リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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今回はサブキャラ回です。物語を支える渋い脇役のような男達にスポットを当てました。


第3話「孤高なる男達」

俺はヴォルケンリッターが一人、【盾の守護獣】ザフィーラと“かつて”呼ばれていた男だ。

 

そう、かつてだ。

 

つまりは過去形だ。

 

今はただの【野良狼】ザフィーラだ。

 

住処は公園だ。

 

ブランコに揺られるのが日課の気楽な毎日だ。

 

「どうしてこうなった……?」

 

俺は誇り高きヴォルケンリッターの中で、頼れる兄貴分として確固たる地位を築いていたはずだ。

 

それがこうも簡単にヴォルケンリッターを追い出され、こうして野良暮らしにまで落ちぶれるとは我がことながら信じられん。

 

【鉄の騎士】シグナム

 

【鉄槌の騎士】ヴィータ

 

【湖の騎士】シャマル

 

こいつらと、この俺こと【盾の守護獣】ザフィーラを合わせた三人と一匹が、主の守護騎士としてはやてを護って……待てよ?

 

守護“騎士”だと?

 

俺以外の三人は確かに称号として騎士の名を受けているな。だが、俺の称号は……ケモノ?

 

ま、まさか俺はヴォルケンリッターにおいて騎士枠ではなく、ペット枠だったのか!?

 

だ、だからあの正体不明の化け物女に嵌められて変態じみた格好をさせられた俺を簡単に捨てたのか!?

 

俺があれほど誤解だと、断じて俺は女装趣味などではない、ましてやそういった性癖ではないと必死に訴えたのに、全く聞く耳を持ってくれなかったのは、俺が騎士ではなく、ただのペットだったからなのか!?

 

うう……知りたくなかった現実を知ってしまった気分だ。

 

だ、だがっ、たとえ俺がペットだったとしても、今まで苦楽を共にした愛らしくて頼りになるペットを簡単に捨てるなど信じられん!

 

薄情すぎるぞっ、あいつらは!

 

だいたい現実に闇の書を奪われているんだ。そして闇の書と俺達ヴォルケンリッターとの繋がりも絶たれている。

 

しかも主のはやてさえも、闇の書との契約が絶たれるという信じられんほどの異常事態だぞ!

 

俺の話の信憑性は高いはずだ!

 

それなのに変態は出て行けだの、はやての足が治ったお祝い会だのと浮かれおって、俺もお祝い会に出たかったわ!

 

おっと、噂をすれば影とやらだな。

 

はやてがご飯を持って来てくれたようだ。

 

「ご飯やで、ザフィーラ。ほら、今日は奮発してステーキ丼を用意したからたんと召し上がれ」

 

「わんっ」

 

野良狼となった俺だが、はやてだけは俺を信じて、こうやってご飯を用意してくれる。有難いことだ。

 

はやての為にも、早く闇の書を見つけ出して、再び共に闇の書に囚われ……いや、闇の書って必要なのか?

 

うーん、よく分からんな。

 

考えるのは参謀の仕事だからな。

 

そして決断するのがリーダーの仕事だ。

 

俺は時々、気付いたことを助言すればいいだけだ。

 

ふふ、なんとも気楽なペット稼業というやつだ。

 

「どないしたんや? 食欲があらへんのか?」

 

おっと、はやてが心配しているな。とりあえず考え事は後回しだ。今、為すべきことをやろう。

 

「ガフガフガフッ」

 

「うんうん、ええ食いっぷりやね……ザフィーラ、ゴメンやで」

 

はやてが悲しそうに俺を見つめている。どうしたんだ?

 

「家から追い出されるんを止められへんかった。情けない主でゴメンなあ」

 

「くぅ〜ん」

 

「逆に慰めてくれるんか? 優しいなあ、ザフィーラは」

 

はやてが流す涙を見た瞬間に俺は悟った。

 

俺は、俺がヴォルケンリッターだから、闇の書に選ばれたはやてに忠誠を誓ったんじゃない。

 

俺は、俺がザフィーラだから、はやてに忠誠を誓ったのだ。

 

他の薄情な元仲間とは違い、俺を信じてくれるはやてに俺は忠誠を誓ったのだ。

 

はやてが闇の書の主でなくとも、彼女が俺の主であることに変わりはなかった。

 

たとえ、ヴォルケンリッターを追い出されようとも、俺ははやてを護り続けよう。

 

俺は人型へと変化する。

 

「ザフィーラ……?」

 

涙を流すはやての頭を撫でる。

 

「答えは得た。大丈夫だ、はやて。俺はこれからも頑張っていくから」

 

「ザフィーラ……!」

 

俺の言葉に顔を輝かすはやて。やはり、この子には笑顔が一番よく似合う。

 

「わたしも、わたしも頑張るから! あんたの趣味が皆に受け入れてもらえるように頑張るから! 妙な性癖なんか、わたしは気にせえへん! わたし達は家族なんやから、あんぐらいの性癖は見て見ん振りするぐらい当たり前や! 絶対に皆を説得してみせるから、あんたもそれまで頑張るんやで!」

 

はやては顔を輝かしたまま元気に手を振って帰っていった。

 

俺は公園の土管に引き篭もった。

 

 

***

 

 

地球、イギリス某所。

 

「グレアム様、お茶が入りました」

 

「ありがとう、アリア」

 

第九十七管理外世界は、時空管理局にて無期限の不可侵監視対象世界に指定された。

 

本来ならば、時空管理局顧問官を務めるギリアムといえど立ち入りは許されないはずだった。

 

だが、この世には何事にも例外というものがある。

 

ギル・グレアムという男は、実は第九十七管理外世界のイギリス出身だった。

 

「ちょっと里帰りしてきます」

 

この申請を拒否することは、福利厚生がしっかりと完備されている時空管理局ではあり得なかった。

 

「アリア、あの子の様子はどうかね?」

 

「はい、既に闇の書の守護プログラム、ヴォルケンリッターが目覚めています。恐らく近いうちに闇の書を完成させるべく動き出すと想定されます」

 

「そうか、いよいよだな」

 

「はい、ギリアム様」

 

ギリアムは目を閉じて過去に想いを馳せる。

 

「……クライド、今度こそ終わらせてみせるよ」

 

己の主人の深い苦悩を知るアリアは、その呟きに込められた悲しみに心を傷めることしか出来なかった。

 

「ギリアム様……」

 

闇の書によって繰り返される悲劇。

 

ギリアムは、一人の少女を犠牲にしてその悲劇の連鎖を止める決意をしていた。

 

だが、たとえ鋼の意志にてその決意を支えようとも、自分の手によって生まれる確実な悲劇から目をそらすことは彼には出来なかった。

 

「アリア、私のことを非情な男だと思うかね」

 

「いいえ、ギリアム様は永遠に続くはずの悲劇を止めるべく立ち上がられた勇敢な方です」

 

「そうか……ありがとう、アリア。だけどね、やはり私は非情な男だよ。犠牲にするあの子に援助しているのもただの偽善にすぎん」

 

「そうではありません。闇の書に選ばれた者は、選ばれた時点で死ぬ運命に囚われています。ならば、その死を無駄にしないためにも、その死までの間だけでも、心穏やかに過ごせる時間をギリアム様はあの娘に送られているのです。あの娘も真実を知ったとしても、ギリアム様に感謝はすれど、恨むことなどあり得ないでしょう」

 

「ハハ、アリアの言葉を聞いていると、まるで自分が聖人君子にでもなったような気がしてくるよ。私は良い娘を持ったようだ」

 

アリアの言葉は客観的には事実だとしても、現実に命を奪われる者にとってはただの戯言にしか聞こえないだろう。

 

それを分かっていながらも、敢えて自分の心を軽くするために口にしてくれたアリアの気持ちがグレアムは嬉しかった。

 

「……全てが終わったら、私は全てを告白し罪を償おう」

 

「ギリアム様!?」

 

ギリアムのその言葉に初めて冷静さを失うアリア。ギリアムはそんなアリアの様子を優しげに見つめる。

 

「いいんだよ、アリア。それがかつてクライドを……そしていま一人の少女を犠牲にするしかない能無しの私ができる。最後の贖罪だ」

 

「ギリアム様が贖罪など!」

 

「アリア、私を自分がやったことの責任も取れない情けない男にしないでくれ」

 

「ギ、ギリアム様……」

 

「ふふ、どうだい、意外と男らしいだろう? 君の父親はね」

 

それまでの暗い雰囲気を一変させ、ギリアムは茶目っ気たっぷりに言ってみせる。

 

ついでとばかりにウインクまでするギリアムにアリアは目を丸くする。

 

「……うふふ、そうですわね。ギリアム様の意外な一面を拝見させていただきました。もしもギリアム様がもう少しお若ければ不覚にも惚れてしまっていたかもです」

 

「おやおや、それは惜しいことをしたね。アリアの心を射止められなかったとは、私の一生の不覚だよ」

 

ギリアムの軽口に対するアリアの精一杯の仕返しも、彼は年の功であっさりと返した……つもりだった。

 

アリアの瞳がキラーンと光る。

 

「あらあら、ギリアム様が本気だと仰るのなら私の方には否はございません。ささっ、こちらにいらっしゃって下さいませ。親子を超えた愛情を深め合いましょう」

 

「ふぇっ!? アリア、冗談はやめっ!?」

 

アリアの信じられないほどの怪力で寝室へと引き摺られていくギリアム。

 

嬉々としてギリアムを引き摺るアリアの姿を、少し離れた場所で警護をしていたロッテは呆れた顔で見ていたが、ギリアムの助けを呼ぶ声は当然のごとく聞こえない振りをした。

 

 

 

 

 

〜次回へ続く〜




悲しみを背負った男達の物語でした。彼らに心安らかな日が訪れることはあるのだろうか…
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