朝、久しぶりにパッチリと目覚めた俺は起こしに来た執事さんからご両親が帰られたと知らされた。
ついでに朝食の時間だったため、ダイニングルームまで着いて行くとご両親らしき人がいた。
お父さんの名前はキシア・シトリーさん、お母さんの名前がラクスリナ・シトリーさんというらしい、というかご本人さんたちから挨拶された。
お父さんは目元が鋭いがだいぶ優しい人で、お母さんの方は綺麗な黒髪が特徴の大和撫子……というか和服着ててびっくりしたよ、なんでも江戸時代に日本に行って以来愛用しているそうだ。残念ながらお胸はそこまで……そういえばソーナ先輩もセラフォルーさんも……いや、やめておこう、この話題は危険だ。
「昨日はすまなかったね。にしてもセラフォルーもいるとは家族で食べるのはいつぶりだろうか?」
「んー、わからないけど嬉しいわ☆」
「お父さまったら……ごめんなさい、双葉」
「き、気にしないでください」
ぎこちない笑みを浮かべる俺、それもそのはずだ。
なんでかキシアさんの隣に座らされているからだ。その隣はセラフォルーさん……何ぞこれぇ!?
ちなみに匙先輩たちは両手で合掌していた、諦めんなよ!! ていうか助けてええええ!! 目の前の美味しそうな料理も手がつかねえええええ!!
魔王とシトリー家の家主に挟まれるって何した俺ぇえええええ!? あれか、うちの娘になんかしやがってとか!? 畜生、セラフォルーさん恨むぞぉおおおお!!
「食べないのかい?」
「い、いえ、あのテーブル・マナーを知らないものでして」
グレモリー家の方が気が楽だったよぉおおおお!! こんなことなら覚えておけばよかったぁああああ!! 助けてええええ!!
俺の様子を苦笑しながらラクスリナさんが笑いかけてくれる。
「良いのですよ、あなたは客人なのですから……暫くは滞在するの?」
「あー、それが明日には番犬所に」
ロゼさんから朝に連絡が来たのだが、なんでもアザゼルおじさんとの会談があるので冥界でも観光してこいと言われた。まぁ、一日だけ伸びるだけなので良いのだが。
それを聞くとラクスリナさんは残念そうな顔をする。
「あら、残念だわ。この期にマナーなどを教えこもうと思ったのに」
なんで!? と驚くが、ソーナ先輩が何故か顔を真っ赤にしながら立ち上がった。
「お、お母さま!! 性急過ぎます! 第一、双葉とはまだその……」
「まだ? セラフォルーの話ではBまで言っていると……はぁ、あなたは昔から奥手過ぎます。リアスちゃんを見習うのです、赤龍帝の彼とは毎日寝ていると」
「リアスを参考にしないでください!! 私には私のペースがあります!!」
な、なんか親子喧嘩になってるような? 俺のせいってのはわかるがBってなんだよ、セラフォルーさんや。
てかなんだ? マジでわからない、とりあえず目玉焼きをパクリ、うん美味しい。
「……双葉くん、君は娘をどう思っているんだい?」
「えっ!? あ、いやあの……その、頼れる先輩だと思っています。何もしていなかった自分を生徒会に入れてくれて、学校を別の角度から見れるようになりました」
「ふむ、悪くはないというわけか」
それだけ言うと満足そうに頷くキシアさん。
だからなんだってんだよおおおおおおおおおおおおおお!!! 誰かおしえてくださいッ!!
「双葉ちゃん、双葉ちゃん、ソーナちゃんから聞いたんだけどペンダントをプレゼントしたらしいわね」
「あぁはい、申し訳ないくらいの安物ですけど」
「ソーナ、詰めが甘いのです。そこで連れ込むくらいの気概がなければ物にできません、ただでさえ魔戒騎士、特に黄金騎士は命を落とす可能性が高いというのに」
お母さんがすげー怒ってるがどうしたんだろうか? 物にする? アレか! 俺を氷漬けに!! な、何をするだァーッ!! って言っておいたほうが良い?
ヒートアップしかけていたラクスリナさんを止めたのはキシアさんだった。
「こら、そこまでにしなさい。それに彼だって受け入れるかどうか決めていない、ただでさえ寿命の問題もあるんだ」
「……そうね、ごめんなさい。ただでさえソーナは気難しくて嫁に行くかどうか心配で」
「ん? ソーナ先輩嫁に行くんですか?」
モグモグとサラダを食べながら、俺がそう言うと場が凍った。
えっ? 俺なんか失言した? というか生徒会メンバーが天を仰いでいるんだがほんとどうした!? セラフォルーさんが俺の肩を掴んで、あっ? ちょっと!? ど、どこに!?
「……一度説教した方がいいわね」
「あの、セラフォルーさん!? マジな口調はやめてください! さ、匙先輩助けてええええ!」
「悪い双葉、今回だけは助けねえ」
う、裏切り者ぉおおおおおおおお!!
「いや、ちょっと怖い! た、たす――――あんぎゃああああああああああああああ」
この日、俺は人間は氷漬けにされても生きられること知った。
****
「ふーむ、性急過ぎたな……ビショップをg4に」
「いや、ちょっと話がわからないんですけど……じゃ、このナイトでe5のポーンを取ります」
セラフォルーさんの折檻(という名の憂さ晴らし)をされて、賑やかな朝食が終わった。
俺はシトリー城の案内をしてくれると聞いて着いていこうと思ったが、キシアさんがチェスでもどうかねと無言の圧力をしてきたので、今こうしている。
本当はそっちが見たかったが、ソーナ先輩が何故か期待するような目でこちらを見ていたため受けた。
正直に言う、強い、強すぎて笑える。
ソーナ先輩にどんだけ手心加えられていたのかよく分かる。
いや、ボコボコですよ。俺だって暇な時間かけて、チェスの本とかネットでプロの試合見てるけど一回も勝てないっす。
ソーナ先輩の父親だけあって凄い強い。俺なんかがやってもこの人の相手は務まらなそうだ。
「ではこれでチェックだ」
「うぇえ!? えーと、えーと……あぁ、もうだめだこりゃ」
両手を上げて降参する。
その様子にキシアさんは顔を綻ばさせる。
「何、筋はいい。ソーナともすぐに打てるようになるさ」
「自信なくしますよ、これでも結構勉強したんですがね」
「ふふっ、早くソーナを負かしなさい。あの子もそれを望んでいる」
いつになるんですかねと俺は思う。
現在ですら負け越してるんだしさ。最近は打ち合えるようになったけど手心に手加減されてようやくって感じだ。つうかチェスが俺には合わない、俺はポーンなんだよなぁ、キングはイチ兄みたいに誰かを引き寄せる人がやるべきだ。
てかソーナ先輩が負けるのを望んでいる? なんでだ?
「聞いていないのか? あの子にもリアスさんのように婚約者がいたんだ。もっとも私が用意したんだがな」
「へぇ、じゃあソーナ先輩はその人と?」
「いや、ソーナは結婚を拒否した」
……えぇ、じゃあソーナ先輩もライザーみたいなやつがいたのか?
俺の表情を読んだのか、キシアさんは頷く。
「そうだ、そこであの子はチェスでの勝負を持ちかけてきた。負ければ学校を退学、一気に結婚という内容でね。グレモリー卿とも話したが、私たちは性急すぎてね」
気が早い、がわからなくもない。
純粋な悪魔の子供は必要だろう。これから転生悪魔との子供増えるが、上級悪魔同士の婚姻によって生まれる子供はそれだけで価値がある。
ミリキャスなんていい例だ。リアス姉さんに聞いたが、魔王の息子ってだけで派閥ができているらしい。
それにこの人達は前回の大戦を生き抜いた猛者だ。
若い命が散る姿を何度も見てきたんだろう。ワガママくらい許されるさ。
にしてもソーナ先輩、凄いな。それだけ自信があったということなんだろうな。
「相手を完膚無きまで叩きのめす姿は娘ながらに戦慄したよ。あの子の戦術眼は本物だ、経験さえ積めば立派な『王』になる」
「ええ、ソーナ先輩ならきっと最高の『王』になりますよ」
俺は力強く頷く。
実際、ソーナ先輩の指示は的確だし、その人の特性にあった戦い方をなるべくしてくれる。
ソーナ先輩自体も強いしな。水を使った魔力攻撃は俺でも受け流すのがやっとだ。
「黄金騎士にそう言ってもらえるのは親として嬉しいものだ」
「いえ、俺は未熟な魔戒騎士です。先代の足元にすら及ばない」
拳を握りながら、俺は父さんの姿を思い出す。
あの太刀筋、力強さ、そして父としての背中は俺には無いものだ。
あの人と比べたら俺なんてまだまだだ。黄金騎士を名乗るのもおこがましいくらいだ。
だが、キシアさんは首を振る。
「いいや、君は黄金騎士だ……若手の会談での出来事を聞いたよ。娘を庇ってくれたそうだね」
「庇ったというよりも俺が勝手にキレただけです。もしもあの人達に謝れるなら謝りたい」
まぁ、形式だけだがな。絶対に心から謝るもんか。
だけど建前としていっておく。さすがに悪魔を敵に回すのだけは避けたいからな。
しかし、キシアさんは暗い顔をしながら、手をテーブルに付けながら話しだした。
「こんなことを君に言うのはなんだが……ソーナは昔から聡明な子でね。小さいながら才を見せた天才であったんだ」
「姉が魔王だから頑張っただけってソーナ先輩から聞いたことがあります」
「そうだな。確かにあの子はセラフォルーを反面教師に努力した。セラフォルーは長女だけあって自由に育てたら、あぁなってしまったしな」
遠い目をするキシアさんに、俺は目をそらす。
冷静に考えればセラフォルーさんの普段着は親からしたら憤死ものだろうな。フリフリの魔法少女コスした魔王とか俺だったら卒倒する自信がある。
キシアさんたちの心情を思えば涙すら出そうになる。
「セラフォルーは生まれながらにして強大な悪魔だった。だからこそ早々と私達のもとを離れ、戦線に出ていった。そこは誇らしいが、唯一教育を誤ったと今でも思う」
「いや、キシアさんは悪くないですよ。セラフォルーさんのアレはストレス発散だと聞きますし」
メールでぶっちゃけられたが、あの格好はストレス発散するためにしているんだと。
まぁ、魔王はきっちりやってるし、セラフォルーさんの性格からしてストレスが溜まりに溜まってるんだろうな。アレだ、バリバリのキャリアウーマンが実はコミケでコスプレイヤーとかそういうノリ。
それにしてもはっちゃけ過ぎだがな。
「ストレス発散、か。アレも良い人がいれば良いのだが……我が強すぎてな」
「あー、お見合いとかしないんですか?」
「出来ればさせたいが、あの子は魔王だ。おいそれと見合い相手など見繕えば裏で血が出るのは間違いない」
Oh……裏工作怖いな。
そうだよな、忘れそうだけどセラフォルーさんって冥界でも屈指の権力者なんだよな。
んなことすりゃ、他の上級悪魔の家が黙っちゃいないってか。結婚だけでこうなるのは面倒だ、やっぱ家庭持つのはろくなもんじゃ無いな。
「……双葉くんならどうだ?」
「勘弁してください。ただでさえメールだけでもきついんですから」
さすがに無理! というかあの人を止められる人はいないのか? いないよなぁ……意外と匙先輩とかお似合いそうだが、神器で暴走するセラフォルーさんを止める。中々いいんじゃないか? ただし匙先輩の胃が壊れそうだが、あぁいう人に限って好きな人が出来たら落ち着きそうだよなぁ。
キシアさんは冗談だと言って顔を緩めるが、目つきが本気だったんですがそれは。
「ふむ、それは追々だな。セラフォルーのことはいいんだが、それよりも心配なのがソーナでね。あの子は役割を忠実にこなそうとする悪い癖がある、いや私達が作ってしまったか。セラフォルーを自由にさせた分、当主になるソーナへの教育を私たちは念入りにやった……今にして思えば、あの子があぁなったのは私達のせいだ」
「そんなことはないですよ」
「いいや、君と出会う前のソーナはセラフォルーとは違い、あまり我を出さない子だったんだ……だから、感謝するよ双葉くん。あの子を普通の子のように接してくれて」
頭を下げてくるキシアさんに俺は慌てる。
そ、そんなつもりはないですし、ソーナ先輩は昔から優しかったって眷属の皆から聞いてます! 多分、ソーナ先輩が明るくなったのも牙狼っていう憧れの魔戒騎士に会ったからだし。
「いいや、セラフォルーが手紙を見せてくれたが君のことが書いてあったよ。ただの黄金騎士ならばあの子はあそこまで君を気に入っていないさ」
「そ、そうですか?」
「……ふーむ、君はもう少し自信を持ったほうが良い。ここ数ヶ月の戦いぶりは称えるべきものばかりだ」
そうなのかな、いやそうだな。
人間の身からしたら一生分の強敵に出会っただろう。堕天使、上級悪魔、堕天使の幹部に『白い龍』……うわぁ、改めて思ったがよくも生き残ったもんだ。
いや、自信は持ってたけど記憶のせいで打ち砕かれたって言うのがホントのところだな。兵藤双葉なら誇るべきだろうが、冴島双牙なら当たり前だと思うべきか。
「双葉くん、君が将来的にソーナとどうなるかはわからない。私達も決して強制はしたくないのでね。あの子自身に答えを出させてあげようと思う」
「答え?」
俺が首を傾げるとキシアさんは少しため息を付きながら口を開いた。
「ここまで鈍いと大変だが……まぁ、あの子の選択だろう」
「?」
キシアさんが苦笑しながら俺をじっと見つめていたが、結局その笑みの真意を知ることはできなかった。
****
「粗茶ですが、どうぞ」
「……」
あの後昼食を挟み、キシアさんからチェスの指南を受けていたのだが、ラクスリナさんが俺とお茶をしたいということでラクスリナさんの自室に向かったが……純日本風の部屋だった。
床は畳、部屋は襖で仕切られていて書道とかなんかこういかにも和室! みたいな雰囲気を出していた。
朱乃先輩から作法習っといてよかったわ。まさか冥界に来て、お茶をいただくとは思わなかったが。
ラクスリナさんから渡されたお茶碗を作法通りに飲む――――やっぱ苦い。
「フフフッ、お客様にお出しするのは初めてですがどうですか?」
「苦いですね、俺はこの味がよくわかりません」
気取っても仕方ないので正直に言う。
ラクスリナさんは口元を隠すように裾を当てるとクスクスと笑う。絵になってるなぁ、黒髪だから仕草とかが凄い似合う。
「残念、良かったらお茶の相手をしてもらおうと思ったのですけど」
「申し訳ないです」
「気にしなくていいわ。……ふぅ、ソーナの手紙どおり中々ストレートに言うわね」
頬を掻きながら顔を引き攣らせる。
ソーナ先輩とちょっと話し合おう、なんかとんでもねえこと書かれてる気がしてきた。
にしても凄いなこの部屋。ホントに日本にいるみたいだし、部屋の中なのに小さな屋敷が立ってて、そこの縁側から見える景色は日本庭園そのものだ。
「見事なものでしょう? シトリーは水の扱いに長けていますので自然は大事にするのですよ。その点、日本の園芸技術は学ぶべきことが沢山ありました」
「確か江戸時代に日本に来たとか」
とんでもねえ話だな。目の前の人は二十歳過ぎたばかりのご令嬢に見えるが、体から出ている雰囲気は妙齢の女性そのものだ。そのギャップがいいとかイチ兄ならいいそうだな。
「当時、気まぐれで契約した人間が名のある大名でした。彼は武芸よりも芸術を重んじる人だったので色々と学ばせてもらいました……長生きすることは良いことよ」
「そ、そうですか」
チラチラと悪魔の駒を見せないでくださいラクスリナさん。
今の俺には悪魔の囁きですよ、ホント。
『双葉、まさかだと思うが一時の感情に任せるんじゃないだろうな』
「ザルバ、それはないよ。俺は人間で有り続けるって」
突然口を開いたザルバの言葉に、俺は内心ドキリとする。
悪魔になればもっと強くなれるとか頭にちらりと思い浮かぶからな……しょうがねえじゃん、人間の弱さは身にしみてるんだから。
『ラクスリナと言ったか? コイツをあまり誘惑しないでくれ、今はちょいと微妙な時期でな』
「あの魔導輪ザルバに言われたら引くしかありません……でも双葉くん、私はいつでも歓迎しますからね」
ニコリと笑いながら、悪魔の駒を裾に隠したラクスリナさんの表情は本気だった。
……まぁ、勧誘するよな。俺が悪魔になりゃ、そりゃ頼もしいだろうな。いや、正確には牙狼がか。
俺はおまけみたいなもんだろうしな。
ラクスリナさんは表情を変えずに、俺に質問してきた。
「そういえば双葉さん、あなた冥界語は扱えるかしら」
「一通りは覚えてますが、まだまだです」
リアス姉さんやソーナ先輩から、読めておいたほうが良いとイチ兄たちと共に教えてもらったが意外と単純だから覚えやすかったよ。まぁ、覚えるだけで扱えるとは言っていない。
俺、筆記とかリスニングはいけるんだが喋るのが辿々しくてなぁ。アーシアのときも苦労したもんだ。
「軽い文章くらいは書けるのかしら?」
「短文ならなんとかってレベルですが、まだうまく書けないんですよ」
悪魔文字ってこう……ミミズが這いずり回ったあとみたいな感じの文字なんだよな。
うまく書けないというか、少しでも間違えると全く違う文になったりするので書き取りは意外と面倒なんだよな。
それだけ聞くとラクスリナさんは思案顔をしながらブツブツとつぶやく。
「ならば立ち振舞いなどを教え込めば……ソーナの話では異常に飲み込みが早いと聞きますし……あぁ、時間さえあれば色々出来たのに」
「ザルバ、ラクスリナさんどうしたんだろうか?」
『……はぁ、リア充爆発だっけか? お前は一回、爆発しても文句は出ないと思うぞ?』
唐突なザルバの言葉に俺は噴き出す。
どっからそういう知識を……あぁ、たまにアーシアと漫画読んでるからそのせいか!? というかザルバって意外と天然だよな。偉そうに見えてコメディチックというか、天然ボケ? 相棒としちゃ頼れるんだが日常生活だと抜けてるんだよなぁ。
「……なんにせよ、あの子が選んだ子だから。双葉くん、あなたがどう思っているか知りませんが、私はあなたを迎え入れる準備があります」
そ、そこまでして俺を眷属にしたいのか!? ラクスリナさんほどの人物だから、眷属は揃っていると思ったが意外と集まっていないのかもしれない。
黄金騎士を迎え入れれば箔がつくし、そういうことなんだろうな。
『ラクスリナ、一つアドバイスしてやろう。コイツに回りくどいことをするな』
「安心しなさい、外堀をゆっくりと埋めていくわ」
何を安心すればいいんだろうか? 俺は黒い笑みを浮かべるラクスリナさんに苦笑しながら身の危険を感じた。
****
「あー、食った食った」
「双葉、食い過ぎだよ……どこにあれだけの量が入ってんだ?」
パンパンに膨れた腹を擦りながら、俺はベッドの上に転がる。
部屋にいるのは匙先輩だ。夕食後に一緒にお風呂に入ったが、なんか昨日から匙先輩の視線がイチ兄と似てきたんだよな。卑猥的な意味ではなく、なんか兄的目線なんだよ。
悪い気はしないけどな。
「皆驚いてたな、まるで掃除機のように食うもんだから料理人さんたちも忙しそうだったぜ」
今日一日は久々に休めたからなぁ。頭痛とか疲労も出ないけど、この頃よく腹が減るもんでついつい食いすぎちゃったんだよなぁ。
いやぁ、冥界風寿司とかパスタとか、魚介類の食材がふんだんに使われた夕食はスゲーうまかった。グレモリー家では肉とか出てきたから、いやぁココ来てよかった、良かった。
温泉も気持ちよかったなぁ、半分俺が寝てて匙先輩がいなかったら溺死してた可能性あったが。あのときの必死な匙先輩には本当申し訳ないと思う。
「匙先輩、修業の方はいつから?」
「ん? 明日からだ。どうせならお前を見送ってからって話でな……まぁ、会長も休息が必要だったからな。もちろん、お前もな」
「大丈夫ですよ、今日一日はしっかり休みました」
うん、これは本当だし、今だって体に魔力を回してなるべく疲労を抜くようにしている。
一応魔力を常時回すのも修業なんだぜ? いついかなる時にも即座に魔法を発動して敵を迎撃する。俺は人間だからな、まともな一撃が当たれば即座にダウンする。
「心配のしすぎですよ」
「無茶をするお前に心配のしすぎも糞もあるか……おっと、もうこんな時間か」
壁にかけられた時計の針は十時を過ぎたことを示していた。
夜はまだまだこれからだけど、明日も考えたらここらでお開きにした方がいいだろう。思った以上に風呂で長風呂をしていたらしい。
ちぇー、どうせなら男二人で猥談とかしたかったのに、匙先輩の好きな部位とかソーナ先輩との進展とか聞きたいのに。
「んじゃ、俺は部屋に戻るわ、ちゃんと寝るんだぞ?」
「匙先輩こそ寝てくださいよ? それじゃおやすみなさい」
おう! おやすみと元気よく返してくれた匙先輩が部屋から出ていくと途端に部屋が大きく感じる。
そういえば隣にアーシアがいないってのは久し振りだな。最近は朱乃先輩や小猫も一緒だし、そういえばひとり寝っていうのがご無沙汰だったわ。
……眠れるかな、てかアーシアはちゃんと眠れたんだろうか。俺がいないから、朱乃先輩と添い寝してると思うんだが大丈夫かな、涙目になってないだろうか? ちゃんと生活とかしているよな? あぁ、なんか心配すぎて目が冴えてきちゃったよ。
と俺が悶々とベッドに横になろうとした時、コンコンと部屋のドアがノックされた音が聞こえた。
「こんな時間に誰だろ? はーい、どうぞー?」
別に鍵もかけていないし、大方匙先輩だろうなと思っていたのだがノックの返事を返したのに扉の前にいる人物は中々入ってこない。
もしかして悪戯? だが唯一やりそうなセラフォルーさんは朝、怒りマークを付けた眷属さんにとっ捕まって強制連行されたはず。じゃあ生徒会の誰かということだが、有り得そうで困る。
あの人達、結構悪戯してくるしなぁ。真羅先輩も一応止めるが、本気で止めることはあんまりないしな。基本的に真面目だけど、息を抜くときは皆抜くからな。
しょうがない、今日は俺が行ったろう。どうせ、今「双葉は絶対に来ない」とか言ってんだろ!? もう引っかからないし!!
俺は抜き足差し足忍び足をして、気配を殺しながら扉の前まで歩き、一気に扉を開けるッ!!
「種はわか――――はぇ?」
素っ頓狂な声を出すが、そりゃそうなるわ。
目の前にいるのは寝間着姿のソーナ先輩だ。目を点にしながら俺の行動に驚いている。
あっ、可愛い――――じゃなくてぇ!!
「す、すいません! てっきり悪戯か何かかと勘違いして、あの、それで……」
「い、いえ、こちらもノックしたのに入らないで申し訳ないです」
「いえいえ、先輩だとわかってたら……あぁ、立ち話もなんですから入ってください」
立ち話させるわけにも行かないし、寝間着の格好で出歩かせるのは心苦しい。
けれどどうしたんだろうか? ソーナ先輩がこんな格好して部屋に来るなんて。
とりあえず部屋に通して、備え付けてあるティーポッドの中身をティーカップに注いで、テーブルの上に置く。
「ありがとうございます、ごめんなさい、突然押しかけてしまって」
「いや良いんです……何かありましたか?」
緩んでいた気分を引き締めて先輩の顔を見る。
こんな時間に訪ねてきたんだ、何か問題があったに違いない。
だがソーナ先輩の雰囲気はどうにも何かあったというよりも、恥ずかしがっているように思えた。
ソーナ先輩はティーカップをぐいっと一息で飲むと、意を決したように俺に言った。
「一緒に寝ませんか?」
「………………………はい?」
****
「……」
「……」
き、気まずい。
背中から感じる気配はソーナ先輩である。
あの後、もちろん俺は反対した。
先輩後輩の域を超えているし、万が一が起こったら責任が取れない、それにセラフォルーさんに知られたら俺が死ぬ。
だがソーナ先輩は涼しそうな顔で「昨日のお礼です」とクールに言ってベッドに潜り込んでしまった。
俺は諦めの境地だが、添い寝なら慣れているしベッドは広い。スペースを空ければなんとかなる、そう思っていた時期が私にもありました。
「……」
「……」
モゾモゾと俺がソーナ先輩から離れようとするが、ピッタリと背中につかれている。
ふんわりとシャンプーの匂いや体の感触、あと慎ましやかだと思ったが開放された胸の感触は結構大きかった。
正直に言う、寝れる訳がない。そこ、朱乃先輩たちと慣れてるじゃんとか言うな。慣れてても憧れの先輩と添い寝とか無理だから、腰の息子をウェイクアップさせないように必死だから。
そんなことを数十分続けたが、とうとう俺が観念して目を閉じる。
なるべくソーナ先輩を気にしないようにするが、視覚を閉じると嫌でも感触をありありと感じてしまう。うぅ、なんで女の子ってこんなに気持ちが良いんだよぉ。
「……寝てしまいましたか? 双葉」
「まだ起きてます」
そう言葉を返すが、心臓の音がどっくんどっくんうるさい。
「その、ごめんなさい。突然こんな事をして」
「いや、良いんですよ。大方セラフォルーさんが言ったんでしょう?」
絶対にそうだ、あの人ならやりかねない。
だが、ソーナ先輩は否定の言葉を口にする。
「いえ、自分の意思です」
「えっ!?」
俺は驚いて、後ろを向くとソーナ先輩が悪戯が成功した子供のように笑っていた。
メガネをかけていないソーナ先輩に少しドキリとする。ギャップ萌えってやつか、くそ男って単純だなぁ、オイ!!
ソーナ先輩の手が俺の頬に触れる。
「やっとこっちを向いてくれましたね」
「あ、あの先輩。やっぱ駄目ですよ。ほ、ほら! 校則でもあるじゃないですか男女の付き合いは健全――――」
「今の私は生徒会長ではありませんし、ここは冥界です。それにアーシアさんや、朱乃に塔城さんと添い寝しているんでしょう? 私くらい楽勝です」
んなわけあるかぁああああああああ!! あの三人は身内みたいなもんで、特にアーシアなんか目を離すわけには行かないし、朱乃ちゃんは昔の癖があるし、小猫は……あれは飼い猫だから!!
「余裕じゃないですよ」
「じゃあもっと余裕を無くしましょう」
増々笑みを深めて、ソーナ先輩は俺の体に抱きつく。
あばばばっばばばっばば、体の感触がダイレクトにぃいいいいいいいい!! てかこんな先輩知らない! これでプラカード持った皆が出てきて「ドッキリ大成功!」とかされたら、俺は泣くぞ!!
で、でも感じる魔力はソーナ先輩だし、プレゼントしたペンダントを持っているから本物だと思う。
ソーナ先輩は笑いながら俺の顔を見る。
「……自分でも驚くくらい積極的ね。眷属の子たちには見せられないわ」
見せたら弄られるの確定だし、匙先輩から折檻されるから勘弁してください。
俺はされるがまま、抱枕のように体をピンと伸ばして体を擦り付けてくるソーナ先輩に耐えた。
それを数分ほど続けたソーナ先輩は、俺の胸板に顔を埋めて口を開いた。
「双葉……昨日はごめんなさい。私は先輩なのに、あなたに甘えて酷いことを言ってしまったわ」
「……気にしてないですよ」
「中途半端な同情なら止めてください。これ以上は本気にするから」
何が本気になるのか分からないが、中途半端な同情などしたことはない。
俺はソーナ先輩の夢を応援するって決めたんだ。
先輩が倒れそうになったら助けるし、幾らでも励ます。途中でやめたって俺は先輩への態度を変えるつもりは毛頭ない。
あの場で堂々と自分の夢を語ったソーナ先輩は立派だ。少なくとも夢がない俺なんかよりもよっぽどいい。
「中途半端な同情なんかしませんよ。何時も通り、これは俺のワガママです。俺は俺の考えでソーナ先輩の夢を応援します。もちろん黄金騎士としてでもあるし、後輩としてでもです」
「……あなたは本当に優しい」
次の瞬間、ソーナ先輩が俺の服を破かん限りの力で握りしめた。
「でもその優しさが時に鋭い刃になることを知ってください。……絶対に勘違いする子がこれからも出てきますよ?」
「……勘違い、か」
そうだな、俺の優しさが逆に刃物のように人を傷つけることだってあるのかもしれない。
人には触れたくない過去や一人にして欲しいときもあるのかもしれない。特にソーナ先輩はそうだったのかもしれないな。
余計なお世話だったのかな、そう思うと少し心が痛いや。
「でも、双葉はそれで良いんだと思います。誰にでも手を差し伸べ、誰かの前に立ち、そして戦う。魔戒騎士としてあるべき姿です」
「俺は未熟者ですよ」
そうさ、心構えどころか鎧だって満足に――――何回目の自問自答だよ、どーも最近は湿っぽくて仕方ねえや。
ソーナ先輩は一度、俺の胸板から顔を離すと右手で頬を抑えながら顔を近づけてキスをした……キスをしたぁ!?
「な、そ、そそソーナ先輩!?」
「これかはソーナと呼んで下さい。いいえ呼びなさい」
「む、無理ですよ! ていうか、キスなんて……駄目ですよ、ソーナ先輩は大事な次期当主なんですから」
ていうかうまく頭が回らない。
ソーナ先輩の行動がよくわからねえ!!
「ここまでして気づきませんか……普通呆れるはずですが、これが弱みというやつなんですね。フフッ、まさか私がこんな感情を持つとは」
再び俺の胸に顔を埋める先輩は何故か上機嫌だった。
わ、わからねえ、女心ってのが本当にわからねえぞ? てかホント、なんでキスなんて……いや、待てよ?
そういえばリアス姉さんもよく俺にしてくれるわ。おでことかにお礼とか言ってさ。
なるほどなるほど、上級悪魔では親しい人間にはそう言う礼儀というかお礼の仕方があるんだろう。さすがセレブだ、理解できん。
「双葉、ソーナと呼んでくれないんですか?」
「……ソーナ先輩はソーナ先輩です」
「いずれは先輩ではなくなります。今年で私は卒業ですしね……その後も先輩と呼び続けるんですか?」
責めるような口調に俺は思わずたじろぐ。
まぁ、そうだよな。いつまでも先輩呼びは出来ないし……でも呼び捨てはさすがに無理だからさ、こうしようか。
俺はため息を付きながら、口を開いた。
「そ、ソーナ、さん……」
「……ふむ、まずは良しとしましょう。いずれは呼び捨てで呼んで下さいね。慣れてもらわないとこの先困ります」
耳まで真っ赤になった先輩がそう言うが、長い付き合いをするつもりなのか。
それもそうか、俺がジジィになってもソーナ先輩たちは生き続けるんだからな。
悲しいけど、俺が選んだ道だしな……まぁ、四十代超えた辺りから呼ばせてもらいましょうか。
「そろそろ寝ましょうよ、ソーナさん。明日に差し支えます」
「……はぁ、やはりリアスと一緒に生活しているのがネックですね、ここまでアピールして触れにも来ないとは予想外です」
何か悩んでるが、まぁいいや……また明日話しましょう。
俺は目を閉じると、急速に意識が落ちるのを感じる。疲れてたのかなぁ、精神的に。
そんなことを思いながら、俺は眠りの世界へ旅立った。
◯キシア・シトリー。ラクスリナ・シトリー
完全なるオリジナルキャラクター。ソーナの両親が出ていないので適当に盛っている。名前の由来は父親がキラ・ヤマト、シン・アスカからもじり、母親の方はラクス、ステラ、マリナと種、種死の主人公、ヒロインから取った。父親の容姿はキラの四十代的なイメージで、母親の方はステラの黒髪バージョン。父親は百年ほど人間界でチェスを楽しみ、母親は日本で庭園を習っていた。多分、そんなに出番はないがこれからも出る可能性はある。
双葉爆発しろ(真顔)。まぁ、コイツ肝心なところで気づかないというか敢えて見ないふりをしています。そもそも現時点では家庭を作る気が全く無いですからね、双葉は。こればっかりは双葉が乗り越えなければハーレムどころか、このまま独身END待ったなしです。