いつもの世界を守るために   作:alnas

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その独白は

 入った……ッ!

 拳に感じた重みから、この一撃は確実に決まっていることを知る。

 だからこそ、相手に触れた瞬間に、<世界>も含めた威力の塊をぶつけたんだが……。

「まさか、俺まで吹き飛ばされるとは」

 高威力のエネルギーの塊を間近で破裂させたのだ。

 敵の女はもちろん、俺も彼女とは反対方向に、大きく飛ばされた。

 これだから、束ねて繋ぐだけではない俺の<世界>は扱いづらいと言われるんだよ。実際、全容を知っている生徒会の面々からの俺の<世界>に対する評価はひどいもんだ。

「さて、これで終わってくれれば楽なんだが、まあそうもいかないか」

 多少のダメージはあるだろうが、致命傷はおろか、動きを鈍らせることすら叶うまい。

 あれでも、かなり本気だったんだが。

「やれやれ。ゆっくり話す気はありませんが、まさか殴られるとは。少々油断してましたかねぇ」

 距離を置いた位置に、ゆらりと立ち上がる影がひとつ。

 声にはまるで焦りがなく、一撃もらった、なんて印象を与えない。

 まるで無傷のように。

 先ほどの攻防がなんでもなかったかのように。

 そして、俺の力を否定するように、彼女は平気な顔をこちらに向ける。

「チッ……」

「ふふっ、正直に言えば、それなりに驚いていますよ。百位以内に入れもしない生徒が、これだけの力を有しているとは、想定外です」

 俺の情報はそれほど持ってないってことか。

 好都合と見るべきか、油断させる機会を失ったと嘆くべきか。なにはともあれ、迂闊だった。もうちょっと状況を見てから動いてもよかったかもしれない。

「嫌になるな」

「私がですか?」

「違う。自分の行動力の高さにだ。これまでは消極的に生きてきたつもりだったんだが」

 どうにも最近、関わる連中が増えすぎた。

 守るってのも、わりかし面倒だ。

「消極的、ですか。ああ、それであの順位……納得です」

「まさか、敵にまで納得されるとはな。まあいい。とりあえず、あんたは許さねえ」

「許さない? 無謀にも挑んできたあの四人のように、あなたも潰してあげますよ。なに、一瞬のことです。痛みなんて、感じませんから」

 彼女の言葉は続く。

「だから、精々、彼女たちよりは長生きしてくださいね。一秒でも、一瞬でも長く」

「あんた、冗談が好きなんだな」

「はい?」

「……いや、なんでもないよ。そのうちわかるんじゃない?」

 彼女は首を傾げていたが、理解する必要もない、とつぶやき、俺の言葉を流した。

「全力ではないにしろ、東京の方よりはわずかに上。神奈川の首席にはだいぶ――いえ、比べるまでもなく劣る、と。なんだ、あの白い子を残しておくのが最も楽しい展開でしたか。これは読み違いましたね。あなたは仲間を潰せばそれなりに怒りに任せて襲ってくるかと思ってましたが、神奈川の首席にその役割を与えた方が面白そうです」

 好き勝手に言ってくれる。

 だが、予想もあながち間違いではない。怒りはあるし、すぐに相手を叩き潰したい。

 それでも、まずは時間を稼がないと。

「ひとつ、疑問に思ってたんだがな」

「なんでしょう?」

「あんた、本当に姫さんを倒せるとでも思ってんの?」

「倒したでしょう?」

 そう、倒した。

 でも違う。聞きたいことは、そういう意味じゃない。

「さっきから戦闘狂まがいの発言だし、本気の姫さんと戦いたそうにしてるけど、あんたにそこまでの力があるのかって聞いてるんだ」

「おかしなことを言いますね。あの子の剣は私に通用しなかった。それが答えになりませんか?」

「なるかよ。あいつの強さはそんな目に見える部分だけじゃない。あんたには決して理解できないかもしれないがな、俺が認めた奴が、おまえみたいなのに負けるかよ」

「現に負けた後です」

「……そうかもな。でも、あいつは負けないよ。世界を救うその日まで、あいつは負けない。何度でも、何度でも、立ち上がる。それが、神奈川首席だ。俺たちが誇る、天河舞姫だ。だから――あいつが困った時に支えるのが、あいつの側に立つ俺の在り方だ」

 いつだって、彼女を見てきた。

 あの日からずっと、ずっと。

 周りに弱みを決して見せない小さな少女。背負わなくていいはずの正義を背負い続ける、強い子。

「初めは、苛立ちしか感じなかった」

「はい?」

「あんな奴が、なにを言っているんだろうって、理解できなかった。ちょうど、面倒事にあった直後だからかな。真正面から否定して、ぶつかって……そんでもって、やっと可能性に気づいた」

 姫さんと本気で剣を打ち合ったのは、いつだっただろうか?

 もう、いまの俺に剣は振れないけれど、それでも、あのころの記憶は鮮明に覚えている。

 面倒で、疲れて、痛くて、でも、楽しいと思えた。

「だから、これ以上俺の世界を壊すな」

「世界? それはあなたの見ているモノですか? それとも、あなたがいる場所ですか?」

「どっちもだ!」

 これ以上話すことはない。

 いや、もとより言葉を交える必要もなかった。

 これはただの、時間稼ぎ。千草とカナリアが希望を探すまでの、ただの時間稼ぎ。

 そこに俺の生死は関係ない。

「時間さえ手に入るなら、手段はどうでもよかったんだからな」

 掌を見つめ、光が灯ったところで拳を握る。

 そのまま、もう一度突っ込んでやろうと足に力を込めた瞬間、向こうから話しかけられた。

「わかりません。あなたがそうまでして私を止める理由はなんですか?」

「舞姫たちは、この先の未来で必要なんだよ。あと、これは随分と個人的な理由になるんだが――なんて言えばいいのかな。あいつ、笑うとかわいいだろ?」

「はあ……?」

 よくわからない。

 そう顔に書いてあるが、明確な理由なんていらないんだ。俺はただ、彼女たちが生きている希望に賭けただけ。そして、あの子たちの想いを無駄にしないためにここにいる。

「正直さ、巻き込まれるのは嫌いだよ。そこだけは、誰からの干渉であっても嫌だ」

「人の心はわかりませんね。とりわけ、あなたのようなフラフラしていて、時に本気になり、手を抜き――覚悟を決めた顔をする。そんな人間の力の揺れ幅は計り知れない」

 なるほど、周りからはそう見えるのか。

 まいったなこりゃ。

「とんだ過大評価だぜ」

 力の揺れ幅を決めるのは俺のやる気じゃない。

 俺は一人では無力だ。

 一人では守れない。だからこそ、みんながいてくれると言うのに。

「しゃーなしだ。これでも姫さんと打ち合った回数なら神奈川トップでね。あんたの相手も、してやれるだろうさ」

「あら、それは初聞きです。では、やりましょうか」

 これ以降は言葉は必要ない。

 ただ、互いを消すために!

 決意を固めた直後、迫ってくる影を映し出す。

「さあ、楽しみを! 興奮を私に!」

 狂気をはらんだ叫びをあげながら、正面切って、直線に駆けてくる。

「あの日から、初めてかもな。本気で人を潰そうって思ったのは」

 構えたときに一歩引いていた左足を浮かせ、奥足の前蹴り!

「そんな小技で……止まると思ってるならがっかりですね」

 急ブレーキをかけ、すんでのところで放った蹴りをかいくぐる。

 余裕とも、落胆ともとれる表情を見せるが、まだ終わりじゃない!

 足先を相手側に向けつつ、真下におろし、一歩踏み込んだ体制に持っていく。

「がっかりしてる暇があんならかわす努力でもしてろよ!」

 体を反転させるとともに深く沈み込む、瞬時に体のバネを使う。全身で回転力を加えながら右足で飛び上がり、左足を蹴り抜く!

「――っ!?」

 左足は女性の側頭部を正確に捉え、数メートル先へと吹き飛ばす。

「たかが一撃ごときで!」

 命気で強化してるんですけど?

 うちの生徒なら一撃もらえば立ってこないよ? ……化物はこれだから相手にしたくないんだよ。

「特に、戦闘狂の類は致命傷受けても立ってくるからなぁ!」

「致命傷? たかだか蹴りのひとつやふたつ、かすり傷にも劣りますよ」

 彼女の手元にあった鞭はいつの間にか消え、代わりに、傷ついた拳を覗かせる。

 その手の先に、黒い命気が集まっていく。

「おおおッ!!」

 光景が目に入った瞬間には、俺の体は動いていた。

 最初の一撃を無意識に防ごうとしたように、それを撃たせてはならないと、本能が告げている。

 この一撃で、すべてを終わらせる!

 極大の光を携えた拳。

「なかなかです。ですが――」

 日々鍛錬だけは続けてきた、姫さんとでさえ戦える攻撃は、殴るべき相手に届くことはなく。

「――それではあまりに脆すぎる」

 いとも容易く、握り込まれていた。

「なっ……」

「ふふっ、遅すぎて、弱すぎて、つい掴んでしまいました。これは授業料です。どうぞ、死んでから悔いてくださいね」

「クッソォォォォォォッッ!!」

 反対の手で、苦し紛れでもいい! 届けさえすれば!

「なんですか、そのムダ打ちは。闘争にはほど遠い。あなたたちのスタイルは所詮、人との戦いのためにはできていない!」

 相手の女性も、とうとう拳を握る。

 そして、ついに俺の放った拳に、彼女の拳がぶつかる。

 必滅の輝きを乗せた拳が互いを捉え――。

「ぐっ……ああああああああああっ!!」

「なぁんだ、思ったより出力はあるじゃないですか。あの四人を消しとばした一撃は必要ないですが、これならあるいは……いえ、いいです。私まで遊ぶと、怒られちゃいますからね」

 ため息をつく彼女は、急に真面目な表情を作った。

「では、終わりです」

 濃度を増す黒い命気が俺の拳を弾き、その勢いは殺せず、俺を貫いた……。

「がっ……」

 衝撃は俺の体内を駆け回り、足元がグラつく。

「っ、ああ!」

「まだ抗いますか。ほどほどで諦めなさい」

 立てるうちにと放った蹴りは容易にかわされ、呆れ果てたように首を横に振られる。

 だが、そんな動作ひとつにつきあっている余裕はない!

 周りに仲間がいない以上、俺の<世界>では大技は使えない。姫さんを止めたときほどのとんでも威力は叩き出せない。

 やれることは、一回でも多く、速く、動くことだけだ!

「威力は凡庸。速さはそれなり。頭の回転数はいいときましたか。なんとも微妙な性能ですね、あなたは」

「言ってろ」

「もう少し追い詰めれば本性が観れるのかどうか。それだけ確認しておきますか」

 言ったときには、目の前にいたはずの彼女の姿を見失っていた。

「もう飽きました。それなりに観れる部分もあるかと思いましたが、やはり残すなら一位でしたね。失望です、あなたには」

 次に姿を認識したときには、俺の体は、姫さんたちを消しとばした光弾に包まれていた。

 失意の中に沈んでいく意識の中、俺はひとつの過去を思い出す。姫さんたちとの、ひとつの記憶を――。

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