のときは正々堂々と戦ったもん。コソコソとしてる奴らと一緒にしないでね。

 

「なのは、言っておくが先ほどの件でマスターテリオンを侮ってはならんぞ。彼奴の真の恐ろしさは鬼械神(デウス・マキナ)にある」

 

アルちゃんは続ける。

 

ブラックロッジで真に警戒すべきは、鬼械神(デウス・マキナ)を使役するマスターテリオンと幹部であるアンチクロス達であると。

 

「鬼械神(デウス・マキナ)って、なにかな?」

 

あたしの言葉にアルちゃんはニヤリと邪悪に嗤う。

 

「よかろう、見せてやるぞ。ついて来るが良い」

 

「おいおい!? 何を勝手に言っているんだ。姫さんがそんな事を許してくれるわけないだろう」

 

姫さんとな?

 

興味をそそられる単語だよね!

 

「ふむ、では妾が教えてしんぜよう」

 

「アルッ!」

 

騒ぐ九郎は邪魔だからとりあえず気絶させておこう。

 

えい。

 

「はう!?」

 

“バタン”

 

九郎はぶっ倒れた。

 

「な、汝は妾より容赦がないな」

 

アルちゃんの頰が少し引き攣っていた。

 

えへへ、これでゆっくりとお話が聞けるね。

 

 

***

 

 

覇道 瑠璃(はどう るり)――彼女が総帥を務める覇道財閥が造り上げたのがアル達のデモンベインだ。

 

だけど、厄介なことにこの瑠璃は頭が固く、偏狭な女のためアル達を認めようとしないらしい。

 

最強の魔道書である自分と九郎のコンビこそが、デモンベインにとって最高の相棒となる。その事を説得中だが、いかんせん聞く耳を持たない状況らしい。

 

ふむふむ、アルちゃんは人間じゃないと思っていたけど、魔道書の精霊だったのか。

 

うんうん、可愛い精霊さんだよね。

 

あたしも魔道書の精霊さんが欲しいなあ。

 

…九郎を始末すれば、アルちゃんと契約できるかなあ?

 

「それは止めてくれぬか。なのはの魔力は確かに強大だが、残念ながら妾とは波長が合わぬ」

 

うーん、アルちゃんにはその気が無さそうだね。残念だけど諦めるしかないのかなあ?

 

「では、デモンベインの見物に行くとしよう」

 

れっつらごーだね。

 

あたしは九郎を引き摺りながら歩き出した。

 

「いってらっしゃい。でも、あまり九郎ちゃんをいじめないでね」

 

ライカさんがあたし達を見送りながら九郎の心配をしている。

 

あたしは引き摺っている九郎に目を向ける。少しボロくなっている。ライカさんは心配そうな目を九郎に向けている。

 

…仕方ないか。

 

【アストロン】(鋼鉄化)

 

これで引き摺っても大丈夫だね。

 

「なんだ!? その呪文は!」

 

アルちゃんが目を剥いて驚いていた。

 

この世界にはなかった呪文だったかな?

 

「えへへ、あたしの精霊になってくれたら教えるよ」

 

「うぬぬ……く、九郎の寿命まで待ってくれぬか?」

 

「うんっ、予約成立だね!」

 

アルちゃんとの予約が出来ただけでも、今回の海外旅行は当たりだったね!

 

それにデモンベインも興味深いよ。是非とも手に入れて研究したいよね。

 

あたしはウキウキとした足取りでデモンベインの元へと向かった。

 

 

「こ、鋼鉄になった九郎ちゃんを片手で引き摺れるなんて…なのはちゃん、貴女は一体何者なの?」

 

教会に残ったライカさんの呟きは、あたしには届かなかった。

 

 

***

 

 

あたしは覇道の秘密基地に侵入する直前に呪文を唱えた。

 

 

【レムオル】(透明化)

 

【トラマナ】(罠無効)

 

【ステルス】(敵除け)

 

 

「うむ、その魔術も初めて目にするぞ」

 

「にゃはは、探索用の魔法だよ」

 

あたし達はこっそりと基地内に忍び込んだ。

 

 

 

 

あたし達は問題なくデモンベインのもとに辿り着いた。

 

「やはり、そなたの魔法とやらは我らの魔術とは体系がまるで違うようだな」

 

「契約するまでは内緒だよ」

 

「うむ、分かっておる。ククク、九郎が死んだ後が楽しみだ」

 

「アルゥウウウッ!? お前、俺の命を狙っているのかっ!?」

 

「ぬわっ!? ちょっと待たんか! 汝は勘違いしておるぞ!」

 

「勘違いだと!? じゃあ、俺の死後が楽しみだと聞こえたのは、俺の空耳だったのか?」

 

「いや、それは真実だ」

 

「アァアアアルゥウウウウーーーーッ!!!!」

 

タイミング悪く目覚めた九郎がアルちゃんに詰め寄っている。

 

その姿は美少女を襲う変質者そのものだった。

 

じゃれ合う二人は放っておいて、あたしはデモンベインに目を向ける。

 

ふむふむ。

 

デモンベインの内部からそこそこの魔力を感じるよ。

 

これは興味深いオモチャかもしれないね。

 

間違いなく鬼岩城よりは戦闘力は上だろう。

 

それにこの感じる魔力は、あのジュエルシードとかいう魔力石と同程度だけど、ジュエルシードとは違い魔力を生み出す機能があるみたいだね。

 

ジュエルシードが魔力を蓄えた蓄電池だとしたら、このデモンベインには魔力を生み出す発電機が内蔵されている。

 

この違いは大きいよね。魔力を消費するだけの動力源と魔力を生み出す動力源とじゃ、継戦能力が桁違いだ。

 

ククク、デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)とはよく言ったものだね。

 

機械仕掛けでありながら、魔力を生み出す能力があるなんてね。

 

鬼岩城はあくまでもあたしの魔力で動いていた。

 

だけど、このデモンベインは自ら魔力を生み出している。

 

面白い、面白いね!

 

あたしの全力を用いてデモンベインを解析してあげるよ!

 

「そこで騒いでいるのは大十字さんと古本娘、それと貴女は……どちら様かしら?」

 

あたしがデモンベインを見つめている最中に近寄ってきていた女の子が声をかけてきた。

 

女の子は黒髪の美少女でドレス姿だった。彼女の後ろには執事っぽい男が控えている。

 

うん、どうやらこの娘が“姫さん”みたいだね。

 

あたしが姫さんを観察していると彼女は不機嫌そうな顔になる。もしかして気が短いのかな?

 

「貴女が何者かは存じませし、どうやってここまで入り込んだのか分かりませんが、ここは覇道の私有地です。即刻退去を求めますわ。もしも素直に従って頂けなければ少々手荒な真似も覚悟して下さい」

 

へえ、このあたしに手荒な真似が出来るつもりなんだ。

 

姫さんが、あたしに視線を向ける。

 

あたしは基本的に強気な女の子は好きだったりする。ツンデレなアリサちゃんはもちろん大好きだし、すずかちゃんのように多少の敵意混じりに接してくる女の子も微笑ましく感じてしまう。

 

あたしの周囲にいる女の子達は親しみや敬意、畏れのような感情をもって接してくる。

 

間違っても…この姫さんのように“侮蔑”を含んだ視線を向けてくることはない。

 

このような視線を向けてくるのは…

 

 

あたしの(殲滅対象)だけだ。

 

 

あたしの口元が歪んでいく。

 

身の程知らずの小娘に嗤いかける。

 

「ふふ、小娘如きが随分と生意気な口をきくんだね。身分相応という言葉を知っているのかな?」

 

小娘の後ろにいた執事が小娘を庇うように前に出た。

 

「お嬢様、この者は危険です。この場はお引き下さい」

 

「ウィンフィールド、なにを大袈裟なことを仰っているのかしら? 第一、貴方がいれば怖いものなんて…え?」

 

小娘の言葉は途中で止まる。

 

ウィンフィールドと呼ばれた執事が汗だくになっていることに気付いたようだね。

 

「お嬢様、申し訳ありません。私ではお嬢様を守りきることは難しいと思います。ですが、このウィンフィールドの命に代えましても、お嬢様がお逃げになるまでは耐えてみせましょう」

 

執事は蒼白な顔になりながらも、小娘を安心させるように微笑みながら構えた。

 

その優しく、それでいて決意を秘めた眼差しは、あたしにかつての宿敵を思い出させた。

 

「…いいわ、貴方のその勇気に免じてチャンスをあげる。あたしに一撃でも当てられたら小娘を見逃してあげるわ」

 

「一撃……本気でございますか?」

 

「もちろん――」

 

あたしはゆっくりと両足を開き、両手を上下に構える。

 

 

“天地魔闘の構え”

 

 

「――あたしは本気だよ」

 

「……なるほど、確かに貴女様は本気のようですね。これほどの絶望を前にしたのは……今は亡き、大旦那様以来でございます」

 

蒼白になりながらもニヤリと笑みを浮かべた執事の言葉に、あたしの心は歓喜に満たされる。

 

こいつは実力差が分からない愚か者ではない。実力差を分かった上で、あたしを挑発しながら自らを鼓舞しているんだ。

 

本気をみせたあたしにも引くことはないと言い放ったのだ。

 

本当に面白い。

 

これほどの男と出会えるなんて。

 

これほどの勇気をもった男が、この世界にも居たことにあたしは敬意を払おう。

 

だからこそ、あたしは全力を尽くす。

 

この男の勇気と、その気高い誇りを汚さぬように!!

 

 

 

「なあ、アル。こいつらは何をやっているんだ?」

 

「うむ、空気を読まぬその発言は我が主人ながら見事だな」

 

「何言ってんだよ、アル? おい、お前らもこんな所で喧嘩なんかするなよな。っていうか、ウィンフィールド。お前、女の子相手にその拳はなんの真似だ? もし、その拳をなのはに向けるつもりなら俺が許さないからな!」

 

「大十字様…」

 

執事が闘気を霧散させる。

 

「申し訳ございません。大十字様のお怒りはご尤もでございます。執事ともあろうものが暴力にて女性をお迎えするなど以ての外でございました。たとえ、その女性が地上最強の生物だったとしても許されることではありません」

 

執事は最高の礼をもって、己の不手際を詫びる。

 

あれれ、空気が弛緩しちゃったね。

 

まあ、別にいいか。

 

折角の九郎の気遣いを無にするほどの問題じゃないからね。

 

小娘はムカつくけど、九郎とこの執事に免じて一度だけは見逃してあげる。

 

「言っておくけど二度目は許さないからね。そっちの小娘の教育はしっかりしておいてね」

 

「ご寛恕いただき感謝いたします。不肖ながらこのウィンフィールドの全身全霊にかけてお嬢様の教育を致します」

 

「ちょっ!? 何を言って…モゴモゴ!?」

 

「汝は余計なことを口にするでないわ! せっかく拾った命を捨てたいのか!」

 

あれ、アルちゃんが小娘の口を塞いでいるよ。窒息死させるつもりなのかな?

 

「おいおい、だからそんなに騒ぐんじゃねえよ」

 

九郎が呆れながら苦言を口にしたとき、突然周囲に警報が鳴り響いた。

 

「大変です! 破壊ロボが現れました!」

 

メイドっぽい制服の女が飛び込んできて大声で叫んだ。

 

破壊ロボ?

 

鬼械神(デウス・マキナ)とは違うのかな?

 

警報が鳴り響き続ける中、あたしは首を傾げた。

 

 

***

 

 

その光に目を奪われた。

 

「レムリア・インパクトォォォォッ!!」

 

デモンベインの必殺技が破壊ロボに叩き込まれる。

 

その圧倒的な熱量は、あたしの本気のメラゾーマをも超えるだろう。

 

はっきり言おう。

 

あたしはデモンベインを甘くみていた。

 

ううん、あたしは“この世界”の魔法や魔術の全てを甘く見ていた。

 

かつて、大魔王だった自分と比べれば格下だと見下していた。

 

もしも、レムリア・インパクトをあたしが喰らっていれば回復する間もなく消滅しただろう。

 

恐らくレムリア・インパクトは、フバーハ(冷熱防御)では防ぎきれない。

 

接触型の魔法だからマホカンタ(呪文反射)でも跳ね返せないだろう。

 

喰らえば間違いなく負ける。

 

そのことに気付いた瞬間、身体に寒気が走る。

 

そして同時に全身が歓喜に包まれた。

 

あたしは、魔法の頂点を極めたなどと勘違いをしていた。

 

あたしは、大魔王と呼ばれて神をも超えたなどと自惚れていた。

 

あたしは、火系魔法の一つすら極めていない未熟者に過ぎなかった。

 

あたしは、未だ魔道の探求者の一人に過ぎなかったのだ。

 

すでに失われていたと思っていた熱い想いが蘇ってくる。魔道を極めんと燃えていた数千年前の情熱を思い出す。

 

まだまだ世界には、この大魔王の知識も及ばぬ神秘が眠っているのだろう。

 

 

「にゃはは〜、世界はとんでもなく広いの!」

 

 

レムリア・インパクトの無限熱量の中、昇華していく破壊ロボを見つめながらあたしは、魔道の奥深さに心躍らせていた。

 

 

***

 

 

「それからどうなったのよ?」

 

海外旅行から帰ってきたあたしは、お土産を渡すためにアリサちゃん家に来ていた。そのついでに旅行での出来事をアリサちゃんに話していた。

 

「もちろん魔法研究を頑張っているよ!」

 

かつての情熱を取り戻したあたしは精力的に魔法研究をしている。

 

えへへー、すでに幾つか新たな魔法も開発したんだよ!

 

「そうじゃなくてっ、話に出てきた秘密結社とかマスターテリオンはどうしたのかって聞いてんのよ!」

 

「そんなの知らないよ?」

 

「知らないってなんでよ!?」

 

どうしてアリサちゃんは驚いているのかな?

 

「だって、福引きの海外旅行は一泊だけだから、次の日には帰国したんだよ? 後のことは分かんないよ」

 

もちろん、アルちゃんとは九郎が死んだら契約をする約束をしているから、あたしの連絡先は教えている。

 

そこんところは抜かりはないから安心してね!

 

「それこそ知ったことじゃないわよ! それより世界征服を企むようなヤバい奴らを放っとくなんて、なんだかあんたらしくないわね」

 

「だって、福引きが…」

 

「あんたなら海外なんて魔法でひとっ飛びでしょうがっ!」

 

いやー、そうなんだけど、あたしがブラックロッジを殲滅しちゃったら九郎が長生きしそうなんだよね。

 

そうなっちゃうと、アルちゃんが来てくれるのがだいぶ先になっちゃうよね?

 

「あ、悪魔だわ!? 悪魔がここにいるわっ!!」

 

アリサちゃんがドン引きした顔で後ずさる。

 

マズい、このままじゃア リサちゃんに嫌われちゃうよ!!

 

「誤解だよ! アルちゃんと契約したら九郎を生き返らせるつもりだから問題ないよ!」

 

「それも酷いわよ!? あんた、やっぱり悪魔だわ!!」

 

アリサちゃん!?

 

アリサちゃんの目に嫌悪の色が宿り始めちゃったよ!?

 

うぉのれえーっ!!

 

ブラックロッジめぇえええっ!!

 

あたしとアリサちゃんの絆を切り裂くつもりだなっ!!!!

 

「冗談はここまでだよっ、アリサちゃん!!」

 

「え? どうするつもりよ、あんた?」

 

「世界の平和は、あたしが守る!!」

 

「ちょっ!? 待ちなさいよ!!」

 

 

【ルーラ!!】

 

 

あたしはマスターテリオンの魔力を辿って転移した。

 

 

***

 

 

数時間後、アーカムシティは焦土と化した。

 

 

***

 

 

「あんたはやり過ぎよーっ!! 元に戻してきなさいっ!!」

 

何故か正義を成したはずの美少女は、アーカムシティの修復作業に追われることになったよ。

 

 

【オプス・レパロ】(建物よ、直れ)

 

 

【ザオリク】(死者蘇生)

 

 

【メダパニーマ】(集団混乱)

 

 

あたしは全力の魔法でアーカムシティを元通りに戻した。

 

ついでに住民達を混乱させて、記憶をあやふやにしておいたから完璧だね。

 

えへへ、でも流石に少し疲れちゃった。

 

「でも、これでアリサちゃんとの絆も元通りだよね!!」

 

「……そうね。(よく考えたら、こいつは出会った頃から悪魔だったわよね。今更の話だったわ)」

 

「にゃはは〜、あたしとアリサちゃんの愛は永遠なの!!」

 

 

こうして、初の海外旅行はあたしとアリサちゃんの愛情を確かめ合う結果となったんだよ。

 

めでたし、めでたしだね!!

 

 

 

 

 

〜Fin〜




デモンベインを知っている人はどれくらいいるのだろう。
意外と多かったりして?
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