リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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今回までがこの物語のプロローグだったのかも。


第4話「余の名は」

どんなに強靭な肉体や超魔力、それに鍛えられた武術に魔法技術、そして数千年の経験と強大なモンスター軍団、その上戦略的、戦術的に絶対的に有利な状況であろうとも、僅か10人程度の敵に敗れる時はある。

しかも中心となり、最強の存在を倒したのは驚きの12歳の少年だ。

ちなみに本格的に戦士として鍛えだしてたったの三ヶ月後だったりする。

この三ヶ月というのは旅をしていた期間もあるから実質的な修行期間はごく僅かだった。

 

「前世のあたしって……」

 

現在のところ、あたしはこの世界で敵なしだけど、だからといって油断をしていては前世の二の舞になると思う。

 

だから教訓とするべく前世での状況を思い出していたけど、こうして整理すると前世のあたしって馬鹿だよね。

 

どうやったらあんな有利すぎる状況で負けるかな?

 

今のあたしだったら、あの世界の人間なんか一ヶ月もかけずに殲滅できる自信があるよ。

 

慢心、油断、遊び心、原因は色々と思い浮かぶけど、本当に前世のあたしは馬鹿だ。

 

そして恐るべきは世界に選ばれし勇者だろう。

 

たとえどれほど慢心しようと、油断しまくろうと、遊び心をだしてお茶目な真似をしていようと、あたしが最強の存在だったことには変わりはない。

 

あたしが負ける要素は皆無だった。

 

すでに神々の力を超えていたあたしには敵など存在しないはずだった。

 

それが敗れた。

 

勇者という存在に敗れた。

 

敗れた遠因は、馬鹿なあたしが結果的に勇者を育てるような采配を許したからだけど、それでも普通なら敗れるわけがない。

 

修行を始めたばかりの12歳の少年に敗れるなんて、あり得るわけがなかった。

 

その不可能を可能とする勇者。

 

そんな恐ろしい存在が、この世界には存在しないとは言い切れないだろう。

 

いや、存在すると仮定して動くべきだ。

 

しかし、勇者を倒すことを目標とすべきじゃないだろう。何故なら勇者というのは敵の強さに合わせてその強さも増すからだ。

 

そんなのの相手なんかしてらんない。

 

倒すよりも、勇者など生まれないように動く方が得策だと思う。

 

勇者が生まれる条件はなんだ?

 

もちろん決まっている。

 

人類が滅亡の危機に瀕したときだ。

 

ならば対策は簡単だ。

 

それは――

 

 

「人類はあたしが守ってあげるの!」

 

 

――人類を繁栄させればいい。

 

 

「まずは戦争が起こらないように、優秀で有能な選ばれた人間といっても過言じゃないあたしが人類を管理運営すればいいよね!」

 

 

流石はあたし、ナイスアイデアだった。

 

 

***

 

 

「今日もアチーなあ」

 

炎天下の中、あたしは自宅に向かって歩いていた。

 

今日もゲートボールは楽しかったけど、この暑さには参っちまうな。

 

「あっ、なの(ねえ)がいてる! ラッキーだぜ!」

 

あたしは駄菓子屋の店先でアイスを物色しているなの(ねえ)の姿を見つけて歓声をあげた。

 

なの(ねえ)というのは、最近知り合った年上のお姉さんだ。

 

不思議な力の持ち主で、なんと百発百中でアイスの当たり棒を引き当てる天才だった。

 

しかもなの(ねえ)は気前が良くて、その当たり棒を近くに年下の女子がいればくれるんだよな。

 

見たところ今日は周囲にあたししかいない。

 

つまり当たり棒を貰えるわけだ。

 

よし、こうしちゃいられない。他の奴が現れる前にあたしが当たり棒をゲットしてやるぜ。基本的になの(ねえ)は、先着順で当たり棒をくれるからな!

 

「なの(ねえ)ーっ!!」

 

あたしは、なの(ねえ)を呼びながら駆け出した。

 

 

 

 

「もしかして、ヴィータちゃんには不思議な力があるんじゃない?」

 

「えっ、な、何言ってんだよ。不思議な力があるのは百発百中で当たり棒を当てるなの(ねえ)の方だろう」

 

アイスを舐めていると、なの(ねえ)から突然かけられた言葉に内心ドキリとする。

 

「ううん、隠しても分かるよ。ヴィータちゃんから凄く微弱だけど、初めて会ったときから魔力を感じていたもの」

 

「す、すごく微弱……?」

 

いや、その、なんだ。

 

あたしはこれでも歴戦の守護騎士で、魔力の強さにも自信があるんだけど?

 

まあ、別にそれはいいけどさ。魔力自慢したいわけじゃないからな。

 

「あの、なの(ねえ)。あたしは……」

 

それよりもどう言えばいいんだろう?

 

今は闇の書は失われて、あたし達はヴォルケンリッターの名を捨てた。

 

本当はヴォルケンリッターの名前には愛着があったから闇の書が失われた後も名乗り続けたかったけど、ヴォルケンリッターの一員がとんでもねえ変態だと判明したせいで、その気が失せちまった。

 

うう、今思い出しても悍ましい姿だったぜ。

 

あたしは頭を振って、その記憶を振り落とす。

 

あんな変態よりも、なの(ねえ)との話の方が大事だ。

 

「えっと、もしもあたしに魔力があったらどうするんだ?」

 

できれば、なの(ねえ)との付き合いは切りたくねえ。

 

アイス云々は関係なく、なの(ねえ)は凄く優しくて、あたしのことを妹のように扱ってくれる人だからな。

 

でも、あたしの魔力を何かに利用したいとかいうなら話は別だ。

 

ヴォルケンリッターの名は捨てたけど、はやての守護騎士は続けているんだ。

 

はやての守護騎士として名を落とす真似に加担は出来ないからな。

 

「うん、まずは話より先にあたしの力も見せるね」

 

「え…? な、なんだこの馬鹿強え結…か……いぃいいいっ!?」

 

なの(ねえ)が指を一振りすると、見たこともない強力な結界に一瞬で包まれた。

 

それに驚いていると、なの(ねえ)から何というか、もう凄いとか、強いとか、そういう言葉で表せるレベルを超えている程の魔力、いや超魔力というべきものを感じた。

 

なの(ねえ)は本当に人間なのか?

 

本当は、魔神や邪神とかに分類される存在じゃねえのか?

 

しかしヤベえな、身体の震えと冷や汗が止まらねえんだけど、ここから逃げ出したらなの(ねえ)怒るかな?

 

そんな風に考えながらも、なの(ねえ)が優しい笑みを崩さなかったから、あたしはこの場から逃げ出したい衝動を何とか抑えることができた。

 

そんな状態の中、なの(ねえ)に近寄られてもチビらなかった自分を褒めてやりたい。いや、ホントにマジで。

 

 

 

 

なの(ねえ)から、どうしてあたしの魔力の話をしたのか教えてもらった。なの(ねえ)は自分の目的のために力を貸してくれる仲間が欲しいそうだ。

 

そして、その目的というのは決して利己的なものじゃなかった。

 

「そうか、なの(ねえ)はこの世界から戦争をなくしたいのか。うん、あたしも戦争はなくしたいな」

 

魔神や邪神かと疑うほどの力を持つ者の願いが人類平和だなんて、何というか……なの(ねえ)はやっぱり優しい人だった。

 

「あたしにも力を貸してくれる仲間はいてるけど、ついこの間も宇宙人の侵略を防ぐために無茶をさせちゃったから今回はダメなんだ(すずかちゃんが裸マントのトラウマから脱してないからね)」

 

「宇宙人が侵略しに来てたのか!?」

 

なの(ねえ)の超魔力を知って、もう驚くことは滅多にないだろうと思っていたけど、これには驚いた。この時空の異星人なのか、他の時空の来訪者かは分からないけど、あたし達が気付かないまま色々と起こっていたんだな。

 

「うん、少しだけ見せてあげるね」

 

なの(ねえ)はそう言うと、あたしの頭に手を置いた。

 

その手から、なの(ねえ)の記憶が流れ込んできた。

 

数千隻を超える戦艦が漆黒の宇宙の彼方から迫ってくる威容に、あたしはただの記憶だと分かっていても絶望しか感じなかった

 

そしてその絶望の前に立ち塞がるのは、悲しいほどに小さな人影がたったの三つだけだった。

 

そして数千隻の戦艦は警告もなく、その主砲を発射すべく一斉にエネルギーを溜め出す。

 

もはやそれは絶望という言葉すら生温いほどの状況だろう。

 

数千隻の戦艦が一斉に主砲を放てば、時空振動すら起こしかねないほどの地獄がこの場に顕現するはずだ。

 

数多の死地を超えてきたあたしですら、悪あがきをする気すら起きない。

 

なのにそんな状況においてなお、なの(ねえ)の顔には絶望の色はなく、笑みすら浮かんでいた。

 

それは仲間と思しき他の二人も同じだった。

 

黄金の髪を持つ一人は、その鋭い顔貌に好戦的な笑みを浮かべていた。

 

漆黒の髪を持つ一人は、その穏やかな顔を羞恥に染めて……羞恥? どういうことだ? あれ、この人の身体がよく見えないな。塗りつぶしたように真っ黒なような……光の加減かな? まあ、いいか。

 

とにかく三人は、眼前に迫る絶望を前にしてなお希望を失わずにそこに在った。

 

きっと、ついさっきまでのあたしなら三人の心が理解できなかっただろう。

 

あまりの絶望に気が触れたのかと思うだけだったかも知れない。

 

だけど、なの(ねえ)の考えを知った今なら理解できる。

 

この三人は、あたし達、ヴォルケ……いや、えーと、そうだな、はやての守護三騎士と同じなんだ。

 

護る対象は違うかも知れないけど、護るモノのためなら笑って命を捨てれるのだろう。

 

だって、数千の絶望を前にする三人の後ろで……泣きなくなるほど優しい光で、彼女達の母なる星(地球)が輝いているんだからさ。

 

なの(ねえ)は言った。

 

大事な人を護りたいと。(可愛い女の子は人類の宝だから護らなきゃね)

 

人の世界を救いたいと。(人類のピンチになると湧き出る勇者って怖いよね)

 

その為に力を貸してほしいと。(一人で黙々働くより、可愛い女の子を侍らせながら働きたいよね)

 

三人は優しい光を護る為に頑張っているんだ。絶望を前にしようが、地獄を前にしようが、三人は護るものを背にして笑っている。

……なんだかあたしは無性に叫びたくなった。

 

なの(ねえ)達が動き出す。

 

「にゃはは〜! みんなっ、ここが死に場所と心得よ! って感じだね〜!」

 

「あら、あたしは絶対に嫌よ。こんな問答無用で攻めて来るような奴らに負けてなんかやらないわよ」

 

「お喋りはいいから早く終わらせてよう!! どうして私だけこんな格好なのよ!!」

 

「大丈夫だよ、すずかちゃん! ちゃんと色っぽいよ!」

 

「やかましいわ!! この変態が!!」

 

「ところで、アリシア達はどうなのよ?」

 

「うん、もう配置についているよ。十字砲火の準備はバッチリだよ」

 

「それならサッサと始めるわよ!! 総員、構えろっ!!!!」

 

「攻撃合図はあたしの役目なのにーっ!!」

 

「なのは、そのぐらい譲ってあげなさいよ(すずかのストレスが本気でヤバそうよ)」

 

「う、うん、分かった。(ほ、ホントだ。すずかちゃんの目が座ってて怖いかも)」

 

「それじゃあ、いくわよ!! ゴミ虫共を撃ち殺せ!! 総員、ファイヤーーーーッ!!!!」

 

それからの記憶は人の脳が理解できる範囲を超えていて説明しにくい。

 

だけど結末は、なの(ねえ)の圧勝だった。

 

数千隻の戦艦はスクラップになって宇宙空間を漂うゴミになっていた。

 

「……ま、まあ非常識な結果だけど、なの(ねえ)の魔神や邪神レベルの超魔力なら不可能じゃねえよな」

 

「えっと、魔神とか邪神なんて呼び方は趣味じゃないかな」

 

「ん? じゃあ、好みの呼び方でもあるのか、なの(ねえ)

 

「……(ここで大魔王と名乗ったら嫌なフラグが立つ気がするの)」

 

「どうしたんだ、なの(ねえ)?」

 

「にゃ、にゃはは〜、あたしは何処にでもいる平凡な魔法少女だよ」

 

「平凡な魔法少女って……まあいいか。えっと、そうだな。それならさっきの記憶の映像、叙情的というか、感情溢れる感じだったからリリカルも付けたらどうだ?」

 

「リリカル……うん、いいかも!」

 

なの(ねえ)は小さく呟くと気に入ったみたいで、いつもの満面の笑みを見せた。

 

 

 

「魔法少女リリカルなのは!! ここに爆誕なの!!」

 

 

 

 

 

〜次回に続く〜




うんうん、これでこの大魔王様の物語の原作は『魔法少女リリカルなのは』だって、胸を張って言えるよね!!

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