いつもの世界を守るために   作:alnas

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今回からオリ話に入っていきます。
できれば数話で終えて、次に行きたいですね。
水着回が来ると思っていた皆さん、水着回はあるから安心せよ(今回はないよ)。
では、どうぞ。


合宿です

 知らぬ間に、各都市から一目置かれるようになってしまった翌日。

 暮らしている部屋が建物の最上階ということもあり、屋上にはすぐ行ける位置にいる俺は、暇があるとそこで空を眺めている。

「青空を見てると、なんかぜんぶがどうでもよくなってくなぁ……」

 ふあぁ、と欠伸が漏れる。

「こんな日は寝て転がって寝るに尽きる」

 他に誰もいない屋上は、最も安らかで穏やかな場所だ。守りたい、この屋上。

 浮く雲は緩やかに流れていき、ときおり顔に影を作る。

 その影の中に、小さな白い塊が映った。

「ん? 雨……じゃないよな」

 しばらく眺めていると、白い塊がこちらへと猛スピードで落下してきた!?

「んなアホか!」

 反射的に寝ていた場所から飛び起きると、直後。

 轟音と共に、これまで寝転がっていた場所に白いなにかは衝突した。

「……」

 声が出なかった。

 硬いコンクリの床にそれがぶつかる寸前、かすかに見えたのだ。

 白いなにかに、手足が生えているのを――。

「なあ、おい……これが夢ならそうと言ってくれないか?」

 落ちてきたなにか――いや、誰かに向け、そう言葉をかける。すると、誰かは白い外套を翻し、高らかに声を発しながら立ち上がった。

「……、さあみゆちん! 合宿に行こう!」

 誰かなど、声を聞くまでもなかった。

 うちの都市で空中から落下して俺の元に来ようなんてばかたれは、一人しかいない。

 ふたつに括られた色素の薄い髪。白い肌。

 変わらず俺に向けられる、強い意志の宿った双眸。

「とりあえず、こちらから言いたいことはひとつだ」

「うん、なに?」

「即刻帰れ」

「ひどい!?」

 天河舞姫――姫さんにそう告げた俺は、彼女が激突した箇所を避け、屋上から建物の中へ続く扉を開け、自室へと進む。

「あ、みゆちん!? 無視はひどいよ!」

 後ろから追ってきているみたいだが、無視はしていない。

 話を聞きたくないだけだ。

「みーゆーちーんー!」

 早足に歩みを進めていると、途端に、どれだけ足を動かしても進まなくなった。

 当然だ。

 姫さんに抱えられ、上に持ち上げられているのだから……。

 え? なにこれなんの罰ゲーム?

「オーケー、取引だ姫さん。話を聞くから、とりあえず降ろせ」

「ほんと?」

「ああ、本当だ。話は聞いてやる」

 確認を取ると、彼女はすぐに降ろしてくれた。

 よし、これで自由だ!

「じゃあ、話は今度聞くからな!」

「ええ!? 話聞いてくれるんじゃないの!?」

「フハハハハッ! 話は聞くと言ったが、いま聞くとは言ってない!」

「すっごい子供だ!」

 その通り、なんとでも言え。

 人の操り人形になるつもりはないし、なにより合宿とか面倒な行事はこれまでなかった。

 つまり、突拍子もないイベントか、管理局からの面倒事絡みである可能性が高い。

「そんなものに巻き込まれてたまるか!」

「ダーメッ! みゆちんも神奈川の生徒として選ばれているんだから、その責務を果たさないと!」

「……」

「いい、みゆちん。力には責任が伴うし、パワーには責任が伴うんだよ!」

「…………」

「つまり、力とは責任で、責任とはパワー! よって力こそパワー!」

「………………責任どこいったんだよ! あと姫さんは平然と追いついてくるな!」

 こっちが全力で走っているときに責任の消えた力の話をするし、簡単に並走するし!

「おまえは本当になんなの……」

「ねえみゆちん、お話聞いてくれるよね?」

 真っ直ぐにこちらを見る瞳。

 もう一度裏切られることを、まるで疑っていない。

「いつもいつも、俺が全部聞き取るなんて思うなよ」

「でも、みゆちん、最後はいつだって聞いてくれるよね」

「――……行くか行かないかは、話聞いてからだからな。そこだけはわかっとけよ」

「うん!」

 走るのをやめ、姫さんの前に立つ。

 面倒事はいつも、自ら俺に飛んでくる。昔からそうだ。小さいころから必ず、俺の元に。

「みゆちん?」

「ああ、いや。なんでもない。で、話ってのは?」

「愛離さんから内容が届いていると思うよ。ほら、お手紙! 電話のやつ!」

 メールか。

「わかった。確認しだい連絡する。相手はほたるにでいいか?」

「うん、伝えておくね」

 まさか、それを言うためだけにここまで来たのか。

「あ、連絡できなくても、当日来てくれればいいからね!」

 チッ、こっちの動きまで予想してやがる。これはほたるか青生辺りの入れ知恵だな。

「まあいい、了解ですよ」

「朱雀くんや明日葉ちゃんが一度ゆっくり話してみたいって話してたよ」

「千種が文句言ってきそうな面子だな。とりあえずはわかったから、当日を待つべし」

「はーい。じゃあまたね!」

 手を振りながら去っていく姫さん。

 なんでもいいが、この程度の用事ならメールでも送ってくればいいだろうに。もしくは呼び出せばいい。

「昼寝の邪魔をした罪は重いぞ、と言いたいところだけどまあ姫さんじゃ仕方ないか」

 彼女の動きは予測できん。

 ほたるでなければ、作戦行動中以外の彼女の考えを細かに理解はできないのではないだろうか?

 変態どもなら可能か? うん、どうでもよかったな。

 屋上は姫さんの着陸により当分は使えまい。一部床抜けたんじゃないの? ってくらいには壊れたからな。

「はあ……」

 俺の平穏が次々に破壊されていく……。

 仕方なしにメール内容に目を通すが、なんでも、アクアライン近海の海に<アンノウン>の死骸が浮かんでいたらしい。それがひとつではなく、何十と。

 なので原因解明も含めて調査をしてほしいとのことだった。

 その程度のことで代表を集めるかと問いたいところだ。

 読み終えたところで、手の中にある端末が震える。

「追伸?」

 愛離さんからのメールだ。どうやらまだ、話には続きがあったらしい。

「死骸には必ず共通する傷口があり、その傷は、まるで指で切り裂き貫いたかのようなものであった、だと……?」

 無意識に、奥歯が鳴る。

 確証はない。けれど、このやり口はもしかしたら。

「よくないな……もしあいつが絡んでいるとしたら、姫さんたちだけで行かせるのは非常によくない」

 だが、俺も会えばどうなるか――決まったわけじゃない。むしろ、いない方が普通なのだ。

 あの女にはもう出会わない。

 それが本来あるべき未来のはず。

「どうするべきかなんて、決まっているはずなんだがねぇ」

 いつになく、やる気が起きない。けれど、意識はすでに奴に向いている。

「出会わないことだけを祈ってやるか」

 端末に、とある番号を打ち込んでいく。

『ヒメに会ってから、随分と早い連絡だな』

「ほたるか。自分でも驚いてるよ、いろいろとな」

『連絡が来たということは、来るってことでいいんだな』

「構わない。んなことより、姫さんに登場の仕方くらい教えておけ。空から追突でもされたら俺は死ぬ」

『安心しろ、ヒメも考えての行動だろう。あの子に間違いなどほとんどない』

 そのほとんどが今回のようにも見えるんですけどね。

 この会話でわかったの、あなたじゃヒメを止める要因になり得ないってことだけなんですが、俺は今後もお空から降ってくる姫さんに怯えながら過ごせと?

「今後、屋上での昼寝は控えようかな……」

『そうしておけ。ちなみに、生徒会室に来れば安らかな眠りにつけるぞ』

「永眠する気はねえよ。怖い勧誘やめろ」

『そうか。とりあえず参加の有無は確認した。予定では明日から調査という名目の合宿が始まるから、荷物の準備だけしておけ』

「了解だ。じゃあまた明日」

『ああ。寝過ごすなよ』

 よし、これで行くのは決まったが、参ったね。

 またも因幡と話すことはできなさそうだ。怒らすと一番怖いのってあいつなんだよなぁ……眼目に任せるか。

 どこもかしこも不安要素しかないな。

「それでも、もしあいつがちょっとでも絡んでいる可能性があるのなら」

 それはきっと、俺が解決するべきなんだ。

 誰に頼るでもない。誰かを犠牲にするわけにもいかない。立ち向かうのは、俺一人でいい。

「だから、どうか誰も会わないでくれ」

 静けさの増す周囲にわずかな不安を抱きながら、俺は瞳を閉じた。

 見たくない未来を、否定するように。

 

 

 

 静かだ。車両の揺れる音だけが耳に届く。

 車両の中はほとんど無人で、いるとすれば、俺と姫さん、ほたるの三人だけだ。

「よく遅れずに来れたな」

「だなぁ。奇跡に近い」

 姫さんはさっき飯食ってから寝たきりだ。

 ほたるは甲斐甲斐しく世話をしてやっていたが、マジ保護者だな、ありゃ。

「で、なぜ今回はあっさり出てきた?」

「はい?」

「貴様がそう簡単に前線に立たないのはいつものことだが、調査に限ってはさらに珍しいことではないか」

 ほたるの言っていることはもっともであり、確かに俺は<アンノウン>絡みの調査を受け持つことは滅多にない。それこそ、姫さんの一撃を受け止めた回数より少ないだろう。

 やだ、俺死にかけてる回数の方が調査より多いとかどんだけだよ……擦りでもしてたらいまごろこの世にいないんじゃないの? そう思うと、これまでよく生き残ってきたと自分を褒めてやりたくなるから困る。

 っと、ふざけてる場合じゃないな。いや、よく生き残ってるなぁとは真面目に思うけど。

「これでも、三都市の会議に出席する身になっちまってるからな。こういうときもすすんでやらないとと思っただけさ」

「……本当は?」

 ごまかすな、と目の前に座る少女の目が語ってくる。

「まるで信じてないのが泣けてくるよ。そりゃ、あれだ。ちょいと気になるんでな」

 これは本心だ。気になる奴がいる、だがな。

 それ以上は話せない。話す気はないという意思を向けると、首を横に振り、仕方ないと呟いた。

 なので、この話は終わり。

 代わりに、ひとつの疑問に思っていることを訊いた。

「なあ、ほたる。ひとついいか?」

「なんだ?」

「”手刀”と呼ばれる人に心当たりとかないか? これまでの会議で名前が上がってたりはしないかな」

「ないな。その名がどうかしたのか?」

「いや、ないならいい。なければないほど、俺がスッキリする」

 三都市の間で問題が起きた傾向はない。となると、本当に絡んでいるとすれば、なぜこのタイミングなんだ……?

 わけがわからん。

「貴様にどんな思惑があってのことかは知れないが、無茶をしてヒメを巻き込むなよ」

「無茶する前提の話はしたくないかな……」

 なにしろ、もしも俺の間違いがなければ、今回<アンノウン>を潰して回った人物は、<アンノウン>となんら変わらない力を持つ<世界>を見ているのだから――。




最後に、いつも誤字報告をしてくれる方がいらっしゃいます。
本当にありがとうございます。
読みづらい文章になることも多くあると思いますが、改善できるようにしていきますので、続きを楽しみにしていてください。
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