日の光は消え、部屋に灯る明かりと、街頭だけが窓の外に映る。
そんな中、俺たちのいる執務室は多くの色に彩られ、そして、賑やかな音楽がかかっていた。
「それじゃあみんな、今年もこの季節がやってきたよ! 好きなだけ遊んで、好きなだけ騒ごう!」
姫さんがグラスを掲げると、俺含めた全員が手に持つグラスを掲げ、
「いまここに、クリスマスパーティの開催を宣言する!」
その合図と共に、「おー!」という声が響き渡った。
執務室以外、この建物に人がいないからこそできる大騒ぎだな。もっとも、六人しかいないのだが。
しかも、みんながみんなサンタ服を着てくるときた。いや、これには大いに驚いた。
聞いてみると、姫さんが着るのだから着ない道理はない、と返されてしまった。やはり姫さん信者の言葉は俺には難しすぎたようだ。
「一番理解できないのは、俺までサンタ服を着せられていることなんだがな……」
いや、もうサンタ帽子とか邪魔じゃないですかね? 姫さんにつけてて欲しいとか言われたんで外すに外せないのがなんとも。彼女からの要望だからじゃなく、彼女の要望を断ると殺されかねないからである。ここ重要。決して、俺の姫さんに対する意識とかが絡んだわけじゃない。
「みゆちん、かんぱーい!」
必死に言い訳しているみたいなので、このあたりで思考を止めようとしたとき、横から姫さんがグラスを突き出してきた。
「おう、かんぱい」
そのグラスに自分のグラスを軽く当てると、姫さんが満足そうに頷いた。
こうして、クリスマスパーティではしゃぐ姿だけ見てると、年相応というか、少し幼く見えるんだが。できれば、冬の間くらいは<アンノウン>も空気を読んでほしいものだ。
「にしても姫さん、改めて見てもサンタ服似合ってんな」
「そう?」
「ああ。赤も様になるもんだ」
ほたるは黒いサンタ服だけど、こっちもよく似合う。それはもう、相手の命を刈り取るいで立ちのようで――ごめんなさいウソです。
「みゆちんも赤、よく似合うよ」
「そうかよ。いいよ、どっちでも」
どちらかといえばサンタ服を着なくてもいい方向でいきたかったが、となりにあったトナカイの格好をさせられなかっただけ運がいいと諦めよう。あっちはダメだ、許されない。
たぶん、着たが最後。この寒い中、ソリに乗った姫さんと四天王を引きずりながら神奈川中を走らされるのだろう。普通にあってはならない事故だ。
「にしても、壱弥と千種はうまくやってんのかな……」
「二人がどうかしたの?」
「いいや、なんでも。ただ、東京と千葉はどんなクリスマスイブを過ごすのかなと思っただけさ」
話がまずい方向に進む前に軌道を変える。
「どうだろうね。あ、なら明日はみんなも呼んでパーティーする? きっと楽しいよ!」
「いやぁ、どうでしょうね。まくら投げの二の舞になりそうでとっても怖いんですが」
男性陣が消される未来しか見えないけど、気のせいかな。まず、基本戦力に差がありすぎるのが悪い。というか千種が非力すぎてつらい。
どうせ大人数になったら外で雪合戦とかになるに決まっている。俺たちは女性陣の的ではないのだ。
「呼ぶのはいいけど、暴力はなしの方向で頼むよ」
「うん?」
本人自覚ないから首傾げますよね、そうですよね。なんですか、遊びにつきあって的になればいいんですか? 姫さんの握った雪玉なら四天王が喜んで顔面で受けてくれるよね! こいつはいい盾だ!
「やっぱり開催してもいいんじゃねえかな、大雪合戦大会」
「あ、それいいね! みんなでチーム作って、明日やろうか!」
「そうだな」
俺は知らなかったんだ。次の日、俺たちがどんな運命をたどるかなんて。
明日に待ち構える恐怖を、このときの俺は微塵も知る由はなかった。それはもう、特大の恐怖だった。まさか、姫さんの握った雪玉が――この先の話は、また別の機会にしよう。
しばらく、ゲームをしたり飲み食いをしていたのだが、姫さんがいきなり立ち上がると、ゆっくりとした足取りで俺の前まで寄ってくる。
「どうした? なにか食いたいもんでもあるのか?」
「……」
訊いても反応なし。
代わりに、人の膝の上にちょこんと座ると、俺に体を預けるように寄りかかってくる。
「おい、姫さん? 本当にどうした――」
耳をすますと聞こえる寝息。
どうやら、発生源は目の前で人の上に座っている少女かららしい。
「おい、ほたる。どうする? 寝ちまったぞ」
「……ちょっと待て。いま、寝顔を堪能するのに忙しい」
「まってください一枚撮りますから。自由さん、決して起こさないように動かないことを」
なんなんだ、こいつら……。
ある意味通常運転ですけどね? でもほら、こんなときまで自分の都合を押し通すとは……これが神奈川四天王。いや、変態四天王の本質か。とても残念なことに変わりはないな。
「じゃなくて……なあ、ほたる。当初の計画だと」
「ああ。解散後、自室に戻ったヒメの元にプレゼントを届ける予定だったが……運がいいな、天羽」
「はい?」
「去年、私たちがサンタをしていたときは、寝ぼけていたヒメに捕まり、朝まで手を離してくれなくてな。着ていたものを脱いだりして窮地を凌いだ。ちなみに、私以外の被害だと、手加減なしのヒメに腕を握られかけたりもあったな。柘榴の<世界>がなければ大怪我では済まなかっただろうな」
……なるほど、ほたるが役目を譲るはずだ。
「それで今年は俺にってことか。で、本音は?」
「寝ているヒメを記録する必要があったので、私はサンタをしている場合ではなかった」
「おい、真面目に話し合うか?」
いや、まあいい。
どうあれ、今年はこのままプレゼントを置いていけば任務完了だからな。
「おまえら、間違ってもいま俺に飛びかかってくるなよ? 姫さん起きるからな?」
だから殺気のこもった目で睨んでくる二人は武器を捨てろ! 毎度毎度俺を殺しに来るんじゃありません!
「これで今回新たに作った侵入経路を試さなくて済んだか。あれは次の機会に活用するとしよう」
「あの、いったいなにを?」
「知らない方がいいこともある」
大変だなぁ、姫さん。こんな変態たちの相手とか、俺はしたくない。
いいか、プレゼント置いて俺も休もう。
「まあ、姫さんが寝ちまったんだ。俺らも休もうぜ。明日はもっと疲れそうだしさ」
「そうだな。天羽、おまえの用意したプレゼントはどこだ?」
「俺が使ってるキッチンの棚の中」
答えると、青生が取りに行ってくれた。
ほたるはほたるで、物陰から大きな箱を取り出してくる。銀呼と柘榴も、それぞれが準備していたらしい。
「ありましたよ」
戻ってきた青生も、俺のとは別の袋を持っている。なるほど、全員で用意してたわけか。
こりゃ、千種たちの倍どころの話じゃないな。
「とりあえず、姫さんには俺から離れてもらって……っと」
ゆっくりと退き、姫さんの体を横たえる。
その周りに、それぞれのプレゼントを置く。
ひときわ小さな袋に包まれた俺からのプレゼントは、姫さんに握らせておくか。知り合いに頼み込んで作ってもらった特注品だ。姫さんの力だろうと、早々壊れまい。いざってときに使えるもんでもあるしな。
さって、明日に備えて寝に帰るか。
ついでに、千種と壱弥に確認の連絡くらいは入れておくか。
「じゃ、俺は部屋に戻るな」
「わかった。私はこのまま、ヒメの側にいるとしよう」
「あいよ。あっ、ひとつ聞きたかったんだけど、なんで姫さんだったんだ?」
「なにがだ?」
今回の対象は三人。しかし、彼女たちであった理由とはいったい……。
「姫さんにプレゼントを渡す理由」
「それか。きっと、管理局側の気まぐれだろう。もしくは、ヒメがサンタを信じているのをどこからか知ったのかもな」
サンタを、信じてる……か。
そうか、そういうこともあるか。となると、今回の三名は、案外みんな信じていたりしてな。
「ありがとな。じゃあ、おやす――いや、違うか。メリークリスマス、ほたる」
「ああ、メリークリスマス、天羽」
二人して笑みを交わすと、俺は一人、寒空の元外に出る。
寒いんだろうと思っていたが、思いの外、涼しく感じた。火照った体を冷やすように。
そうだ、あいつらに連絡しないと。こっちはなんの苦労もせず終わりました、なんて伝えたら、どんな反応をするだろうか? なんだか楽しくなり、俺は端末へと手をかけた。
よし、番外はこれで終わりかな。
どうもみなさんalnasです。すまん、四話も連続で番外ですまん。
なに、次からは本編に決まってるじゃないですか! 正月? ……そっか、新年もあったな。うん、でもきっと本編だよね。本編、だよ……?