『始まりました! 記念すべき第一回、「神奈川、今日も世界を救おっかラジオ局」!』
ほんと、なんで始まっちゃったんですかね。
『メインパーソナリティーの天河舞姫でーす!』
『同じく。凛堂ほたるだ』
『ということで、今日は東京、千葉にも協力してもらって、私たち神奈川のみんなの事を知ってもらおうと思います!』
『珍しく、東京、千葉も全面協力だ。神奈川だけでなく、3都市にこの放送が流れていることだろう。今回は我々神奈川の話が主になるが、次の放送では千葉、その次は東京と、定期的に3都市間のことを互いに知るためにも放送していくから、そのつもりで』
目の前で、ブースに入った姫さんとほたるが原稿に目を通しながら話始めていく。
この突拍子もない企画は、前回の3都市での会議のときに求得さんたちから提案されたものだ。
確かに、他の都市のことなんて知ろうとも思っていなかったが、これはどうなんだ? 過去、ラジオ放送が流行っていたことは記録にも残っているし、アニメだかという娯楽にもラジオが使用されていただとかという話も聞いた覚えがある。
「はあ……面倒だ」
なんでよりにもよって一回目が神奈川なんだよ。しかもうちの首席と次席……これ青生にやらせた方が適任な気がするんだよなぁ。ああ、姫さん原稿の漢字が読めなくてそれ全部筒抜けになってるし……。
「普段は戦闘指揮のときは難しい言葉使ってんのに、なんで読めないんだか」
苦言をこぼしながら、この放送の行く末を見守る。
『さて、我々神奈川は名前のついてるキャラクターが多いので、毎回3人から4人体制で放送していくよ!』
『ヒメ、メタ発言は控えるように、と――いや、いいか。というわけで、初回からだが、ゲストを呼んである』
『さっすがほたるちゃん! そうだよね、細かいことは後で調整してもらえばいいよ!』
後で、と言ったがこれ編集無しで絶賛3都市に垂れ流しですけどね……隣で機材いじってる青生がため息こぼしてるよ。気づいて、姫さん。
ちなみに、ゲストに関してはその場で指名するとのことで、誰が呼ばれるのかは俺も知らない。
姫さんとほたるの気分といったところだろうか?
『でーは! 記念すべき第1回のゲストの方々、どうぞ!』
『第1回ということで、今回は3都市の誰もがわかるゲストを呼んであるぞ』
姫さんとほたるの言葉の後で、そのゲストが声を上げる。
『はいはーい。千種明日葉でーす。今日は神奈川にお泊まりに来てます。お兄聞いてる?」
『みなさん、こんばんは。東京次席の宇多良カナリアです。あ、いっちゃん、今日はちゃんとご飯食べた? 東京のみんなとケンカしてないよね?』
……。
…………はい?
これは神奈川のことを知ってもらうためのラジオとか言ってたよな? それで、ゲストは誰だって?
落ち着け、聞き間違いだろう。いや、まさかそんなおかしな人選するわけがない。
『それであの、私たち来ちゃって良かったのかな?』
『もーかたいよ。神奈川に知ってもらうのが趣旨でしょ? ならいいっしょー。あ、おひめちん、お菓子もらうね』
『うん、食べて食べてー。みゆちん特製だからおいしいよー』
『え? 料理するの?』
『うん。よく作ってもらってるんだー。ね、ほたるちゃん』
『ああ。店で食べるよりもレベルの高いものが出てくるし、栄養面も考えられているから安心だ』
女子会。圧倒的女子会ですよ。
なに、この……なんだ?
『ふーん……あ、じゃあこのフルーツタルトもーらい』
『私はイチゴのショートケーキで』
明日葉とカナリアが思い思いに並べられたケーキに手を伸ばす。
言うまでもなく、俺が姫さんに頼まれて作ったものだ。やけに種類を頼まれたのを覚えているが、このためだったのか。
最近あいつの言うことを疑いもせずに実行している自分が少し心配になってきた……まさか生徒会に毒されてきたのか? いいや、だいじょうぶ。俺はまだ変態ではないはずだ。
心を強く持て。イメージするのは常に正常な自分だ……。
『千葉で作られてる果物がこうして使われるってのもいいよねー。美味しいものになるならもう少したくさん作ってもらわないと』
『あ、それいいね! そしたら今度みゆちん連れて一緒に千葉に行くから、そこでみんなでみゆちんのお菓子食べようよ!』
『さんせーい! ってわけで、よろしく!』
目線だけこっちに寄越して笑顔を浮かべる明日葉。
お兄さん、おまえも巻き込むからなこの野郎……面倒ごとは避けられないので他人も巻き込んでいくスタイルでいきます。一人じゃあのじゃじゃ馬たちを相手しきれないしね。壱弥にも手伝ってもらおう。
なんて心の中だけでいずれ訪れる不幸の対策を練りながらも、ブースの向こうでは勝手に話が進んで行く。
『ところでさ、神奈川って基本女子が強いって噂は本当なの?』
『あ、それ私も聞いたことあるよ! いっちゃんが嘆いてたからよく残ってる!』
明日葉とカナリアの発言だな。
まあ、ランキングだけ見れば神奈川の上位って女子生徒ばかりだし、そんな噂が流れていることは俺も知っている。なんなら神奈川でも流れてる噂だ。
『本当……なのかな? でもみゆちんいるしなぁ。どう思う、ほたるちゃん』
『そうだな……傾向として、女子生徒が強いのは事実だ。神奈川のランキング上位者はほとんどが女子生徒なことからも間違ってはいない。もっとも、前までは一部の男子生徒がその上位者を抑えて神奈川だけで見れば3位の座にいた生徒がいたらしいがな』
『あ〜……そんなこともあったね! いまはサボり癖がついちゃったけど……』
冷たい目をこちらに向けるほたると、困ったような笑みを見せる姫さん。はいはい、すいませんね。でもこっちを見るのはやめろ!
『ふーん。なるほどねぇ』
『あ、あはは……ごめんね?』
お客さまが無関係のはずの俺を見てますね。はい、もう後々弄る気満々ですよ。千種、本当にいますぐに飛んできてくれないかな。
来るわけないよなぁ。来るならこの時点で来てるし。
『ねえ、みんな。思ったんだけどね、もうみゆちん呼んだ方が早いんじゃないかな? ほら、これだけ話題に上がるんだし、みゆちんのこと気になっている人もきっと多いよね? つまり! みゆちんがここにいれば解決だよ!』
しないよ?
なに言ってるのかな?
なんでわざわざ猛獣に囲まれないといけないの? いやいや、手招きするんじゃないよ。行かないって。
ほたるも無言で立て掛けてあった刀に手を伸ばさない。
『みゆちーん?』
姫さん、呼ばないで。ゲストが2名もいるんだから、その子たちと話していてくれればいいから。俺を知りたい人とかいないから。むしろ話題にも出さないで欲しいまである。
なんて思っていると、ブースを区切っていた扉が開かれた――。
「――撤退!」
「なんで!?」
開ききる前に最高速でこの場からの逃亡を図るが、驚いた姫さんの声が横から聞こえた。
「なんで逃げるの、みゆちん!?」
「おまっ……放送はどうした! 生放送中に抜け出すとかありえないだろ!」
「みゆちんが来てくれないからだよ! だから迎えに来たのに!」
知らん! というか巻き込まないで好き勝手やってくれていればよかったのだ。お願いだからその女子会に俺を巻き込まないで!
「俺を呼ぶときは千種か壱弥がいるときだけにしてくれ!」
「これから呼んでたら放送終わっちゃうよ! いいから、みゆちんも行くの!」
「ちょ、やめろ! やめてぇぇぇぇっっ!!」
逃亡虚しく、会話することで煙に巻くこともできず。結局、姫さんの<世界>に抗うことなぞできないのだ。
もしも。
この大馬鹿娘の<世界>に対抗しないといけないときが来たのなら。
それは、俺にとってよっぽど大事なものがなくなりそうになったときか、この理不尽で無鉄砲で、無謀で純粋で、そして優しい少女に危機が訪れたときくらいのものだろう。
だからいまは――。
「いや、納得したくないから、やっぱり参加は拒否させてもらう!」
おとなしくブースの前まで連行された直後、彼女を裏切る形で再び逃亡を図った。
「みゆちん!? もう、今度こそ逃がさないよ!」
いいや、今度こそ逃げ切ってみせる! 裏道でもなにもかも使って、自室に帰る!
「行こう、みんな! みゆちんを捕まえるよ!」
はい? 後方から聞こえて来る、姫さんの号令。
それに応じるのは、
「仕方ない。ヒメの頼みだ。覚悟しろ、天羽」
「まあ、しょうがないよねぇ。実は一度、全力で戦ってみたかったんだよね」
「あはは……困ったときは笑顔だよ、自由くん」
各都市代表の面々だった。
あ、これは終わりましたね。
逃げたのが失敗だったと実感させられたのは、この数秒後のことだった――。