舞姫共々コウスケに回収してもらい、なんとか地面との熱烈な抱擁を回避した俺たちは、カナリアたちと合流し今後のことを話し合っていた。
「カナちゃんが生きていて本当によかったよ!」
「ヒメちゃん……うん、うん!」
目尻に涙を溜めながら抱き合う少女二人。
それを視界の端に収めながら、俺は全員に指示を出していく。というのも、やはり舞姫の説得に時間をかけすぎた。
当初の予定と狂うところまではいっていないが、時間通りの行動は不可能だ。
「こっからはできる限りの人間を回収しながら撤退。<アンノウン>も対抗してくるだろうから、早めに帰るとしよう。もっとも、あと一件は片付けないといけなそうだけどな……」
「マジっすか?」
「ああ。おまえに回収される前に、こっちに向かってくる人影が見えた。恐らく、簡単には逃がしてくれないだろうな」
うへぇ……といった感じに項垂れるコウスケ。こいつ、割と動けるくせにどうしてこうも弱く見えるのか不思議だな。
「しゃんとしろよ、コウスケ。だいじょうぶだ、おまえは十分強いよ」
「ううっ……俺、ぜんぶ終わったら神奈川の人間になります」
「お、おう。いきなりどうしたよ」
「朱雀さんには恩がありますけど、ここまで正当な評価……クッ、カナちゃんは惜しいけど会えなくなるわけじゃない……俺、神奈川ならやっていけそうな気がします」
妙な意思を述べるコウスケの相手をしながら、体を休める。
正直、立っていないと意識を保てない程度にはまずい。
「あの、みゆちん……」
申し訳なさそうな顔でカナリアから離れ、こちらへと戻って来る舞姫。
「おう、どうした?」
「その、えっと…………ごめんなさい」
なにか言いたそうにしていたので聞いてみたが、返ってきたのは謝罪の一言だった。
俺が聞きたかったのは、見たかったのは、そんな寂しそうな声でも、悲しそうな顔でもないのに。
力任せに、彼女が放ってあった出力兵装を投げ渡す。
「わっ!? ちょっと、みゆちん……?」
「いいから笑ってろ、バカ。別におまえが謝る理由はないし、俺がおまえに謝る理由も、感謝する理由もない」
ただ個人的な理由で戦って、そんでお互いに本音をぶつけただけだ。
取り戻したいものは取り戻したのだから、いつまでも辛気臭い顔されてるほうが堪えるっつうの。
なんて言いはしなかったが、舞姫は無理やりにではなく、自然と笑顔を作って見せた。
「みゆちん……うん、わかった!」
言いたいことはたくさんある。
舞姫にだって、訊きたいことはきっと少なからずあるだろう。
でも、それはまた後でいい。後でも話せる事実が、いまは背中を押してくれる。
「せめてもう少し戦力は削っておきたい。舞姫は当然俺たちに協力してくれるんだよな?」
「任せて。みゆちんがここまでしてくれたんだもん」
「俺だけじゃねえよ。他にもたくさんの奴がおまえのために動いてくれた。だからこうして取り戻せたんだ」
もうどこかに逃げてしまっただろうが、俺を鼓舞し立たせてくれた少女たち。
最後の最後で後押しをしてくれたコウスケやカナリアを筆頭とした東京の奴ら。彼ら彼女らがいなければ、俺はとっくに折れていた。
「んなことよりもだ。できれば今回の襲撃でもう少し戦力を削っておきたい。目安としてはあと一人は主席か次席をだな」
「それ、いけますかね?」
コウスケは辟易としながら訊いてくるが、うんざりしているのは俺も同じだ。
「いけるかどうかってより、いっとかないと後々が不利ってところだな。舞姫のコードは破壊しちまったから神奈川に帰すわけにもいかないし、かといって次の襲撃時にトップ陣とやりあえるのは俺と舞姫だけってのも心もとない。下手すればめんどくさがりの俺の後輩もでてきかねん」
「後輩? どんな奴らですか?」
「んー……純粋な剣技だけならほたるレベルより更に上の奴と、視野がくそ広い掴みどころなしの好き勝手バカ」
「それ、強いんですか……?」
「強いよ」
コウスケの質問に俺が返すより早く、舞姫が答えた。
「みゆちんが見守ってきた子たちだよ。たまちゃんも月夜ちゃんも強い」
「神奈川主席が強いって……マジもんじゃないですか。あの、今回はもう帰りません?」
「ダメだよ! せっかくここまで来たんだから、できる限りがんばろう?」
舞姫に続いてカナリアまで会話に入ってくるが、それがコウスケには良かったのだろう。
「カナちゃん……俺、頑張ります!」
「うん!」
わかりやすい。
けど、この明るさと軽さは取り柄だな。
「おそらくだが、この場に明日葉と千種、それに壱弥は来ない。ここに辿り着くまでに俺とコウスケが結果的に足止めしたからな」
いまも俺の一撃に巻き込まれた生徒たちの救出や手当で時間を食ってるはずだ。
残っていた機械類は破壊されているかもしれないが、それでも簡単に持ち場を離れられる状況ではなかった。
であれば、ここに来る可能性があるのは神奈川の生徒。さらに、舞姫がいると来れば――。
「ほたる一択なのがなぁ」
ここまで傷ついた体じゃあいつの刀は止められない。
けれど、向かってくる影は確かにあった。
「いや、待てよ? なあ、舞姫」
「なに?」
「月夜や眼目はどうした? 指示とかって出してるのか?」
問題児どもの行動はどうなっているのかを問うと、しばし考える仕草を見せる舞姫。
東京にいたことから、こちらで指揮を取っていたのは舞姫に違いない。同時に、ここに来るまでに残った生徒は逃したのだろう。
だが、月夜と眼目。ましてやほたるまでを逃すわけがないし、そもそもほたるはそんな決定には従わない。
つまり彼女たちはここにはいなかったと見るのが妥当だ。
「二人には好きに動いてって言っておいたけど……そもそもみゆちんがいなくなってから寂しそうにしてたからお休みしてたし……どうしてるんだろうね?」
「……そいつは悪いことをしたな。ってことは、まだ神奈川に残っているってことか」
「たぶん」
となるとこっちには来てなさそうだな。
千種んところにもいなかったっけ。
「舞姫、いまって神奈川の戦力は?」
「生徒の半分以上が神奈川にいるよ。東京にいたみんなも帰しちゃったから、じきに合流すると思う」
「あーそれは無理だな。出向いたところで袋叩きにあって終わりだ」
俺一人対神奈川陣営とか勝てませんわ。いやはや、一対多とかいじめだろこれ。かといって次回の襲撃で真っ先に会える保証もないし、むしろ他の生徒に邪魔される可能性の方が高いよな。
「どーすっかなぁ。会えればどうにかできる気はするんだが、まず会うまでの被害がでかすぎる」
「みゆちん、なんか変だよ?」
「おまえに変と言われるとは、俺も末期だな。んなことより、おまえまだ動けるだろうな?」
「うん、もちろん!」
そりゃ僥倖。
出力兵装も近くにブッ刺さってたし、とりあえず戦うだけの準備はできてる。
「もうじきここにほたるが来る」
「ほたるちゃんが!?」
「おまえとの戦闘中に確かにこっちに向かってくる影があった」
「なら、ほたるちゃんは私がなんとかしてくるよ」
説明を終えるより早く、舞姫が手を挙げる。
こういったところは、やっぱり変えられないか。でも、それでいいのかもな。
「ここで固まっているときにほたるに強襲でもされたらことだ。せめて、ここに辿り着く前に迎え撃つか」
「戦う前提なのはよくないよ、みゆちん。だーいじょうぶ! 私がしっかり説得するから!」
「おまえの説得はそれはそれで心配なんですけど?」
「どういうこと、それ!」
ここで相手をしてたら本当に来ちまうな。
「いいから、まずはほたるだ。行くぞ」
「行くって、自由さん一緒に行くつもりですか!?」
コウスケが俺の発言に驚きの声を上げるが、無論聞くつもりはない。
「行かないでどうすんだよ。舞姫の説得に根拠を持たせるには誰かがついていった方が早い」
「えー……自由さん、無理しすぎっすよ」
「無理しないでどうすんだ。なに、これが最後だから。あと一回無理したらしっかり休むさ。だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「ったく、あんたって人は……わかりましたよ、俺もついてきますから、しっかり掴まっててくださいよ?」
出力兵装に手をかけ、出る準備をし始めるコウスケ。
こいつだって、相当無茶させてきたんだけどな。それでも、こうも簡単に、しかも自分から手を貸してくれるってのかよ。
「悪いな、ありがとう」
「いえいえ。さあ、いつでも行けますよ!」
「――助かる」
コウスケの乗る出力兵装に後ろに乗り込む。
「俺と自由さんはこのまま向かいます。カナちゃんも気をつけて!」
「うん、こっちは任せて」
カナリアの笑顔に見送られ、俺とコウスケ、そして舞姫はこの場を飛び出す。
「待っててね、ほたるちゃん」
「そういえば自由さん。このまま神奈川主席についていくと、俺ら<アンノウン>と認識されて、出会い頭に斬られませんかね?」
「あっ……いや、まああれだ。でたとこ勝負で」
「マジっすかぁ…………助けてカナちゃん……」