今回は、どこかの話の前書きか後書きで書いた記憶がある、とある話になります。
では、どうぞ。
惰眠なんて許されない
騒がしい……。
隣人たちの声が、耳に届く。
喧しくて、鬱陶しくて、それでいて、どこか心地いい彼女たちの声。
これが遠くから聞こえて来る音であれば、どれだけ救われたか……。
なんて、俺の儚い願いが叶った試しがないことは、自分が一番よく知っている。知ってしまっている。
たぶん、最初から間違っていたんだと思う。
なにをどうこうとか、そんなレベルでもなければ、部屋の合鍵を渡したことでもない。では、出会いからだろうか? いいや、ノーだ。俺の言う最初からとは、つまり前提から異なっているわけで。早い話が――。
「言い訳が長いよ、みゆちん!」
「ぐおがぁっ!?」
甲高い、少女の声が聞こえると共に、視界が反転す――るとか言いたかったが、どうやら叶わないと見た。
だってほら、なんか猛スピードで吹っ飛ばされてるし、視線の先には玄関口がですね……ああ、今朝もこれか。
俺に安らぎの空間ってないんですかね? うん、ないんだろうなぁ。なんせ、あいつらが周りにいる時点で無理な話だって判断されて終わっちまう。
なあ、神さま。どうか、今日も俺を守ってください。願わくば、あいつらとの縁が続く限り一生。
なんて思っていても、目先の距離では重厚な扉が俺をお出迎えしてくれてるわけでして。痛いんだろうなぁ……台所に吹っ飛ばされて水道管やられて刃物の類と戯れるよりはマシか……フッ、そうだなマシに決まってる。
「って、んなわけあるかボケェェェェェェェェェェェェッッ!!!」
さて、どこから話そうか。
とりあえず、目の前のこいつを問い詰めよう。
「で、なんで寝起き早々、俺は自室の扉さまと顔面衝突せにゃならんのだ? なあ、生徒会長?」
「えっと、ごめんね? みゆちん頑丈だから、お布団から引っ張ってもだいじょうぶかなって、その……」
二つに括られた色素の薄い髪。それに負けないくらい白い肌。世界が違えば、もしかしたらその世界を救うほどだったかもしれないほど、強い意志の光を宿した双眸。
いまは先ほどの一件があったため弱々しく見えるが、この少女こそ、間違いなく俺が通う高校の生徒会長である。
背は小さいし、言動もこどもっぽいけど、生徒会長である。
「毎朝言っているがな、俺は寝起きと同時に窓の外やら台所、天井に投げられてピンピンしてるほど丈夫じゃない」
「今日も怪我してなかったと思うけど」
「してるわ。見ろこの額! 真っ赤じゃねえか!」
「うん、今日もみゆちんは元気だね。元気なのはいいことだよ!」
……おかしいな。
扉はぶっ壊れるし目覚めは最悪なはずなんだが、生徒会長からはまるで悪気を感じなければ、悪い事をしたという意識も感じない。
当然のように、俺を布団から引きずり出し、ぶん投げたわけだ。
「なあ、別に寝坊したわけじゃないと思うんですけど、なぜ毎回飛ばされないといけないんですかね?」
「あ、あはは……ごめんねみゆちん。お布団から引っ張ろうとすると、どうしてかみゆちんが変な方向に飛んでいっちゃって」
なんでだろうねー、などと呑気に口にする銀色の少女。
俺が言いたい台詞である。
たはー、といった感じで曖昧な笑みを浮かべる少女――天河舞姫。
白を基調としたセーラー服に、胸元には青いリボン。いつものように羽織られたカーディガンに、紺色のスカート。整った顔立ちは、まさしく美少女のものだろう。
見た目だけなら、と付け加える必要はあるが。
「さて、どうせ決着はつかないし、朝の一件はもういい」
「うん、ありがと!」
知ってか知らずか、満面の笑みを浮かべる彼女。
そういえば、起きる前は何人もの声が聞こえていたはずなんだが、部屋中を見渡しても誰もいない。
「なあ、姫さん」
「ん? なあに?」
「この部屋、少し前まで姫さん以外に誰かいた?」
「うん、みんないたよ」
みんな……そうか、みんなか。
所属を絞らなかったところから見て、いたのは生徒会の面々と、後輩四人ってところだな。いや、下手すると五人かもしれないが、たぶんあの面子の中に入ってこようとはしないだろう。
あ、違うわ。
後輩ってなら、問題児が何人もいるじゃねえか。
「はあ……なんかもう疲れた。寝よう」
「ダーメ! みゆちんも早く学校に行くの!」
姫さんに押されながら洗面所に立たされたので、仕方なく顔を洗い出す。ここまで来たら逃亡など許されん。
そもそも、うちの学校で姫さんから逃げ切れる生徒がいないのだ。
顔を洗い終え、髪を整えると、部屋を移動して早く制服に着替える。青いネクタイを着用し、入れる物が変わらない鞄を持つ。教科書の類は、基本学校のロッカーの中だ。
「よし、じゃあ行こう! レッツゴーだよ、みゆちん!」
「はいはい、ゴーゴー。それはそうと、全員どこ行ったんだ?」
こいつを置いて、生徒会が行動するはずない。まして俺の部屋。置いていくなら、俺を縛るなり、最悪目覚めることがないようにしてからが基本だろう。
「特に副会長がおまえと別行動を取るとは思えない」
「ほたるちゃん? ほたるちゃんなら、『どこにいようと天羽のことは見えているから、ヒメは安心していいよ』って言いながら学校に向かったよ」
「いや、さらっと言ってる割には言葉の端々から不穏なこと漏れてるからね」
むしろ全体的にアウト発言まである。ストーカーなの? ストーカーなんだろうなぁ……姫さんの。
だとしても一緒に行きたがるだろ。
「副会長としての仕事でもあったのかね」
「う〜ん……かすみんがなにか言ってた気がするけど、なんだったかな。愛離先生とPTA会長がまた言い合いをしてるとかだったかな? それとも、図書室の本が全部百合? ってジャンルの本に変わってた事件があったことかな?」
「あのお二人の言い合いまた起きたのかよ……そりゃ千種兄妹や冷静な副会長が必要になるわな。ってか、なにその後半の珍事件。いや、犯人なんて推理するまでもなく明白なんだけどさ」
うちの先生方とPTA会長――千種兄妹の母親――の言い合いは日常に近いものがあり、放っておくと武力行使に出かねないので、起きるたびに速やかにお帰り頂いている。
その役目はほたると千種兄妹が主に担っており、たぶんその始末のため、早々に学校へと向かったのだろう。
いまごろ恨みつらみを呟いているかもしれないが、そこは無視だ。取り合えば切り捨てられる。つらい……。
「う〜ん? うちの学校、変な事件が多いよね」
姫さんが思い出しながら指を折っていくが、既に6つ程出てるな。
「去年の夏は誰もいないはずのところから、カメラのシャッター音みたいな音が鳴る現象が起きたし」
うん、実際にカメラのシャッター音だからね、姫さん。
もちろん黙ってはおくが、この子本当に気づいてないのだろうか?
「冬には誰もいないはずの個室でゴミを漁る女の子が出たって聞いてるよ」
「それは――……もう少し場所を選べよバカ」
「ん? みゆちん、なにか言った?」
「いいや、言ってない。それで、まだあんのか?」
「うん、あるよ。秋には、寝ているとよくわからない女の子同士の友情? みたいなお話を聞かせてくる女の子が出たんだって!」
どうすればいい? どれもこれも犯人なんて近くにいるだろうが! というか、最後絶対友情の話なんかじゃないでしょ。
「しかも、事件ってより七不思議みたいになってるじゃないか」
「あ、本当だ! じゃあもう七不思議にしちゃおっか」
「まあ、どうせ季節限定じゃなくて毎日のように行われていることだしな……七不思議でも問題ないだろ」
「毎日?」
「なんでもない。まだ寝ぼけているみたいだ」
「なら、気をつけていこうね」
唐突に、姫さんの小さな手が俺の手を握る。
季節は春。
桜並木に彩られた道を、二人並んで歩いていく。
「じゃあ、行きましょうか生徒会長」
「うん、今年もよろしくね、私の庶務くん!」
あと1年、どうか平穏な日々であって欲しい。
そう、それは学園の話。
争うことのない、世界の真実とかも関係ない、平和な日々の一コマ。
これからたまに更新されるだろうクオリディア学園編がスタートです。うん、本編が詰まったらこっちを書きます。なにも考えずにぐだぐだした日々をお送りしますとも。
本編だけ見たい人はすっ飛ばしてね!
では、また次回。