思えば、ここまでバカらしい任務は初めてだ。
それは俺だけでないようで、千種なんかは露骨に嫌そうである。
「で、これどうすんだよ」
いまも、机に置かれた企画書――もとい作戦書類を叩いている。
ほんと、なんでサンタクロース大作戦などというふざけたことをしないといけないのか……。
「これ、女性陣に見つかったら殺されるよな?」
「それな。ほんとそれ。特に明日葉はやばい。確実に殺しにくるな」
「ああ、明日葉は相手が千種なら殺るだろうな。問答無用で撃ってきそうで怖い」
そもそも、夜に女子の部屋に潜り込まないといけない時点でどうなの、この作戦。うちはほたるがいるから問題ないだろうが、あと二人はどうすんのよ……。
隣のほたるさんは既に姫さん用のクリスマスプレゼントの案出し始めてるガチ勢だからいいとしても、いや、よくないな。それに付き合うの俺だわ。勘弁してください……。
「なあ、千種」
「なんだ?」
「俺、このクリスマスが終わったら――」
「ストップ。それ以上はやめとけ」
反射的に止めに来やがった。
っと、それよりも。
「なあ、ほたる。姫さんのところにはおまえが行くんだよな?」
「……」
「ほたるさーん?」
「…………そうしたいのは山々だが、今回だけは貴様に譲ってやる」
「はい?」
ちょっと、聞きました奥さん。有りえない。あってはならないことを言われたんですけど。
「ほたる、遠慮しないでいいんだぞ? な?」
むしろやる気を出してくれ。ここで遠慮とか困るから!
姫さん大好き人間のおまえがこんな絶好の機会を他の人間に渡すわけがない! お願いだからいつもの変態でいてくれ!
「天羽、今回ばかりは貴様に任す。だが、ヒメの寝顔は見ずに戻ってこい」
「そういうのいいから、頼むから引き受けてください……」
くそう……どうしてこうなった……。
「いいのかよ。姫さんの寝顔を堪能できるし、なにより姫さんにプレゼント渡せるんだぞ? おまえがやりたくないわけないだろ!」
「ヒメの寝顔なら毎週見ている。問題ない」
うそお!?
「大変だな、サンタさん」
優しい声と共に、肩に手を置かれる。
同士を見つけたような目をしてこちらを見る千種。おい、てめぇ手どけろこの野郎。
「言っておくが、おまえもサンタ役なんだからな、千種」
「俺はほら、他の奴に頼めば」
「驚いた。おまえにそこまでの人望があるとは」
「……すいません見栄はりました」
ですよねー。
「壱弥はカナリアの部屋なら問題なく入れそうでいいよな」
「あいつら普通に互いの部屋行き来してそうだしな」
俺の言葉に、千種がのっかる。
壱弥自体は他の奴らと仲がいいわけではないが、カナリアだけは特別視してるみたいだし?
「勝手なことを言うな二百十三位」
「言ったの天羽なんだけど」
「俺は別にあいつの部屋に入ることはない。あいつが俺の部屋に来る程度だ。無論、今回の作戦に支障はないがな」
「ねえ、俺の話聞く気ないわけ?」
ないんだろうな。
にしても、やっぱりカナリアは壱弥の部屋に入ってるのか。でもそれ普通だよね。俺も姫さんが部屋に侵入してくるし、突撃かまして破壊されるなんてザラだ。
「ここにいても意味はない。俺は東京に戻り明日に備える」
「備える? 侵入経路でも組むのか?」
「アホか。あいつが欲しがりそうな物を探すんだ」
答えると、さっさと会議室を出て行ってしまう壱弥。やる気ありすぎでしょ。
「あれを見習ったらそうだ、千種ンタ」
「変な名前つけるなよ。だいたい、明日葉ちゃんの欲しがりそうな物なんてわからないからなぁ……少し考えてみるか。じゃ、お疲れさん。俺も千葉戻るわ」
「はいよ、お疲れ」
本当に疲れるのは明日から明後日にかけてなんだろうけどな。
さて、残ったのは俺とほたるだけか。
「どうする?」
「我々もプレゼント探しだろうな。だが案ずるな。ヒメへのプレゼントなら既に用意済みだ」
「お、おう」
準備良すぎだろ。どうしてそこで用意済みって言葉が出てくるのさ。
「だが、これとは別にプレゼントを用意したい。天羽、付き合え」
「なんて面倒な。ああ、もうここまできたら最後まで付き合いますけどね。やりますよ、やりますとも」
俺たちも会議室を後にし、そして神奈川へと戻った。
神奈川に戻ってからの行動は早かった。
ほたるが、戻るまでに他の四天王に連絡を取り、姫さんの行動を逐一報告することと、俺たちに鉢合わせないこと。明日の作戦の協力まで取り付けていた。
もっとも、姫さんが絡んだ時点で彼女たちが手伝わないことはないのだが。
「さて。おまえのプレゼントは置いといて、俺はなにをすればいいんだ?」
「おまえがプレゼントを探せ。私のぶんはあるが、それではひとつしかヒメへのプレゼントがない。だから、おまえがもうひとつ探せ」
「え? なんで?」
「他の都市のサンタは一人。我々は二人。ならば、プレゼントも倍でなければおかしいだろう。他の都市より劣るサンタなど、ヒメにふさわしくない。ヒメには一番のサンタとして立たねばな」
「意味わからん……」
対抗意識があることくらいしか理解できなかった。
とりあえず、明日の算段は四天王に任せるとして、俺はプレゼントだけでも選んでおくか。
「天羽、少し打ち合わせをしてくる。プレゼントは任せるぞ」
「ああ、了解」
ほたるは柘榴との連絡で忙しそうだな。
あいつらが本気出すと侵入とか楽勝になるからそれはいんだが、危険かどうかの判断なら間違いなく危険なのがいただけない。
「ほどほどにな」
聞こえていないだろうが、そう声をかけておいた。
で、俺は選ばないといけない物があるから、そっちに専念だな。そうだな、まずは――。
結局、その後ほたると合流することはなかった。
だが、不思議と姫さんと鉢合わせるようなこともなく、無事にプレゼント選びを終えた。無事かどうかは、姫さんの反応を見てみないとなんとも言えないが。
「気づけば24日……イブかよ」
今日は生徒会メンバーとクリスマスパーティで、夜はそのまま任務か。
でもパーティーって夜からだしなぁ……まだ時間あるんじゃないの?
なんて思っていると、千種から連絡が入る。
「なんだ?」
『なあ、結局一人でサンタさんごっこする羽目になってるんだけど、今夜だけでいいから助けてくれない?』
「おまえな……俺、姫さん担当なんだけど?」
『その後でいいから!』
よくないな、まるでよくない。奴は俺に死ねと言うのか?
「姫さんの後で明日葉の相手までできるわけないだろ。第一、夜中になのにどうやって千葉まで行けと?」
『ぐっ……やっぱ無理か。なあ、天羽。だったらいまのうちから千葉に――』
それ以上は聞かず、通話を終える。
頑張れ、千種。おまえが、おまえたちが千種ンタだ。
ちなみに、続くように壱弥からも連絡があったのだが、あいつの話はカナリアのためにどんなサンタを演じればいいか、ということだった。
なんだ、サンタを演じるって。壱弥はいったい、今夜なにをするのだろうか。
「あいつ、カナリアが寝ている間にプレゼントを置いてくるなんて器用なこと、できんのかな」
やばい、ちょっと心配になってきた。
でもなぁ……見にいくのは面倒だし……。
こうして悩んでいる間に、俺は夜を迎えるのだった。