リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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この物語はギャグです。
原作の真面目なファン向きではありません。
そこのところを踏まえてお読みください。
少し読んでみて合わないと思われた方は速やかに退避して下さい。


大魔王とひぐらし

「えい!」

 

壁に向かってイタチを投げつける。

 

「むぎゅう〜☆」

 

ペチャっていう感じで、イタチは壁にへばりついた。

 

念のため言っておくけど、これはペットの虐待じゃなくて躾けなんだよ。

 

「あんた、またお姉ちゃんと一緒にお風呂に入ったよね!」

 

「ち、違うんだ。あれは美由希さんが無理矢理…」

 

「美由希さん言うな!」

 

イタチの分際でお姉ちゃんを名前呼びするなんて万死に値するよ!

 

しかもあたしでもお姉ちゃんとは一緒にお風呂に入れないのに、どうしてイタチ如きが入れるのよ!

 

「なのはの場合、一緒にお風呂に入ったら胸を揉みまくるから嫌がられるのだと思いますよ」

 

リニスが意味不明なことを言う。

 

「姉妹なんだから揉み合いっこは当然なんだよ! その証拠にアリシアは喜んでくれてるもん!」

 

「アリシアのあれは喜んでいるのではなく、くすぐったくて笑っているだけですよ。それに近い将来、間違いなくアリシアにもお風呂を拒否されると予想されます」

 

大丈夫だもん!

 

アリシアはそんな子じゃないと信じているもん!

 

だって、あたし達は仲良し姉妹って、町内でも評判のラブラブ姉妹なんだからね!

 

もうっ、それにしてもさっきからリニスはイタチを庇っているのかな?

 

いつの間にそんなに仲良くなったんだろう。

 

「なによ、リニスはイタチの味方なの?」

 

「え、もしかして僕にデレてくれたの?」

 

あたしの言葉にイタチは期待のこもった眼差しをリニスに向ける。

 

「そんなわけありません」

 

「ふぎゃっ!?」

 

リニスは無表情でイタチを踏みつける。

 

「このようなエロイタチを庇うなど考えられません」

 

「あふう、えふう、ダメえ、中身が出ちゃうぅうう」

 

リニスに踵でグリグリとされているイタチから妙な声が発せられる。

 

正直いって気持ち悪いんだけど。

 

「ねえ、その気持ち悪いイタチ……捨ててもいいかな?」

 

あたしの言葉にリニスは少し考える。

 

「そうですね。個人的には賛成ですが、このエロイタチを下手に捨てると騒動の元になりませんか?」

 

うーん、そうなんだよね。

 

このイタチは人語を操るわ、エロいわ、エムいわ、終いには中二病でもあるんだよね。

 

こんなのをその辺に解き放ったら他人の迷惑だよね。

 

リニスの足の下でハアハア言い出したイタチを冷たい目で見ながらあたしは考える。

 

「……そうだ。バーベキューをするとか?」

 

あたしが口にした言葉に対して、リニスは嫌そうな顔になる。

 

「これを食べるのですか? 絶対にお腹を壊しますよ」

 

反対はしませんが、私は絶対に参加しませんよと続けるリニス。

 

そうだね、あたしも食べたくないよ。

 

そうだ、お兄ちゃんに食べさせるのはどうだろう?

 

ううん、やっぱりダメだよね。

 

エロいお兄ちゃんにエロいイタチを食べさせたりしたら、スーパーエロいお兄ちゃんにパワーアップするかもだよ。

 

今でもお兄ちゃんは、忍さんとすずかちゃんの姉妹丼を狙ってるようなエロ助なんだから、これ以上のパワーアップは危険すぎる。

 

「仕方ありませんね。お仕置きとして一週間ぐらい野良暮らしをさせるというのは如何ですか?」

 

考え込むあたしにリニスが提案する。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? シティボーイの僕に野良生活をしろって言うの!?」

 

リニスの足の下で恍惚とした表情になっていたイタチが急に慌てだす。

 

なるほど、イタチは飼いイタチ生活に浸りきっているから野良暮らしは辛いだろうね。

 

お手頃なお仕置きかな?

 

「うん、そうしようかな。そうだ、念のためにイタチに言っておくけど、お仕置き中は人間の言葉を喋るのは禁止だよ。もし喋ったらアレをちょん切るからね」

 

「ひぃ!? 絶対に喋らないよ!!」

 

あたしが指でチョキを作って、アレを切る真似をするとイタチは予想以上に怯えた。

 

「ちなみに切る係はリニスだよ。あたしはイタチのアレなんか触りたくないからね」

 

「私だって触りたくありませんよ!?」

 

リニスは本気で嫌そうだったけど、あたしも本気で嫌だから諦めてもらおう。

 

うんうん、イタチが喋らなかったらすむ話だからね。

 

「貴方は絶対に喋らないで下さい!!」

 

「グエエッ!? ホントに中身が出るぅうううっ!!!!」

 

リニスの全力のグリグリにイタチは絶体絶命だった。

 

…このまま天国に逝ってくれないかな?

 

 

 

***

 

 

「どっこい生きてた僕だよ!!」

 

フェレット界きっての紳士と呼ばれた僕が、あの程度のプレイで天国行きなんてするわけがない。

 

まったく、御主人様は僕を甘く見過ぎだよ。

 

「それにしても此処は何処だろう?」

 

常識知らずの御主人様は、可愛いフェレットを本当に田舎の山に転送してしまった。

 

一週間限定とはいえ、こんな山の中でサバイバル生活なんて耐えられないよ。

 

こんな時こそ優秀な嗅覚を活用する場面だよね。

 

僕はクンクンと周囲の匂いを嗅ぐと、獣とは違う匂いを発見した。

 

「この匂いは……可愛い女の子の匂いだ!」

 

すぐに可愛い女の子を見つけられるなんて、やっぱり僕は大したものだよ。

 

こんな凄い僕を山の中に放置する御主人は酷すぎる!

 

そうだよっ、僕みたいなお利口さんで手触りの良い毛皮を持つフェレットを放置するような御主人様は……なのはなんかもう御主人様じゃないよ!

 

僕は、なのはなんかより若くて優しくて可愛い女の子を新たらしい御主人様にするんだ。

 

一週間が経っても帰ってなんかやるもんか。

 

…まあ、なのはが泣いて謝るなら考えてあげても良いけどね。

 

「それじゃあ、早速この匂いを辿っていこう」

 

僕はクンクンと匂いを嗅ぎながら山道を駆けていった。

 

 

***

 

 

「みぃ…僕の足から離れて欲しいのです」

 

突然現れたイタチは、私のふくらはぎにしがみ付くと離れなくなってしまった。

 

これで私のふくらはぎにしがみ付いたまま腰を振るようなら遠慮なく蹴っ飛ばすところだけど、震えながら涙目で縋るような目を向けられると邪険にしにくいわね……でもイタチって、こんなに感情表現が豊かだったかしら?

 

「もしかして、僕について来たいのですか?」

 

「キュウキュウ♪」

 

私の言葉にイタチは嬉しそうな鳴き声をあげると首を縦にふる。

 

「仕方ないのです。ペットを飼うのは初めてだけど……いや、羽入がいたわね」

 

『僕は梨花のペットじゃないのです!』

 

つい口が滑ったせいで、羽入が喧しく騒ぎ始める。

 

「はいはい、羽入はペットじゃないわ、私の家族よ。これで良いでしょう?」

 

『う〜、なんだか誠意を感じないのです! 僕は梨花に謝罪を…』

 

羽入がしつこくゴチャゴチャと言い続けるのを聞き流しながら私はイタチを抱きあげる。

 

「キュウ♪」

 

私の胸に顔を埋めるイタチ。

 

フンフンと匂いを嗅ぎ始めるその姿は、客観的に見れば愛らしい筈なのになんだか嫌悪感を感じてしまう。何故かスケべな男に匂いを嗅がれている様な気分になる。

 

「……考えすぎね。少し疲れているのかしら?」

 

これまで数え切れないほどの人生を繰り返してきたのだから仕方ないのだろう。

 

最近の私は少々、精神的に不安定になっていた。

 

「そういえばアニマルセラピーというものもあったわね」

 

腕の中のイタチの背を撫でるととても柔らかくて癒されるような気がする。

 

「フンフンッ!」

 

無我夢中で私の匂いを嗅いでいるイタチの姿も甘えていると思えば気になら……いや、やっぱりセクハラをされている気分になるわね。

 

「あまり調子に乗るのならチョッキンするのですよ?」

 

「キュピイ!?」

 

まるで言葉を理解しているかのようにイタチは匂いを嗅ぐのを止める。

 

「キュイキュイ♪」

 

イタチはまるで誤魔化すように可愛い鳴き声をあげて甘えてくる。

 

「…随分と頭の良いイタチね。もしかして羽入以上かしら?」

 

『その言葉には本気で抗議するのですよ!!』

 

さらに騒ぎ立てる羽入。

 

イタチはそんな羽入の姿に勝ち誇ったかのような視線を向ける。その視線に気付いた羽入がムキーと更にヒートアップする。

 

まったく、いつにも増して騒がしすぎるわね。

 

 

……あれ?

 

 

イタチには羽入が見えている?

 

ま、まあ別に問題はないわよね。野生動物だしね。

 

『梨花は渡さないのですっ!!』

 

「キュウキュウ!!」

 

イタチと本気で言い争っているように見える羽入は少し残念に思えるけど、微笑ましい光景だと言えなくはないもの。

 

ふふ、それにイタチに懐かれるだなんて初めての経験ね。

 

もしかしたら、今回は何か違うことが起こるのかしら?

 

ほんの僅かばかりの期待を感じて、私は自分でも気付かないうちに微笑みを浮かべていた。

 

 

***

 

 

イタチと出会ってからの日常は、確かにいつもとは違っていた。

 

圭一はイタチと出会った瞬間から何かしらのシンパシーを感じたみたいで、イタチと共にいつもの圭一以上にエロ方面に暴走した。

あまりにもセクハラが酷すぎるせいで、よく詩音に本気で折檻されているが懲りる様子が見当たらない。

耐久力はいつもの圭一を大きく上回っているけど、頼もしさは何故かまったく感じない。というか頼りたくない。

 

魅音と出会ったイタチは、魅音のおっぱい目掛けて突撃したことを皮切りに魅音に対して圭一と共にセクハラをしまくり始めた。

魅音は初めて受けたセクハラのせいなのか、か弱い乙女のようになってしまった。

イタチと圭一を見かけると頰を真っ赤に染めながら、自分の身体を守るように両手で抱きしめる姿は新鮮で、同性の私でもグッときそうにな……コホン、今回の魅音は乙女すぎて頼りになりそうにない。

 

レナなんかは最悪だ。イタチと組んでセクハラをする圭一の姿はレナにとって可愛くないらしく、距離を置かれるどころか敵対に近い関係になってしまった。

本気のレナパンチの恐ろしさは……思い出したくもない。

 

唯一の救いは沙都子だった。

今回は全てにおいて最悪の状況に近いけれど、沙都子だけは救われた。

 

そう…あれは沙都子にとって最悪のあの男が雛見沢に戻ってきた日のことだった。

 

 

 

 

「うそ……あの男が戻ってきた」

 

日を追うごとに悪くなる状況に打ちのめされていた私のとどめを刺すように、その男の姿が目に飛び込んできた。

 

その男――鉄平は沙都子の叔父だけど、最悪の男だった。

 

鉄平が雛見沢に戻ってきた場合、間違いなく沙都子の家に転がり込んで沙都子も連れていってしまう。そして鉄平の虐待を受けた沙都子は……

 

「キュイ?」

 

怒りと絶望に震える私に気付いたイタチが不思議そうに首を傾げている。だけど今の私にはそんなイタチに構っている余裕などなかった。

 

無謀なのは分かっていた。

 

無駄なのは分かっていた。

 

それでも私は自分の行動を止められなかった。

いいえ、止めようと思わなかった。

 

「お前なんか雛見沢から出ていけーっ!!」

 

私はなりふり構わず鉄平に殴りかかる。

 

そんな馬鹿な真似をするほどに私は追い詰められていた。

 

圭一に魅音、それに詩音は当てにならなくなった。レナに至っては敵対に近い。

 

全てはイタチを拾ってから始まった負の連鎖。

 

だけど、私はイタチを憎むことは出来なかった。

 

何故なら間違いなくイタチが来てから我が家には笑い声が増えたもの。

 

「キュイキュイ♪」

 

『そうなのです! 梨花のご飯は美味しいのですよ』

 

「キュイ♪」

 

『あんたの嫁にはやらないのです!』

 

「キュイ?」

 

『僕があんたの嫁になりたいわけじゃないのですよ!?』

 

「キューイ♪」

 

『照れてないのです!!』

 

「キュイキュイ♪』

 

『2号にならしてあげる!? あまり調子に乗るならぶっ飛ばしますよ!!』

 

何故か分からないけど意思が通じ合っているイタチと羽入。なんだかんだいって仲が良かった。

 

「わたくしとお風呂に入りますか?」

 

「キュイキュイ♪」

 

「うふふ、ではご一緒しましょう」

 

「キュイー♪」

 

「はい、お身体はわたくしが洗ってさしあげますね」

 

「キュイ♪」

 

「うふふ、イタチさんは甘えん坊さんですわね」

 

「キュイ!」

 

「イタチさんはイタチではなく、高貴なフェレットなのですか? 申し訳ありません。わたくしには違いが分かりませんわ」

 

「キュイキュイ!」

 

「うふふ、もちろん冗談ですわ。からかったりして申し訳ありません」

 

「キュイ」

 

本当に何故だか分からないけど意思が通じ合っているイタチと沙都子。エロイタチと一緒にお風呂に入ろうだなんて沙都子の気がしれないけど、二人(?)の仲は良かった。

 

甚だ疑問しか感じなかったけど、イタチがいるだけで我が家は明るくなった。

 

外の人間関係は最悪になったけれど、その代わり家庭内の雰囲気は今までで一番良くなった。

 

まあ、こんな状況では今回も私は生き残ることは出来ないだろうけど、私は満足していた。

 

最後の瞬間まで、この温かい家庭で過ごせるのならば私に後悔などない。

 

そして、そんな幸せな家庭を壊す鉄平の存在は絶対に許せなかった。

 

「うわああああっ!!」

 

雄叫びを上げながらもトテトテとしか走れない己の身が恨めしい。

 

鉄平には既に気付かれている。

拳を握り締めて迫る私の姿に驚いたように目を見開いているけど、さすがに大人しく殴られてなどはくれないだろう。

 

私は殴り返される覚悟を決めた。だから歯を食いしばりながら拳を振りかぶる。

 

「キュイキュイ?」

 

『あの男は僕達の敵なのです!!』

 

「キュイ!?」

 

『そうなのです!! サーチアンドデストロイなのです!!』

 

「キュイ! キュピキュピキュピーン☆」

 

『おおっ、未知なる魔法なのです!?』

 

後ろでイタチと羽入が何か叫んでいる。だけど、頭に血が上っていた私の耳には聞こえなかった。

 

「くたばれっ、鉄平!!」

 

その瞬間だった。

 

私の身に奇跡が舞い降りた。

 

「ゲボオォオオオオッ!?」

 

私の小さな拳を喰らった鉄平が血反吐を吐きつつ吹き飛んだ。

 

不思議なことに鉄平は驚愕の表情のまま、まるで金縛りにあったかのように無防備に攻撃を喰らった。

 

その状況に呆気にとられる私だったけど、すぐに自分の身体から光が放たれているのに気付いた。

 

光輝く身体から込み上げてくる無尽蔵とも思えるほどの熱い活力に心が震えた。

 

握り締めた小さな拳からは、獅子をも屠れるほどの狂気の如き闘気が感じられた。

 

どのような奇跡がこの身に舞い降りたのかは分からないけど、ただ一つハッキリと分かることがあった。

 

 

“今なら殺れる!”

 

 

吹き飛ばされて仰向きのまま呻いている鉄平に目を向ける。

 

その隙だらけの姿に私の口角が引きつるように上がっていく。

 

『行っけー!! なのです♪』

 

「キュイキューイ♪」

 

羽入の声援と、恐らくは同じように声援を送ってくれているイタチの鳴き声に背中を押された私は鉄平に全力で襲いかかった。

 

 

***

 

 

「みぃ…変態のおじさんが怖かったのです」

 

悲鳴をあげる元気もなくなり、ピクンピクンと痙攣を繰り返すだけになった鉄平。

 

さすがにヤバイと正気に戻った私は直ぐに警察を呼んだ。

 

警察には、鉄平が私にイタズラをしようとしたから正当防衛で反撃したと伝えた。

 

私のような少女の攻撃で、成人男性の鉄平がボロ雑巾のようになっていることに疑問を持たれかけたが、いなかったはずの目撃者が多数現れたお陰で信用してもらえた。

 

我ながら無理のある言い訳だと思っていたから、持つべきものは“古手の信望者”なのだと初めて思った。

 

そして、鉄平は長期の入院が必要だった。退院後はもちろん逮捕される。

 

雛見沢で崇められている私にイタズラをしようとして逮捕された鉄平は、もう雛見沢に戻ってくることは出来ないだろう。もしも姿を見せようものなら村人総掛かりで袋叩きになるだろう。

 

まあ、風の噂によると、あの男は幼い少女が近付くと酷く怯えるようになったそうだ。幼女恐怖症になった鉄平が沙都子に危害を加える心配はないだろう。

 

「それにしてもあの光は何だったのかしら?」

 

奇跡を起こしてくれたあの時の光。

 

初めは羽入の力かと思ったけれど、それは本人に否定された。

 

『あんな便利な力が使えたならとっくの昔に使っているのです』

 

納得の答えだった。そして羽入は何故かイタチに視線を向ける。

 

『あれは、あの子の力なのですよ』

 

 

羽入の視線の先では――

 

 

「フェ、フェレットさん!? 服の中に潜り込むのはおやめになって下さい!」

 

「キュイキュイー♪」

 

「そんなところを吸わないでー!? ミルクは出ませんことよー!!」

 

「キュイー♪」

 

「下の方には行かないでー!?」

 

「キュキュー♪」

 

「本気でそこはダメー!!」

 

 

――沙都子がエロイタチに襲われていた。

 

 

私の沙都子に何をしている!?

 

「エロイタチはぶっ殺すのです!」

 

『止めるのです、梨花っ、そのイタチさんは恩人なのですよ!!』

 

 

***

 

 

結局、あの力は古手の血に眠る力が一時的に目覚めたのだろう。

 

きっとそうに違いないと私の勘も告げている。たぶん。

 

羽入はエロイタチの力だと言い張っているが、そんな訳がない。

 

『梨花は強情なのです』

 

「そんなに言うならもう一度あの力を見せなさいよ」

 

『イタチさん、梨花に見せてあげて欲しいのです』

 

「キュウ…」

 

『そうなのですか…梨花、イタチさんはこう言っているのです。「僕も魔法を見せてあげたいけど、あまり大っぴらに魔法を使うと恐ろしい大魔王という存在に気付かれて、僕はお仕置きをされてしまう危険があるから緊急時以外は見せれないんだ。本当にゴメンね」僕も本当に残念に思うのですよ」

 

「そのエロイタチは“キュウ”としか言ってないわよね!?」

 

たったひと鳴きでどれだけの意味が込められているのよ。まったく、羽入は嘘が下手くそすぎるわね。

 

『うぅ…嘘ではないのですよ』

 

羽入はしつこく食い下がろうとしていたけど、私はいい加減ウンザリしてきた。

 

「もういいわよ。別に本気でそのエロイタチを始末する気はないから羽入も無理して庇おうとしなくても大丈夫よ」

 

なんだかんだ言っても、エロイタチのお陰で我が家は賑やかになったのだし、沙都子もエロイタチを可愛がっている。

 

羽入のことも見えているから、羽入もエロイタチとコミニュケーションが取れて楽しそうだ。

 

エロい部分は許容範囲として大目にみるとしよう。

 

『ほ、本当に嘘ではないのですよ!?』

 

「だあああっ!! しつこいわよ、羽入っ!! だいだい魔法だけならともかく、さっき言ってた大魔王ってなによ!! 羽入はアニメの見過ぎなのよ!!」

 

どうせ、あの力は羽入が無理をしたのでしょう。きっと命を削った力とかだから私に怒られると思って誤魔化しているつもりなのよ。

 

まったく、ばか羽入め…

 

本当に、本当にありがとう。

 

 

***

 

 

楽しい日々は瞬く間に過ぎていく。

 

私に羽入、そして沙都子とエロイタチ。

 

いつものメンバーと比べれば人数こそは少ないけれど、エロイタチが加わることで今までのループとは異なった日常を体験できた。

 

とっくに枯れてしまったと思っていた心が、エロイタチを中心に巻き起こる騒動に一喜一憂する。

 

なんて楽しい日々だろう。

 

なんて輝かしい日々だろう。

 

そして、なんて悲しい日々なのだろう。

 

終末へと向かうと分かっていながら、何もできない日々。

 

泣こうと喚こうと止まらない時間の流れ。

 

それなら最後の瞬間まで笑っていよう。

 

家族と共に笑っていよう。

 

 

 

そして、私はタイムリミットを迎える。

 

 

 

***

 

 

その日、エロイタチと散歩をしていた私の背後から何者かが襲いかかってきた。

 

いつもの私なら簡単に薬品を嗅がされて、あっさりと昏倒させられていただろう。

 

しかし今回はエロイタチが気付いてくれたお陰でその場を逃げ出すことに成功した。

 

必死に逃走する私だったけれど、謎の集団に次第に追い詰められていった。

 

そして気がつけば人気のない場所で敵に囲まれていた。

 

「うふふ、絶体絶命といったところね。梨花ちゃん」

 

「…まさか貴女が」

 

私の目の前には、今まで味方だと思っていた女性が微笑みながら立っていた。

 

「ゴメンなさいね。梨花ちゃんには恨みはないけど、ここで死んでもらうわ。抵抗しなければ苦しまなくて済むわよ」

 

「鷹野、よくそんな台詞を笑いながら言えるわね」

 

「あらあら、年上を呼び捨てしちゃダメよ」

 

こんな状況だというのに何時ものように振る舞う鷹野の様子に私は恐怖を感じた。

 

周囲を見渡すと武装した男達が無表情のまま銃を構えていた。

 

この男達は、どこか狂気を感じさせる鷹野にも何も反応せずにまるで機械のように従っている。

 

その様に男達がヤクザのような烏合の衆ではなく、訓練された集団なのだと素人の私でも察することができた。

 

どうやら私の敵は、私が思っていた以上に強大な相手だったみたいだ。

 

「キュウ…?」

 

肩に乗っているエロイタチが心配するような鳴き声を発する。

 

目を向けるとエロイタチと視線が合う。

 

私にはイタチの表情など読めないが、この時だけは間違いなく分かった。

 

「まさかイタチに心配される日が来るなんて思ってもいなかったのですよ」

 

私は、私のことを気遣うエロイタチを安心させるためにニパーと笑う。

 

「キュウ…」

 

残念ながら効果はなかったようだ。エロイタチは悲しそうな鳴き声をあげる。

 

「……鷹野、このイタチは逃してあげて欲しいのです」

 

せめてエロイタチは助けたい。私の分まで生きて沙都子と幸せに暮らしてほしい。

 

「イタチ? その子はフェレットよね。イタチと同じにしては可哀想よ」

 

「キュ!? キュキュウ♪」

 

「エロイタチ!?」

 

鷹野の言葉にエロイタチは嬉しそうな鳴き声を発すると鷹野の元に駆けていく。

 

鷹野の元に辿り着いたエロイタチはスタタッと肩まで駆け上がると彼女の頬をペロペロと舐める。

 

「あらあら、人懐っこいフェレットね。うふふ、いいわよ。梨花ちゃんの最後の願いは叶えてあげる。この子は可愛いから私が責任を持って飼ってあげるわね」

 

「……」

 

何故かしら。

 

私の望み通りの展開なのに、今は無性にエロイタチをぶっ飛ばしたいわ。

 

「あっ、服の中に潜り込んだらダメよ」

 

「キュウキュウ♪」

 

「アン、そんなとこ舐めたらダメよお」

 

「キュキュー♪」

 

キャッキャウフフという感じにエロイタチと鷹野は戯れていた。

 

「……」

 

うん、決めたわ。

 

鷹野は無理だとしてもエロイタチは意地でも殺す。

 

私のループに巻き込んでやる。

 

覚悟を決めた私は懐に隠し持っていた包丁を握りしめると、エロイタチに向かって一直線に走り出す。

 

「ちょっ!? 誰か梨花ちゃんを止めなさい!!」

 

包丁を振りかざし迫る私に驚愕の眼差しを向けた鷹野が慌てて叫ぶ。

 

エロイタチの方はというと、鷹野の胸のあたりに潜り込んだままゴソゴソとしている。

 

よし! 鷹野の胸を突き刺せばエロイタチも仕留められて一石二鳥ね。

 

私はいつかの鉄平のときと同じように雄叫びをあげながら鷹野に襲いかかる。残念ながらあの時のような羽入のバッグアップはないけれど、ここは乙女の意地の見せ所だ。

 

「うわああああああっ!!!!」

 

「ひいっ!? 早く止めなさい!! いいえっ、構わないから撃てぇえええ!!!!」

 

鷹野の叫びに反応して周囲の男達から殺意が溢れる。

 

そして男達の銃から弾丸が放たれた。

 

 

──その瞬間だった。

 

 

“ヒュン”

 

「イタチ、迎えに来てあげたの。ちゃんと反省はした?」

 

轟く銃声に思わず目を閉じてしまった私だったけれど、訪れたのは銃に撃たれた激痛ではなく、聞き慣れない女の子の声だった。

 

不思議に思いながらゆっくりと瞼を開く。

 

すぐ近くに可愛い女の子がいた。

 

不可解なことに男達が放っただろう銃弾が、私達の周囲の空間で固定されたように止まっていた。

 

「ど、どうなっているの?」

 

もしかして羽入の不思議パワーだろうか? 周囲を見渡して羽入を探すが、その姿は見つからない。

 

「一体何なのよこれはっ!?」

 

鷹野の金切り声が響き渡る。

 

その胸元では相変わらずエロイタチが蠢動していた。

 

そのブレないエロイタチの姿に苦笑がもれる。

 

「……イタチ。何をしているのかな?」

 

恐らくはこの超常現象の原因だろう謎の女の子から冷たい声が発せられた。

 

“ジュッ”

 

次の瞬間、止まっていた全ての弾丸が蒸発する。

 

いや、たぶん蒸発したのだと思う。金属である弾丸が蒸発するのは信じられないけど、聞こえた音は水が蒸発するときに発する音に似ていた。

 

方法は分からないけど、きっとあの女の子の仕業なのだろう。

 

「ねえ、そのイタチを渡してくれないかな?」

 

謎の女の子は満面の笑みを浮かべながら、鷹野にエロイタチを渡すように要求した。

 

その彼女の笑顔を見た瞬間、何故か分からないけど身体が震えだして止まらなくなる。

 

私の身体が此処から逃げ出せと叫んでいるのが分かる。

 

「……こ、この子をどうするつもりなの?」

 

鷹野は、胸の中のエロイタチを彼女から隠すように身を背ける。

 

鷹野は正気なの!?

 

あの化け物ような女の子相手にエロイタチを庇おうというの!?

 

間違いなく殺されるわよ!!

 

……ううん、別にいいわね。

 

考えてみれば鷹野は恨み骨髄に達する相手なのだから、あの化け物が殺してくれるのなら手間が省けるというものだわ。

 

「もちろんお仕置きをするんだよ。反省しているかと思えば、女のおっぱいに夢中だなんて巫山戯てるよね」

 

女の子は、にゃははと笑っているけど目は全く笑っていなかった。

 

その時だった。

 

よくやく女の子の存在に気付いたのかエロイタチが恐る恐るといった感じで、鷹野の服から顔を出した。

 

女の子とエロイタチの視線が絡み合う。

 

「イタチ、次は人間のいない世界でサバイバル生活を送らせてあげるね」

 

「キュウ!?」

 

女の子の言葉にエロイタチは服の中に引っ込むとプルプルと震えだす。

 

当然、鷹野の胸もプルプルと震えている。何故かその光景はイラつく。いやいや大丈夫だ。私には将来性がある。イラつく必要はないはずだ。

 

「こんな可愛い子に酷いことをしようだなんて、貴女は悪魔なの!?」

 

「鷹野、僕を殺そうとしていた貴女が言わないで欲しいのですよ」

 

数え切れないほどのループの中で延々と私を殺し続けた鷹野こそ間違いなく悪魔だろう。

 

そんな悪魔な鷹野に非難の眼差しを向けられた女の子は不思議そうに首を傾げていた。

 

「あたしが悪魔? それは違うよ」

 

「何が違うっていうのよ!! こんな可愛いフェレットに酷いことをしようしてっ、それにさっきの妙な力は何なのよ!? 悪魔じゃなければ神だとでも言いたいの!! 神はいつまで私を苦しめれば気が済むのよ!! このクソ神がっ!!!!」

 

魂を絞るかのような絶叫が響く。

 

「ククク、確かに神は愚かな存在だが、クソ神とまではこの“余”でも口にはしなかったな」

 

女の子は小さな声で何かを呟いたようだった。

 

「にゃはは、少しだけあんたの事が気に入ったの……だから本気で相手をしてあげる。この“大魔王”の本気でね」

 

 

次の瞬間、世界が爆ぜた。

 

 

***

 

 

覚めると新しいループが始まっていた。

 

部屋を見渡してもエロイタチは何処にもいなかった。

 

いつもの様に沙都子と朝食をとり、学校へと向かう。

 

羽入は何も言わずに優しい目で見送ってくれた。

 

 

 

 

「転校生を紹介します」

 

今日は圭一が転校してくる日なのね。

 

先生の合図を受けて廊下で待っていた転校生が教室に入ってくる。

 

テクテクと歩いて教壇に立つ可愛い女の子。

 

え?

 

女の子!?

 

「初めまして、あたしは高町なのはと言います。仲良くしてね!」

 

「キュキュウ!!」

 

とても元気に自己紹介をする女の子。

 

その彼女の肩には、とても見覚えのありすぎるエロそうな生き物がチョコンと座っていた。

 

 

「……とても嫌な予感がするのですよ。にぱー」

 

 

これが私にとって最後の…そして、始まりの物語の幕開けだった。

 

 

 

 

 

〜Fin〜

 

 




梨花ちゃんとイタチとのハートフルストーリーを目指したつもりの物語でしたが、何故かこうなりました。本当に、本当に不思議です。
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