いつもの世界を守るために   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
この話もそろそろ核心に触れていく頃になりました。ここからが本当のスタートと言っても過言ではない。いや、やっぱり過言かも。
では、どうぞ。


彼の世界は

 人の見る世界は、何度も入れ替わる。

 入れ替わり、立ち替わり。いる場所、関わる人間によって、世界は常に変化する。

 けれど、それはごく一般的なことで……。

 移り変わる日々なんて、ありきたりで、退屈なんだと思っていた。だから劇的な変化を望んだことも、一度や二度じゃない。

 でも、望みは叶えられないと知っていたから、無邪気に願ってしまったのだろう。

 そう在ることがあたりまえで。

 そう成ることが決定していて。

 定まった日々だったからこそ、きっと、余計に多くの事を望んでしまったに違いない。

 無意味で、無価値で、本来なら叶えるまでもない願い。

 普通に生きる人たちからしたら、なんとも滑稽に映るだろう。

 それでもよかった。

 気にならないかと聞かれれば気になるが、他人の目など。ましてや、正面からモノを言えない人間の言葉など、気にする価値はなかった。

 一人ならそれでよかったし、べつに、誰かとこの願いを共有していたいわけでもなかったから。

 可愛げはなかった。

 おおよそ、人の親が望むような感情(かお)を浮かべることもできなかった。

 最早、必要とするモノは目の前から消え失せ、この身も不要になりつつあった。

 だって、そうだろう?

 何年眠っていたと思っている? 何年、その夢を見ていたと思う?

 人の世界は変化し続ける。それは決定事項だ。変化のない日々など、生きている限りありえない。でも、その変化はひとつの世界で続いていくものであり、決して。決して、いくつもの世界が同時に迫ってくることはない。

 そもそもだ。

 人間一人が同時に別々の世界に干渉できるものだろうか?

 他人の深い部分に、浅い部分に、どうでもいい感情に、脆く朽ち果てかけの理想に、無関係の奴が意志を持って干渉することの意味を考えたことは在るだろうか? いや、在るはずがない。

 これはたった一人、あの夢を見続けた者のケジメだ。

 終わらない人同士の関係を築き続けた者の理想だ。

 最後まで、なにひとつ見定めることなく、なにひとつとして救えなかった者の罪だ。

 正義はなく、悪もない世界。

 映る人々の感情を感じながらも、なにひとつ果たせない者に、戦って守り、死ぬことは許されない。

 浅慮にも願ってしまった者に、受け止め切る皿はない。

 力はある。

 資格はない。されど消えることは許されず。

 ならば、許されるのは傍観することだけだった。あらゆる事態を俯瞰し、せめて己の部屋を崩壊させない一手を打つことがせめてもの抗いだった。

 目の前にいる、理想。

 自身が果たせなかったモノを内包し続ける、自分を殺しかねない人類の希望。

 醜く、汚らわしく、恐ろしく、なによりも尊い、穢れなき願い。

 だから、自分で壊してしまいたかった。

 縋っているではないかと、糾弾したかった。

 自分と重ねて、同じであると憐れみたかった。できることなら、用いるすべてを投げ打ってでも、否定したかった。

 できないのならば、せめて押し付けて、押し付けて押し付けて押し付けて、いずれ破綻する未来を眺めたかった。

 人は自分以上のモノは背負えないのだと、証明して欲しかった。

 なのに、あろうことか背負い続けられてしまった。

 放り投げた勝手な理想ごと、自分は手を引かれてしまっていた。

 ありえない。

 言うのは簡単だったが、そんな言葉はとうに出るはずもなく。

 気づけば、おぞましい呪いをかけてしまったものだ。

 本当は、自分が掴むべきだったのかもしれない。無理に気づけたときに、黙認するのではなく、ハッキリと否定するべきだったのだろう。

 しなかったのは、楽だと思ってしまったからで。

 しょせん、自分はそこまで強くはなかったのだ。

 見えているのに、知っているのに、いつまでも解決しない。

 そんなんだから、いつまでたっても世界の答えは得られないのだ。

 逃げていたかったのか、いまが好きだったのか……結局、ただの弱くて脆い、人だったのだろう。

 そう思うのなら、人一人に背負える願いには限度があるはずなのに、よくここまで保ってくれたものだ。

 なにより、自分の世界と向き合えたのは、きっと――。

 人間の最も強い部分は、決して自分だけのために在らないこと。

 いささか過剰だが、だいじょうぶ。

 この手に取り戻した温もりを忘れない限り、もう、目を背けたりはしないから。

 

 

 

 

 腕の中で、一人の少女の瞳が俺を捉える。

 ずっと見続けてきたその顔が、よく見える。

「みゆ、ちん……なんで、どうして――」

 涙を浮かべながらも、言葉にならないまでも、口を開く舞姫。

 ここらでなにか、気の利いた言葉が出ればいいんだが、生憎、俺にそのスキルはないし、気遣いもない。

 せめて現状説明くらいはしようと彼女を解放し、落ち着いて話そうと座り込んだ刹那。

「まさか、<アンノウン>が擬態能力を!」

 まさかの発言が飛び出した!? ちょっとー、どういうこと? なにをどう考えたら<アンノウン>の新しい可能性に思いつくわけよ。まだ俺が目の前にいるって方が現実でしょ。

 それにほら、コードも破壊して本来ある世界の一部が――って、結界自体も壊れてるから、建物はともかく、空は見えている状態に変化は無いか。

 むしろ、現状俺以外が見えてない可能性が一番高い……。

「神さま、あんた意地悪だ。ここでもう一戦とか、もう切れる手とかないってのに」

 さて、目の前の勘違いアホ娘は話し合いの場についてくれるだろうか? おとなしく話し合ったとして、理解してくれるだろうか?

 結論から言おう。

「ありえない……もうね、ほんっとにありあえない」

 誰がラスボス倒したから裏ボス出せと言ったよ。

 あんなのに勝てるわけないでしょ? ここまでズタボロにされてコードひとつ割るのが限界の男にどこまで試練を用意すれば気が済むのやら。

「しかしまあ、舞姫が戦うってなら、相手するだけか……」

「しゃべった!? <アンノウン>がしゃべった! ど、どどどどうしよう……困った!」

 うん、俺も困った。

 どうあっても人として認識してくれない神奈川の首席にどうしようもなく困ってる。

 こうなれば、もう一度殴りあって止めてみるか? 結果なんて見えてるけどな!

「え、えっと、意志疎通とかできるのかな?」

 構えようとしたところ、舞姫からそんな疑問が上がる。もちろんできるとも、人間だからね! などと言っても信じないかな。

 一応、試してみよう。この機会を逃すと次がいつ来るかわからん。死後じゃ無意味だし。

「舞姫、俺だ。天羽自由だ。決して<アンノウン>でも、死人でもない。正真正銘、天羽自由。わかる?」

「へ? ――……そ」

「そ?」

 聞き返すと、拳を振り上げた舞姫がいて。

「そんなわけあるかぁぁぁぁああぁぁっっ!!」

「理不尽かてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」

 反応する余裕もない俺は、絶叫しつつ衝撃に備える。が、

「……」

 一向に拳が届くことはない。

 代わりに、舞姫がゆっくりともたれかかってきて、俺の胸に顔を埋める。

「…………ほんとに、みゆちん?」

 長い沈黙の後、舞姫から小さな声が漏れた。

「あのとき、生きててくれたの……? カナちゃんもいなくなって、死んじゃって、それでも戦わないと、守らないとって……」

 ああ、ああ。わかっていた。

 この子が俺たちが消えた程度では折れないことは。

 負担をかけたとしても、悲しみを生んだとしても、諦めないと知っていた。

 だから預けてしまった。

 支えてしまった。

「わからなくなって……でも、みんながいるから、世界を救わないとって、そうやって……」

 ポツリ、ポツリと言葉が重ねられていく。

 小さな少女を最強たらしめる、呪いのような言葉が積まれていく。聞きたくない、耳を塞いでしまいたい。彼女にも、自分にも。この関係に蓋をできたならどれだけいいか。

 でも、叶わない。

 これは幼い頃と変わらない、誰かが割りを食うゲームだ。いずれ訪れる終末すらも受け入れなくてはならない選択肢のひとつだ。

「舞姫、もういい」

 無意識に、口からこぼれ出る。

 これまでしてこなかった、言うことのなかった言葉が、彼女に向けて、やっと届こうとしている。

 難しいことなんてなかった。

 ただ、言ってやりさえすればよかった。

 遅いかもしれない。

 無意味かもしれない。

 今更なのかもしれない。

 けれど、声に出して、確かな意志を持って、否定するべきだった。

 人間が一人で救う世界にはなにもないと、誰かが最初に、示すべきだった。

 きっと、間違いだらけで、反発しあって、うまくいかなくて、失敗続きの先にしか成功のないことだとしても。それでも、救われた世界には、多くの意思が、意味が溢れているんだと、俺はとっくに知っていた。

「みんなで救う世界には、笑顔があった。幸福があった。アレはまだ、まがい物で、現実にはなっていない、ただの夢だけど、誰もが夢見た世界には、救いがあって、最後は必ず、笑顔があった」

「みゆちん……?」

 俺の見ていた夢は、正真正銘、他のこどもたちが見ていた夢に他ならない。

 他人だけで構成された世界。それが俺のすべて。

 だからこそ、言えることがある。

 この、俺たち人類が生み出してしまった救いの女神さまに、言えることが。

「――舞姫。おまえはもう、無理してまで世界を救う必要はない」

 たとえ、傷つけてしまうとしても、それは――。

 

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