リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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今作の“なのは”と“大魔王”は人格が入り混じっています。


2話「夜の一族」

あたしの前には、暴力を生業とする男達がその身を震わせながら立っている。

 

こいつらを手下にしていた吸血鬼は簡単に屠れたけど、ある意味では吸血鬼よりも普通の人間の方が侮れないと思っている。

 

あたしのかつての経験がそれを教えてくれる。

人間は決して諦めない。

自分よりも力のある存在にも、その小さな力を合わせて立ち向かってくる。

 

だからあたしは、アル中のように震えているこいつらにも全力を尽くす。

 

「ピオリム! スクルト! バイキルト!」

 

大魔王時代だったら、格下の人間相手に使おうとは思わなかった補助呪文も遠慮なく使う。

 

「何故なら今のあたしは女の子だからっ!!」

 

大魔王のままなら、その矜持にかけて補助呪文なんか使えなかったけど、非力な女の子ならどんな手段を使っても肯定される!

 

「あははははっ、いい時代になったものね。さあ、殺戮の時間よ」

 

あたしは獲物に向かって歩みだした。

 

 

 

 

バタンッ!

 

「大丈夫かっ!!……え、なのは!?」

 

突然、扉が放たれると、そこからあたしの兄が飛び込んできた。

 

「どうしたのよ、恭也! すずか達は無事なの!?」

 

兄の後ろからは年上のお姉さんが現れた。

 

あれ?

 

縛られてる黒髪の女の子…たしか、すずかって名前の子に似てるような? 姉妹かな?

 

「い、いや、俺の妹がいたから驚いただけだ。まあ、なのはがいるって事はすずかちゃん達も無事な筈だ」

 

「恭也の妹? 美由希さんのこと?」

 

お姉さんは不思議そうにあたしを見ている。

あたしのお姉ちゃんは知っているのに、あたしの事は知らないみたい。

 

「お兄ちゃん、その美人のお姉さんは誰なのかな?」

 

「ひぃっ!? ち、違うんだ!俺は別に隠そうとしていたとかじゃないんだっ! 彼女はただの女の子だからな! なのはが気にする必要はないぞ!」

 

なるほど、あたしに内緒にしていたという事は、何か秘密のあるお姉さんのようね。

それにしても我が兄ながら秘密の守れない男ね。

 

「何を慌てているの? そんな事よりすずかは…すずかっ!? そこに居たのね!待ってて今、縄を解いてあげる!」

 

縛られてるすずか達を見つけたお姉さんは、急いで二人の縄を解こうとする。

 

あたしは縄を解くお姉さんの後ろで、声を出さずに分かりやすいように口を動かす。

 

「(秘密を喋れば、全員消す)」

 

コクコクと青白い顔色をした二人が頷いてくれたから大丈夫だろう。たぶん。

 

「ここには三人しかいないのか? すずかちゃん達を攫った奴らは何処に行ったんだ?」

 

兄の疑問の言葉にあたしが答えてあげた。

 

「あたしがこの廃ビルの前を通りかかった時に、廃ビルから慌てて飛び出してきた男の人達の事かな? 少し気になったから廃ビルの中に入ってみたら、その子達が縛られてるのを見つけたの。あたしが驚いてる最中にお兄ちゃんが飛び込んできたんだよ」

 

我ながら無理のないストーリーだな。

兄の方は流石に何かを察している様だが、態々それを口にする事はないだろう。

 

そして予想通り、お姉さんの方はアッサリと信じたみたいで納得する様に頷いている。

 

「きっと私達がアイツの予想より早く、ここに近付いた事に気付いて逃げ出したのね。アイツは昔からそんな根性ナシだったわ」

 

お姉さんは何処かに電話をして、誘拐犯達を捕らえるように指示を出していた。

行動は早いけど、きっとこの事件の犯人は逃亡に成功するだろう。

 

「あなた達、誘拐されていたの!? 大丈夫なの? 怖かったよね。もう大丈夫だよ」

 

あたしは二人を心配するように近付くと、抱き締めてあげながら二人にしか聞こえない声で囁く。

 

「(すずかちゃんの秘密は後でゆっくりと聞かせてもらうね。あたしの秘密は墓場まで持っていく事をお勧めするよ)」

 

ビクリと震える二人。

傍目には誘拐されて怯える二人を慰める美少女の図に見えているだろう。

 

「なのはちゃんは家まで送らせるわ。アリサちゃんには悪いけど少し事情を聞かせてね」

 

お姉さんはテキパキとその場を仕切り出す。

きっとお姉さんは、アリサちゃんにすずかちゃんの秘密を知られたと気付いて、口止めをする気だろう。

 

その事にアリサちゃんも気付いたみたいで不安そうに目を泳がす。

その様子が愛らしかったので、アリサちゃんの耳元で囁いてあげた。

 

「(行くのが怖かったらあたしも一緒に行ってあげるよ。何かされそうなら、あたしが全部消してアゲル)」

 

 

何故かアリサちゃんは、すずかちゃんに抱きついたままお姉さんと行ってしまった。

 

人間の行動というのは、あたしの予想通りにいかない。

まだまだ勉強不足なのだろう。

 

家まで送られる車の中で、“一人”そう思うあたしであった。

 

「あれ、どうしてお兄ちゃんは一緒に乗っていないの?」

 

 

 

 

その部屋は、床も壁も天井すらも真っ赤に染められていた。

 

噎せ返るような血の匂いに気が遠くなりそうになる。

 

必死に正気を保とうとする私の目に彼女の姿が飛び込んできた。

 

真っ赤な世界で、彼女だけは綺麗だった。

 

恭也の声が何処か遠くで聞こえた気がした。

 

妹…?

 

美由希さんのこと…?

 

その瞬間、私の脳裏に何時だったか、恭也が一度だけ口にした言葉が蘇った。

 

『俺の下の妹は、あの親父が萌えキャラに思えるほどの化け物だ』

 

その時は、恭也がクソ面白くない冗談を口にしただけだと思っていたけど、今の私なら分かる。

 

目の前の女の子は化け物だと…

 

私達は“夜の一族”と呼ばれる超常の力を生まれ持つ一族だけど、この子は格が違いすぎる。

 

私の本能が、この場から逃げ出せと最大の警鐘をがなり立てている。

あまりにもその声がデカすぎて気付くのが遅れてしまっていた。

 

その化け物の女の子は、私達に一応は友好的に接してくれている。

この場を荒立てないようにと、無理のあるストーリーを敢えて口にしてくれる。

 

私はそのストーリー通りに動き、その場を離れた。

彼女を送らせた車とは、逆方向に離れていく車内で私はホッと息を吐く。

隣では恭也が労わるように私の頭を撫ででくれる。

 

「どうして、教えてくれなかったの?」

 

私は敢えて主語を抜いて問う。

 

「一度、教えた筈だ」

 

「あんなの冗談だと思うに決まっているわ」

 

私は恭也の返事に、思わず頬を膨らませて文句を言う。

 

「そうか、そうだな。でもアイツは悪い奴じゃないんだ。敵対さえしなきゃ危険はない。そこは安心してくれ」

 

恭也の言葉に私はますます怒りが湧いてくる。

 

「もしも、私が何も知らないまま彼女と会った時に、彼女を怒らせていたらどうなっていたのかしら?」

 

私の言葉に、恭也は脂汗をかきながら呻くように呟く。

 

「だ、大丈夫だ。今回のように明らかな犯罪行為じゃない限り、喧嘩レベルで抑えてくれる筈だ……たぶん」

 

 

次の瞬間、私のアッパーカットが恭也の顎に決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 




だから“なのは”でも“大魔王”でもないって言ったよね!?
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