どうしても、うちの話だけ話数のわりに進みが遅いなーとか思っちゃいます。
無駄な描写が多いのかしら……などと言うつもりはない!
まあ、歩みが遅いのも楽しみつつ読んでください。
では、どうぞ。
海ほたるに近づくにつれて、自分の中にある不安が増してきているのがわかる。
柄にもなく、緊張しているのだ。
「変だな」
「なにが? というか、それ止めておいてもらえない?」
千種が眼目を指差す。
「あいつの行動をいちいち縛るのは無理だ。好きにさせておけ」
勝手気ままに動き回る眼目を捕えるとか、疲労が増すだけですし。そもそも、俺が言ってやめるなら問題児などと呼びはしない。だから、いまここで止めに動くのもムダなのだ。
「あ〜自由ちゃん、この部屋おもしろくない〜ひま〜」
「ひま〜じゃねえよ。どうせすぐに忙しくなるんだ。月夜の相手してるか大人しくしてろ」
「え〜」
聞いてるかすら怪しい反応するな、こいつ。
これでわかったか? と視線を千種に向ける。あいつも、諦めたように前方に向き直った。ひとまず、会話は終了らしい。
にしても、月夜起きねえなぁ……寮母からは起きるのを待ってやれと言われてはいるが。
こういうところはこどもだな。年相応のかわいさってことにしとくか。
「お守りも大変だねー」
千種の近くで端末をいじっている明日葉は、まったく興味ないかのように言う。事実、興味はないのだろうが。
「ほんとにな。変わってやろうか?」
「は? いや、そういうのいいから。それに、みゆちんの横で寝てる子、ちょっと怖いし」
怖い、か。
ただ寝ているだけなんだがな。それでも、隠しきれるものではないということか?
「白髪の子、かわいいけど寒気がするんだよね。なんだろ、ぜんぶ掴まれてるみたいな感じ? お姫ちんも凄いけど、そっちの子も将来有望そう」
「褒めてるのか恐れてるのかはっきりしろよ。まあ、今回はどのみち味方なんだ。あまり怖がらないでやってくれ。これでも、頭ん中じゃあれこれ考えちまう性質なんだ」
たまに。ごくたまに、感情のままに動くこともあるが。そこは仕方ない。俺たちはプログラムに沿って動くロボットではない。一時の感情で失敗もするし、無茶もする。
「ま、とりあえず忘れてよ。こどもの教育的に悪いっしょ」
「だな。起きてたら隠しきれなかったけど」
音なら基本ぜんぶ拾うしな、月夜の耳は。隠せることなんてまずない。
おかげで、俺たちのチーム内で隠し事はほぼ無理なのだ。唯一隠し通せている秘密があるのだが、それもいつまで保つことか……。
「で、今回の作戦だと徐々に詰めてかんといけないわけだけど、千葉は地上からどう攻撃通すんだっけ?」
普段通りの戦闘方法では無理だとわかったいま、組まれた作戦を実行しなければならない。
「あーそれな。まだうちの奴らに伝えてないんだよ。まあ、単純な奴ばっかだから平気だろうけど」
結局どうするのか答えてもらってないんですけど。
なに、そのときが来てからのお楽しみなの? そも、仲間が知らないってどうなの、それ。ぶっつけ本番ってわけでもないだろうけど、試される側からしたらたまったものじゃない。
壱弥が各部隊に作戦を告げるのを聞きながら、前方を向く。
「お、見えてきたな」
昨日も見た、超大型――リヴァイアサン級か。
姫さんの一撃にも耐え、壱弥を押し切るだけの攻撃力。一対一でやったなら、どういう結果になるかな。
「なんて思っても、できるわけじゃないし」
自分がやるべきことだけに集中してないと、殺されかねない相手が出張ってきたら終わりだ。
さすがに、よそ見してて負けました、じゃ笑い話にもならん。
「千種、明日葉。おまえら、頼むから失敗すんなよ」
「しねえよ。おまえこそ、速攻負けて帰って来るんじゃないの?」
「ありえる」
「いや、ありえたらダメだし、ウケないし」
二人してなんなんだよ。事実を言ったらダメなんですかね。
実力差は歴然。
接近戦は斬々の独壇場だろう。
「勝てる未来がさっぱり見えん」
「おまえ、なにしに行くわけ…………」
呆れられても困るな。俺はただ、話を聞きたいだけだと思う。そのために戦うのなら、仕方がない。そう割り切っているだけ。
もちろん、会えればの話ではあるけれど。
「戦闘になったら腹くくるしかないな。正直なところ、正面切ってなら確実に負ける」
「あの人、そこまで強いの?」
斬々のことだろうか。むろん、強い。
<世界>がどうとかではない。あいつは強いのだ。
「前回は一度しか手を出してこなかったからわからないかもしれないが、姫さんですら勝てるかどうか……決めに行った頃には倒されてそうだ。そもそも、強い人間は姫さんじゃ倒せない確率の方が高いの、おまえらならわかるだろ?」
「まあ、優しいもんね、お姫ちん」
「あれはあれで狂っているように思うけどな」
明日葉は納得するように。千種は皮肉気に、自分の意見を述べる。
狂っているようにも見えるのか。大概、人は狂っているように見えるがね。
姫さんだけじゃない。俺も、壱弥も、大人たちも。それに、斬々だって、狂ってる。
「でも、悪いことじゃない」
それはつまり、人らしいってことなんじゃないのか?
「……ま、人それぞれだよな」
千種は話を終えるように切った。
「始まるみたいだぞ。四位とその部下が動き出した」
超大型<アンノウン>から離れたところで、小型の<アンノウン>が次々に撃破されていく。
壱弥を筆頭に、6人ほどでチームを組みながら敵に当たっているようだ。
「じゃあ、お兄、みゆちん。あたしもそろそろ行くね」
「おう。気をつけろよ」
「はーい」
兄妹の会話も終わり、明日葉は部屋を出ていった。
これで、本格的にでかいのを潰しにかからなければならない時がきたってことだな。
今回、でかいのはうちと千葉が主に相手にすることになっている。壱弥たち東京のみんなは、周りの掃討。
隙があればでかいのも倒せばいいものを。わざわざ姫さんにラストを譲るだなんて言うもんだから、逆に心配になるぜ。なあ、壱弥?
『お兄、作戦通り、ちっさいのは東京の人たちと戦ってるっぽい』
「はいよ」
アクアラインの線路上は、東京のみんなのおかげか、ほとんどの<アンノウン>がそっちに集中しているため姿が見えない。
出だしは十分。
その隙があれば、俺たちの乗る砲塔列車が戦闘領域に到達するには時間が有り余る。
「はい、千葉の皆さんお待たせです。出番ですよー。段取りだいじょうぶ? ちょっと危ない相手なので、こちらの指示に従い、タイミングに注意して無理のないようによろしくどうぞ」
明日葉からの通信を聞き、ホログラムのデータをチェックしながら千種が放送を入れる。
まるで緊張してないな。むしろやる気も感じられん。
「じゃ、やりますか」
砲塔列車が急加速すると、それに反応したリヴァイアサン級から、迎撃の熱戦が放たれる。
禍々しい真紅の輝きが砲塔列車に迫るが、列車は急ブレーキをかけて停車した。
「あー、危ない危ない。ギリセーフかな」
まるで危険を感じさせない声で、熱戦が迫るのを待つ。
しかし、アクアライン上に展開した防壁が盾となり、砲塔列車への直撃を防いだ。
「あら残念。そこからだと、このポイントには当てられないんだよなぁ。ブラインドスポットっで概念、ご存知ない?」
作戦がうまく進んでいるためか、千種も普段に比べ口数が多く感じる。
『お兄、独り言うるさいし話長いキモい。っていうか、こっちも射程足りないんですけど』
辛辣な……。これが照れ隠しならいいのに、状況的に見て本音に聞こえる。
「まあ、頑張れ兄よ」
頑張れが妹も振り向いてくれるかもしれんぞ。いや、ないか。あるのか? ええい、どうでもいい!
「明日葉ちゃん、お兄ちゃん今日は頑張ってると思うんだけど……はあ、工科さーん?」
千種が通信を入れると同時、列車から飛び出した工科の生徒たちが戦闘車両へと走っていく。なにやら、杭打ちっぽいことをしているようだが……あ、車輪と線路を固定してるのか。
ん? 待て、動きを止めてどうするつもりだ? なんか、すっごく嫌な予感がするんですけど。
『準備できました。いつでもいけます!』
「んじゃ、いってみようか。明日葉ちゃんも準備してー。ほれ、天羽もなにかに捕まっとけ。そっちの緑髪もな」
『はえ?』
おい、いまの間の抜けた声、絶対妹にも話してないだろこいつ!
とっさに月夜を抱え、取っ手に捕まる。
眼目は……ふらふら歩きまわってやがるな……まあ、あいつは平気だろうし、いいや。
「ぽちっとな」
千種は俺たちのことなどお構いなしに、なにやら右手に持つボタンを押した。
直後、戦闘車両を除く全車両の外側底部で一斉に爆発が起きる。
通信機ごしに、各車両から悲鳴をあげる生徒たちの声が一斉に聞こえてる。当然だ。尋常ではない揺れに、飛ばされそうなほどの衝撃が一度に襲ってくるのだ。これは、混乱するだろうな。
「おまえ、殺す気かよ……」
あのままだったら、いまごろ月夜が反対側の壁に激突してたぞ。
「さあな。はい、撃って」
中にいる奴らには、到底現状は理解できまい。千種の発想は、かなり斜めをいっている。
いまの爆発により、戦闘車両を起点に円を描くように車両が脱線したんだ。横滑りし、アクアラインにほぼ直角になるよう、大きく海上にせり出しているのだろう。
おまけに、その状態でいきなり車両の窓と扉がすべて開かれたのだ。
「無茶な注文するなぁ」
頑張れよ、千葉の生徒たちよ。
「うん……?」
「おう、起きたな」
月夜も、いまの音と衝撃で、さすがに目を覚ました。
「自由さんですか。状況は……ああ、だいたいわかりましたからいいです」
「そうか。で、どっかに異変はあるか?」
「――はい。海ほたるの上から、戦況を眺めている人たちが四人います。一人は、あなたもよく知っている人かと」
「さすがだな。しかし、四人か」
思ったより多いな。仕掛けてこないところを見ると、様子見か? 最後の最後に手を出されるのも癪だが……いや、姫さんの邪魔はさせない。ましてや、傷つけられては困る。
「二度はやらせないからな、斬々」
合宿のときはおまえの仲間に姫さんを傷つけられたんだ。今度は、こっちから!
「千種、悪いが俺は行く」
「はいよ。まあ、なんだ。あんま無茶せず戻ってこいよ。戻って来れば、俺たちで加勢くらいはしてやれる」
「いらねえよ。だいたい、おまえが巻き込むなって言ったんだろうが」
さって、俺たちの戦いを始めるか。
「眼目、月夜。まずはあいつらに会いにいく。その後は場合によっては、本気で潰しにかかっていいぞ」
「りょうか〜い」
「わかってます。ですので、自由さんは好きにしてください」
俺たちが車両から出ると同時、リヴァイアサン級から、防壁から大きく出てしまった車両に向け再び熱戦が放たれる。
「どうする〜? 止めてく?」
隣で走る眼目が刀に手をかけるが、別にいいだろう。
「心配するな。千種のことだ。あれくらい想定内だと思うよ。だから、任せとけ」
背後で、またも爆発音が鳴る。今度は窓やドアが開いているせいか、通信機ごしではなく、生の悲鳴が耳に届いた。
熱戦に当たったわけじゃないだろうから、千種がまたなにかしでかしたのだろう。
「あの列車、二度と乗りませんから」
俺に背負われている月夜は、そう小さく呟いた。
ああ、俺もだ。
心の中で同意し、そして。
ふと上を見上げた瞬間、海ほたるの上にいる一人の女が、こちらを見据えた。
思考が切り替わったのが、よくわかる。
「やっと来たか」
風に乗り、女の声が届く。
「さあ、闘争を始めよう。あの<アンノウン>をむざむざ倒されては困るからな、自由」
「ぬかせ斬々。おまえに姫さんたちの邪魔は一切させない。それと、話してもらうぜ。おまえの見ている、世界をな」
その直後。
俺たちの前に、ナニかが飛来した。
「なに?」
それは、まさに<アンノウン>であった。だが、形は人によく似ていて――。
予期せぬ来訪者に足が止まった瞬間、容赦のない一撃が、俺たちを襲った。