強化京華kyouka   作:じょーく

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文学少女びふぉー5

 なんであんなことを言っちゃったんだろう。後悔ばかりだ。

 宮永さんなんて大っ嫌いって、ついに言ってしまった。でも、本音だったんだし良いんじゃないかと、そうやって自分の考えを正当化しようとしている。

 宮永さんならクラスの誰かに言ってもいきなりすぎて信じてもらえないだろう。そうやって、自分の評価についての安全を確認する。

 私は――汚いな。

 あんなのケンカですらない、ただの八つ当たりじゃないか。私の汚い本音を吐き散らす――本音という言葉すら使うことがおこがましい、ただの愚痴だ。

 

「宮永さん」

 

 ベッドに横たわりながら、私はそう呟いた。

 制服を脱ぐ気すら起きなくて、着たままの私は死んだように、口だけを動かした。

 

「ごめんなさい」

 

 宮永さんは居なくても、その言葉を言えばそれだけ自分を許せる気がした。たとえ自分を許せたとしても――他人は許すはずがないのだろうけれど。それでも、少しはストレス解消のようなものになったのだ。

 

「やだな……もう、やだな」

 

 布団をかぶって、私は胎児のように自分の身体を丸めた。そうすれば周りの空気が少しだけ薄れて、その分だけ自分も外と干渉が減った気がしなくもない。まるで現実から遮断されたような気すらする。

 

「宮永、さん……」

 

 もう、そう呼べないのかもしれない。

 それはたまらなく嫌で、後悔が膨れあがる。

 嫌いだったんだろうと言われればそれまでだ。それでも本当に嫌いだったかなんて、私にすら分かりはしない。

 本当に私は宮永さんのことが嫌いだったのか、確かに、私を恐れているような態度は苦手で、嫌いだったかもしれない。だけどそこ以外はどうなんだ。

 全部をひっくるめて、ちゃんと私は宮永さんを嫌っていたのか。

 私は――――ひねくれていただけなんじゃないのか。

 しかしもう、そんな事実も確認しようがない。だって、宮永さんからはもうこんな私に話しかけることはないだろうし。そして私から話しかけることも、二度とないだろう。

 

 そう、私は宮永咲と気まずくなったのだ。

 

 

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 学校に行きたくない。そう親に言えば休むのは簡単だ。

 なんたって足が速いとあれだけ世間に騒がれて、むしろ昨日だって親からは休んで良いんだよと提案されたくらいだ。

 でも、私は行くことにした。虚無感を満たすために、少しでもいつもの日常をしておきたかったから。

 だからわざわざ親に学校まで送ってもらって、私は校門前で降りる。親からは気をつけてねと、そう注意されてから笑顔で返事をして、校門の近くに立っていた先生方に心配されながらも普通に挨拶をして、松葉杖を突きながら教室にまで向かった。

 道中、朝の部活帰りの友達からそんな私の姿を見られて、教室まで手伝うよと言われたが、それは丁重に断らせてもらった。なので松葉杖を上手く使いながら三階まで上る私である。一応、その友人だけじゃない複数の友達がそんな私の周りにいて、いつでもフォローできるように身構えていた。

 

「私はなんのVIPだよ」

 

 そう言って笑いを取る私であった。

 実際、ここまでやられてしまったら気まずいというものなのだが、友達からすれば、友人が死ぬかもしれない危険をはらむ階段を上るという行為を見過ごすなんて真似、どうあってもしたくないことか。

 二階にまで上がったところで、このままじゃ友達も私に何もできない、何もしない、というマイナス思考に陥ることが空気から予測できたため、松葉杖を持ってもらってそれから手すりに掴まりながらケンケンで階段を上がることにした。これで友達は私に対してできることがあって満足するし、私も楽できる。WIN-WINな関係だった。

 そんな感じでようやく三階にまで来た私は、松葉杖を返してもらって友達に見守られながら、傍から見れば友達を引き連れながら自分の教室に向かう。

 そして扉を開けば、まだ十分に生徒は集まっていない教室だ。そこに居る生徒も「須賀さん、大丈夫かな?」みたいな視線を送ってくるので、とりあえず笑顔を返しておいた。

 ここまでやって、私はようやく自分の席に着ける。

 友達にお礼を言って、そしてみんなを楽しませる人気者の須賀京華は、適当な話を続ける。

 ここまでして、学校に来る意味なんてあるのかな。

 そう思ったことは、否定できなかった。

 それでも、みんなの前でため息だけは吐かなかった。ちゃんと何時も通りに(・・・・・・・・・・)授業を受けて、笑ったりしながら過ごしていった。いつもと違う点を挙げるなら、お昼休みになっても私が中庭や屋上に移動することはせずに、席に座ってまるでいつもがそうであるみたいに友達と昼食を取ることだった。

 あとはせいぜい――からかわれないことか。お調子者の友達も、今回ばかりは私はからかわないで、大人しく適当な話をしていた。どんな内容かなんて、欠片も覚えないような話だ。だから、そこはからかって欲しいなとか、以前なら絶対に考えないようなことを私は考えて、やっぱりみんなから気遣われているんだなあと再認識した。

 

「あーもう、キスするぞお前ら」

「「「ぶふぅっ」」」

 

 代わりにからかってみたら、みんな仲良く噴き出した。うわあ、ばっちい。

 目の前の女の子は顔を真っ赤にしながら逆ギレみたく怒ってくるし、他の子は下を向いたりしてるし、視線が明後日の方向に向いてたりとか、そんな感じになった。

 

「い、いきなり何言ってんの!?」

「そうだよ、なんで急に!」

「私は、その、きょーかが良いなら別に……」

「あ! なんか抜け駆けしようとしてる! ダメダメ、絶対ダメ!」

 

 ……こいつら、ノリ良いんだね。

 そうだよなあ、そうなんだよなあ。

 私はみんなのことが好きとか嫌いとか、そういうことを考えたことはなかったけどさ、みんなは――私のことを少しは好きでいてくれてんじゃないかなあ。冗談でも、キスして良いよって言ってくれるくらいには。

 だったら、ダメなんだよね。こんな私じゃあ(・・・・・・・)ダメなんだ。

 分かったよ、ああ、分かり切っている。このままじゃあダメだってことくらい、普段は鈍感だってからかわれる私にだって――分かっている。

 

 

------------------------------------------------------

 

 

 宮永さんとはなんだろう。

 弱者だろうか、強者だろうか。

 鈍感だろうか、敏感だろうか。

 ああ――そんなの、プラスもマイナスも何も関係ないんだ。

 弱者だろうが強者だろうが、鈍感だろうが敏感だろうが、そんなこと、関係あるはずがないんだ。

 人間である以上、弱いとか強いとか、そういうのはあるんだろう。だけど、今回のことでそれは全くもって関係ない。

 私は間違えた――だから、謝らなきゃいけない。頭を下げながら、必死に許しを請わなきゃならなければならない。それで許されようと、許されなかろうと、私はそうしなきゃいけないんだ。

 あんな八つ当たりで、嫌いだ大嫌いだと言った私が、そう簡単に許されちゃあいけない。けど、それでも宮永さんなら許してしまうんだろうなって思う。

 けど、それじゃあダメなんだ。それだけじゃあ、ダメなんだ。

 

 私は――宮永さんと友達になりたいんだ。

 

「…………」

 

 キーンコーンカーンコーンって、鐘が鳴る。

 放課後の終わりではなく、始まりを告げる鐘であり、それと同時にHRは終わってみんな鞄を持って教室を出ていく。家に帰るのか、部活に向かうのか、どうあろうと、みんなここから出ていき始めた。何人か私に手を振って別れの挨拶をして、ある人は一階まで送ろうかと提案してくれたが、丁重にお断りした。

 それで、私は自身の膝の上に置いた手をギュッと握って、固い唾液を飲み込んだ。私が少し首を動かせば、そこには宮永さんが居る。右一つ、後ろ二つ、その席でまだ帰りの支度でもしているんだろう。

 だから早くと――速くと、私は自分に願った。

 早く振り向いて、宮永さんを見て、それから一緒に帰ろうでも、何でも良い。最終的に謝れれば、それで良いから――早くしてくれ、私。

 だけど私の首はまるで自分のものでもなくなってしまったかのように動かなかった。変な汗だって掻きそうで、瞳がユラユラ揺れているのが自分でも分かる。

 私は――ダメなんだ。

 陸上部だったころのあの時だってそうだ。決勝の大舞台、一年生にして異例の優勝を決めたあの大会。

 みんなのところに帰る途中、見知らぬ同い年くらいの子に褒められて嬉しくなって、見知ったみんなに褒められて苦笑いしか浮かべられなかったあの時。

 怖かったんだ、私は。自分の走りを褒めてくれた子には何も思わなくても、私のこれから(・・・・)を思うみんなの褒め言葉に――期待に私は押しつぶされそうになっていたんだ。誰も知らないかもしれないけど、私は弱い。みんなが思っているよりもずっと弱い。もしも私より速い子が居て、その子が代わりに全国大会に行きたいと提案するようだったら、私は渋々ながらでもそれを了承したかもしれないくらいに、私の心は全然に脆かった。

 弱いんだ、私は。自分でも嫌になるくらいに。

 

「みや、ながさん」

 

 か細い声で、誰にも聞こえないように私は唱えた。

 それだけで重い何かが圧し掛かるようで、私は下を向いて自分の机を見ていた。

 そうだ、今だって私は、私の知らない内に宮永さんが帰っていることを願っている。

 

――私は嫌じゃあないですよ。

 

――私なんかじゃあ、須賀さんの友達になんてなれやしませんよね。

 

 私は――――弱者なんだよ。

 あの日の宮永さんの顔が蘇る。私が嫌いだって言った、あの日の宮永さんの顔が。

 さしてショックを受けている様子でも無い、『普通』の表情。けど、その裏ではどんなことを思って、何を考えたのか。それを考えるだけで私は泣きそうになる。

 

――宮永さん、宮永さん、宮永さん。

 

 何度も唱えて、何度も弱さを思い知る。

 どれだけ思おうと満足なんてできやしない。宮永さんって、その短い言葉が私の口からは出ない。

 放課後まで待ったのは、宮永さんの顔を直視することさえできなくて、だから、せめてみんなに見られてなければ弱者の私にだってできるんじゃないかって考えたからだ。けど、無理っぽかった。ホントはもっと早く、朝にでも言うべきだったことをここまで持ち越しておいて、私は何もできやしない。

 いや、もしかしたらまだ教室に人が残っているからじゃないのか。なら、少し待てば―――――そう、言い訳をしようとしている私が居た。

 そんな自分がたまらなく嫌で、だから私は、HRが終わった後に教室の隅っこに置かせてもらって、今さっき友達が持ってきてくれた松葉杖を手にして、その杖を支えにゆっくりと席を立つ。

 それからも後ろの方を見ないように、前の方の扉にゆっくりと杖を突いて向かう。それで扉の前にまで着けば、普通に開けて、右左どちらからも人が来ないことを確認すると、また私は一歩進んで廊下に出る。壊れてしまった足の方は地面に付かないように、片足と二つの杖で一歩一歩、進んでいく。まだ放課後が始まったばかりからなのか、教室や廊下から喧騒が聞こえてくるけれど、それでもさほど廊下に人は多くない。私が松葉杖を使えるくらいには十分なくらい少なく、階段まで来ても見えるのは、友人と話しながら降りている二人の生徒くらいだった。

 私も――宮永さんとこういうことができたのかな。

 楽しくおしゃべりをすることが、できたのかな。それはもう、遅刻しちゃってるんだろうけどさ。

 

――――小っちゃくて、ひんやりしてて、気持ちいい。

 

 その手をもう、私は握れない。

 一歩降りて、噛み締める。変えようのない過去を、背負っていく。

 手が可愛くて、それを褒めるだけで顔を赤くして恥ずかしがって、それで階段から落ちかけてさ、ドジだなあって思う。

 少しだけ焦って助けたら、私が押し倒されたみたくなって、ビックリするくらい顔近くなっちゃったんだよね。そしたらまた、宮永さんの顔もこれ以上ないくらいに真っ赤になってさ。

 ドジだよね、本当に。私が目の前ですーはーって息して見せてるのに、宮永さんはひっひっふー、なんて妊婦みたいな呼吸をしてるんだよ。照れ屋さんで、ドジで、見てて危なっかしくて、だから見放せない。青のジャンパースカートはそんな幼い宮永さんにぴったりと似あって可愛かった。

 本当の私はそんな宮永さんのことを――――。

 思っても、考えても、もう無駄だ。終わっている、これ以上ないくらいに終わってしまっている。

 謝れば良いって分かってるんだ。だけど無理なんだよ私には。

 プライドとか恐怖とか羞恥心とか、そういうものに襲われて私を止める。このままなあなあで終わってしまう事を私は心の底で望んでいる。

 ダメだって分かってても、その一歩を踏み出せない。スタートを――きれないでいる。

 

「…………」

 

 階段はもう終わり。ぐるぐると直角でできた階段を降りるのだって、もうゴールだ。

 下駄箱に行って、わざわざその場に座ってから上履きを脱いで、自分の靴を取る。下駄箱の扉を閉めて、私はため息を吐いた。

 くだらないんだよな、私って。きっと高校生とか大人になったら、私がこうやって悩んでいることはどうしようもなく馬鹿みたいに映ることだろう。けどさあ、それでもさあ、私だって、未来の私には分からなくても、こんなちっぽけなことがすっごい怖いんだよ。万が一にでも宮永さんに否定されることが、私はたまらなく怖い。否定される未来を想像するだけで、私はその未来が自分の死であるかのように恐怖する。

 それなら、そんな可能性があるなら私は、どれだけ仲良くなれるか分からない宮永さんとの友情を捨てたいって思っちゃうんだよ。

 万が一の可能性を考えれば考える程、その可能性は高いように思えるから。それなら、そんな分の悪い賭けをするくらいなら、私は私が傷つかない安全策を取りたいんだ。

 だから後悔の念が私を襲う。昨日に戻れるなら戻りたいと、心の底から願う。

 弱くて脆い、私が憎い。

 

――宮永さんなんて、大っ嫌い!

 

――いちいち縮こまって、私のこと怖がってさ!

 

――私の言葉に対してもいちいち怖がって! ふざけんな!

 

 靴を履き終えた私は、松葉杖を脇に持って、それから片足だけで頑張って立ち上がる。少しだけよろけたけど、松葉杖が支えてくれる。

 校舎を出れば、もう早くも出てきた夕焼けが私を迎える。その夕焼けが綺麗で眩しくて、見ていられなくて、私は地面に顔を向けながら、松葉杖を進めて、それを支えに自分の足を追い付かせる。

 二つの松葉杖が進んで、それを支えに一歩私の足が進む。

 校門へと向かう私の後ろから、部活に勤しむみんなの喧騒が聞こえてくる。その喧騒の中に、私が居た時もあったんだろうが、もう遠い過去のように感じた。たった二か月前でこれなんだから、宮永さんのことだって、すぐ忘れるんじゃないかなとか考えた。

 

――須賀さんは、その、優しいですよね。

 

――私、話すの下手で、人見知りなのに。だから、あの、えっと、ご、ごめんなさい……。

 

――走るの速いって、す、すごいじゃないですか。

 

――き、嫌いじゃあないですよ!? 本当に! 本当です!

 

「……宮永さん」

 

 その言葉を聞いてくれる人間はもう居ないから、空中に吸い込まれて風で吹き飛んでいくんだけど。

 それでももう一度、私は言った。

 その場に立ち止まりながら、涙が出そうな目をつぶって俯きながら、

 

「ごめんなさい――――宮永さん」

 

 

「―――京ちゃん(・・・・)!」

 

 

 私は松葉杖を突いて、たどたどしく振り返った。

 薄い茶髪のショートカット。ここまで走ってきたのか、膝に手をついて息を乱している。青のジャンパースカートは幼いその少女にとても似合っていて、その少女は夕焼けに照らされた赤い顔をゆっくり上げて見せる。

 そこに居て、私をその名で呼んだのは紛れもなく――宮永咲だった。

 

 

--------------------------------------------------

 

 

「え……?」

 

 開いた口は塞がらない。

 夕焼けを背景にしている宮永さんは、やけに幻想的に見えて、本当はそこには居ないんじゃないかと思いさえする。

 幻想か、幻覚か。

 それを判断する私の思考は止まってしまった。

 

「い、一緒に帰りま……帰ろう」

 

 私以外にも帰宅部に所属している生徒は、その宮永さんの大声になんだなんだと数人程度が視線を向けた。野次馬にならないのは、宮永さんの大人しそうな見た目とか、これからケンカが起こるような雰囲気じゃないからだろう。宮永さんのことを、面白味がないと判断したのだ。

 分かる。きっと私も――少し前までその一人だったから。

 

「な……」

 

 なんて呼ばれて、なんで呼ばれて、なんで誘われて、なんて誘われて。

 いくら考えても答えは出ない。英語の単語も、数学の公式も、国語の表現も、何も役に立ちはしない。

 

「でも、私、は……」

 

 この声は宮永さんに聞こえているだろうか。それでもそれ以上の声を出せる気がしない私は、松葉杖を一つ動かし、もう一つ動かし、そしてやっと足を動かして、宮永さんに近づいていく。

 たどたどしく、ふらふらと。自分でも分かるくらいに、動揺していた。

 

「私は……」

 

 近づこうとして、私は松葉杖で大きめの石を踏んでしまったらしかった。

 そのままバランスを崩して、私が慌てるころにはもう遅い。松葉杖を持っている手では自分の身体が地面に着く前に手を支えにすることはできない。

 足で踏ん張ろうとしても――その足は壊れている。

 こういうのは走馬灯とか言うのだろうか、私はその時、とても時間の流れが遅く感じた。

 ゆっくりと、時間が進んでいって。

 ゆっくりと、地面に向かっていって。

 それだけの時間があって、私は咄嗟に目をつむることしかできなかった。地面にぶつかる直前になって、世界は速さを取り戻したように加速する。

 けれど――ぶつからなかった。

 

「……?」

 

 視界は地面じゃなくて、青かった。なんとなく、甘い香りがした気がした。

 そっと私を支えてくれた、その柔らかいものの上のほうを向けば、宮永さんの顔が目に入った。

 

「大丈夫、ですか?」

 

 私の前に、宮永さんが地面の間に入って、そんな宮永さんの胸元付近にへと、私は顔を埋めていたらしい。それから少し宮永さんがよろけて、そのままそのよろけに従って、しりもちをその場でペタンとついた。

 宮永さんに合わせて、私の視界も低くなる。宮永さんの胸に顔を埋めたまま、壊れていない方の足に体重をかけるようにしながらゆっくりと両膝を地面についた。

 

「――ぁ」

 

 私は、泣きそうになっていた。

 理屈じゃない。何かを考える前に、私の感情は先行する。

 きっと考えればそれらしい理屈はいくつも考えられることだろう。私のような悪人と比べて、宮永さんの善人ぶりに圧倒されたとか。今までが悪いことを起きすぎて、こんな優しいイベントがどうしようもなく幸福に感じてしまうとか。宮永さんの優しさに感動したとか、したとか……。

 咄嗟に、私は宮永さんの胸元に自分の顔をまた埋めた。

 

「なんで……」

 

 それでも聞かなければならなかった。

 どうしてこんな私に優しくしてくれるのか、どうして私に呼びかけてくれるのか、どうして追いかけてきてくれたのか。

 

「私、あんな……いけないこと、言ったのに」

 

 謝ってもいないのに。

 だから許されるはずがないのに。

 疑問の声は、私の涙と一緒に宮永さんの制服にくぐもったものとして吸い込まれていく。

 

「酷いこと言って、謝ってもなくて、私……」

「…………」

「私、は……!」

 

 すがりつくように、私は宮永さんの制服を握った。上を向かない私に、宮永さんの表情は分からない。

 

「それくらいのこと、良いじゃないですか、別に」

「でも――」

「今までで、十分プラスですよ。それに、私の方がずっとマイナスです」

 

 須賀さんの言う通りです、と続けて。

 

「須賀さんのこと、怖がってました。変ですよね、嫌われるのが怖くて、怖がって、それで嫌われちゃうなんて」

 

 すがりついて離さない私を、そっと抱きしめてくれた。

 

「須賀さんのこと、嫌じゃないです。嫌いって言われても、全然マイナスじゃないんです。あれだけで――プラスマイナス0にだってなりません」

 

 まだ、全然プラスですよ。

 優しく抱きしめてくれたまま、そう笑った気がした。

 

「だから――今更ですけど、追いかけさせてください」

「……ぁ」

 

――――京ちゃん。

 

 好きになってくれたなら、いつか、そう呼ばせてください――。

 

「あぁ……」

 

 もう、とっくのとうに流れてしまっている。私の涙腺は――決壊した。

 須賀京華はすがりつく。

 

「――――!」

 

 私は。

 思い切り、心の底から泣いた。

 ぼろぼろと涙がこぼれて、宮永さんの制服を濡らす私を、それでも抱きしめてくれて。

 宮永さんと、言葉になっているかも分からない声をあげながら。

 ごめんなさいと、伝わっているかも分からない声をあげながら。

 思い切り、私のプライドは思いで切られ、そして子供のように泣いた。

 宮永咲。

 友達と呼べる程度の間柄ではなく。親友と呼べる程度の親しさではなく。家族であるための血の繋がりはなく。

 だからきっと――私はこう名乗るのだろう。

 幼い子供のように泣いている私は、宮永さんと馴染めたその瞬間を思いながら、その関係を呼び続ける。

 

――――幼馴染だって。




やっぱ咲ちゃんが主人公なんだなって
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