いつもの世界を守るために   作:alnas

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その犠牲は決意

 光の壁が、すべての衝撃を阻む。

 咄嗟に体が動いていなければ、いまごろ、こちらに向け放たれた悪意にも等しい光弾により消されていただろう……。

 頰を汗が伝う。

「んだよ、それ……」

 俺より後方にいた千種が、ぼそりと呟く。

 しかも、声にはまるで勢いがない。いや、不安や恐れに近い感情が濃く写っている。

 だが、それもそうだろう。

 更に後方に控えるカナリアも、千種と大して変わらない。それどころか、表情的には、彼女の方がショックが大きそうだ。

「いや、まさかな……」

 姫さんの一撃に比べれば大したことはなかった。

 ほとんど反射的に発現した、言わば半端な状態の<世界>でも防げたのだ。威力としては、姫さんのそれにだいぶ劣る。

 俺が感じた本能的な恐怖は、一撃の威力に対してではなく、敵である銀髪の女性から感じた、圧倒的プレッシャーに対してだ。

 だというのに――。

「その結果が、このざまか……」

 前方――姫さんたちが駆け出していった方に視線を向ける。

 先ほどの光弾は、地面を抉り取るように進んだようで、俺の仲間たちが飛び出していった道は、跡形もなく消失していた。

 ただひとつ。

 姫さんが常に身につけている外套だけが、少し先に落ちているのが見えた。

 いつもなら元気に立ち上がる姫さんの声も、いまは聞こえない。

「ハハッ、ウソだろ? なあ、姫さん。まだ敵を倒してないじゃないか。立ち上がって、そんで戦おうぜ? なあ……」

 何度辺りを見渡そうと、四人がいる気配はない。

 誰一人、動けないのか、それとも――。

「ああっ!」

 拳を地面に叩きつける。

 足元に小さな地割れが起きるが、関係ない。

 怒りだけでも感情を灯していなければ、頭が真っ白になる。思考が止まる。

「やれやれ。完成されていない力で立ち向かってくるなんて、面白くない。もっと強くなってからでなければ、こちらから願い下げですね」

 そんな俺の前に、歩いてくる女が一人。

 あいつだ。あいつさえいなければ、こんなことにはならなかった……。

「願い下げなら、そんな相手に戦いを求めるんじゃねえよ。さっさと消えてくれれば、どんなによかったか」

「おや? 先程までの元気がありませんね。お仲間がやられて沈んでしまいましたか? かわいそうに……所詮は他人を拠り所にしなければ立っていられない哀れな子たちでしたか」

 随分と、勝手なことを言う相手を、もう無視なんかできない。

 拳を握る力が、増していく。

「哀れなんかじゃない」

「はい?」

 人と群れるわけじゃない。

 別に、人が特別好きなわけじゃない。

 神奈川に配属された当時、誰とも馴染めなかった自分を思い出す。

 手を差し伸べてくれた、一人の少女。そこから広がっていった、温かな空間。多くの人たち。その中心に、いつも呼び込んでくれた小さくて強い女の子。

「おまえがバカにしたモノは、哀れなんかじゃねえ!」

 叫ぶと同時、体の奥から、かつてないほどの激情が流れる。

 流れ出る汗はいつしか治り、目の前の女を見る目がきつくなったのが、動きとしてわかった。

「では、どうすると? 私はいつだって否定しますよ。弱い者の考えは取るに足らないと、断言します。少しは楽しめるものかと立ち寄りましたが、力任せのトップに、独走するトップ。いやはや、実に倒しやすい相手ばかり。残念です」

「……」

「他の二人はまあ、なにかを見る前に一緒に消してしまいましたが、別にいいでしょう。有象無象。戦ってみたところで、結果は変わらなかったでしょうし」

 戦闘狂と窺える言動だ。

 どうりで、敵意と悪意が混じった感情を感じたわけだ。あれは、純粋な戦闘欲……つまり、ただの暇つぶしと快楽のためのおもちゃにされてるわけだ。

「んなことで、俺の大事なもん巻き込むなよ」

 怪物だから、一度痛い目を見てるから?

 そうやって立ち止まるから、救いたいときに救えないんだろうが。

 姫さんたちの耐久力なら、どこかで生きてる可能性だってある。なら、いま俺がやるべきことはなんだ? どうせ、こいつは見逃しはしないだろう。

 俺を捉える目が、ほんの僅かな動きも見逃さないと、隙があれば潰すと物語っている。

「……千種、カナリア」

「なんだよ……」

「う、うん? なに……?」

 やはり、二人はまだ戦える状況にはない。

「こいつは引き止めるから、なにがなんでも止めるから。だから、もしかしたらどこかに吹き飛ばされて生きてるかもしれない四人を探してくれ。そんで、もし見つけたなら、連れて逃げろ。できるなら、全員連れて行け」

 姫さんが、ほたるが、あの一撃で死ぬとは思えない。他の二人もだ。

 仮にも人間。

 防御が遅れれば、ダメージは入る。重症を負うことだって、当然ある。

「それでも――それでも、たぶん大丈夫だから。頼むよ、千種、カナリア。ここから離れて、あいつらを救ってやってくれ……遅くなって、手が届かなくなるその前に、どうか……」

「…………わかった。俺はあいつらを見つけても、ここには戻ってこない。あと、任せるぞ」

「え? あ、霞くん……」

 それでいい。

 ショックから立ち直ってくれば、ある程度は余裕も生まれる。そうなれば、あの一撃に呑み込まれたみんながどうなったかについても、希望が持てるようになってくるさ。

 それが壊れていると言われたなら、たぶん否定しない。

「カナリア、あんたもさっさと行け。そんで、希望を見つけろ」

「――うん!」

 千種とカナリアが側を離れていく。

「追わないんだな」

「追う価値もないですからね」

 二人が離れていくのを見逃したのを不思議に思い尋ねると、無機質な答えが返ってきた。暗に、逃げられても問題がないと。

「さて、天羽自由。あなたは残ってよかったのですか?」

「いいに決まってる」

「逃がしませんよ? 私に挑んできた四人を除けば、あなたが残ってる中で一番面白そうだ」

 だから、つまらないと判断した二人はどうでもいいってことか。関心がないから、追う必要もないと。

「きもいなー……粘着質のある女性は嫌われるって習わなかったのかよ」

「生憎、習ってきたのは、壊し嵌めることくらいですからねぇ。あなた方の希望とやらも、あるといいですね」

「あんた程度の奴にやられたまま黙ってられるほど、あの四人は優しくねえよ」

 特に俺に。

 ついでにいうなら、敵にも。あれ? 俺ってもしかして敵認定でもされてんの?

「天羽、天羽ね」

「なんだよ」

「いえね、まさかこんなところで会えるとは思ってみなかったものですから、つい時間をかけてしまいます」

 言いつつも、一歩、また一歩と歩みを進めてくる。

「へぇ。だったら、もっとゆっくり話すか? それとも、話は別のところで聞いてやろうか」

「それは、例えば私を拘束して、ですかね」

「当然。あんたには聞かないといけないことがたくさんあるからな。ここらで転がってた無数の<アンノウン>の死骸についてとか、な」

「私は関係ないんですがねぇ。まったく、面倒な子のお守りはこれだから……」

 初めて、憂鬱そうな表情を見せる。

 相変わらず、瞳からはなんの感情も読み取れないが、決定的に違う雰囲気が垣間見えた。

「でもいいです。まずはあなたを潰して、希望を摘み取って、最後は<世界>もなにもかも壊して差し上げますね」

 残り十メートル。

 それが俺たちの間の距離。

「ふう……」

 こんなときに逃げられたら楽なんだが、生憎、そんな考えはとっくに捨てたんでね。

 こんなときだからこそ、前に出ないといけないんだ。

「うちの奴らに牙を向けたこと、すぐに後悔させてやるよ!」

「言いますね。ですが、後悔するのはあなたです!」

 いまここに、俺を支える仲間はいない。三日前とは、まるで違うこの状況。それでも、負けるわけにはいかない!

「ふふふ、ああ、ああ! せめて少しの間だけでも、楽しませてくださいね。でないと、またすぐに手を出してしまいますわ」

 言葉とは裏腹に、彼女の持つ鞭がしなると、そこから衝撃波が生まれる。カマイタチのように鋭く向けられた軌道は、寸分違わずに俺の胴体を真っ二つにしようと迫ってくる。

 ったく、どんな世界を見えるんだか、恐ろしいもんだ。

 でもな、

「言ってろ!」

 途端、光の粒子が俺の体を取り巻く。その影響は拡大していき、間近に迫っていた衝撃波を包み、瞬時に消滅させた。辺りに吹き荒れる嵐のごとく、右手から溢れ出した光がすべてを白く塗りつぶす。

 だが、激しすぎる輝きはすぐに収まることになる。

 それもそのはず。光はいつしか俺の右腕に収束し、吹き荒れることもなく、静かに俺の右腕を包み込み、光で染めていた。

「あら、うまく凌いだか――」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 話している間に駆け寄り、地面を力の限り踏み抜く!

 腰を低い位置に保ち、引き絞った拳が、撃ち抜き際の全身の回転力を膂力へと変え――俺の怒りが彼女へぶつかる!

 直後、光が辺りを白く染めた。




なんかやけにお気に入り登録件数増えてると思ったら、ランキング35位とかにうちの作品があるじゃないですか(たぶん朝には消えてる模様)
みなさま、この作品につきあってもらい、ありがとうございます!
そして、今回はヒメニウム及びその他成分を提供できず、すいませんでした! いや、ほんとにすいません!
できれば、もうしばらくこの物語につきあってやってください。
では、また次回!
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