あれもこれも、と姫さんに屋台を出した生徒全員が商品を差し出してくる。
それをもらっては食べを繰り返す姫さん。
「その小さい体のどこに入ってんの?」
「ひとつひとつは小さいからな。入った先で消化されているんだろう。さすがヒメ」
ほたるの説明を聞くが、さっぱりわからん。
消化スピードおかしなことになってるだろ、それ。仮にそうだったとしても、一度に大量に食べたらまん丸くなんのかよ……。
「で、次はどこへ?」
「ふふぃはあっひぃ!」
無言でほたるに視線を向けると、
「次はあっち、だそうだ」
食べ物を詰め込んだ姫さんの言葉を訳してくれた。
ああ、俺も姫さん語検定を受けないといけない時期かな……どこで受けれるのかは知らないけど。
にしても、いく先々で生徒がものを渡してくれるって、相当だな。
「ちらほらと違う都市の奴らも営業してるし……」
「許可は出してある。問題ない」
「うん、まあそうなんだろうけどさ。ほんとに大規模な祭りだな」
いったい、いつから東京、神奈川、千葉の三都市はここまで仲良くなったんだか。ランキング1位を取るために東京からはバカが潜り込んできたこともあった。内部に問題を抱えていることも、今更だ。
でも、いまの代は少し違うのかな?
「……」
「みゆちん?」
「どした、姫さん」
両手いっぱいに箱やら袋を持ってきては座り込んでそれらを消化する。
その作業が一度止まったのか、彼女が俺に視線を向けてくる。
「あの屋台の先にね、ゆっくりできる場所があるんだけど……」
「そうか。なら、いろいろ買い込んでそこ行くか」
「うん!」
食べ歩きもいいが、もう十分だろう。
さすがに貰っていくわけにもいかないので、と思っていたのだが、なぜか俺にまでいろいろと渡してくる生徒たち。
姫さんならよくわかるのだが、なぜだ?
「おう、天羽。前回はご苦労さん。これもってけよ」
「天羽くん、これもどうぞ!」
こいつら、なにを狙っているんだよ……。
「みんな、みゆちんのこと好きなんだよ!」
「いや、それはちょっと気持ち悪いっていうか……うん、気持ち悪いわ」
だいぶ遠慮したいです。
「まあ、俺らもそれは気持ち悪いんだけどさ。言うなら、信頼から、かな? 天羽はなんだかんだで決めるからさ」
俺に焼きそばを渡した生徒が答える。
「うんうん、天羽くんは普段ちょっとだらしないけど、一番危ないときは来てくれるもんね。はい、これおまけ」
今度は隣の屋台から顔を出した女子生徒がチョコバナナを。
「はい、姫さまとほたるさんも」
「ありがと!」
「悪いな」
二人も同じように受け取り、口に運ぶ。
「……俺って、そういうふうに見られてんのな」
「あれ? 知らなかったの?」
「知らないっていうか、考えたことなかったかも」
チョコバナナを一口かじると、甘みが口の中に広がる。
うん、そりゃ甘いよな。甘くないわけがない。
「みゆちん、たぶん自分が思ってるよりもみんなからの評価は高いと思うよ?」
「だろうな」
姫さんの言葉にほたるも頷く。
それを聞いていた周りの神奈川の生徒たちが同意するようにほたると同じ行動を取る。
「ったく。勝手なこと思われても困るんだがな。でも、望まれたなら相応の仕事はしようかねぇ」
知っててなにもしないのは気がひけるし。あと、この場で沈黙を貫けるほど強くもない。
「あはは、珍しくみゆちんが照れてる」
「照れてないし。むしろ冷静だし。ほら、もう行こうぜ」
「はいはーい。じゃあみんな、屋台も程々にして楽しんでね!」
みんなからの返事を背中に聞きつつ、人気の少ない路地へと入っていく。
とは言っても、この辺もちょうちんをつけて回ったんだから、明るくはあるのだが。
「結構貰っちまったな」
「みんなくれちゃったら営業してる意味ないのにね」
「ヒメに渡すために営業している者も多いからな。貰ってくれた方がありがたいだろう。なにより、祭りだから楽しんでもらうため、楽しむためにやっているのがほとんどだと思うよ」
ほたるが姫さんに語りかける。
「楽しんでる、のかな?」
「うん。祭りを楽しむのは、屋台を回る側だけじゃないから」
そういう考え方もありだよな。
ほたるの言葉を聞いていて、そう思う。誰かになにかを作ってやるのは、やってみればわかる楽しさというのがある。受け取った相手が嬉しそうにしてくれれば、それほど嬉しいこともない。
「その相手が姫さんとくれば、神奈川の生徒はやる気に満ち溢れてるだろうな。銀呼と柘榴がなにも企ててないのが不思議なくらいだ」
これまで一度もちょっかいかけてこないし、なにやってんだろう。
イベントごとで姫さんの盗撮も尾行も匂いを嗅ぎにこないのもおかしい。あいつらの容態が逆に心配になるレベルだ。
……おかしいな。これが正常なはずなんだが。
「俺、疲れてんのかな」
変態と変態と変態に囲まれた生活だもんな、仕方ない。
しばらく進んでいくと、なぜかビルの前にたどり着いた。
「ここか?」
「この上だよ」
指差された方は、屋上だろうか?
とりあえずは従おう。
エレベーターに乗り込み、やはり屋上へと連れてこられた。
「お、よく見えるな」
眼下では、今日の祭りの様子が確認できる。
「いい風だね〜」
「ヒメの匂いがよく届く」
なにも聞こえない、僕はなにも聞いていない。
しばらく祭りの景色を眺めていると、ある三人組に目がいった。
「あれ、青生か」
「どれどれ? あ、求得さんと愛離さんもいるよ!」
「ほう。来るとは聞いていたが、青生と回っていたのか」
あの人たち、本当の親みたいに笑うんだな。まるで、いまこの時間を大事にしているような……なんだろう、この感じ。
「青生、親と接してるみたいだ」
「そうなの?」
姫さんはわからない、と言いたげだ。
思えば、彼女の親の話は聞いたことがないな。天河……なんとなく、予想はできているが。
「さあね。俺も、親との記憶はあまりないし。幼い頃は――あれ? そういや、幼い頃って、なにしてたっけ?」
「みゆちん?」
「ああ、いや。だいじょうぶ」
過去の記憶が、いまいち混濁としている。なぜだろうか。
「いいか」
別に過去の記憶が必要なわけではない。長年眠っていたせいか、それともすでにどうでもいい頃の記憶なのか。とにかく、絶対にいるものってわけでもないのだ。
あまり気にしすぎるのもよくないな。
「さあ、ここなら静かにできるし、楽しくお話しながら食べよっか」
「そうだな」
いまいちここに来た理由になってない気がするけど、ここは黙っておきますか。
なんて姫さんの隣に腰を下ろすと、上空からふたつの影が降ってきた。
「はい?」
「あれー?」
俺と姫さんがそれを確認し、同時に声を発する。
「なに……?」
降ってきた相手――壱弥は嫌そうに顔を歪めた。
「あ、ひーちゃんだ!」
壱弥とは対照的に、嬉しそうに笑顔を作るカナリア。
はて、なぜ二人がこんなところに?
「どうしたの? カナちゃんたちもゆっくりしたくて来ちゃった?」
「うん。いっちゃんが人ばかり多くて座る場所もないからって」
「待て。人ごみで酔ったような言い方をするな」
おまえは自分に酔ってるもんな。うんうん、わかるぞ壱弥。
「天羽、おまえはなんだ、暖かい目をして。よくわからんが不快だ、やめろ」
「へいへい」
黙ってても文句言われるとかなんなんですかね。口開いても言われるのはわかってますけどね。
「ふーん。じゃあさ、みんなでご飯食べようよ」
「量だけは十分すぎるほどにあるからな。って、なんだよ。おまえらもまた随分と買ってきたな」
壱弥の手には、様々な食べ物類が入った袋。
「これはカナリアのぶんだ」
「ちょ、いっちゃん! いくら私でもそんなに食べないよ!」
エヘヘ……と笑って誤魔化すカナリアだが、若干誤魔化しきれていない。
「いや、これは全部カナリアが――」
「いっちゃん!」
楽しそうだし、放っておくか。
「うわぁ……ここダメでしょ」
扉が開き、これまた壱弥以上に嫌そうな声を上げる人物が一人。
「おまえらなんなの。俺たちがいるところに来ないと落ち着かないわけ?」
俺たちを見て嫌そうな顔をするもう一人など、誰かなんて決まっているんだ。
こちらを見る、二人の生徒。
「千種、おまえまで来ることはないだろ」
「いや、俺だって来たくてわざわざ階段登ってきたわけじゃないんですけど」
「疲れた感じを出されてもな。だったらエレベーター使えよ」
「はい?」
「いや、だからエレベーター使えって」
二度も言えばさすがに理解したのか、さらに疲れたようにため息を吐かれた。
「エレベーター、あったのか……」
「おまえ、自分の<世界>で把握できるだろ。アホか」
ぐったりと座り込んだ千種のことは放っておこう。
「明日葉は元気そうだな」
「まあね。お兄は人酔いだから、気にしなくていいよ。人気を避けてたらここに来たってだけだし」
あ、こっちは人酔いなのね。
「情けない……」
壱弥からの一言だ。しかし、千種に言葉を返す余裕もなさそうだ。
結局、予定の時間を迎えるまでもなく集合しちまったな。全員いろいろ買い込んできてるし、もうここで食えばいいだろ。
誰かが言い出すまでもなく、千種たちもたこ焼きやらかき氷を食べ始めている。
「ヒメ、ついてるよ」
ほたるが指摘しながら、チョコを指で拭き取る。
「いっちゃん、はい、あーん」
「やめろ。自分で食うから構うな。それより、こぼすんじゃないぞ」
キミらは仲良すぎかな。微笑ましくはあるけどもう少しこっちの世界にも目を向けようか。
「お兄、これどう?」
「ちょっと、謎の食いもんを勧めてくるのやめてもらえます? お兄ちゃんを実験台にしないでください」
「えー、でもほら、こういうのはお兄にピッタリだし」
「なにそれ……お兄ちゃん替えの効く代用品じゃないのよ? 明日葉ちゃん、待って。口に運んでこないで。待っ――」
……強く生きろ、千種。俺は怖いから見なかったことにしておく。
祭りの騒ぎはまだまだ終わることなく、多くの生徒の笑い声が下から聴こえてくる。
少し視線をズラせば、各都市の代表たちの賑やかな様子も映る。
楽しくて、うるさくて。でも、心地いい。
誰も欠けることなく、来年もこんな夏を迎えるのもいいかもしれないな。
朝日を拝むまで、俺たちの祭りは続いた。
次回は久々に本編に戻ります。
番外編とはだいぶ温度差のある展開に戻るとは思いますが、そちらも楽しんでいってください。
では、また次回!