リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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番外編を経た大魔王様なので、以前に考えていた流れと若干(?)変化してきた。うん、別にいいよね。ここまで大魔王様の活躍について来てくれた皆様なら、こんなリリカルな大魔王様でも別にいいよね。


第2話「魔導書」

車椅子の少女の魔力を辿り、彼女が住んでいるマンションを探り当てた。

 

「えへへ、まずは敵情視察だね」

 

少女が帰宅する前に家捜しをするべく、あたしは素早くマンション内に忍び込む。

 

マンションのオートロックなど、あたしの前では番犬よりも無力な存在だ。

 

そして万が一、家探し中に帰宅した少女と鉢合わせをするといったお間抜けな事態を回避するために、市立図書館からこのマンションへの道は軒並みイオナズンで破壊しておいた。

 

家探しをする時間ぐらいは十分に稼げるだろう。

 

ただその代わり、周辺からパトカーや消防車のサイレンがうるさく鳴り響いており集中力が落ちてしまう。

 

うん、思わぬポカをやらかさないように気をつけよう。

 

「それじゃあ、抜き足差し足忍び足ってね」

 

あたしは目的の部屋に辿り着く。

 

「へえ、けっこういい部屋に住んでるんだね」

 

あの子が着ている服から推測すると、中流以上の家庭だと思っていたけど、想像よりも資産家みたいだね。

 

玄関の前であたしは室内のサーチを行う。

 

どうやら家人は不在のようだ。サーチに引っ掛かったのはペットのワンコの反応だけだった。

 

「ワンコ好きなんだ。アリサちゃんと同じだね」

 

車椅子の少女への好感度が少し上がる。

 

あたしは蹴破ろうと思っていた扉を丁寧に開けることにした。

 

“アバカム”(開錠)

 

「お邪魔しまーす!」

 

元気よく挨拶しながらあたしは室内へと入る。

 

入った室内はよく片付けられていて清掃も行き届いていた。

 

あたしの挨拶の声に反応したのか、のそりと大きなワンコがソファの近くで起き上がる姿が見えた。

 

なんだかキョトンとした目で見られている気がする。なんとなくだけど頭の良さそうなワンコだと思った。

 

「初めましてだね、あたしはなのはだよ」

 

ワンコ相手に愛想よく挨拶をする。これはアリサちゃんの影響でワンコびいきになったからだ。

 

他にもすずかちゃんとリニスの影響でニャンコびいきにもなっている。

 

イタチは……どうでもいいよね。

 

「……」

 

大きなワンコは無言でこちらを見つめている。

 

その視線からは困惑が伝わってくる……ような気がしたけど気のせいだろう。

 

「はい、おやつだよ」

 

あたしはポケットからお母さんお手製のクッキーを取り出すとワンコに差し出す。

 

ワンコは少し躊躇したようにあたしの顔とクッキーを見比べていたけど、あたしがニッコリと笑いかけると安心したのかクッキーを口にした。

 

「……(パク)」

 

“バタン”

 

ワンコが倒れた。

 

あたしはポケットに残っていたクッキーを取り出して確認する。

 

「これ……お姉ちゃんのクッキーの方だ」

 

良かった。

 

もしも今日、アリサちゃん達と遊んでいたらコレをおやつにしようと思っていたからね。

 

あやうくアリサちゃん達にベホマ……もしかしたらザオリクをかける羽目になる所だったよ。

 

あたしは泡を吹き白目を剥いて痙攣するワンコに手を合わせた。

 

「あんたの尊い犠牲は忘れないよ。安らかに眠ってね」

 

そしてあたしは室内の物色を開始した。

 

 

 

 

リビングやキッチンには怪しい所は存在しなかった。

 

ごくごく普通のものしかない。

 

いくつかの部屋を回って見たところ、複数の人間が共同生活をしている痕跡はあるのに個室がないことに気付いた。

 

おそらくはプライベートルームらしき場所では、サイズの違う大量の衣服が段ボールや紙袋に纏められていた。

 

衣裳ケースなどはないけど、貧乏ゆえの悲壮さとかは感じられない。単にそういうことに無頓着だという印象だった。

 

要するに、運動部の合宿所のような雰囲気だ。

 

「面白いものが全くないの」

 

当初、思っていたような魔法的なものは一切なかった。

 

つまらないから紙袋を漁って見つけた女の子用のお子様パンツを痙攣を続けるワンコに穿かせてみた。

 

ついでに段ボールを漁って見つけたブラジャーもワンコに着けてあげる。

 

「うわあ……通報したいかも」

 

その想像を超える破壊力に、この“余”ともあろう者が一瞬とはいえ倫理観を刺激された。

 

……この事は忘れよう。ワンコのイメージが悪くなる。

 

あたしは気分を入れ替えて物色を再開する。

 

 

 

 

不穏な部屋を見つけた。

 

【主の部屋】

 

そんなルームネームプレートが貼られた部屋だった。

 

「“あるじ”と呼ぶのか“しゅ”と呼ぶのかは分からないけど、どっちにしろロクなもんじゃないよね」

 

ご主人様プレイなのか、妙な宗教関係なのか、どっちにしろこれ以上は関わるべきではないだろう。

 

紙袋や段ボールに収まっていた衣服は女物だけだった。大人用だけではなく幼い女の子用もあったのだ。

 

それでいて干されている衣服には数は少ないが男物が存在した。

 

ならばここがその男の部屋なのだろう。

 

このマンション内で、一人の男と複数の女(幼女含む)が共同生活を行なっている。

 

そして男の部屋に掲げられた【主の部屋】というルームネームプレート。

 

「そんなの想像するだけで羨ま……ううん、不潔なの!!」

 

という事はあの車椅子の少女も……そういう事なのだろう。

 

強制された関係なら解き放ってあげたいけど、あの少女からはそういった影のようなものは感じられなかった。

 

むしろ、今の生活が楽しくてしょうがない! といった雰囲気すら放っていた。

 

「きっと、もう手遅れなんだね」

 

あたしは僅かな憐憫を覚えたが、それを振り払う。何が幸せかは人それぞれが決めればいい。それだけの話なのだから。

 

もうここには興味はない……でも、せっかくだから一応将来の参考のために男の部屋も物色をしておこう。

 

あたしはドアのノブをゆっくりと回した。

 

「えへへ、ドキドキするの」

 

 

 

 

何の変哲も無い部屋だった。

 

チッ。

 

面白くない。

 

本当に面白くない。

 

この部屋の男は何をやっているんだろう?

 

期待を裏切られた腹いせにこのマンション目がけてベキラゴン乱れ打ちをかましてあげようかな?

 

そんな事を半ば本気で考えていたあたしの目に“ソレ”が映った。

 

『魔導書』

 

この世界にそう呼ばれるものがある事をあたしは知っている。

 

かくいうあたしも現物を見たことは幾度もあるし、幾つかは所有もしている。

 

だけど、真に力ある『魔導書』の中にはその内に精霊を宿す。

 

精霊というのが語弊があるというのなら、『真なる魔導書』の化身と言い換えてもいい。

 

残念ながらあたしでも『真なる魔導書』の所有は叶っていない。

 

だけど、あたしは嘗て出逢った事がある。

 

真なる魔導書の中でも、最強と謳われし“彼女”に。

 

あたしは“彼女”と出逢い、語り、触れ合った。

 

それ故に理解ができた。

 

今、この場にあるのは“彼女”にも匹敵……いや、超えるかもしれないほどの存在だということが。

 

あたしは内心で(これは浮気じゃないよ。あたしの心は今でも貴女と共にあるよ)と将来を誓った“彼女”に言い訳をしつつ、その存在に手を伸ばしかける。

 

うう、どうしよう。

 

悩むあたしに天啓のごとくある考えが浮かぶ。

 

“彼女”の方も今は他の男の手の中にあるのだからお互い様だ!!

 

うんうん、良かったよ。

 

納得できたあたしは、本棚に納められた『真なる魔導書』を手にとった。

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

部屋の扉が壊れるほどの勢いで乱暴に開かれると共に、ブラジャーとお子様パンツを着けたワン……いや、そう呼びたくない。そう、こいつ駄犬だ。

 

駄犬が飛び込んできた。

 

「それに触れるな!!「えい」うぐわあああっ!?」

 

駄犬に蹴りを喰らわせるとアッサリと気絶した。

 

何だったんだろう?

 

この駄犬、喋っていたよね。

 

そういえば、あたしが手に入れた『真なる魔導書』に触れるなとか不遜な事を言っていたよね。

 

気になったあたしは、少しだけ『真なる魔導書』を調べてみる。

 

その結果、あたしの『真なる魔導書』と繋がる存在に気付いた。

 

どうやらそれは『真なる魔導書』の化身ではなく、『真なる魔導書』が作り出した使い魔のような存在のようだ。

 

あたしは腹をみせて伸びている駄犬(ブラジャーとお子様パンツ付き)に嫌々ながら目を向ける。

 

「これが使い魔……こんなのいらないよ」

 

“全契約切断”

 

あたしは言霊魔法を使い、速攻で使い魔契約を切断した。

 

解除ではなく、切断にしたのはこの駄犬が、あたしの『真なる魔導書』の中に戻ってきたら嫌だったからだ。

 

ピクピクと痙攣をする駄犬。

 

契約を切断したから魔力供給も無くなるだろう。数日もすれば綺麗に消滅してくれる。

 

それにしても言霊魔法は燃費が悪い。

 

契約切断をしただけで、メラゾーマ百発分は軽く超える魔力を消費した。

 

あたしにとっては負担とすらいえない魔力量だけど、なんとか改良したいものだ。

 

「でも今は、この『真なる魔導書』の研究が優先だね」

 

新しいオモチャに心が踊る。

 

軽く解析しただけでも、この『真なる魔導書』の凄まじい能力が分かった。それに色々と問題も発生しているようだ。

 

ククク、これは研究のしがいがありそうだね。

 

あたしは『真なる魔導書』を亜空間に収納すると、早速自宅に戻って研究をするためにルーラを唱えた。

 

 

 

 

ひっくり返っていた駄犬は、仲間達に蹴り起こされるまで目を覚ますことはなかった。

 

「誤解だ! 俺の話を聞いてくれ!」

 

「黙れっ、この変態が!!」

 

「最低です」

 

「あたしのパンツ……もう穿けねえじゃねえか!!」

 

「えっと、人の趣味は人それぞれやから、あの、その……ゴメンな、見てもうてほんまにゴメンな」

 

「うおおおおっ!! チクショウッ、あの女っ!! 絶対にぶっ殺す!!!!」

 

 

 

 

 

 

〜次回に続く〜




まるで勇者のように他人の家に侵入してアイテムを手に入れた大魔王様でした。本当に申し訳ありません。大魔王様ともあろうものが勇者の真似事をしてしまいました。大魔王様らしくなかったよね。
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