強化京華kyouka   作:じょーく

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中学京ちゃんはよく考える子


文学少女びふぉー2

 宮永咲という少女との出会いは概ねこんなものだった。

 ドジっ子で天然で憎めない、その少女との始まりとはそんなもので、それが宮永さんにはどうなのかは分からないけれど、私にとってはつまるところ、よくあるような出会いだ。

 たまたま教室で二人きりになって、一緒に帰ることになって、校門前でお別れする。

 だから宮永さんがそういうよくあることと違うことと言ったら、お別れをしなかったところだ。

 私はこっちだからと、そう言って別れる筈の校門前で判明したことだが、なんと宮永さんはこの私と同じ帰り道だったのだ。

 もうすぐ夏休みを迎える初夏の日であるが、つまり私が中学に入学して約三か月で、初めて私と同じ帰り道で帰る同級生を発見したのだった。

 

「ホント? なら一緒に帰ろう」

 

 感動的なその初めての体験の始まりは、そんなよくある言葉で締めくくられてしまったが、まあ言葉なんて重要ではないのだろう。問題はどのような中身だったのかである。

 しかし、中身なんてないのが友達との帰り道なのだろうと私は思う。

 だからこんな、帰り道についてのことを中身や外見なんて言い表そうとすること自体がちゃんちゃらおかしいことで、私はこれからこんな帰り道でのどうでも良い会話のことなんて、碌に思いだすことなく生涯を終えたりするのだろう。

 しかしこの時の私は初めて友達と帰れることがあって、結構高いテンションだった。

 両端を家に挟まれた道路で、テンションの高い私は珍しくひねた考えをすることがほとんど吹っ飛んでいて、小学生の時のように何かを考える前に口に出していた。

 

「いやー、感動的だなー。友達と一緒に帰るなんてさ。私の初めて奪われちゃったよ」

「あ、あはは。なんだかごめんなさい」

 

 謝んなくて良いのにと思う。普段ならここで一つひねた考えを披露する私であるけれど、しかし初めてを奪われたということでテンション高めの京ちゃん、小学京ちゃんが戻ってきていたので、さらっとスルーする。スルーするするー。

 

「宮永さんって、好きなことある?」

 

 そんな言葉から始まる宮永さんとの会話。

 それは正直言って、友達の帰り道という補正を抜きにしても退屈極まりないものだった。

 私が何かを言えば宮永さんは決まって、気まずそうに苦笑いだけを作って、それからなあなあの極端ではなく中央ぐらいの答えを返してくるのだ。これでは議論のしようも、白熱のしようもない。あるいは、もしも私がただ自分の話を聞いてもらいたいだけの人間であったならば、それで満足はいくのかもしれないが、今の私はそういう人ではない。

 ただ一緒に楽しみたくて。

 ただ一緒に笑いあいたい。

 それだけを――していたいと思っている。

 でも宮永さんじゃあ、その願いは叶わないようだった。

 

「……それにしても、宮永さんと友達になれたら、深い付き合いができそうだなって思うよ」

 

 友達になれたら、少しは違う宮永さんが見れるのだろうか。

 だとしたら私はそうなりたい。

 

「えっと、どうしてですか?」

「ほら、私なんてさ、周りの目を気にしてばかりの友達付き合いしかできてないから」

 

 路上に落ちていた小石を軽く前に蹴っ飛ばす。

 これは、肯定も否定もしない宮永さんに対して、自分が少しでも楽しめるようにとした、幾ばくかの本音を混ぜた愚痴だった。小学校の頃と違って、中学校になると私の友達だったはずの人間は、おしゃれとか彼氏とかなんとか、どの人も「上」を目指そうとしているのだ。

 少しでも自分が上位関係に、強者になるために、そうなろうとしている。なんでみんながみんなを追い越そうとしているのか、別に置いてかれても良いじゃんとかいう結論になるのだけれど、私はその一連のことを思うと、胸がズキリと痛む感覚がある。その痛みに集中している間に、宮永さんはいつの間にか立ち止まっていたので、私は慌てて笑顔で振り返った。

 

「だけど、宮永さんはそういうの嫌いそうだから、だから友達になれたら深い付き合いができそうじゃん?」

「……別にそんなことは……ないです」

 

 俯きながら、そう否定された。

 

「私は、人と上手く付き合えないだけですから……」

 

 気まずそうに、そう答えるけれど。私にとっては良く分からない。

 どうして人と上手く付き合えないとかは良いけれど、どうして気まずそうにそう答えるのかを、私は分からない。

 そんな迷惑そうに答えられてしまうのかを、理解できないのだ。

 開いた口が塞がらない、という言葉を使うのは間違っているのだろうが、しかしこの時はそうだった。何を言えば良いのか分からなくて、私は開いた口が塞がらなかった。

 友達になろうとしていたのに、どうしてこんなことになってしまっているのだろう。

 近い距離にいる筈なのに、どうしてこんなにも遠くに感じるのだろう。全くもって、理解不能だった。

 

「宮な――」

 

 そう呼ぼうとして、私は開いた口を自分の手の平で塞いだ。

 出ようとした言葉が手の平にぶつかって、訳の分からない変な音として出て、宮永さんの怪訝な表情が飛んでくる。

 

「ふぐ……()

 

 落ち着いたところでそう呼んでみせた。

 正直言うと、人の名前を軽々しく呼ぶのはなんだか恥ずかしい気持ちになるが、気にしないことにした。

 正面から堂々と、視線を合わせてくれない宮永さんを――咲を、そう呼んだ。

 

「え……あの、須賀さん?」

「須賀さんじゃなくてさ、京華で良いよ――咲」

 

 普段、私はひねくれた考えをする、それは否定しない。

 ひねくれた私はだから、人の名前を呼ぶことにこんな大掛かりな青春じみたこと、私はすごーく嫌いだけど、この際は我慢した。ものすごい我慢した。

 小学生時代の黒歴史が飛んできて、スゴイ痛かったけど、我慢した。もはや歯を食いしばっていたかもしれない。それほどの羞恥やらなんやらが私を襲い掛かっていたのだ。

 それでも、それしかないだろう。

 宮永さんが迷惑そうにしても、どれだけ嫌でも、私は嫌じゃないんだ。だったら私から行ってやれ、言ってやれ。

 自信満々に恥ずかしげもなく堂々と、目の前にいる少女に近づいてやるんだ。

 

「あの……嫌です?」

 

 そして断られた。

 開いた口が塞がらないとはまさにこのことだった。

 

「え……? え、え、え? いや、あの、え? 待って待って、タンマ、ちょっと待って。え、でも、あの……え?」

 

 宮永さんの顔を見て、地面を見て、手を前にやって、おでこに手の平を当てて、視線をあっちゃかめっちゃかにして、もう一度疑問の声をあげる。

 どうしてどうなった。私はどうなっている。

 

「あんまり気軽に人の名前を呼ぶのは恥ずかしくて……」

「あ、あー! あれねー、それねー! あるある、分かるよ分かる。恥ずかしいよねー!」

 

 同意してみせて分かってますよアピールをするが、これは大人になっても恥ずかしい思い出になりそうだった。

 いや、分かるよ、言ってることは分かるよ。分かってて私は言ったのであって、だけど断られて、ああでも私が嫌ならやっぱり宮永さんも嫌なんだから断られて当たり前で。ああもう分かんない。

 

「ってその恥ずかしいの私の名前なんですけどー!」

 

 なんて、そんな的外れな突っ込みをするくらいの虚勢をはるしかできなかった。

 そして的外れの突っ込みであることに気づいて、慌てて自分でその突っ込みを撤回するという、なんとも自転車操業的なことをした。

 

「あの……えと……ふぇ……」

「?!」

「うぐぅ……」

 

 そして泣きそうになった。

 恥ずかしくて泣くなんてすごく馬鹿なのかもしれないが、私は中学生なのだ。格好つけたかったお年頃なんだ。

 いちいち自分が走る意味とかなんやらを考えるような、そんな中学生で、だから、格好つけたくて、青春じみたこともわざわざしてみせて、それなのに。

 それなのにこんなことになって、私はマジで泣きそうだった。

 

「す、須賀さん?」

「うう……ぐぅっ……! な、なに?」

「大丈夫、ですか?」

 

 大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。

 それでも私は中学生。格好つけたいお年頃。

 

「だ、大丈夫。ああ大丈夫!」

 

 涙を吹き飛ばすように私は大声を出して、空を見上げる。

 夕日が綺麗で泣きそうだなと、そう思う。ああ、どうして私はこんな帰り道で夕日を見ているんだろうなあ!

 

「いやー、あれだね! 宮永さんとは、そう、幼馴染になりたい!」

「……幼馴染、ですか?」

「そうそう! 私が咲って呼んでさー、宮永さんは京華とか、京ちゃんとか呼ぶの!」

 

 その例えを出すための予行練習だったんだよーって、付け加えとく。

 いや、そうだったのか私。予行練習だったんだなー、オッケーオッケー大丈夫。そう、練習だったんだよこれは。口下手な宮永さんのためにわざわざ分かりやすい例を出すという、素晴らしくすばらな京華ちゃんの冴えわたる発想だったのさ。

 

「ひっぐぅ……か、帰ろう、宮永さん」

「……あの、なんだかごめんなさい」

「なにがー? なんにも謝ることなんてないけどー?」




京ちゃんには泣き顔が似合うと思うんだ
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