今日は待ちに待った退院当日。ホントならすぐに出ても良かったんだが、事件とかで怪我を負うことが今までローズリリィ関連以外でなかったし病気とかで入院ってこともなかった。つまり初めての入院ってヤツだったのでとりあえず静養に努めていたのだ。ベッドでゴロゴロする生活は確かに楽で楽しかったけどご飯がダメだね、ありゃ。
手荷物を手早くまとめ、矢常呂先生に挨拶をして、晴れて退院。
「では行きましょうか、零司さん」
「おうそうだな、レキ。……え?」
「どうかしましたか?」
「どうかしましたかって……いつからいたのさ」
「ふふ…いつでしょう?」
びっくりした…。いつの間にかレキが隣にいた。その身のこなし、
レキは俺の想像をはるかに超えるスピードで感情というものを知ってるようだが、それでもまだまだ無表情と言えるレベルだな。まだ親しい間柄だけがわかる感じだ。
「ま、いいや。戻りますか、俺たちの部屋へ」
「はい。掃除は一応してあります」
「気が効くねぇ」
キャリーバッグをカラコロしながら俺はレキと自室に戻る。今日も夏真っ盛り、かなり暑くなりそうだ。
「ただいまぁ……っとおお……」
「おかえりなさい、零司さん」
久しぶりに自室に戻ってみるとなるほど確かに綺麗に掃除されている。風呂場も見てみるとここもキッチリ。台所は……へぇ、料理してたんだ。めちゃくちゃ成長してるな。
でもここまで教えた覚えは……ないなぁ。
「なんか家事スキル上がってない?」
「白雪さんにお手伝いと家事について教えてもらいました」
ふんすっ、といった感じでレキは嬉しそう。というか白雪か。あいつなら俺以上にわかりやすく、丁寧に教えてくれそうだな。大方キンジの部屋にご飯持ってく時にバッタリ会って教えてもらったとかそんなとこだろうな。
今度お礼しとくか。
「んじゃ、病院から持って帰った服を洗濯するか。それ終わったらどうする?どっか行く?」
「そうですね…」
レキが悩んでいるとぴりりり……ありゃ、俺の携帯に着信だ。この音は……
俺はレキに目配せして互いの声が意識しなければ聞こえない程度に離れ、着信に応じる。
「はい、明智です」
『あ、明智君?高天ヶ原です、退院おめでとうございます』
「ありがとうございます、それでどういったご用件でしょう?」
デートしようとしてたのを邪魔されたし、少し口調が刺々しいのは仕方ない話だと思う。
『退院してすぐで申し訳ないんだけど、今日2学期からこっちにくる生徒がここに見学に来るの。明智君と多分南郷先生が話してるからレキさんかな?にはその引率をしてくれると嬉しいんだけど……』
「は、はぁ……ちなみにその選出の理由はどういったものでしょう?」
『それはね、うちの生徒の中で知名度が高くて武偵ランクも高い人って人が引率に合ってるんだけど、それを考えたらアドシアード優勝の2人に白羽の矢が立ったの。明智君は
あぁ、そういうことか。最近それ多くない、武偵高さん?要は広告塔ってことだろ?好かんなぁ。
ま、仕方ないか。レキと同棲してんの黙認してもらってるんだろうし、そのくらいやりますか。
「わかりました。集合場所は教務科前でいいですね?」
『ごめんね、無理させちゃって。教務科前で大丈夫だからあとはよろしくね』
レキの方を見るとすでに話が終わったのであろう、こちらを見ていた。ま、あいつの場合は「やれ」「はい」で終わるからな。
ただ、最近感情や言葉が増えてきたとはいえまだまだレキは無口無表情無言の三拍子。基本的に俺が説明する羽目になるかもなぁ。
教務科前に行ってみると2人の女子が待ってる様子。おそらく見学者とは彼女らのことだろう。1人は顔がこちらに向いてないからわからないが制服が懐かしい、
もう1人はちっこい。あのピンクいのよりもちっこい。明るめな茶髪を2つにサイドでまとめてる感じ。そして夏の暑さにも負けない、天高く聳えるアホ毛。彼女の雰囲気と相まってアホの子の印象を抱かせる。
とりあえず俺たちはその2人に近づき、声をかける。
「2人が見学者ってことでいいのかな?久しぶりだな、佐々木」
「あっ、はい!私、間宮あかりっていいます!今日はよろしくお願いします!」
「お久しぶりです明智先輩。そちらの方は初めまして。神奈川武偵高付属中学の探偵科、佐々木志乃です。よろしくお願いします」
ぺこり。上下関係に厳しい武偵高の系列校で学んでる佐々木はともかく間宮もしっかりお辞儀できるんだな。俺は別に気にしないけど気にする奴はうるさいしねぇ、できるに越したことはない。
「引率役の明智零司だ。今日はよろしく」
「同じくレキです」
「さて、多分間宮さんは2学期からこの学校通うんだよね。佐々木は?」
「えっと、私は高校からこっちに進学しようかと思いまして」
「それで今日見に来た、と。オッケー、わかった。さて、まず佐々木にはつまんない内容になると思うが間宮さんはこういうところ初めてだろうし武偵高ってのがどういうところなのか軽く説明させてもらうね」
「あ、はいお願いします!」
「武偵高ってのはな……
間宮に武偵高の説明をしてるとなんか知らんけどキラッキラ目が輝いてるな。やる気に満ち溢れたって感じだ。いいんじゃない、俺はそういうタイプ好きだぞ?
「………って言った感じかな。そんで間宮さんはどこに入りたいとか、あるの?」
「そうですね……
おお、意外だ。てっきり救護科とかバックアップ系統だと思ってた。
俺は改めて間宮さんを見る。うーん、体の割には確かに動くことに慣れてそうで日本系列の武道の心得はありそう。でも柔道じゃないな…剣道でもなさそうだし、イマイチそれは掴めないな。
「……ま、いっか。佐々木は退屈だったろ、ごめんな?んでそのまま探偵科だよな?」
「はい、そのつもりです」
「うーん、じゃあこうしようか。2人の志望する探偵科と強襲科は後で回ろう。となると…ここから一番近いのはCVRかぁ……。レキ、いきなりで悪いけどCVRは任せていいか?男子禁制だしあそこ」
「わかりました」
「うん、まとまったな。じゃ、付いてきて」
「「はい!」」
そのあとレキにCVRを案内させ(出来たのかはわからんが、2人とも目がキラキラしてたとだけ言っておこう)、SSRは見学不可なので建物だけ見せ、他の科目もザッと解説しつつ見学していった。
武偵というものを理解してる佐々木は施設の訓練の仕方に視点の重きを置いていて、本当に一般人な間宮さんはうわぁーとかほぇーとか巨大ショッピングモールに来た小学生そのものの歓声をあげていたという違いこそあれど2人とも楽しんでくれたようだ。
狙撃科ではレキの超人技を見せ、探偵科では簡単な指紋検出の実験をして最後。武偵の華と呼ばれ、間宮さんが入りたいと言っている強襲科の体育館前に俺たちはやってきた。
ここ、結構危ないから見学者に見せるべきじゃないと思うんだよなぁ…。
そしてもう1つ。
「ほいほい、ここが間宮さんの入るところ、強襲科だぞ。館内は多分掃除なんてされてないだろうから空薬莢とかに注意して、中にあるものには触らないでくれると助かる。事故なんか起こしたくないからな」
「「はい!」」
注意はしっかりしたので建物に入る。うわぁ…外以上に暑いな、この中。ついにエアコンがダメになったか、はたまた強襲科の死にたがり共に壊されたか。ま、俺も掛け持ちとは言え専科してるからなんとも言えないんだけどな。
「ここで格闘術の訓練とかをするんだ。それでこっちが射撃のレーン。レキの狙撃程じゃないけど俺も拳銃射撃の精度は悪くないからちょっと実演してみるか」
そう言って俺は射撃のレーンに立ち、蒼く塗られた愛銃2つ、ベレッタPx4ストームと.44オートマグを取り出す。
「武偵っていうのは武装を許可されてる。だけどなるべく傷付けずに逮捕することこそが大事だと俺は思ってる。間宮さん、あの的の拳銃の部分を見てて」
「は、はい!」
そう言って俺は何の気もない調子で双銃をぶっ放す。
「うわ、すごい……」
間宮さんの言う通り、放った弾丸は全て相手の拳銃部分、それも相手の口径部分を貫いた。意外と目は見えてるのかもな。
「力を持つ人には、力を持たない人を守る責任がある。力のことを知る必要がある。そして力に飲まれないように精神を鍛える必要がある。そう言ったのは誰だったっけかな。とりあえず佐々木も間宮さんもこの言葉だけは覚えといて」
「「はい!」」
「じゃあ最初集まったところに戻ったら、今日はおしまい。レキもありがとな」
「いえ、零司さんこそお疲れ様でした。それとあの……」
「ん?」
俺がレキに顔を向けるとレキはパチッ、パチパチ。
俺は1つ頷き、了承の意を伝える。そして2人に再び向き合い、1つ問いかける。
「それで、今日はどうだった?」
「神奈川の方と比べてもこちらの方が良いところが何箇所もありました。有意義な時間、ありがとうございました」
「すごく楽しかったです!ありがとうございました!」
……どっちがどっちだか、わかるよな?ともあれ、楽しんでいただけたなら休日返上した甲斐があるってもの。間宮さんに1つ情報でもあげようかな。
「それと、間宮さん」
「はい?」
「暇な時にでも『神崎・H・アリア』ってヤツのことを調べてみるといい。あいつはお前とそう体型は変わらないけど格闘術、拳銃射撃、剣術の才能は天才の領域だよ。それ見て少しでも体の動かし方ってのを見るのもありだよ」
「神崎・H・アリアさんですか……今度調べます、何から何までありがとうございました!」
「うん、妹は大事にしておくんだよ」
「はい!……ってあれ?私、ののかのこと言ったっけ……?」
「あはは」
間宮さんは不思議そうな顔をしてるけどそう不思議なことじゃない。ケータイで写真を撮ってる時にチラッと見えたホーム画面に間宮さんともう1人、しっかりしてそうな女の子が映ってたからな。目の感じで何となく妹かなと思ってカマをかけたら当たった。それだけの遊びだ。
佐々木と間宮さんを教務科の前まで送り届けて依頼終了。2人ともぺこりとしてくれたので印象は悪くないんだろう。
「じゃ、いきますか」
「はい」
そうして俺とレキはどちらからともなく手をつなぎ外食をしに歩き出したのだった。