いつもの世界を守るために   作:alnas

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新たに

 いつからだっただろう。彼女の笑顔を否定できなくなったのは。

 どこからだったんだろう。彼女と同じ道を歩もうと思ったのは。

 そして、出会ったときから知っていた。

 彼女が、どうあっても潰し合わなければならない相手だと。

 でも、決して敵ではないと。

 だから、追いつきたいと願うのだろう。対等でありたいと、思うのだろう。

 どれだけ思おうと、たどり着けないから。

 願えば願うほど、遠のいていくから。

 それでも俺は何度でも願う。

 矛盾していて、ひどく独善的だとしても、願う。

 

 彼女の笑顔が、今日も隣にあるようにと――。

 

 

 

 

 カナリアが加わり、その他数名の東京の生徒が作戦への参加を希望してから数日。

 なぜか東京のみなさんに馴染んでいる自分がいた。

「ってことは、自由さんはいつも主席といたんですか?」

「よくやれてましたね。壱弥さん、やる気のない強い人なんて最も嫌いそうなのに」

 まあ、だろうな。

 いま話をしているのは、カナリアの運搬を担っている子たちらしい。カナリア本人から、いつもお世話になっていると紹介があった。

 他にも、この場に茶髪の男子生徒や、黒髪の生徒など、十人程度はいるだろうか。

「千種もそのカテゴリーに入ってるだろうな。でも壱弥は、わかりにくいけどいい奴だって知ってるからな」

「主席は口が良くなればいいんですけどね……」

 全体的に同意だ。口だけじゃなく、性格全般にわかりやすさと、あと特定の一人以外に向けられる優しさが増えればいいリーダーになれるだろう。

「とはいえ、目指しているのはヒーローだろうから、もう少し柔らかくなるだけでいいのかねぇ」

 東京も、昔こそ『デュアル』しか求めていなかったが、変わるものだな。いや、変えられたのか。

「壱弥や先輩方の苦労ってところかな」

 実際なにがあったかなど知らない。でも、いまがいい方向に向いているのなら。

 最も、それも一度壊すことになるんだが……。

「<アンノウン>の栄えさせた都市なら、誰も文句言わないか。どうせ、全部自分たちで直そうって言う人もいるしな」

「自由くん?」

「いや、なんでもない」

 カナリアに不思議そうな目をされるが、この独り言に答えは求めていない。

「それより、作戦がもうすぐ始まる。準備はできてるのか?」

「うん、もっちろん! 私、頑張らないとね」

「だな。でも、おまえだけが頑張るわけじゃない。周りに頼って、頼って頼って、仲間を救い出そう。無人機ならいくらでも囮に使ってやるし、問題児どもはまとめて面倒見とく。頼むぞ、カナリア。おまえだけが頼りだ」

 作戦の要はカナリアだ。

 俺は単なる端役に過ぎない。だからこそ――あいつの相手は俺がする。

「自由くん……うん!」

 力強く頷くカナリア。

 戦いってのは、全員が武器を持ち、拳を握り戦場に立つだけじゃない。

 人ってのは、想いひとつで戦えるんだ。

「次は俺たちだ」

 静かに、扉が外から開かれる。

「みなさん、お待たせしました。これより作戦を開始します」

 開かれた扉から顔を覗かせたのは、この軍を指揮するべきリーダー、ヨハネスだった。

「聞いてもらった通り、二度から三度にわけての作戦になると思いますが、途中で再構築されない限り作戦は止めません。ですので、危険と判断したら各自で撤退してください。いいですか、こどもが大人より無茶をしないでくださいよ?」

 彼女の言葉に、俺以外の全員が「はい」と返事を返す。

「あとはあなただけですよ?」

 こちらを向き、返事を待っている様子のヨハネス。

 なに? いまので全員の声を判別して聞き取ったの? なんだ、こいつは……現代の聖徳太子かなにかなの? それとも地獄耳かなにかの延長線上にある力だとでも――。

「天羽自由さん?」

「……なんですか?」

 向けられた視線に目線を合わせると、怖いくらい笑みを作った顔がそこにはあった。

「こどもが無茶をしないでくださいね?」

「断る」

 即座に答えてやると、なにかを察したのか、茶髪の男子が俺の側までやってきて、ヨハネスと話出した。

「いやー、あれっすわー。男には引けない道があるっていうか、仲間を残して来れないっていうかー」

「はい?」

 軽い口調で話す男子生徒に、ヨハネスの笑みが一層強まる。

 読み取るなら、「黙ってろ、おまえ」ってところだろうか? やだ、ヨハネス怖い。

「……なんでもないっす」

 おとなしく下がる茶髪。

 いったいなにしに出てきたのだろうか?

「それで、いいですね?」

「よくないですよ。俺が簡単に逃げ出したら負けるの確定ですし。粘れる限りは粘ります。なにより、そろそろ一勝くらいは勝ち星が欲しい」

「なんのことだかわかりませんけど…………はあ、帰れるうちに帰ってきなさい」

「了解」

 言っても聞かない子ですしねぇ。などと聞こえてきたが、余計なことは言わないでおこう。

 せっかくオッケーをもらったのに、気が変わるかもしれないし。そうなっては、もう一度この人からオッケーをもらうのは不可能な気がする。

「さて、一人手のかかる子がいますが、みなさんよろしくお願いします。本当なら、戦わせるべきではないのでしょうけど……」

「ヨハネスさん」

 カナリアが一歩、前に出る。

「私たちは、私たちの守りたい人が、世界があるんです。誰にでも、きっと。だから、大丈夫。困ったときは、笑顔!」

 自分の頰に手を当て、口角を上げる彼女。

 そうか、壱弥はこうして励まされてきたわけか。やり方はまあ、よくわからん理論によるものだけど。でも、人の笑顔ってのはいいもんだよな。

「――そっか。そういうことか」

 姫さんの笑顔を見て負ける気がしないのは。

 不可能とは思わないのは。

 知らないうちに、世話になってたんだな……。

 気づいたところで、姫さんは隣にいない。ほたるの厳しい視線すら、恋しくなるとは。病気かな?

「それほど依存していたわけでもないんだが」

 いろいろ考え出すと、神奈川陣営は大丈夫だろうか? まさかとは思うが、本来の<アンノウン>がなにかしでかしたりはしてないだろうな? ただでさえ問題児の多い都市だ。イラついてつい、ということもないとは言い切れない。

 特に眼目とか。あとは変態四天王どもが危ない。

 戦わせる戦力的には、敵も削れないと判断すると思いたいが。

「やっぱり、早急に助けたほうがいいんじゃないのか……?」

 やばい、一気に心配になってきた。

 ヨハネスたちの立てた作戦に文句はないが、今回のうちに四天王とうちの問題児は回収しておいた方がいいかもな。でも、俺の役割的に他の相手をしている時間はない。というか、余裕がたぶんない。

「隙を突いてやってくれることを祈るか」

 仮にも肩を並べてきた仲間だ。

 強さはわかっているし、信頼もある程度ならある。もうしばらく、踏ん張ってもくれるだろうか……。

「目先のことから解決していくのが最善策とは限らないけど、果たしてどうかな」

 もしものときってのは、本当は――。

「さて、時間ですね。カナリアさんたちは空中からお願いします。自由くんはそうですねぇ……とりあえず、正面突破でもしてみます?」

「俺になんの恨みがあるんですか、あなた」

 ヨハネスの提案を聞くも、是非とも遠慮したいものだった。

「あんた、さっき海ほたるに結構な数の生徒らしき影が見えたとか言ってたよな? 正面からってのは、つまりそういうことだぞ?」

「ですから、正面からですよ」

「は?」

 疑問を浮かべると、彼女は指を立て、「甘いですねぇ」などと言ってくる。

「いいですか? 正面には、それなりに多くの無人機を配置します。そうなれば、こどもたちは無人機相手に乱戦となるでしょう。その隙を突いて、あなたは東京まで向かってください。時機を見て、上からも仕掛けます」

「なるほど……確かに、うまくいく可能性はあるな」

「でしょう?」

「ただし、そこに千種がいなければの話だ」

 うん、あいつがいたら見逃すわけないよね。仮にも<アンノウン>のように見られるわけだし? そんなモノがすり抜けていこうもんなら、無条件で撃たれるわ。

「……霞くんがいましたか。さすが、天使な私のこども。敵に回すと厄介ですね。明日葉ちゃんもお兄ちゃんっ子ですし、一緒にいることも多いでしょうから――そのときは、二人を傷つけずになんとかしてください」

「おい!」

 まさかの丸投げかよ……あいつら相手にして無傷でやり過ごせとか無理ゲーなんですけど。

 傷つける気はないけど、どうしたものか。

 ついでに言わせてもらうと、俺は空を飛べない。もちろん海も走れない。

「どうやって東京まで行けと?」

 しかし、事態は進行する一方で、ヨハネスも既に指揮のために移動を開始していた。

「おいおいおいおい……」

 このままだと盛大なミスをする羽目になるじゃねえか!

 一人で悩んでいると、不意に肩に手を置かれた。

「あ?」

「悩んでいるみたいっすね。ここはひとつ、俺に任せてみないっすか?」

 振り返ってみれば、そこには先ほどヨハネスに話しかけた茶髪が、いい笑顔を作っていた。

「あんた、東京の」

「そうっすよ。そういうあんたは神奈川の問題児でしょ? 足がないなら、俺と行く手もありますよ」

 何度か見た覚えがあるな。

 壱弥が上位ランカーだとか言っていたうちの一人に、こいつも入っていたはず。

「俺と行くのはいいけど、俺の役割、わかってないとは言わせねぇぞ。この作戦、一番の危険地帯に突っ込む覚悟、あんのかよ」

 訊くと、自分の髪に手を当てながら、小さな声で話し出す。

「いや、正直言うと、俺、全然この状況を理解できてないってい言うか? ぶっちゃけ誰が敵で、誰が仲間かとかも把握しきれてないんだけど……でも、同じ敵と戦ってきた仲間は助けたいっていうか、だから!」

 声は段々と大きくなっていき、顔つきも、不安なものから、真剣なものへと変わっていく。

 誰も彼も、仲間は大事か。

「悪くない」

「へ?」

「……悪くないって言ったんだ。一応確認しておくけど、あんたもちろん飛べるよな?」

「ええ、最高の空の旅を約束しますよ!」

 思わず、笑みがこぼれる。

「よし、頼むぜ。あんた、えーっと……」

「コウスケっす。こっちこそ頼んますよ、天羽さん!」

「はいよ。んじゃ改めて、俺らの仲間、全員取り戻すぞ、コウスケ!」

「うっし、やる気出しますか!」

 なんだかんだ、新しい友人もできたな、こりゃ。

 それから数分後。

 残っている生徒も、俺たちも。

 互いに譲れない戦いが始まる。

 俺にとっても、負けたくない、ひとつの喧嘩が――。

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