アルシェの物語〜In the Beginning was the Word〜   作:Menschsein

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昇格試験 11 【閲覧注意:鬱展開】

<モモン VS ガガーラン>

 

「本当になかなかやるな。剣の技量は全然だが、熟成されている感が半端ないぜ、お前。本当に(カッパー)か?」と全力で振りかぶった刺突戦鎚(ウォーピック)をバスタードソードで受けきったモモンガを鍔迫り合いしながら称賛する。

 刺突戦鎚(ウォーピック)とバスタードソードを介した、互いの筋肉での押し合い。力比べだ。お互いの重心は低い。互いを押すのは、上半身の筋力。押し負けた方は、上半身が後ろに反れ、そのまま相手から無条件で攻撃を受けてしまう。

 

「逆に問おう。お前こそ、本当にアダマンタイトか? 力任せに刺突戦鎚(ウォーピック)を振り回すだけ。悪いが、死の騎士(デス・ナイト)の方が強かったぞ?」

 

「俺の鉄砕き(フェルアイアン)を受けきれるお前が異常なんだよ! よし決めた。お前の熟成させたもん、俺がもらう。イキながら逝かせてやるよ!」とガガーランの鼻息はより一層荒くなる。

 

「ふん。渾身の一撃防がれた状態で、よくそんな事が言えるな……。だが……装備を奪う前提でのPVPというのも悪くはない。もっとも、お前の装備は大したものがないがな」

 

「へっ。お前の装備は全て剥いてやるがな。こいつでも食らいやがれ!」

 

 ガガーランは、自らの持っている武技をいくつも同時に発動させ、自らが必殺技と位置づけている超級連続攻撃を使う。

 盛り上がった筋肉により、モモンガの上半身を後ろに反らし、そしてそれによって生じた隙、胸筋のあたりを刺突戦鎚(ウォーピック)で叩く。もちろん、それだけではない。英雄の領域へと辿りつく為に練り上げた十五もの連続攻撃を可能にした必殺技だ。

 戦鎚の平べったい部分で胸に衝撃を与え、モモンガの体勢を完全に崩した後は、戦鎚の裏面。尖った刃がある部分で、容赦なくモモンの急所を狙う。首元、右肘と左肘の鎧と鎧の可動部分。どのような頑丈な鎧であっても、人間が動くために作られている金属と金属の遊びの部分。人間で言えば関節の部分を狙っての攻撃。流れるように十四発の攻撃がモモンを撃つ。そして、最後のトドメと言わんばかりに、最後は思いっきりモモンガの兜に向かってその鉄槌を振り下ろす。あり得ない硬度の金属で作られていない限り、兜を潰し、そして相手の脳天までも潰しきる威力の一撃。そして万が一、あり得ない硬度の金属によって作られている兜であっても、ガガーランの渾身の一撃の衝撃は、兜を通じてその相手の頭に伝わり、そして首にまで通じる。外を覆う兜が無事であったとしても、首の骨を砕き、頭を兜ごと胴体に沈み込ませることが出来る。このガガーランの必殺技を食らって生きている人間など皆無だ。この必殺技を完全に食らった相手は、まるで甲羅に頭を引っ込めたかのような亀となる。

 

 それが今までであったが……。

 

「お前は、どれだけ頑丈なんだよ。お前、本当に人間か?」とガガーランは、平然と立っているモモンガを見て呟く。この必殺技が全て綺麗に決まれば、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフにも勝つことができるとガガーランは思っていた。その必殺技が、まるで蚊にでも刺されたかのように、首のストレッチでもするかの如く、この漆黒の全身甲冑の男は首を左右に動かしているだけだ。

 

「もう終わりか? 王国のアダマンタイト。とんだ期待外れだ。次は、こちらから行くぞ?」

 

 その時、レイナースの悲鳴がカッツェ平野に響き渡った。

 

「お前等、俺のチームメイトに何をした?」とモモンガが静かな口調でガガーランに問いかける。

 

 ガガーランは、その声を聞いた瞬間、体の筋肉が石にでもなったかのように動かなくなった。刺突戦鎚(ウォーピック)を持つ手の握力が失われ、それが地面にズトンと落ちるが、ガガーランは何も反応が出来ない。蛇に睨まれた蛙。自分が立っていられるのが不思議なほど、足が震えている。毛穴という毛穴が広がっている。突然、太陽が眩しくなったように感じるのは、瞳孔が開ききっているせいだ。

 

「約束通り、命は奪わないが、そこで芋虫のように寝ていろ」と、モモンガはガガーランの肩を触る。負の接触(ネガティブ・タッチ)のスキルによってガガーランの体に負のエネルギーを流し込んでいるのだ。ガガーランは、筋力の低下や俊敏性の低下など、バッドステータスに侵されていく。ガガーランの体中に、雷属性の魔法が直撃したような痛みが全身を駆け巡る。体が重い。自分が装備している鎧に自分が押しつぶされてしまいそうだった。

 

 モモンガは悲鳴の声の主。レイナースの所に全力で疾走し始めたころ、ガガーランは、体のバランスを失い、受け身を取ることさえできず、地面にそのまま倒れたのだった。

 

 

  <アルシェ VS イビルアイ>

 

「さぁ、先ほどの言葉、撤回しろ。取り消すなら、これ以上は苦しめないぞ?」とイビルアイは飛行(フライ)で空中に浮かび、アルシェを見下す格好で言った。

 アルシェの左肩と両脚の太ももには、イビルアイが放った水晶短剣(クリスタルダガー)が刺さっていた。

 アルシェはフラフラの状態になりながらも、自由の利く右手で無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)からポーションを取り出し、素早くそれを頭から全身にかける。ポーションが体の衣服を濡らしていき、アルシェの体中を走り回っていた痛みが和らぐ。

 

 よし。まだ大丈夫。両脚の痛みは残っており走るのにはキツイが、飛行(フライ)する分には影響はない。

 相手は、自分が子供扱いされたことを撤回するようにと、自分に痛みを与えて、そして回復させ、また痛みを与えて、私の心がへし折れるのを待ってる。捨て身の戦いではあるが、挑発が成功している状況。ポーションに残りはまだある。このまま時間を稼ぐしかない。

 この前の死の騎士(デス・ナイト)の時だって、みんなそうやって戦い続けていたんだ。モモンも、レイナースさんも! 私にだって出来る! 絶対に私は諦めない。

 アルシェは再度決意を固め、そして言葉を紡ぐ。選ぶべきは相手を挑発する言葉だ。

 

「取り消さない。だって、本当にあなたは子供よ。今だって、意味なく空中に浮かんでいるのは、自分がおチビさんだからでしょ!」

 

「言ったな小娘……」

 イビルアイの前に、先端の尖った水晶が無数に現れる。太陽の光を浴びて、その水晶が乱反射していた。

 

「第四位階魔法、水晶騎士槍(クリスタルランス)だ。先ほどの水晶短剣(クリスタルダガー)より、格段に痛いぞ? 最後通牒だ」

 空中に浮かんでいる水晶がクルクルと空中を回り始め、やがて止まる。無数の水晶の鋭く尖った部分がアルシェに向けられていた。

 

 あれは危険だ、とアルシェも直感的に悟る。だが、アルシェが知らない魔法。水晶短剣(クリスタルダガー)のように無属性? それだったら不味い……。

 即死の可能性……。アルシェが、自らの死を予感した瞬間、レイナースの悲鳴がカッツェ平野に響き渡った。

 

 

<レイナース +α VS ラキュース and ティア・ティナ>

 

 ニグンが呼びだした天使。監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)。それが、戦局に与えた効果は劇的であった。第四位階魔法で召喚される天使。監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)は、全身鎧に身を包んだ天使だ。片手には柄頭が大きいメイスを持ち、もう片方の手には円形の盾を装備している。そして、この天使の特徴は、同位階の魔法で召喚される権天使達(プリンシパリティーズ)の中でも最も防御に優れた天使だ。そして、ニグンの持つ生まれながらの異能(タレント)によって、その防御能力は向上する。そのため、ニグンが召喚した監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を倒せる者は相当限られている。

 奇襲という形で“蒼の薔薇”に襲われず、ニグンが監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を召喚できていれば、圧倒的に“蒼の薔薇”が不利になっており、陽光聖典がニグンを残して全滅するというようなことにも無かったほどであろう。

 

 その監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)が、盾役となって、ラキュース達の所へと突進していく。

 

 レイナースは、ラキュースに向かって一直線に走る。忍者の双子も、天使の対応に追われている。今が、チャンス。

 

「魔剣を使うわ!」とラキュースは、魔剣キリネイラムに魔力を流し込んでいく。刀身に浮かぶ星のごとき輝きが巨大になり、刀身が膨れ上がている。

 

「させません」と、レイナースは自らの槍で、ラキュースの剣を払う。そして、地面に突き刺さった剣を自らの靴で押さえつけ、穂先をラキュースの首元に突きつける。

 

「早く戦闘行動を停止させなさい。命は保障します。五秒だけ待ちます。五、四、三……」「分かりました……」とラキュースは魔剣を手放し、両手を上げる。

 

 一瞬の戦いの中での静寂。聞こえてくるのは、モモンとガガーランが打ち合っている剣の音。そして、遠くの方で「刮目して見よ! (われ)が召喚せし天使の力を」という声が聞こえるだけだった。

 

「では、早く戦闘停止を……」とレイナースが言いかけた瞬間、レイナースの背中を冷たいものが走る。この感じ……。まさか……。まさか……。そして……完治したはずの自らの顔の右半分が熱くなるような感覚になる。レイナースは、持っている槍が震えるのを自分では制御できない。

 こ、これは……。レイナースは自らの悪寒の原因を探る。そして、自らが踏みつけていた魔剣を見つめる。

 魔剣キリネイラム。十三英雄の一人、黒騎士が所持していたとされる四振りの暗黒剣の一つ。

 

 呪いの魔剣? 呪い……。

 

 幻なのか、レイナースは、魔剣キリネイラムから禍々しい邪悪なものが、ユラユラとまるで湯気のように出ているのを見た。

 そしてその瞬間、レイナースは走馬燈を見ているかのように、過去の悪夢が甦る。死に際の魔物の呪い。優しかった両親が、手の平を返すように自分を腫れ物のように扱い、自分を実家から追い出したこと。心から愛していた婚約者の自分への態度の豹変……。突きつけられた破門状と、叩きつけられた婚約破棄の手紙。

 

 レイナースは、槍を落とし、両手で頭を抱え、震える。そして叫んだ。

 

「イヤァァァァァァァァァ!!」






魔剣が本当に呪われているかは知らない。

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