ヴァーリたちがいなくなった後、危険がないと判断したサーゼクスさんたちは学園を覆う結界を解いた。
もうそりゃえらい剣幕で悪魔や堕天使や天使に魔戒騎士が飛び込んできた時はビビった。
まぁ、事情を聞いた三大勢力は協力して事後処理を行っている。
まずは魔術師の死体の破片回収。俺とイチ兄のオーラでほとんどの死体が吹っ飛び、残ったのは辛うじて欠片だと分かる程度の物しか残っていなかった。
そして術式の解析だが、これはグレイフィアさんが終わらせており今後一切、この術式を使った結界は張らないようにするらしい。また内側に転移されたら溜まったもんじゃないしな。
そして一番の問題が校舎の修復、新校舎は半壊、戦闘場所となった校庭なんか原型とどめてないどころか冷静になった俺達が「爆撃でも受けたの?」と思うくらいに酷い。旧校舎もアザゼルおじさんの戦った余波などでガラスは全面修復。
修復作業を担当していたセラフォルーさんがすげー目つきで「やっぱ処す?」とか言ってたが勘弁して下さい。あっ、ソーナ会長なら副会長に励まされている、さすがに……うん、申し訳ないです。
俺とイチ兄はというと、全員から説教を食らっていた。
そりゃもう……俺はいつもどおりだが、リアス先輩とゼノヴィアが泣きながらイチ兄の白龍皇の力を奪いとったことを怒っていた。下手すりゃ死んでたからな、出来たのだってイチ兄の土壇場の力とドライグの補助があったから。
イチ兄が大切なリアス先輩から見たら自分から命捨てにいってるのを黙って見てたようなもんだからな。いつものお姉さま口調なんか投げ捨てて、イチ兄の体にしがみついている。
「ほー、色男じゃねえかふたりとも」
「冗談言ってないで助けてくれよ、アザゼルおじさん」
クックックと喉の奥で笑いながらニヤけ面して俺たちを見るのはアザゼルおじさんだ。
おじさんという言葉に反応したアザゼルおじさんは、俺に怪訝そうに問いかける。
「記憶が戻ってるのか?」
「だと良かったんだけどね、ほんの一部だけだよ。自分のこととか朱乃ちゃ……朱乃先輩のこととか」
封印が完全に解かれたわけではなく、思い出したことも再び忘れた。
アザゼルおじさんがため息をつくと、俺の頭に手を当てて魔法陣を展開する。
「……なるほどな。お前自身が再封印したみたいだぞ? やろうと思えば今すぐにでも解除できるがこの分なら段階的に開放されてくだろ」
「双牙くん……うぅん、双葉くんは思い出したくないの?」
朱乃先輩がうるうるしながらこっちを見るが……多分、呀のこととか両親の最期が関係してるんだろうな。
うっすらと覚えていることを言えば、とてつもなく恐ろしいことが起こったとしか言えない。だけどその出来事が多分核になって、さっきのありえないくらいの魔力だ。何が起きって不思議じゃない、記憶の一つや二つが封印されたっておかしくない。
……まっ、記憶失う前の俺は思い出せたんだがな。
「……いずれは思い出しますよ。俺が向き合わなきゃいけない問題だ、でも今の俺は兵藤双葉として生きたいからこのままでいたいんです」
いつか冴島双牙に戻らなければいけないんだろう。
でも今は、いや今だから俺は兵藤双葉として生きていきたい。
アザゼルおじさんは目を伏せると、俺に言う。
「俺のことは……」
「ごめん、おじさんって呼んでたことまでは覚えてるんだけど他のことは」
これ以上無くアザゼルおじさんが落ち込む。
うん、なんとなく思い出したがこの人に遊んでもらった記憶があるぞ? ん? いや遊ばれたっていうのが正解か? へんてこな発明品を持ってきては……あぁ、ダメだ、此処から先が思い出せない。
「わかってたが……お前にアザゼルって言われた時はマジで落ち込んだんだぜ?」
「双葉、あなたは……アザゼルの血族なの?」
落ち着いたのか、リアス先輩がこちらに質問するが俺が首をふる前に、アザゼルおじさんが話す。
「コイツの母親が俺の右腕だった奴でな……まぁ、その縁でな」
「……俺は知らなかったがな」
ロゼさんが機嫌悪そうにこちらに歩いてくる。
サーゼクスさんたちも連れているので、大分落ち着いたらしい。
「双葉が生まれたのを知ったのもあの日だからな……あぁ、双葉、俺のことは?」
「……ごめんなさい、全く」
だよなぁと笑うロゼさんだがその顔は暗い。
すいません、マジでロゼさんと俺の関係が分かりません……どっかで会ったっけ?
ロゼさんの代わりにシルヴァが答えた。
『ロゼは貴方のお父さんの弟よ』
「マジで!?」
「つっても腹違いな上、それ知ったのは糞親父が放浪の旅出た時だったがな……ったく、皆教えるのがおせえんだよ」
皆が目を丸くして、と言うかサーゼクスさんたちも知らなかったんですか!?
い、いや俺も教えてもらってなかったのか? えっ? じゃあロゼさんは叔父さんなのか。
どういうことなの、俺の家系図……えっ? てか俺って人間じゃないの? だってロゼさんは悪魔だし、確か先代も悪魔だって。
「あぁ、そこら辺はアザゼルから話してもらえ」
「あー、双葉。お前は人間だよ、今はな。確かにお前の両親は人外だが、親父の母さん、つまりお前の祖母が人間でな。こんな例あんまりないんだが……堕天使とか悪魔の血を受け継がず、人間の血だけが色濃く受け継がれたんだ」
……えっ、なにそのある意味奇跡の子供は。
皆が目丸くしてるけど、俺のほうがびっくりだよ、ある意味才能ないんだなぁ、俺って。
「そこら辺は追々でいいだろ、今日は悪かったなサーゼクス。カテレアの言うとおりだ、ヴァーリを好きにさせすぎた……」
「いいや、こちらも旧魔王派が迷惑をかけたよ。こうなることも予見できていたからな、この分だと旧魔王派の信奉者たちは残らず『禍の団』に協力しているだろう」
サーゼクスさんとアザゼルおじさんが暗い顔をしているが、そりゃそうだろうな。
実行犯がよりにもよって身内から出ているんだもの、二人共責任を感じているんだろうな。
だがミカエルさんは首を横に振っていた。
「今回は和平会談が出来た、これだけでも十分です。正式な返事は後日になるでしょうがこれで無益な争いが減るでしょう……今までのことを考えればゼロになるとは露とも思っていませんが」
「そこは俺たち魔戒騎士が調整するさ。コレを気に人間界に常駐したいし、そろそろしっかりと後進の育成もしないとな……現状、双葉一人に人間界の問題押し付けてるからな」
トップ陣が会話を始めたが……あぁ、そうだミカエルさんに言いたいことがあったんだ。
俺は痛む体を動かすと、先にイチ兄がミカエルさんに声をかけた。
「あの、ミカエルさん、少し話があります」
「時間があまりありませんが、聞きましょう」
優しげな表情でイチ兄の言葉に耳を傾けるミカエルさんに、イチ兄は俺の言いたいことを言ってくれた。
「ゼノヴィアとアーシアが祈ってもダメージを受けないようにしてくれませんか?」
「ッ!? ……二人ならばなんとか出来るかもしれませんが、何故ですか?」
「いつも二人は昔の習慣が抜けないで、祈ってダメージうけていたので……駄目ですか?」
きょとんとした顔でイチ兄を見るミカエルさんだったが、その顔が徐々に笑みを浮かべ、ゼノヴィアとアーシアに向く。
「お二人はまだ祈りますか? 主はもういないのですよ?」
「はい、主がいなくともお祈りは捧げたいです」
「私もです……それと再び友と会わせてくださったミカエルさまにも祈りを」
そういえばさっきからイリナがゼノヴィアの隣にいるが……あぁ、良かった、和解できたんだな。少し不安だったがゼノヴィアの話で聞いたイリナは良い子だったからな。
イリナは心底嬉しそうにゼノヴィアに飛びついていた。そんなゼノヴィアは悪く無いといったふうに顔をほころばせていたが、イチ兄を見る目がなんか熱い……本気で惚れたか? リアス先輩、ライバルですよ。
ミカエルさんはその様子を見て、ポツリと呟いた。
「私は……無力ですね」
「違いますよ、ミカエルさん」
俺は立ち上がり、ミカエルさんの顔を見ながら言葉を口にする。
「あなたは組織のトップだ。組織を持たせるためにすべきことをしたまでだ……だけど、これからは俺達がいます。皆で力を合わせればきっと多くの人達を救えますよ」
俺の言葉にミカエルさんは目を細めて、手を伸ばし頭を撫でた。
……なんか体が暖かいな、力を使って癒やしてくれたりするんだろうか。
「……あなた達兄弟の寛大な心を私は一生忘れません」
「ミカエルさま。例の件も」
「えぇ、二度と聖剣研究で犠牲者は出しません……あぁ、そうだ、天に登った貴方の兄弟たちから伝言を受けています。『僕たちはここで幸せになる。だからイザイヤ、キミはそこで幸せになってくれ』です。確かに伝えましたよ」
ミカエルさんの言葉を聞いて、師匠が膝を付きながら頭を下げた。
肩が震えているが、この場にいる全員が優しい瞳で見ていた……良かった、あの子たちが天国に行ってなかったら嘘だからな。
心配なんだろうなぁ、師匠も師匠で無茶するからな。俺が言っても説得力が全く無いんだが。
そう思っていると三大勢力の軍勢が集まってくる。どうやら事後処理が終わったらしいが各勢力が互いを睨み合っていた。
上からの命令だとしても敵同士だったもんな。もしかしたら戦った人たちもいたのかもしれない。
そんなときだ、アザゼルおじさんが一歩前に出て堕天使の軍勢に号令を出す。
「俺は和平を結ぶ。今後一切、悪魔と天使とは争わない……不服のあるやつは出て行って構わないが、邪魔するなら容赦なく殺す。ついてこれるやつだけついてこいッ!!」
『我らが命、滅びのその時までアザゼル総督のためにッッ!!』
おぉ、すげえ一糸まとわぬ綺麗なハモり方、カリスマはあるってわけだ。
周りではミカエルさんやサーゼクスさんも同じように確認をとっており、さっきまで睨み合っていた各勢力間の緊張感が一気にほぐれる。
皆、争いたくはないんだなと安心するがこれからどうなるかはわからない。
三大勢力が手を組むことによって不都合が生じる奴らがいるかもしれない。その時、今回のように実力行使をしてくる奴らも出てくるだろう。まぁ、そうなったら全力で叩き潰すがな。
そして各勢力が転移していくとひしめき合っていた校庭が広くなる。
残ったのはオカルト研究部の面々とアザゼルおじさん、サーゼクスさんとその脇に控えているグレイフィアさん、そしてソーナ先輩に抱きついているセラフォルーさんと副会長にロゼさんだけだ。
「終わった終わった」
「これからが始まりだろう、アザゼル」
大きく息を吐くアザゼルおじさんと違って、サーゼクスさんの顔は暗い。
セラフォルーさんもソーナ先輩に抱きついているが難しい顔をしている。悪魔は面倒だもんなぁ、基本的に利己的だし、サーゼクスさんたちがおかしいだけで一般的な悪魔ってのは基本無慈悲だと聞くしな。
調整が一番難しいのは悪魔なのかもしれない。旧魔王派が敵に回ってある程度混乱も起きるだろうしな。
これから世界はどうなるんだろうな、俺も含めて。
マジマジと自分の手を見る。
いつまでも見ないふりは出来ないんだろう。記憶を全部取り戻した時、俺はどうなるのかわからない。再び黄金を失ったり、牙狼でなくなってたりするのだろうか? アレだけ嫌がっていたのに、今では自分が牙狼だという自覚も出来てきた。
ただ一つ、分かることがある。
暗黒騎士・呀、アイツだけは俺の手で倒さなければならない敵だ。そして俺が超えなければならない壁でもある。
「双葉、もしも冥界に来ることがあれば俺を訪ねてこい。一から鍛えてやるよ……あと両親の話もな」
「はい、機会があれば」
そう言ってロゼさんはサーゼクスさんたちと共に転移していったが、セラフォルーさんだけ、俺をジト目で見ながらこう呟いた。
「シトリーにも顔を出してね、歓迎するわ☆」
……絶対に行かないようにしよう、あの目は合法的に俺を抹殺しようとしてる目だ。
何故か、ソーナ先輩がテンパっているがどうしたんだろうか? 副会長や朱乃先輩たちに睨まれているのはホントに何故? 俺悪くないよ!?
そんな俺達の様子を見ながら、アザゼルおじさんは苦笑しながら言う。
「あぁ、俺は暫くここに滞在するからな。赤龍帝、あとそこにいるハーフヴァンパイアの小僧を一から鍛えてやるよ」
「えっ?」
イチ兄が間抜けの声を出すが、アザゼルおじさんは心底楽しそうにつぶやく。
「赤は女を。白は力を。金は守りを。――――どれも驚くほど純粋で単純なもんだ」
****
後に『駒王協定』と呼ばれる和平協定が制定されて、慌ただしくも平穏な日々に戻った俺達だったが、突然の来訪者に揃ってお茶を噴いた。
「ア、 アアアアア、アザゼルおじさんんんんん!?」
「おう! 今日からオカルト研究部の顧問になったアザゼル先生だ。お前ら、俺を敬えよ」
着崩したスーツで笑うアザゼルおじさんに唖然としているが、リアス先輩まで驚いてるってことは聞いてないのかよ!?
ていうか最近、ソーナ先輩が遠い目してたのはこういうことかよ!!
「どうして貴方がここに?」
「セラフォルーの妹に頼んだら、この役職にな! 本当は双葉のクラス担任したかったが、さすがに担任は無理だったが副担任はできたんでな! つまり双葉よろしくな!」
俺は天を仰ぎながら、ソーナ先輩に抗議の意を送る。
が、後日判明した事実だが、アザゼルおじさんがセラフォルーに頼もうとして渋々了承させたらしく、俺がブチ切れて昔のように正座で説教したりしたのは余談だ。
俺は頭痛を覚えながら、お茶を啜る。
アザゼルおじさんはどかっとソファにくつろぎながら、懐から酒を出してグビッと飲みだした……こ、こんの不良教師ィ。
「まぁ、俺がここに滞在するのもお前らの警護と稽古の面が強い。俺の神器への知識で赤龍帝とハーフヴァンパイアの神器を正しく成長させるのはサーゼクスに頼まれたことだ。そして双葉は金色を取り戻したからな、暗黒騎士の野郎が狙ってるだろう。今のままじゃ勝てないし、あの姿は本来の牙狼じゃないしな」
アザゼルおじさんに言われたとおりだが、俺の牙狼はザルバに見てもらったところ、出力的に不安定な面が以前の鎧より多いらしい。金色は戻ったけど、俺の精神面の問題から本来の鎧を形成できていないらしい。
あっ、でもこの鎧にも利点あるんだわ。右腕と左腕にアームガードっぽい小型の盾が付いたんだよな。あとそこに剣を打ち合わせると烈火炎装が出来るようになった……相変わらず鎧の召還は99.9秒のままだがな。
……にしても暗黒騎士か、今のままじゃ絶対に勝てないな。
「不安な顔するな。今は準備期間なもんさ。お前らが学園生活を終えて社会人になる頃まで戦いは本格化しねえよ……多分だがな。まぁ、備えられる間は備えるさ。なんだかんだ、お前らは強者とまみえる縁があるらしいからな」
アザゼルおじさんの言葉に皆が遠い目がする。
この数ヶ月でありえんほど戦ってるからなぁ、俺たち。最近、リアス先輩がイチ兄に甘えるレベルが上がっているが、ストレスもあるんだろうな。
というか『禍の団』だったか? あいつらも納得がいかないのは分かってるが、俺達を巻き込むのはやめてくれよ。抗議活動ならいいんだが、世界巻き込んでのクーデターとかかんべんしてくれよな。
「とりあえずこの中で一番神器の扱いに慣れてるのは聖魔剣の木場くらいなもんか。あとの二人と双葉は出力が安定させることを第一に考えろ、お前らの爆発力には光るところがあるが、格上には完封される」
デスヨネーと俺達は肩をすくめる。
ヴァーリに勝てたのも単純に相性の問題だ。イチ兄のアスカロンがなければ俺たちが負けてた可能性が高いし、魔力に関しても俺とヴァーリはどっこいか俺がほんの少し高いらしい。
あれからイチ兄と特訓してるがヴァーリから奪った力、イチ兄は『
ドライグが言うには禁手を完全に習得して、長い年月をかければ扱えるようになるらしい。あの時発現したのも近くに白龍皇がいたからだとも推測している。
「とりあえずハーフヴァンパイア、お前はその対人恐怖症をどうにかしろ」
「は、はぃいいいいいいい!!」
泣きながら紙袋をかぶるギャー助にアザゼルおじさんは頭を抑える。
これでもマシになったんだぜ? 俺とイチ兄が頑張ってダンボールに引きこもらせなくしたが……たまに逃げるんだよなぁ。
次にアザゼルおじさんは師匠に質問した。
「聖魔剣の。お前さんは禁手をどれくらい維持出来る?」
「現状で三時間です」
「話にならん。最低で三日だな」
「あ、あの俺は十秒なんですけど」
「お前は論外だ。ヴァーリは一ヶ月持つぞ、これがお前らが戦う相手との距離だ」
遠すぎて目眩がするな、俺なんて99.9秒だぞ? どうにもならねえよ。
イチ兄は十秒といっても代償を使った擬似禁手だからな。本格的な禁手になったら俺より長いんだろうな。
あーあー、俺も両親の血が少しでも継げてたら違ったのかもしれない。ザルバから言われたが、基本的に人間と人外だと基礎スペックが違いすぎて、鎧の召還時間や最終的に到達できる場所が違いすぎるらしい。
長生きってずっこい。
「双葉は……まぁ、お前はロゼに鍛えてもらえ」
「えっ? おじさんも魔戒剣をもってるんじゃ?」
イチ兄から聞いたが、魔戒剣っぽい神器持ってるって聞いたが?
アザゼルおじさんはポリポリと頭を掻きながら言う。
「教えたいが、魔戒騎士の基礎はあいつくらいにしか教えられん。鎧の持続時間はどうにか出来るかもしれんが、剣も聖魔剣の奴に教わっているんだろ? お前は俺にとっちゃ専門外だ」
それだけ言うとアザゼルおじさんは朱乃先輩に向き直る。
にこやかに笑ってるが、拒絶の意思が見えるよ朱乃先輩。
「まだ、俺たち――――いや、バラキエルが憎いか?」
「許すつもりはありません。あの人のせいで母は死んだのですから。双牙くんだってあの日にッ!」
……よく覚えていないが、どうやら俺は朱乃先輩のお母さん、朱璃さんが死んだ日に一緒にいたらしい。そこで何かがあって、俺も死にかけたらしい。
双牙くんと言われる度に、少しイラッとする。朱乃ちゃんが悪いわけじゃない。この人にとって、俺は兵藤双葉というよりも冴島双牙と見るしか無いんだろう……だけどその事実が少し、いやかなり嫌だ。
アザゼルおじさんはため息を付きながら、朱乃先輩に言う。
「お前が悪魔に下った時、あいつは何も言わなかった」
「当たり前です。あの人に私に何か言う権利はありませんから」
「……だがこれだけは覚えておけ。あいつは今でもお前のことを想っている。お前が嫌おうが何しようが、あいつは決してお前を見捨てたりは……いや、すまん、これは言うべきじゃなかったな」
朱乃先輩の表情が怒りに包まれるが、咄嗟に俺は手を握る。
驚いたようにこちらを見るが、俺はかける言葉が見つからない。
多分、バラキエルさんのことを朱乃先輩は許すことが出来ないんだろうけど、俺は親と不仲になる朱乃先輩が見たくはない。
だってさ、生きてるなら許せるかもしれない……死んだら、笑うことも、怒ることも出来ないんだから。
俺がバルパーやコカビエルを生かしたのも、両親を失ったというトラウマが知らず知らずに影響してたんだろうな。
「すまん、親子の間には入らないほうが良かったな」
「あんな人は父なんかじゃ――――ッ! 今更どんな顔で父親と言えばいいんですか」
複雑な表情で俯く朱乃先輩に、皆が閉口する。
こればっかりは俺にもどうしようもないし、ギャー助も思うところがあるのかこちらを見ている。両親と不仲ってのはギャー助もそうだからな。
雰囲気を明るくしようとアザゼルおじさんはイチ兄と俺に話しかける。
「まっ、これは置いといてだ。兵藤一誠! イッセーでいいか? そして双葉もだが、お前ら二人中々スケベ根性してたな。イッセーの方なんかハーレム王になるのがゆめなんだっけ?」
イチ兄が歯切れ悪いが、アザゼルおじさんが言ったセリフに食いつく。
「そんな顔するな。ここに過去何度もハーレムを築き上げた男がいる」
「ま、まじっすか!!」
「あぁ、マジだ。イッセーと双葉、お前らは童貞か……仕方ねえ、適当な美女で卒業させてやるよ」
「「マジで!?」」
俺とイチ兄が同時に食いつくが、そんな餌に釣られないクマーって言われても知るかぼけええええええええ!! 童貞卒業とか男子高校生の夢ですよ、希望とも言っていい。あと少しで夏休み、つまりは童貞を散らす奴らが多い時期ッ!!
アザゼルおじさんが天使に見えるぜ、いや元天使なんだけどさ。
「食いつきがいいなぁ、双葉はイッセーの影響だがそれでいい。男はスケベ上等! 抱きまくれば男としての自信もつくからな……よし、ウチから上玉何人か見繕ってやるよ。赤龍帝とアイツの息子って言えば手あげる奴ら多数だしな」
うぉおおおおおおおおっ!! まじですか? まじでしちゃうの!? アザゼルおじさん!! いやアザゼル先生!! 俺たち一生ついていきますよ!!
いやぁ、母さんに感謝しなきゃ。
「おぉし、じゃあ今から童貞卒業ツアーと洒落こむか。双葉、お前の母さんの話もしてやりたいしな」
「なんか釈然としないけどおっすお願い――――あだだっだだっだっ!?」
乗り気だった俺達の耳が、怒り心頭と言うふうのリアス先輩に抓られる。
な、なんでや!! 童貞捨てたいんですよ! 俺たち、男の童貞なんか処女と比べたら月とスッポンですって!!
「駄目よ! アザゼル、あんまりこの子たちを誘惑しないで」
「堕天使にそれ言うかね。でもいいじゃねえか、このくらいの年頃なら女の一人二人くらい知っといたほうがいいぜ?」
「この子たちの貞操は私が管理します! あとイッセー! 私の処女が欲しいっていうのにあなたは見知らぬ誰かに童貞を捧げるの!?」
とんでもねえ一言だが、イチ兄が顔真っ赤にして平謝りしてやがる。
こりゃダメだ、結婚しても尻に敷かれるなイチ兄は……でも尻に敷かれる、すごく甘美な響だよね。
「双葉くん、少しお話しましょうか? アーシアちゃん、小猫ちゃん彼の体を持って?」
ん? あ、朱乃先輩? 俺の腕掴んで……アーシアに小猫もどうした!?
というか怒ってる!? なんで!? アイエエエエエ!? こんなのテストに出ないよぉ……。
「ちょ、まっ、待ってください! 俺だけでもそのツアーに、ツアーにぃいいい!!」
「なんだどっちも女が……まぁ、ドラゴンと強者には女が寄ってくるもんだ。俺が教えなくても良かったか」
なんか納得してるしぃいいいいいいい! おじさん助けてぇえええ!!
というか師匠とギャー助、見てないで助けて!! 笑うなぁあああ!!
「双葉さん、私じゃダメですか?」
「……双葉には教えこむ必要があるみたいですね」
何を!? 肉体言語ですかね! どーなどなどーなーとイチ兄が口ずさんでんじゃねえよぉおおおおおお!! 弟助けて、兄ぃいいいいいい!!
というか最近、こんなオチが多くないですか!? やめてえええええ!! 助けてえええ!!
「双葉くん」
「双葉さん」
「双葉」
「や、やめろぉ!! ほぎゃあああああああああああああああああああああ!!!??」
この後、三時間近く説教された俺は真っ白どころか砂になりそうだった。
おじさんとイチ兄がゲラゲラ笑ってたので、本気でブチ切れて牙狼を纏って深夜の学校で鬼ごっこしたのは完全に余談であり、それがバレたせいでソーナ先輩からも説教を受けるという理不尽と匙先輩からすっごい睨まれた……な、なんで俺だけ。
****
そして終業式が終わった俺達は家に帰っていたのだが……その、家が……えっとな。
「あ、あんじゃこりゃあああああああああああ!?」
(某BGM)なんということでしょう、2階建ての普通の一軒家が漫画で出て来そうな豪邸へ早変わりしているじゃありませんか! って本当に何!?
イチ兄が叫んでるがほんとだよ! どういうことなんだよ!? ウチなの!? あっ、表札に「兵藤」って書いてある、ウチですわ。
「あら、もう終わってたのね」
「リアス先輩の差金っ!? てかこんなの俺たち聞いてない!!」
い、いやそういえば父さんが「今度ウチ、リフォームするかも」とか漬物食いながら言ってたが……リフォームってレベルじゃねえよ!? これには匠も苦笑いって言ってる場合かぁあああああああっ!!
「双葉くん!」
「朱乃先輩!? あっぶなっ!?」
突然声が聞こえ、振り向いたら朱乃先輩が俺に抱きついてきていた。
なんとか受け止めるが朱乃先輩が抱きついてはなれない……アーシアが涙目になって背中叩いてくるが、俺は悪くねえ!!
というかどうしたんだろうか? 今日は部活動はないから解散のはずだが?
そして後ろではゼノヴィアと小猫が馬鹿でかい荷物を背負っていた。
「どうしたんだよ、ゼノヴィアに小猫はその荷物は」
「聞いてないのか、マスターは? あぁ、そういえばこれは秘密だったね」
「……不束者ですかよろしくお願いします」
は? と思っていると玄関から母さんが出て来て、こちらに走って来る。
母さんがいつもの恰好だから安心したわ。これでドレスなんて着てたら卒倒してた自信がある。
「おかえり皆。それに三人とも来たわね、どうぞ上がってちょうだい」
「いやいやいや!? 説明プリーズ! ポルナレフもびっくりのキンクリだよ!」
「そういえば双葉は説教されて知らなかったわね。お兄さまの命令でね、『眷属同士のスキンシップのため同棲すること。女性たちは全員、兵藤兄弟と暮らすべし』って言われたのよ」
「サァアアアアアアゼクスさぁああああああああああん!!」
冥界にいるであろうサーゼクスさんに恨みを持って叫ぶ。
畜生、最近メル友になったミカエルさんに言いつけるぞ!! ていうか、ミカエルさん! 天使の罰を! 罰をオナシャス!!
――――女性には優しくするんですよ、双葉くん。
「ミカエルさぁああああああああああああああん!!!?」
駄目だこりゃ!! 前門の魔王、後門の堕天使、天門の天使に囲まれて逃げ場所がないッ!?
「今日から双葉くんと一緒に寝ますわ」
「だ、駄目です!! 双葉さんは私と一緒に寝るんです!」
「ちょっと朱乃、それは許さないわ! 双葉と一緒に寝たらあなた襲うでしょ!?」
「ふむ、私はイッセーと寝るか。何、近藤さんの準備は万端だぞ」
ちょっと黙ってろゼノヴィア! 俺の目が黒いうちはイチ兄とは寝かせんぞ!!
というか朱乃先輩は離れてください!! あと寝るとか冗談ですよね? 確かに昔はよく昼寝してましたけど、アレは小さい頃だから出来ただけで、あと朱璃さんもいましたし!!
あぁ、もうめちゃくちゃだよ! 頼むから、頼むからさぁ――――。
「俺に平穏をくれええええええええええ!!」
『無理だろ』
ザルバの無慈悲な声を聞きながら、俺は天に叫んだ。
どうやら俺たちの平穏な日々は当分先らしい。
モゲロと言いたいですが、双葉この時点で手出す気が一切なし。理由としては自分が人間だから愛し合ったら死んだ後が悲しいのと、両親が死んでいるせいで手元に大事な物があるのが怖いということです。つまりヘタレ(無慈悲)
ようやく終わったああああああああ! のと暫く休みます。一気に書きすぎて気力が。
ゆったりと書いて次は5巻部分……さぁて双葉をどう絡ませるか。