姫さまとの一件も終わり少々やりきった感が出ていましたが、ようやく次の話へと進めそうです。
とりあえずは短いですが次へと繋がる話を投稿しておきます。
では、どうぞ。
舞姫が先行し、そのあとを追う俺とコウスケ。
こんな現場を神奈川の生徒から見られようものなら、おそらく<アンノウン>として見えている俺たちは即座に斬って捨てられるだろう。特にほたる。あとほたる。なにがなんでもほたる。彼女は危険にすぎる。
下手するとなにもできずに敗北する相手だからな……一対一での戦闘であればおそらく俺に勝ちの目は薄い。真面目に相手をしたことが数えるほどしかないから絶対とは言えないが、舞姫の次に相手にはしたくない。
「で、問題はその相手に敵と勘違いされたまま会わないといけないってことか」
「自由さん?」
思考面の独り言を拾ったコウスケが俺を呼んでくる。
「気にするな……ってのも無理か。これから会う神奈川の次席のことを考えていたんだけどさ。やっぱ、どう考えても鎧袖一触っていうか、問答無用っていうか。舞姫といる時点で生存を諦めるまである」
「ちょ、なんでそんな弱気なんすか!?」
「だってよぉ、相手ほたるだぜ?」
「いや、だぜ? とか言われてもこっちにはさっぱりなんすけど!」
そりゃそうだろうな。
主席、次席ともなれば舞姫とほたるの会話や距離感なんかも周知しているだろうけど、それ以外の奴らは彼女たちの過去も絆の深さも知り得るはずがない。であれば、いまの危機的に過ぎる状況にも理解が追いつかなくて当然だ。
「安心しろ、コウスケ。ほたるが視界に映る頃には斬られてるよ」
「マジっすか!?」
コウスケの操る出力兵装の軌道が歪む。
「ちょ、おい!?」
「うおっとととととォォォォォォッッ!!」
制御を失った出力兵装は空中を駆けることなく地面へと突っ込んでいく。
「このくらいなら、なんとか――」
「ここでみゆちんが頑張っちゃダメだよ」
ここまで付いてきてくれた相棒共々救うべく<世界>の力を行使しようとした直後だった。すぐ横で聞きなれた声でなにかを言われたかと思ったら、俺とコウスケの体は建物の屋上へと転がっていた。
「はい? ――生きてる?」
「っぽいな。まあ、なんだ。大凡わかってはいるんだが、助かったよ」
地面へ急接近していく景色が一転。視界いっぱいに開けた空が映るときた。こんな瞬間的に俺たち二人とも運べる存在なんて限られている。
なにより、一瞬の時間での移動だというのに怪我ひとつなくこなすとくれば、たった一人くらいのものだろう。
「ありがとな、舞姫」
「どーいたしまして、みゆちん!」
案の定、投げ飛ばしたであろう張本人が俺を見下ろしていた。
激しい戦いの後だというのに疲労の色は見えず、なぜか笑みまで浮かべている神奈川主席。
「あのあとでそんだけいい顔ができれば問題なしか」
「なんの話?」
「んでもねーよ」
「気になるなぁ。なになに、なんなのみゆちーん!」
よほど興味が湧いたのか、顔を近づけてきてなんとか聞き出そうとしてくるのがわかる。わかるのだが、近い! ってかおまえ人の頭の先に立って見下ろしていたくせにその状態で屈むんじゃないよ!? 誰かこのアホ娘に警戒心を持たせろ! ついでに無防備すぎるところも指摘してやってくれ!
「いいから、本当になんでもないよ」
仕方ないので、距離の詰まった彼女の頭を両手で掴む。
「みゆちん?」
「いいか、舞姫。おまえには教えないといけないことがいくつもある」
「うん? うん、そうだね。みゆちんはたくさんのことを教えてくれるもんね。それで?」
「素直でよろしい。で、だ。おまえはちょっと男子に対してと変態四天王に対しての距離の取り方と言動の危機感を覚えようか! あと、無防備!」
「無防備?」
まさかの前半部分無反応である。こっちの心配などお構いなしだ。
「はあ……もういいや。らしいと言えばらしいしな」
舞姫の頭から手を離すと、彼女は不思議そうに顔を上げる。
「――これって」
ついで、これまでのような穏やかな雰囲気を真面目なそれへと切り替えたことがわかった。
「ちょいと遊びすぎたか」
「かもしれないね。みゆちんとコウスケくんはここで待ってて。まずは私が行ってくるから」
「頼んだ」
「頼まれた!」
俺とコウスケを残したまま、舞姫は屋上を伝ってどこかへと行ってしまう。ここからは一挙手一投足が命運をわけることになる。
あのほたるだとしても――いや、ほたるだからこそ<アンノウン>にしか見えない俺たちを信じるはずがない。たとえ舞姫の言葉であろうと、見えているモノが違う以上はいくら説得したところで根拠がない。
危険でないとわかるまで、ほたるなら舞姫を俺たちに近づけたりはしないはずだから。だからこそ、あいつはきっと戦闘を仕掛けてくる。視認できるギリギリの距離から仕掛けてくる。
「難儀な話だ」
とっくに限界だ。戦うことなどできるはずもない。
限界などとうに振り切って、守りたいもののために力を使い果たした。
「奇跡は二度も起こらない。だからどうか、頼むぞ」
説得できるなら最善。
近くまで連れてくることができたなら上々。
刀を突きつけられたなら通常。
遠くから斬り離されたなら最悪だ。
「舞姫の言葉なら、せめて通常くらいまでは望んでもいいんだがな……いかんせん説明するの苦手だからなぁ、あいつ」
千種がいたなら、結果は変わるだろうか? いいや、いいや。仮定の話はやめにしよう。
「自由さん、どうなるんですかね」
「さあな。全部うちのお姫さま次第さ。天に祈るも悪魔に縋るも自由。どのみち、俺たちにできることは信じて待つことくらいのもんだろ」
屋上に放られてからこのかた、既に立つことさえ放棄しているのだ。
体力も底を尽きている。
この先の結果がどうあれ、足掻くのも終わり。
「コウスケ、どうする?」
「なにをですか」
「いまなら、カナリアたちに合流しに行くことだってできるかもしれないぞ?」
「利口なのがどっちかなんて、最初っからわかってますよ」
「そうか。なら、いいや」
どうにも、<世界>の影響か、舞姫と真っ直ぐ向き合い過ぎたせいなのか。思考が安定していない。普段とは違う意識のような、思っていても口にはしない言葉までが流れていく。
「弱気になってる証拠か。あとは一切合切取り返すだけだってのに恐れてる場合じゃないだろ」
舞姫とは向き合えたんだ。取り戻したんだ。
だったらこれから起きることにだって向き合っていけっての。体が動かなくなったとしても、まだ口は動く。
<世界>を使う体力がなかったとしても、頭は働く。
「いったいどうしたってんだかなぁ……また変えられたか? いや、今回はそういうわけでもないか」
「どうかしたんすか、自由さん」
「いいや、なんでもない。これはただの勘違い。ただの気の迷い。一時の安堵から来る開放感に当てられただけのこと。だってまだ、なにも終わってないんだからな。さあ、コウスケ。どうあれもうじき結果はわかる。どちらに転ぶにせよ、初撃は避けられるように準備しておこうぜ」
「了解っす!」
俺とコウスケが立ち上がり備えようとしたとき。
不意に、鈴の音が辺りに響いた――。
直後。
「久しぶりに外に出てみれば……私、がっかりです。いいえ、本当に」
喉元には刀の切っ先が突きつけられており、突きつけている人物は、俺のよく知る少女のものだった。