この話(番外シリーズ)は自由の過去編になります。
『いつか世界を救うために』の少し前の時系列から始まる話になります。本編で所々出てくる自由の過去の深い部分に触れていけたらなと思い書き出しました。
活動報告の方でも少し話したかもしれませんが、ようやく書き出すことができました。
本編と並んで更新できることを祈っていてください!
では、始まるよ!
始まりはここからだった
あの日々から、いったいどれだけ経っただろうか?
思い返せば、最も過酷で、そして最も尊いあの激戦の毎日。
戦い、笑い、悩み……苦悩の末に勝ち取った未来。
すべてを救うことはとてもじゃないが難しすぎて。
なにもかもを守るのには力が足りなくて。
結局、あの決戦のとき、俺は彼女になにを伝えたかったのだろうか?
目を閉じれば、いまでもあの光景が目に浮かぶ。
泣き叫ぶ一人の少女と、手を差し伸べる無力な少年。少女の背後に浮かぶ、一体の<アンノウン>。
当時の状況も、響く轟音も、彼女の声すらも聞こえているのに。なのに、なぜいつも、自分の叫ぶ声だけは聞こえないのだろう。
いつもそうだ。
俺の声だけは、いつだって聞こえない。あの日、あの場所で起きた惨劇の音だけは、いまも罪の証のように耳に残っているのに……なのに、あそこでの俺の声だけは、いつまで経っても聞こえることはなかった。
古い記憶ではあるが、他の日々の声は確かに思い出せる。聞こえてくる。
けれど、あの一瞬だけが抜き取られているような、壊れてしまったかのようにわからない。
本当の罪は、その声を知らないことなのかもしれないと、このとき初めて思った。
決戦から50年……俺はまだ、己の罪を背負い続けている。この先も、ずっとその予定だ。
彼女が帰ってこない、その限り――。
目を開くと、見慣れた天井が視界に映る。
なんてことはない、変わらない朝。
変わっていたのは、夢の内容くらいだろう。
「夢……にしてはリアルだったな。それにあの情景はどうみても――」
いや、気のせいだろう。なまじ夢なため、知り合いに置き換えてしまっただけに過ぎない。夢は夢だ。自分の<世界>を確立している以上、今更見る夢の内容に振り回されてる余裕はない。第一、あれは俺の夢ではないのだ。誰かが見た。もしくは現在進行形で見ている夢のひとつに過ぎない。
「こんな調子じゃ今日も潰されるっての」
こっちにはやらないといけないことが五万とあるのだ。付き合っていられないし、背負う覚悟もまるでない。
俺は自分一人を背負うだけでも手一杯。そこにあと数人加わるのだから、あいつらのぶんを背負うだけで勘弁してほしいものだな。
先日は「上位の生徒になったのだから、後輩の面倒も見てもらえると助かる。強い生徒は多くの見本にならないとな」などと先輩に言われてしまったものだから、律儀に請け負ったのだが相手が悪かった。
一癖も二癖もあるような奴を任されるとは……俺も本当についてない。
しかも三人だ。それも全員が女。
「女の相手なんて天河舞姫だけで間に合っているんだがな。あいつにはいまだ負け越しているし、そろそろ勝たないと。んでもって、あいつのいる場所には俺が立つ!」
同じ人間だ。勝てないはずはない。
確かに奴は戦闘の申し子かもしれんが剣術はてんでなっちゃいないし、隙も多い。ただの力任せでは勝てないと今日こそ教えてやる。
「とは言え、まずは後輩の様子を見るところからか」
「なんかぁ、言った〜?」
「ああ。言ったよ、言った。まずはどうやって俺の部屋に入りこんだのか詳しく説明してもらおうじゃないか、眼目」
振り返ると、薄着の――おそらく寝巻きなんだろう姿の眼目が映り込む。
こちらも寝起きだが、あちらもおそらく寝起きなのだろう。普段はまん丸い目が、今日は眠たそうに半ばしか開けられていない。
この眼目さとりという少女は、先輩との話もあり引き受けた後輩の一人なのだが、これがとんだ電波娘だった。
戦闘力だけなら千葉の上位陣すら凌駕する可能性を持っているが、上もいかんせん扱いにくいのだろう。そのためか、こうしてランキングの鬼と呼ばれている俺の元へ送られてきたわけだ。
俺の元でならまともになるとでも思ったのかね?
「で、だ。どうやって入ってきた?」
「ん〜? 自由ちゃんの部屋なんていくらでも入れるよ〜」
「いや、答えになってないし。あと、自由先輩な。ちゃん付けで呼ぶな」
「年下が必ずしも年上を敬う必要はないんじゃないかな〜」
「――…………それもそうか。よし、わかった。好きに呼べ。そんでこの部屋のどこに欠点があるのか洗いざらい吐いてから帰るといい」
彼女の言い分には一考する意味があった。
年が違うとはいえ、それらを全員敬うかと言えば嘘になるし、年上がそのまま偉いわけでもない。
まあ、眼目が聞いているかどうかは別の話っぽいな。
人のベッドに入り込んで寝始めてるし……。
まだ幼いにしても、それでもなぁ。せめてもう少し俺を警戒してくれるといいんだが。毛布一枚に包まって寝られてもなにも感じない俺だからいいものの。並の生徒ならどうなってたかわからんだろうに。
もっとも、これが初めてではないのでいままでのやりとりはお決まりだったりもする。
「おかしいな。普通こういうときはもっとドキドキするもんだと思ってたんだが」
ひとまず適当な布団を上にかけといてやり、一時間ほど寝かせておこう。
相手が悪い……こともないだろう。性格はあれだが密かにファンクラブが存在する程度には人気のある少女だ。
だとすると、俺の心が動かされないのは、他に興味があるから?
些細な問題だし、気にする必要はないのかもしれなが。それともあれか? 姉さんを見てきたからか? あの人は怖い雰囲気もあるけど綺麗だからなぁ。
「どうあれ、無駄な思考か。さって、今日もランキング上昇させるために頑張るかねぇ」
<アンノウン>が出ないことが一番だけど、出てきたらそれはそれでいい。誰かが傷つく前に俺が倒しきる。それだけのことだ。俺が頼れるのは俺の仲間だけ。
あいつが出張る必要がないほどに徹底的に叩きのめして、証明するだけのこと。
天河舞姫。
おまえの言い分は認めない。
おまえの存在は必要ない。おまえの言葉は、なにがあっても否定してやる。
俺のストレス……おまえはどうして、あの言葉を口にするんだ。どうして、自分を否定する者ですら平気で受け入れる?
わからない。
結局、いまでもわからない。
でも、それでも俺のすることは変わらない。
「何度でも、何度でも。俺はおまえを否定しよう。その言葉も、理想も、完膚なきまでに叩き潰さなければ気が済まない!」
それには体調のコンディションを整えないとな。
自分の健康は自分で維持する! ついでにチームメイトへの気遣いもだ!
さて、今日も朝から張り切っていきますか。手始めに、眼目のぶんも含めた朝食作りからだな!
この日課が、のちの自分の立場を決定づけることになるとは、俺はこのとき、知る由もなかった。問題児やアホ共相手に苦労するのは、まだ当分先の話だ。
これは俺の、過去の話。
まだ未来も、彼女の――天河舞姫の本当の姿を知らない頃。
ランキングのために無茶をし、舞姫を否定する日々。
けれど、仲間たちと楽しくもアホらしい、それこそ変わらない毎日を過ごしてきた、その記録。
俺の、罪の物語。
千種兄と自由のやりとりが多い千葉編も書いてみたいと思っているこの頃。
ifルート『千葉の問題児』とかどうなんですかね。
なんかもう、とことんクオリディア・コードの世界をあらゆる面から書くのもいいかなと。
まあ、どれを書いても主人公は自由なんですけどね!
なんて考えがあることを仄かしつつも需要がなぁ……ということで濁しておく私である。
では、また次回