今日はアリサちゃんを挟んで三人で帰宅していた。
「こうして両手を掴まれていると、地球人に捕獲された宇宙人の気持ちになってくるわね」
あたしとすずかちゃんに両手を繋がれているアリサちゃんが妙な事を言っている。
「アリサちゃん、こういう時は両手に花って言うんだよ」
「そうだね。ちなみに三人以上なら花束だよ」
「そんな事を言ってんじゃないわよ! 鬱陶しいから手を離せって言ってんのよ! この状態だと頭も掻けないでしょう!?」
なんだ、そんな事を心配してたんだね。
あたしにお任せだよ!
「大丈夫だよ。体が痒くなったらパンツの中だって、あたしが掻いて上げるからね」
「うん、私もアリサちゃんの体なら隅々まで舐め…じゃなくて掻いてあげるね」
「百万歩譲ってなのはは我慢するけど、すずかは完全アウトよっ!!」
「そんなっ!? なのはは良くて私はどうしてダメなの!?」
すずかちゃんは、自分の事が分かっていないみたいだ。
ここはあたしがハッキリと言ってあげるべきだね!
「そんな事も分からないの?」
「なのはちゃん!? 私が何を分かっていないと言うのよ!」
「すずかちゃんは前に言ってたよね? 自分ではなくアリサちゃんに生えて欲しいって」
「はっ!?」
「ちょっと待て、なのは」
「ううん、待てないよ。すずかちゃんは間違っているよ! すずかちゃんの言葉は今のアリサちゃんを見ていないって事だもん!!」
「ガーン!? わ、私がアリサちゃんを見ていない…?」
「だからちょっと待て、なのは」
「ううん、絶対に待てないよ。だって、すずかちゃんは今のアリサちゃんに自分好みに変われって言ってるんだよ! そんなの真実の愛じゃないよっ!!」
「ガガーン!? そ、そんな…私の想いは間違っていたの?」
「いい加減黙れ、なのは」
「ううん、何があっても黙れないよ。そこがあたしと違うんだよ。あたしは自分の体を犠牲にしても、アリサちゃんと一つになりたいもの!!」
「ガガガーン!!!! つまり私は自分の体可愛さでアリサちゃんの体を蔑ろにしていたのねっ!!」
「分かってくれたんだねっ、すずかちゃん!!」
「うんっ、目からウロコが落ちまくったよ!!」
「すずかちゃん!!」
「なのはちゃん!!」
あたし達は感極まって抱きしめ合う。
「く、苦しい…」
もちろん、間にいたアリサちゃんもあたし達の抱擁の中にいた。
仲間外れはダメだからね!
*
“誰か……僕の声が聞こえますか………”
何か聞こえた気がした。
“僕の…声が……聞こえますか”
これは、まさか念話なの?
クク、この世界に念話を操れる者がいたとはね。
あたしは溢れてくる狂喜に身を震わせる。
だけど、アリサちゃん達を関わらせるのは危険だと思う。
己の力を過信して二人を守りきれるなどと奢るのは愚か者だ。
とは言っても正直に話せば付いて来たがる可能性が高いよね。
ここは一芝居打つとしよう。
「今日は新しくできたお店に行こうよ!」
「あんたは寄り道ばっかりね。あんまり不真面目だと不良になるわよ」
「ダメだよ、アリサちゃん。不良に憧れるのは思春期にありがちだけど、それはただの気の迷いなんだから気をつけてね」
「そうだね、一時の気の迷いで将来を棒に振っちゃダメよ」
あたしとすずかちゃんは、一生懸命に横道に逸れようとするアリサちゃんを引き留める。
「なんであたしが悪い事になってんのよっ!?」
アリサちゃんがバタバタと暴れようとするけど、あたしとすずかちゃんの二人に手を繋がれているからビクともしない。
「あはは、じゃあ今日は真っ直ぐ帰ろうね」
「あんたが寄り道しようって言い出しだんでしょうが!」
「仕方ないですね。アリサちゃんの教育のために今日は真っ直ぐ帰るとしましょう」
「す、すずか…あんたもなの!?」
あたし達は分かれ道まで仲良く並んで帰ると素直に分かれた。
「バイバーイ!」
「ふんっ、寝坊すんじゃないわよ!」
「帰り道は車に気をつけて下さいね」
二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあと、あたしはニヤリと嗤う。
“誰か……僕の声が………”
頭にはまだ声が聞こえていた。
「安心して、聞こえているわよ。この大魔王にね」
あたしは“レムオル”を唱えて姿を消すと“トベルーラ”で声の元へと向かった。
風を切り裂きながら飛ぶ感覚に、あたしのテンションは上がっていく。
この先に、たとえかつての勇者が待ち受けていようと、この大魔王に二度の敗北はない事を知らしめてやろう。
「あははははっ、待っていなさい! 未知なる敵よ!」
*
あたしの前に死にかけたイタチがいた。
突っつくとピクピクと動いている。
どうやらあの声の正体はこのイタチだったようだ。
ガックシ…!
道端で四つん這いになり絶望を表す可愛い女の子がいた。
あたしだった。
「ど、どうやら死を前にした動物が執念で助けを呼んだだけみたいね。野生動物って凄いよね」
イタチの様子を探ってみてもカス以下の魔力しか感じない。
だけど魔力を全く持たない生き物が多いこの世界でなら貴重な存在かもしれない。
「もしかしたらリニスみたいに喋るようになるかも」
あたしは好奇心を刺激されて、かつてリニスを拾った時のように回復呪文をかけてみる事にした。
リニスの時は助けたくて必至だったから今回は冷静にやってみよう。
“ホイミ”(体力回復)
「傷が消えたね」
“キアリー”(解毒)
「えっと、特に変化はないよね?」
“キアリク”(麻痺治療)
「あれ、ピクピクしてる?」
「キュ…キュウ……」
「目を覚ましたら面倒よね」
“ラリホー”(睡眠)
「グー…」
“マヌーハ”(幻惑解除)
「なんか、飽きてきた」
“キアラル”(混乱治療)
「…イタチって食べれるのかな?」
“シャナク”(解呪)
ボワンッ
イタチが人間の男の子に変身した。
何故だろう?
“モシャス”はかけてないよね?
途中からボーとしかけて集中力を切らしたせいかな?
それとも連続して呪文をかけたから呪文同士が相互干渉した結果かも?
「取り敢えず人間の男の子は面倒だから“モシャス”(変身)」
ボワンッ
あたしの前にアリサちゃんが倒れていた。
「ゴクリ…練習ってことでいいよね?」
あたしは倒れているアリサちゃんに手を伸ばそうとして……断腸の思いで止めた。
「やっぱり、こんな事はいけないよ。だって……本番での楽しみが半減しちゃうから!」
あたしは紳士…じゃなく淑女らしく“モシャス”の悪用なんかしないよ!
だから“モシャス”で他の男に変身もしないもん!
男に変身すればアレをわざわざ生やす必要はないと思うかも知れないけど違うんだよ!
あたしはあたしだもん!
他の体になったあたしはあたしじゃない!
他の男の体がアリサちゃんの体に触れるのは我慢できないもんね!
それに……他人のアレに触りたくないよね?
“モシャス”
ボワンッ
あたしの前にイタチが倒れていた。
「さっさと起きろ、イタチ」
あたしはイタチを蹴っ飛ばした。
「うわっ!? な、何が起こったんだ!?」
目を覚ましたイタチが喋った。
ふむ、実験は成功したみたいだね。
でも何の呪文の効果が分からないや。
えへへ、あたしは帰ることにした。
「ちょっと待ってよ! 君が助けてくれたんだよね!?」
イタチが目敏く立ち去ろうとしたあたしに気付く。
混乱していた筈なのに…
そうか! キアラルを唱えていたせいか!?
「チッ…それでイタチ風情があたしに何の用よ?」
「イタチ風情って…君は見かけと違って口が悪いって言われるんじゃない?」
「踏み潰すぞ、畜生が」
「イタイイタイイタイ!?もう踏んでるよ!?」
ギュウギュウッ!
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!許して下さい!!」
「ふん、次はないぞ」
あたしは寛大にも許してやった。
だって踏み潰したら中身で靴が汚れちゃうからね。
「怪我は治してやったんだ。さっさと巣穴に戻れ」
「やっぱり君が助けてくれたんだね。あんな酷い怪我も治せるって事は、君は普通の人間じゃないよね」
イタチは立ち上がるとあたしの目を見つめながら言った。
「僕も普通の人間じゃないんだ。たぶん君と同じ“魔法使い”だよ」
しまった!?リニスの時も妄想癖が発病したんだった!!
…人語を操る妄想癖のあるイタチ。
放っておくと騒動を起こしそうだね。
仕方ない。
イタチは飼いたくないけど、リニスのオモチャ代わりにはなるだろう。
あたしは妄想を口走っているイタチを掴み上げると呪文を唱えた。
“ルーラ”
この時のあたしには、掴まれたまま喋り続けているイタチの妄想になど全く興味がなかった。
そんな些末な事よりも重大な事案があったのだ。
「リニスがイタチを食べてもお腹を壊さないよね?」
イタチを見つけても凶暴だから気をつけようね。