まあ、アニメで精神がごりごり削られる展開も予想できるので、皆さん疲れたときはヒメニウムの補充をしっかりおこなうように!
では、どうぞ。
突如として現れた女性は、空中に浮いているように思える。
東京は以前、『デュアル』と呼ばれる、個人の<世界>とは他に、飛行能力を併せ持つ能力者を戦闘科に配属する傾向にあった。それこそが、<アンノウン>を打倒し得る可能性だと信じていたからだ。
もっとも、それは過去の話ではあるのだが……。
「で、もちろんあんたも『デュアル』なんだろうが、俺たちの敵ってことでいいのか?」
「あら、答えるまでもないと思いますが」
冷たい視線が俺を捉える。
わかっている。僅かな可能性などないことは。
「はあ……正直、対人戦が一番やりにくいんだがなぁ」
各都市に配属される生徒たちの中において、人と戦い慣れてる者などさほど多くはない。<アンノウン>ならまだしも、人と戦うことにどれだけ抵抗があると思ってんだよ。
壱弥なんかは人を敵として見れるだろうか? 下手に隙を見せるとロクなことがないぞ。
「さてさて、もう初めていいのかしら? それともまだ時間が必要?」
「舐められたものだな。貴様がなにを考えているのかは知らないが、時間など必要ない。倒すだけなら、俺一人で十分だ!」
周りの行動を無視し、一人飛び出す壱弥。
背後でカナリアが制止の声をかけたが、聞くことなく、突っ込んでいく。
直後、宙に浮く女性が、嫌らしい笑みを見せた。
「まずい! 千種、援護してやれ!」
「チッ……これだけら万年四位のクズ雑魚さんは」
ぼやきつつも、千種は肩にかけてあったスナイパーライフルを取り出す。
その間に、姫さんと視線を合わせる。
「……ったく、照準合わせる時間くらいよこせっての」
素早く構えると、照準を合わせたのかもわからない間に一発の銃弾を撃ち出していた。
だが、その弾丸は空中で打ち落とされ、女性の真下あたりにふたつに割れた欠片が落ちて、甲高い音が響く。
「その程度では、こちらまで届きませんよ」
「いいや、十分さ」
欲しかった時間は確保できた。
「無能が俺に合わせただけ褒めてやる」
「ごめんねぇ。よくわからないけど、とりあえず倒さないといけないからさ!」
前と後ろから、壱弥と姫さんが女性へと肉薄する。
一瞬でも意識を他へ向けているいまなら、この二人の同時攻撃なら、どうだ!
必殺の一撃を秘めた拳が、剣が迫る。
どうあれ、二人の一撃のどちらか一方でも当たれば、そうそう動けるものではない。まず、この状況で避けることすら難しいだろ。
「チェックメイト。詰みだ」
同じことを思ったのか、隣の千種がつぶやく。
そして、乱入者とのひと騒動も終わりを迎えた――はずだった。
「素晴らしい。でも、やっぱり物足りないのだけが残念です」
「え?」
「なに!?」
女性を打倒するはずだった拳は、剣は、女性の手によって受け止められていた。
「あなた方はどこかで、私を人間だと思い力をセーブしている。そんなことでは、さきほどの彼と同じように、届くことはありません」
言い切ると、彼女は空中で、体ごと腕をぶん回し、二人をこちらへ投げつけてきた!
「わっ……とぉ!?」
さほどダメージがあったわけではないのか、姫さんは綺麗に着地する。
壱弥も、空中で勢いを殺せたようで、上空で留まっていた。
「お兄、超カッコ悪い。なにがチェックメイト。詰みだ、なの? 超ウケる」
「……ストレートにお兄ちゃんのメンタル削りにくるのやめて。いや、ほんと恥ずかしいから忘れてもらえます?」
ライフルから手を離し、手と膝を地につけて俯く千種。
こいつ、こんなときだってのに、なんだかんだ精神的に余裕がありそうだな。
とはいえ、参ったね。
「俺も千種同様、決まったと思っちまった。なんせ、東京、神奈川の首席が同時に攻撃してんだぜ? 俺たち生徒の中でも、回避できる奴なんていないだろってくらいの組み合わせなんだが……」
ぶっちゃけると、姫さんだけでも厳しいはずだ。
避けたなら、まだわかる。
そう、姫さんの攻撃を避けるかいなすならわかるんだ。でも、あいつは難なく、自身の手で受け止めて見せた。
性能は姫さんと同等と見るべきか、それともなんらかのインチキか。
あんな奴、神奈川で見た覚えはない。
「他の都市の生徒って感じでもない、か……困るんだよなぁ、面倒事ばっかり来られても」
「あら? そういうあなたが、一番面倒事を望んでいるのではなくて?」
語りかけてくる女性へ、自然と視線が向いた。
意識しなくても、その行動が当然であるかのように。
「戦争の真っ只中にいる皆さま、どうか本能を隠さず、破壊したいものは破壊して、殺したいものを殺してください。ねえ、天羽自由さん。あなたなら、欲望に忠実になれますよね?」
「はっ、いきなり出てきて馴れ馴れしいな。気持ち悪いんだよ、おまえ。纏ってる空気も、向けてくる視線も、ぜんぶきもい」
だが、口から出る言葉はあいつを否定する。
「なに、天羽さん訳ありなの?」
「んなわけないだろ。俺があんなのと知り合いとか悪い冗談だな」
「チッ、知り合いならおまえを餌に交渉できたものを」
「考え黒いなー、千種。あとでおまえだけ残して撤退するから覚えとけよ」
「……俺、遠距離型だからな。すいません、逃げるときは一緒に連れて行ってください」
素直でよろしい。
だが、問題がひとつ増えたな。
「おまえ、なんで俺のことを知っている?」
「あら、あらあら。気になりますか。でも、教えてあげませんよ。だって、どうせあなたたちは自分たちで答えを出すじゃないですか。だから、そのときになって後悔しなさい」
「さっぱりだな」
「はい?」
「要はなにを言いたいんだよ。内容が薄いと伝わらんぞ。うちの首席と東京の次席あたりの頭に負担かけんな」
言い終えると、真っ先にほたるが横まで走ってきた。
「ヒメをバカにしたな貴様。度々思うが、少しヒメのことを軽く見すぎだ。もっとよくヒメを見てみろ、そうすればその腐った考え方も変わる」
「落ち着け、マジで落ち着け。それに、見ただけでなにが変わるんだよ……」
「いいか、よく覚えておけ。物事のすべては観察から始まるんだ」
えぇ……どうしよう、否定する気はないけど、神奈川にいると、その行動をしてる連中の大半が変態しか思い浮かばないんですけど。
「わかった、とりあえずこの話は置いておこう。いまは」
「ああ、あいつをどうにかする。手伝え」
ほたるが、腰にかかる刀に手をかける。
朱鞘の黒刀――輝天熒惑舞姫。
夜空に輝く星のごとく、暗い世界を照らす光明となるように。そして、その刃の煌めきは、人類の仇敵の凶兆となるように、だったか。
前に一度だけ聞かせてもらった、ほたるの刀の名と意味。
「勝利の女神の名、か。そんなものを持ってる相手と共闘して負けるとか、ないな」
「ふうん。東京、神奈川の首席は甘さが残っていましたが、次はあなた方が?」
挑戦的な視線をこちらに向けてくる。
「あれ? ねえ、俺の弾丸無視? ちょっと、こっちは嫌々でも頑張って仕事してるんですけど。なんなの、ステルス性能でも授かってたの?」
「おい、ちょっと黙ってろ。集中が途切れる」
「……明日葉ちゃん、せめて明日葉ちゃんだけはお兄ちゃんを慰めてくれない?」
「きもい」
相変わらずか! ええい、なんでこう連携が取れないかなまったく。
これだといざってときにあれが使えないじゃねえか……。
「おい、勝手に人を残念がるな。俺はまだ負けてないし、おまえが強いとしても、俺の方が弱いとは思ってないぞ」
上空から、わりかし元気な声が聞こえて来る。
よし、戦力的にはまだまだ十分。
「いっちゃん! ちょっとは協力し合おうと思おうよ!」
「ふん、俺一人でも十分だ。なんとかしてみせる!」
まあ、これまでの言動からも、敵ってのは決定でよさそうだな。んで、残念ながらこの場の全員で挑んで勝敗はとんとんってところかな。いや、全力で、なにもかも壊す気の姫さんなら屠れるか?
「でも、うちの姫さんに人を潰させるのは選択肢にねえよ。いつだって、他人を考える優しい女の子に、んなことさせられないでよ」
「仕事好きだな、天羽は」
「そうでもないさ。俺はな、面倒事に付き合うのが大っ嫌いなんだ。だから、元凶を消しとばしたくなる」
「そうですか。ならさっさとあれ倒しちゃってよ」
一歩前に出て、改めて視線を女性にやる。
濃い銀色の髪に、黒を基調とした、シスター服を真似た戦闘服だろうか。
こちらに向けられた目は、どこまでも深い闇のようで、見ているだけで引き込まれそうになる。
「おっかねえなぁ……」
これは人っていうより、怪物の領域じゃねえの。
怪物、か……。
「ひとつ答えろ」
「なんでしょう?」
「あんたが敵なのは、もう決定だ。だから、襲ってきた理由は聞かない。それより、”手刀”って言葉に聞き覚えはあるか?」
「――……ええ、ありますとも。それがなにか?」
面倒な。ここで知らないと言ってくれれば、本当に壱弥を無理やり抱えて、全員で逃げるって案もあったんだけどな。
怪物は人の手には負えない。
出会ったなら、真っ先に逃げることだけを考えろ。
一度怪物をやりあってるからこその言葉なんだが、誰も逃げの一手なんて許さねえよなぁ。
「いやなに、これはマジで前線には立たないとか言ってられなくなったなって思っただけのことだ。仕方ない、潰すか」
「ヒメを傷つけようとした罪は重いぞ」
「っていうか、そろそろ撃ちたいんですけど。もう始めちゃっていい?」
「いいけど、あんまり一人で動きまわるなよ。他の奴の動きちゃんと把握しながらね」
「おい、おまえたちなにを勝手に……ったく、無能どものくせに、俺の足を引っ張るなよ」
「みんな、私はみんなみたいに戦えないけど、頑張るから! 頑張って歌い続けるからね!」
「よっし、みんなで戦おう! ――じゃあ、今日も世界を救おっか」
全員が思い思いに構えをとり、視線を一点に集中させる。
この場に現れた、明確な敵意を持った女性に。
だが、どうしても頭の片隅から消えない、ひとつの予感。夢の中で見た、ひとつの未来。
あの顔、あのときも……。
「みんな、行くよ!」
姫さんが駆け出し、その後ろをほたると千種妹が続く。
上空からは、壱弥が挟み込む形で背後に回りこんでいた。
「アハハ、そうですよ、やはり戦闘は少しばかり不利な方が面白い。だ・か・らぁ」
頼もしい仲間たちに続こうと、足を踏み出した瞬間、ふと、女性と目が合った気がした。
「いまのあなたたちと戦ったところで、なにも面白くないわ」
瞬間、女性の纏う雰囲気が一転し、感情の欠片も読み取れない瞳が視界に映り込む。
その直後、俺は訳も分からず、自分の<世界>を、ただ防御のためだけに発現していた――。
うちの主人公はきっとあれだな。誰も見てないところでヒメやほたるとまったり生活してるに違いない。
くそ、羨ましくなんて……はい、羨ましいです。
とりあえず、この流れが切れるところでそんな、神奈川でのヒメとほたるとの主人公の生活も書いていこうと思います。
では、また次の話で!