かねてより書こうと思っていた作品にとうとう手をつけました。
当初は神奈川だけでの話の予定でしたが、アニメ化のことも含め、3都市巻き込んでの話になりました!
ちょこちょこ原作での話も出てきますが、読んでなくてもある程度わかるように、説明は挟んでいくことになると思います。
では、どうぞ。
俺に主張すべき権利はない
極大の閃光が、俺に迫る――。
避けようのない、強大すぎる一撃。あまりに濃密な力の奔流を目の前に、思わず意識が飛びそうになる。
「いやいや、来た直後にこれとは……」
大層なお出迎えじゃないか。
これだから力の制御をしきれない奴の一撃は怖い。
一発一発が必殺だというのに、御する余力は残っているだろうに。
「どうしておまえたちは、俺に後始末をさせるかね……」
陸地に立つのは俺一人。
別に、こんな場所が壊れようと大きな打撃には成り得まい。
だが、ここが壊れると困る人たちもいるのだ。崩れたらいろいろ台無しなんだよ。
まったく、どうしてこうなったのか……四時間前の俺からすれば、考えられないことだろうに。
ため息混じりの愚痴が溢れる。
直後、光の奔流が俺を包み込んだ。
面白くない。
人の優劣を決めるには効率的かもしれないが、人の本質を見抜くには不適切と言える。
人の名前、スコア、ランキング……。
「総じて無駄だ」
ついでに言ってしまえば、組織に囚われることすらも避けたいことではあるが、どうにも、この世の中を一人で歩むのは難しい。
関東圏の個人ランキング表を見ながら、今日もため息が漏れた。
強くなれば強くなるほど、守ることができなくなる。
この世界の大人は、敵の恐怖を相当に刷り込まれたのだろう。強い者を側に置き、経験の浅いこどもたちを前線に立たせる。
「バカバカしい。何年も俺たちを守ってくれたことには礼を言うが、いまの世界はことごとく歪だ」
よくわからないうちに、世界は終わるものとなっていた。
それが何者かもわからず、どこから現れたのかも知れない。見たことのない生物が、見たことのない機械に乗って、街を破壊した。
最初はどこかの国が未知の兵器を使って敵性国家を攻撃したのでは、なんて考えもあったそうだが、各国が睨み合っている中も、その何者かは、気まぐれに現れては街をひとつ消し去っていった。
結局、各国が手を取り合ったのは、容疑がかけられていた主要国家の軍事施設が被害を受けた後だったとか。
これで、人類は認めざるをえなくなった。常識の埒外にいるものが、敵意を持って己の前に現れたということを。
そうして、宣戦布告も開戦の合図もなく、世界は『よくわからないもの』との戦争を余儀なくされた。
「コールドスリープ――老人やこどもなどの非戦闘員を未来へと冷凍保存して守る、か。一応は終戦ってことになってるけど、いつ<アンノウン>が再び戦争を始めるかわからないじゃないか」
二十一年前から<アンノウン>の攻撃が激減したことを受けて、人類側が勝手に宣言しただけのこと。
事実、宣言したあとでも、<アンノウン>はまた、気まぐれに現れている。
「それでも、大人たちは頑張ってくれたんだよな……」
日本だけでも、国内で三二◯◯万人の死傷者が出た。
なのに国土を奪われなかったことが唯一の救いとは、勝利とは言い切れない。
「だから今度は、俺たちが世界を救う番だ」
寝かせていた体を起こすと、同時に都市内にアナウンスが流れる。
毎度のごとく恒例となった呼び出しだろう。
なによりの証拠に、流れる曲が呼び出し専用と化した曲なのだから。
『天羽自由さん、至急執務室にお越しください。いいですか、至急ですからね。繰り返します。天羽――』
重い腰を上げると、声が流れる。
何年も、何十年も前から変わらない、俺の存在を示すただひとつの名が。
「仕方ない、行きますか」
こうして、また今日も、俺の名が都市内に響き渡った。
この、防衛都市神奈川に。
執務室の前となると、さすがに周りは静かなものだ。
中からも声が聞こえてこない。
嫌だが入るしかないか……。
「失礼します。ただの平凡で弱っちい天羽自由さんが来ましたよっと」
「遅かったな。アナウンスを流してもらってから十分は経っていると思うが」
「んなすぐに来れるかよ。俺を呼びたければ転移の<世界>でも発現させてる生徒を連れてこい」
稀有な<世界>だけに、そうそういるとは思えないがな、と心の中だけで付け足す。
<世界>。
それは字面の通りの意味を表す言葉ではない。
ある者は空を歩くのが普通であり、ある者は手に触れた物が融解し、そしてある物は、アホみたいな力の塊だったりする。
俺たちは頭の中で当然のように行われている事象を、現実世界に再現することで、通常ではあり得ない現象を引き起こせるのだ。
一説によると、<世界>はコールドスリープ中に見ていた夢に起因しているらしいのだが、すると一体、俺の目の前にいる奴は、どんな夢を見ていたのやら。
「どうした? いつもの言い訳はもういいのか?」
思考にふけっていると、俺が気にしていた奴の隣に控える黒髪の少女から、呆れた声が聞こえてきた。
「別に言い訳じゃないって……いや、まあいいけどさ」
「まあまあ、来てはくれたんだからいいじゃん。ほたるちゃんもそんなに怖い顔しないで」
俺たちの会話に入ってくる者が一人。
制服の上に外套を羽織った小柄な少女。
二つに括られた色素の薄い髪。それに負けないくらいに白い肌。およそ戦いに耐えられるようには見えない体躯に宿るのは、しかし強い意志の光を宿した双眸である。
そう、この少女こそ――。
「神奈川第一位、都市首席、関東圏の個人ランキング一位の姫さんに呼ばれたとあっては、来ないわけにもいかないんだよ、俺も」
「うん、うん。みゆちんは素直でいい子だね」
「そのみゆちんってのやめろ。いやほんとマジで。俺が他の生徒や他都市の奴らからどんな目で見られているか姫さん知ってるの? 知っててやってるの? いじめ?」
「えー? いいと思うんだけどなぁ。自由と書いてみゆだから、みゆちん。ダメ?」
ダメに決まっている。
隣にいる都市次席、凛堂ほたるに視線を向けるが、すでに姫さんの意見に頷いていた。
味方がいない。
ある意味、うちの都市は全員が姫さん――天河舞姫の味方と言っても過言ではない。
であるならば、一応はそこに属する俺も、彼女には甘いべきなのだろう。
「かなり不服だが、もう少しだけ、その汚名で呼ばれてやる。それで、今日はなぜ呼ばれたんだ、俺は」
姫さんに仕える四天王はほたるしかいないし、大きな事案のため、というわけではなさそうだ。
可能性がひとつ減る。
だが、そうなっては俺が呼ばれる原因がわからない。
「個人ランキング300位以下の人間を、なにに使うつもりだ?」
「おまえのランキングは前線に出てこないがためだろう。出て来れば、まあ……200位くらいにはなれるんじゃないか」
出ても200位ですか、そうですか。
「どこぞの都市の首席じゃあるまいし、どれだけ下にいようと興味ないけどさ。で、要件は?」
「いまから各都市の代表の集まりがあるから、ついてこい」
「いや――」
「みゆちんも行くって事前に言ってあるから、大丈夫だよ! さあ、レッツゴー!」
俺の言葉に割り入った姫さんが、腕を高くに掲げる。
あいつの中では、俺はすでに行くことになっていて、姫さんの頭を撫でるほたるの中でも、俺は行くことになっている。
多分、ここにいない残りの四天王――もとい変態どもも同意見。
他の生徒の誰に聞いても、俺が行かないのはおかしいと言われるだろう。なんなの、姫さんは神かなにかなの?
「はあ……確認だけしておきたいんだけど、俺は神奈川の代表でもなければ、個人ランキング上位ですらないんですけど?」
「それがどうした?」
「いや、いろいろ問題になっちゃうでしょ」
どうにかこの場を切り抜けようとするも、ほたるは許しはしない。
何事もないように、きっぱりとものをいう。
「問題ない」
「なぜ? 俺みたいな低い順位の人が来たら迷惑だろ。ほら、前線にも立てないほどの雑魚ですし」
「安心しろ。千葉からは百位台ギリギリの男も毎回来ている。それに、天羽は連れて行って損はしないからな」
「そうだよー。みんな仲良いし、みゆちんもすぐに仲良くなれるよ!」
友好面とかは特に気にしてないんですけどね。うん、もうなにいっても無駄かな。無駄だね。
しかも、すぐに行くつもりなのか、姫さんは俺の手を掴んで引っ張っていこうとする始末。
詰んだ……逃げるにしても、こいつに接近される前でなければいけないのに。
あまりに強大すぎる力に握られているのだ。下手に逃げようとすれば、力の加減を間違えて握りつぶされるかもしれない。仮にも姫さんはうちのトップ。それに加え、仲間想いの優しい人だ。
十中八九、俺の手を潰すような力の入れ方はしない。しないはず。しないよね?
頰を冷や汗が伝う。
「一歩踏み外せば即退場……俺の負けか」
「なんの話?」
「なんでもない。わかった、ついていきますよ」
「うん、ありがとう」
嬉しそうに笑みを浮かべる姫さんと、その笑顔を見て満足そうにしているほたる。
このときの俺は、まだ思ってもみなかったんだ。
他の都市の連中と関わることが、どういうことかを――。
まだまだ作品数そのものが少ない話ですが、頑張って書いていこうと思います。
感想なんかも、続けていくうちにもらえたら嬉しいです。