いつもの世界を守るために   作:alnas

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今回から二回ほどにかけてはのんびりとした日々を書いていこうかと思います。
では、どうぞ。


激闘を終えて

 危機的な状況を回避して旅館に帰ってきたまではいいが、なぜこうなった……。

 俺の足元に転がる、二人の屍体。

 辺りに散らばる、無数の枕。

「バカどもが……」

 事の発端は、旅館に帰ってきてすぐ、風呂に入る前に枕投げをやろうとか言い出した女性陣によって始まった虐殺は、しかし。練りに練った俺たちの作戦により勝利を収めるはずであった。

 だというのに……。

「それはズルくないか? 千種と壱弥にとっては確実に特攻入るし」

 浴衣に着替えてきた女子二人を見て、一瞬の隙を突かれて二人は潰されたのだ。

 大方、千種妹とカナリアに見とれていたのだろう。

 これだから、こいつらは。

「とは言っても、全員枕投げてきてたのに、顔面に姫さんの投げた枕が当たるとは……運のない」

 特に千種は、妹から顔に一発もらってからの姫さんだからなぁ。一発目だけなら喜べただろうに。

 で、残るは俺だけなんだが、

「これって降伏は許されんの?」

「みゆちん、そんなつまらないことは許されないよ!」

「覚悟決めて、かかってきなよ」

 あっは、とりつく島もねえ! 姫さんだけでもチートだろうに、そこに三人も加わったら無理だから!

「だが、俺は力の暴力には絶対に屈さな――ぐぼぉ!?」

 物凄い勢いで飛んできた枕が、顔面に直撃した。

 クソッ、これ枕かってレベルの威力を出すんじゃねえよ……。

 倒れゆく中、この殺戮ショーが夜にもおこなわれるだろうことを思い出し、絶望の中、俺は意識を手放した。

 

 

 

 軽い前哨戦を終えて、先ほどの戦場となった広間で、倒れたままの姿勢で目を覚ました。

「……残ってるの俺だけかよ」

 一緒になって意識を失っていたはずの千種と壱弥はすでに起きているらしく、どこかに出て行ったのだろう。

 薄情な……。

 怪我も治りきってないためか、体が重い。

「問題事は以前山積みだし、夜はおっかない行事が残ってるし……はあ、憂鬱」

 もう、このまま寝てようかな。

 寝てれば災難に遭うこともないだろうし。よし、そうと決まれば……。

「みゆちん、起きてる?」

 狙ったかのように顔を出した姫さん。

「おう、いまから寝るところだ。ひとまず明日まではな」

「え!? 起きた、んだよね?」

「そう、起きたんだよ」

「寝ちゃうの?」

 わけがわからないらしく、可愛らしく首を傾けられた。

 そもそもの話、俺の意識を奪ったのは彼女なのだが、いまさらやることなすことにいちいち文句を言っても聞かないだろう。

「起きてろと言うなら起きてるけど、枕投げには参加しないからな?」

「あー……枕投げは禁止になっちゃって」

「ほう? と言うと?」

「みゆちんたちが気絶したあと、みんなからやめようって話が出てね」

 ですよねー。

 でも、ちょっと止めるの遅かったよね。被害が出てからやらない方向に進んでもすでに遅いって……何事にも犠牲はつきものか。

「で、どしたの姫さんは」

「みんなでご飯食べるから、みゆちんを呼びに来たんだよ!」

 俺が作ってもいないのに、飯が用意されているだと? なんだよ、快適空間かよ。

 ならさっさと行こうじゃないか。

「わかった、素直に起きますよ」

「うん! じゃあ行こっか」

 俺の手を握り、元気に前を歩く姫さん。

 ふと、思い返してみてわかったことだが、彼女が自分から俺に触れてくるようになったのは、ごく最近のことだ。出会った頃俺が嫌っていたこともあり、触れさせたことは、戦闘事以外なかったと思う。

「丸くなったもんだな、俺も」

「ん?」

「いや、姫さんといると誰も彼もが変えられちまうもんだと恐怖していたところだ」

「恐怖!?」

 そう、あながち間違いではないのだ。

 自分であったはずの意識が過去のモノになる。これを怖いと思わない人間が、何人いることだろうか?

 俺はたぶん、まだ恐怖から解放されていない。

 過去の自分と、いまの自分。正しさがどちらにあるかなど、答えなんてないんだから、怖くて当たり前だ。

「つくづく、前を向いていられる人は凄いと思うよ」

「そうなの?」

 自覚がないのか、天然なのか。

 今日も前を向き続ける少女の小さな手を握り返す。

 その動作に気づいて、笑顔になる彼女の顔を眺めながら、目的の部屋まで案内してもらう。

「なあ、ところで夕飯はなにを作ったんだ?」

「えっとねぇ、いろいろ食材があったから、バーベキューでもしようかってことになったよ」

「へぇ……」

 絶対に作るの面倒だっただろう、と口から出かかったが、言ったら最後、これから作らされる未来が容易に想像できたので口を閉じた。

「みゆちんつれてきたよー」

 端にある一室のドアを開け、入っていく姫さん。引っ張られ、続いて入ると、その部屋は外に繋がっていて、外では壱弥と千種が汗だくになりながら数々の食材を捌いていた。

「おーおー、本当にやってるよ」

「あ、みゆちんやっほー」

「おう、千種妹」

 っていうか、おまえも俺のことは姫さんと同じ呼称なのね……浸透させないでくれ、姫さん。

「いや、そろそろ千種妹ってやめてよ」

 確かに、会った当初に名前で呼べと言われてはいたが……。いや、要求には答えた方がいいな、うん。

「ところで明日葉、おまえらはなぜここに残ってるんだ?」

「ん? お兄たちが焼いてくれてる間は待っててもいいかなって」

 相変わらず大変だな、兄ってのも。

 内と外が繋がってるからこそ、女性陣は楽をしているわけか。

 ちょっと外に出ればいいものを。距離的には数歩だろ?

「あれ? そういや姫さんとほたるは? って、カナリアもいないじゃん」

「カナちゃんはあそこ」

 明日葉の指差す方向には、壱弥の隣であれこれ言っているカナリアの姿が。あのぶんだと、二人だけにやらせるのは悪い! とか言って手伝いに行くも、壱弥にじっとしていろ、などと言われているのだろう。

 彼らの方から、『困ったときは笑顔だよ!』と聞こえてくる。

 困っているのは壱弥だろうに……ほら、笑っておけ、壱弥。

 なんて思っていたら、箸でカナリアの頬を摘む壱弥の姿が映るものだから、微笑ましい。

「あ、お姫ちんたちは、浴衣着てくるって出て行ったよ」

「俺、聞いてないんだけど?」

「みゆちんが来る前から話していたことだからねぇ」

 よく見れば、俺以外全員浴衣じゃねえか。

 明日葉は浴衣、よく似合うよな。たぶん姫さんより似合う。

「なに?」

「なんでもない」

 正直に言ったらぶっ飛ばされそうだし。

「明日葉ちゃんも、箸で摘まれたい?」

「お兄きもい。ほんとにきもいから……いいから、お肉焼いてきて」

 作業をやめて戻ってきた千種は、手に持った箸をカチカチと鳴らしていたが、一蹴されていた。いや、その対応が当然であるとは思うが。

「暑そうだな、千種」

「そりゃ暑いでしょ。天羽が寝てる間も準備頑張ったんだから」

「ウケる。お兄、焼く作業しかしてないじゃん。しかもサボってるし」

「サボりたくもなる。横で4位さんがいちゃついてるんだから、リア充爆発しろって思うまである」

 わからんでもない。

 隣であの光景を見せつけられたら、逃げたくもなるわな。

「変わるか?」

「任せた……俺はもう飯ができるのを待つ」

 千種と入れ替わるように、草履を履いて外に出る。

「天羽か」

「あ、自由くん。もう平気?」

 東京組の二人が、揃って口を開く。

「平気だ。それより、手伝うことは?」

「ない。俺一人で十分だ。おまえも千葉カスくんも、中で待っていろ。もうじき全ての食材を切り終える。食える段階になったら呼んでやる」

「えっと、あとは任せてゆっくり休んでいろ、と」

 カナリアが伝えてくれるが、なるほど。彼女が訳してくれるとわかりやすいな。

「わかった、じゃあお言葉に甘えて」

 久々になにもすることのない夕飯だな。

 自分で作るわけでもなければ、誰かに振る舞うわけでもない。

「おっ待たせ〜! どうどう、みゆちん?」

 跳ねるようにして部屋に入ってきた姫さんが、真っ先にこちらに走って来る。

「おい、ヒメ。走ると危ないぞ」

 まったくだ。走ると危ない。

 特に、なにかの拍子に躓いて、そのまま突進に近い形ですっ飛んできているいまとかね!

 いやー、ほんと危ないなぁ。

 ちょっとした衝撃を体に受けつつ、姫さんが上から降ってきやがった。

「ったく、受け止めるこっちのことも考えろよ……」

「えへへ、ありがとう、みゆちん」

 両手で抱えるように受け止めてやると、視界に浴衣姿の姫さんが映り込む。

 白地に、青い朝顔が散りばめられたデザインの浴衣。

「ふーん、かわいいじゃん」

「ありがとね!」

 しっかし、裸足で外に飛び出したせいか、その場に下ろすわけにもいかず、一度中へと戻る。

「浴衣を着れて嬉しいのはわかるけど、落ち着けよなぁ」

「はーい!」

 ほたるはだいぶ地味なのを選んできたな。

 彼女らしいって言えば、彼女らしいんだが。

「ねえ、みゆちん」

「なんだ?」

「あの、そろそろ下ろしてもらえると」

「それもそうか」

 なんのために戻ってきたのかわからねえもんな。なんか、この状態が自然のものになりつつあったわ。

 あのまま過ごしていたらほたるに斬られて神奈川から追い出されていたまである。

 生きてるだけマシか?

「楽しそうだな、4位さんは」

 千種の隣に腰を下ろすと、外の様子を眺めていたのか、そうこぼした。

「カナリアにだけは甘いよな、あいつ。小さい頃からの知り合いだったりするのかね?」

「俺が知るわけないでしょ、4位さんのことなんてさ」

 てっきり知ってるかと思っていたんだがな。好んで言い合いにいってる節も見られたし。少し意外だったな。

 踏み込んではこないってことか。

「ねえ、明日葉ちゃん」

「なに?」

「お兄ちゃん、結構疲れてるんだけど、膝枕とかしてくれない?」

「いやだ」

「ですよねー」

 諦めはえー……。これ確実に無理ってわかってて言っただろ。わずかにさえいける空気のない否定っぷりだったぞ。

「膝枕かー。ほたるちゃん、してあげようか?」

「ああ、ヒメが言うのなら」

 言葉のわりに、行動は早かった。

 姫さんが座り込むとほぼ同時に、顔をうつむけにして姫さんの膝に埋めたのだ。

 ぶれないなぁ……。

「もお、くすぐったいよ、ほたるちゃん」

 姫さんも受け入れてるし。まあ、この子素直だからなに言っても最初は信じてくれるんだよな。

「みゆちんも、あとでしてあげるね」

「あ? おう、ありがとな」

 姫さんにされると四天王が黙ってないからなぁ……今回はほたるが先にしてもらってるから、特に被害が及ぶこともないだろ。

 危険ではあるが、理解もある……はずだ。

 つい流すように答えちゃったけど、だいじょうぶかしら。

「ふ〜ん……なら、お姫ちんがしてくれるまで、あたしがしてあげよっか?」

 悪い笑みを浮かべた明日葉は、ちらりと兄である千種へ視線を向ける。

「え? ちょっと明日葉ちゃん? お兄ちゃんはダメで天羽はいいの?」

 案の定、千種は狼狽しまくりで、頭を抱えながら膝をついた。

 その様子を笑いながら眺めているものだから、仲のいいものだ。

「千種、落ち着け。おまえの妹のいたずらだ」

「なん、だと……? いや、よかった落ち着いた。むしろ安心したまである」

「え? あー……別にしてあげてもいいとは思ってるけど」

 髪をいじりながら、明後日の方向を見ながら言う明日葉。

 あ、千種がまた頭を抱え出した。

「なにがどうなってるやら」

 とりあえずは、もうしばらくのんびり過ごせそうだ。

 疲れもあることだし、せっかくの申し出だ。そういったやりとりは眼目のせいで慣れてるし。

「なあ、明日葉」

「なに?」

「せっかくだし、頼んでもいいか? 思ったより、疲労激しいんだよね」

「あ、うん……じゃあ、お姫ちんの番になるまでの間だけ」

 俺の横で、この世のものとは思えない悲鳴があがり、声の主はそのまま後ろへと倒れていった。

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