「もう行ってしまうんですか?」
「ロゼさんに大事な話があるって言われてるんで、すいません」
翌日の朝早く、俺はシトリー家から早々と出ることになった。
知らなかったのだがザルバは他の魔道具を通して、声を届ける携帯電話もとい糸電話のような役割も出来るらしく、寝ていた俺はザルバに起こされたというわけだ。
なんでも俺がしてきた数々の問題行動。特に悪魔の上層部に喧嘩を売った件が番犬所のお偉方にえらく気に入られなかったらしい。
ロゼさん曰く「ジジイどもの説教だが、これから魔戒騎士として活動するなら避けて通れない相手」と言われたので、シトリー家の敷地内までロゼさんが迎えに来てくれるらしい。
「ゆっくり出来れば良かったんですがね。父も母も何かと忙しいもので」
キシアさんとラクスリナさんは先程出立していた。
なんでも今度のレーティングゲームの調整役を受け持ったらしく忙しいらしい。
「気にしないでください。ご両親にはためになりました、と伝えてください」
「いえ、大したおもてなしも出来ず申し訳ない限りです」
そう謙遜するソーナさんだが、朝早いのになんか楽器隊やらがジャカジャカと集まってきてるのはどういうことなんですかね。
何? 練習? あっ、俺の見送り用? ……金持ちってしゅごい。
気を紛らわせるようにソーナさんを見ると、この間送ったペンダントを下げていてくれた。あっ、地味に嬉しいというか安物でほんとすいません。
俺の視線に気づいたのかソーナさんはにこやかに笑いながらペンダントを手に取る。
「気に入ってますよ。学校ではカバンに付けていつも持ち歩いています」
「そ、そうですか……」
なんか申し訳なく思える。
だって明らかに高価な寝間着から浮いてるんだよなぁ、安物だし……やっぱ背伸びしても高いの買うべきだったか? リアス姉さんからは「あぁいうのでいいのよ。私たちは慣れてるからプレゼントされることが嬉しいの」って言われるけどさぁ、男としてなんかこうもにゃる。
あっ、リアス姉さんで思い出したが今日からイチ兄たちは修業を開始するらしい。
冥界にも通信できる施設があって、朝早くわざわざかけてきてくれた。
おじさんもあっちにいて、イチ兄を重点的に見てくれるらしい。
何かと気に入ってるんだよなぁ、アザゼルおじさん。この前のおっぱい発言で相当笑ってたしな。
まぁ、おっぱいでドラゴンの力を引き出す奴なんて早々……いや、イチ兄が初めてだろうな。おかげでドライグからの念話の回数が増えてる。俺はカウンセラーじゃねえんだよぉおおおっ!!
はぁ、朝から疲れた。
「にしても双葉、体調については大丈夫ですか?」
「皆に言われますけどただの疲労が溜まってるだけです……魔力流せば大分解消されますよ」
今だって流してるしな、というかもう日常的に流してる。
その分、一回でも途切れると忘れてたように疲労がどかっと襲ってくるんだけどさ。
俺の明るい表情とは逆に、ソーナ先輩の顔は暗かった。
……そんなに酷いか? 俺?
「大方、また無茶をしてるんでしょう? あなたは一度しっかりと休養を取ったほうが良いです」
「……休む暇があるなら修行します。俺は強くなるんです、強くなって父さんみたいな黄金騎士になる」
疲労がどうしたんだ、イチ兄や匙先輩が頑張るんだ、俺が頑張らないでどうする。
強くなって俺は――――。
そんな時だった、ソーナさんが俺の手を優しく握っていた。
「あなたはあなたです。兵藤双葉なんです……それを忘れてはいけません。あなたは黄金騎士である前に人間です」
「……わかってますよ」
少し苛立ちを感じた。
人間、か……もしも父さんや母さんの力を継げていたら、俺は今より強かったのだろうか。
……馬鹿馬鹿しい、何を考えてるんだ俺は。リアス姉さんの眷属の話を蹴ったんだぞ、人間で在り続けるって決めたならそれを貫き通せ、それはアザゼルおじさんにだって言われた。
「……双葉」
「……あっ、いや、その……ソーナさん、近いです」
ふと気づくとソーナさんの顔が直ぐ側まで来ていた。
俺の言葉に気づいたのか、ソーナさんは顔を赤くして、距離を――――取らない!?
むしろ近づいてきてる!? てか、なんで目を閉じてるの!? 待って待って!! このままだとき、またキスしちゃ――――。
「よぉ! 双葉、おは……あぁっ!?」
匙先輩ナイスゥウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
俺はソーナさんから距離を離し、直立不動の体勢になる。
ソーナさんは顔を真っ赤にしながら、ゆっくりと匙先輩の方を向いた。
「サ、サジ」
「いえ、その邪魔する気は……いやでも」
『何してんのぉおおおおおおっ!!』
言い訳しようとした匙先輩の体が宙に飛ぶ。
何故か、怒り心頭といった風に生徒会メンバーが足を出していた……皆さん寝間着なんだから、そんな上げないで……あっ、黒だ。
じゃなくてええええええ!! こういう時見てしまう男の性が憎い。
「ありえないわね……ささっ、会長、続きを」
「……出来るわけ無いでしょうッ!?」
おぉ、ノリツッコミ。珍しいな、ソーナさんがこんなキレの良いツッコミをするなんて。
そう思っていると、何故か仁村と花戒先輩がポンと肩を叩いた。
「そこはキスしなきゃダメダメだねえ、旦那ぁ」
「そうそう、こう官能的に、男らしく」
「何言ってるんだよ、仁村に花戒先輩。それにキスなんて後輩と先輩がするもんじゃないだろ?」
と言ったら二人どころか、周りの兵隊さんたちまで「えっ、コイツ何いってんの?」って顔で見てきやがった。なんでや!! 当たり前だろ!! ただしリアス姉さんや朱乃先輩は除く! あの二人は慎みという言葉を知ったほうがいいと思います!!
「あっ、こりゃダメですよ、花戒先輩。うわさ通りの鈍感通り越して性欲ないとか言われてるレベルです。普通気づきますよ」
「でもお尻に興味あるんだから……ハッ! もしかして木場くんと」
「んなわけあるかぁあああああああっ!!」
やめろぉ!! やめろぉおおお!! 知ってんだぞ! 生徒会でも密かに蔓延しているあの悪魔の書物!!
師匠や俺、イチ兄がくんずほぐれつどころかコイツを見てくれ、コレをどう思う? すごく……エクスカリバーですみたいな会話してる本があるってよぉおおおおおっ!!
思い出しただけでも吐き気が……無駄に美化フィルター入ってて、絵のクオリティも高いしよぉお!! というか兄弟で書くってどういうことなの!?
押収した奴らから「やっぱ弟が攻め」とか言ったから、ブチ切れてその場で破り捨てて、許可取って焼却炉にぶち込んでキャンプファイヤーしたが、なんだ攻めって。うるせえよ! イチ兄をそういう目で見たことねえよ!! てか男のケツなんぞ見ても……あっ、でもギャー助は中々……あぁああああもうめちゃくちゃだよ。
俺はうなだれていると、真羅先輩がポンと肩を叩いてくれた。
優しい先輩もいるんやなって……だが違った。
「私は別に気にしませんよ、むしろウェルカムです」
「……ごはっ」
吐血(イメージ)しながら、俺は再びうなだれていた。
あぁ、もう誰か助けてくれよ。
「何してんだ? 双葉?」
そんな声が聞こえ、俺が顔を上げると……銀色のメタリックな馬のようなものに乗ったロゼさんがそこにいた。
流麗鋭利なシルエットの馬体は白銀に輝き、頭頂部にはブレード状の角が付いていた。
イメージ的には絶狼の鎧を馬に着せたような感じだが、コイツは一体?
『ほう、ロゼ。迎えに魔導馬とは豪勢だな』
「やはり、ではコレがあの『銀牙』なんですね!!」
ザルバとソーナさんが言ってるが、魔導馬? 銀牙? なんのこっちゃ?
と俺が首を傾げていると、ロゼさんではなくシルヴァさんがため息を付きながら教えてくれた。
『坊や、これはね。魔戒騎士としての使命を果たす過程で一定の力量を認められた者が持てる大いなる力よ』
『双葉、以前内なる魔界に行ったことを覚えてるか?』
あぁ、覚えてるわ。
確かご先祖様に叱咤激励された空間のことだろ? そういえばあの時試練がどうたらこうたらって言ってたっけ? それが魔導馬の試練ってことか?
『あら、もう内なる魔界に行ったの? ……まぁ、力量はともかく戦果だけなら召還出来てもおかしくないわね』
「いや、俺が精神的なショックで引きこもってた時に行っただけですから」
「ハハッ、だが行けたってことは近いうちに試練を受けられるのかもな……お前は凄いな、歴代でもここまで早く魔導馬を扱ったものはいないんじゃないか?」
「ッ!! じゃ、じゃあ双葉も近いうちに『轟天』を!?」
凄い興奮しているソーナさんの言葉に、俺は思い当たる物があった。
そういえばソーナさんに貸してもらった絵本に、馬に乗った牙狼がいたが……あれが轟天なのか? 絵本だから出したのかと思ったよ。
ロゼさんが苦笑しながら、ソーナさんに言葉を返す。
「ありえなくはないな。ここ最近の双葉を考えたら、この冥界にいる間にやっちまうかもな」
「いや、それはないですよ……と言うか、そんな大事な馬を俺の移送のために使って良いんですかね」
微妙な表情をしている俺に、銀牙が近づき頬をすり寄せてくれた。
おぉ、よしよし良い子だねー。大いなる力って言ってもやっぱ馬なのか、それとも人懐っこいのか分からないが可愛いなぁ。
あっ、でも鎧が当たって擦れる、痛い痛いから。
「銀牙が俺以外に懐くとはね」
『不思議よねー。あなたのその体質なら魔戒騎士よりも使い魔ブリーダーの方が似合ってるんじゃないかしら』
『だとよ、双葉』
「いいかもな、年取ったらやってみるかな」
そんな冗談を言うと皆が笑う。
半分本気なんだけどなー、年老いたら牙狼止めなきゃいけないし、そしたら余生でやるのも面白いかも。
「さて、そろそろ行くか。乗れよ、双葉」
そう言ってロゼさんが手を伸ばす。
俺はその手を握り、軽くジャンプしてからロゼさんの後ろに乗る。
おぉ、乗り心地はそこまで悪くないのか? 馬に乗るなんて初めてだしなぁ。
俺は銀牙の上から、ソーナ先輩たちに手を振る。
「それじゃあ、レーティングゲームの日に。俺、絶対に行きますから」
「はい、双葉もお気をつけて」
「双葉、あの言葉本気だからな!! だから、お前も頑張れよ!!」
皆が手を振り、音楽や空砲が鳴り響く。
グレモリーでもそうだが中世の時代に戻った気分だ。乗ってるのは馬だし、鎧も来たらそれっぽくなるな。
「捕まってろよ、双葉」
「は、は――――って、うぇえええええええええええええええ!?」
返事もする間もなく、銀牙が駈け出した。
そのスピードが凄まじい。まるでスポーツカーに乗っているような感覚だ。周辺の風景が見えない……てかこんな早いとか聞いてない、聞いてないぃいいいいいいいいいいっ!!
「ハハハッ! どうだ双葉、これが魔導馬だ」
「凄いですねえええええええっ!!」
振り落とされないように必死に捕まっているのがやっとだ。
あぁあああああ、というか振動がケツに! ケツにぃいいいいいっ!!
「番犬所はここから三時間ってところだな」
「降ろしてぇええええっ!! このままじゃケツが! ケツが死ぬ!!」
『リアス嬢ちゃんの尻叩きに比べたら可愛いもんだろうが』
「そういう問題じゃねえよぉおおおっ!!」
俺は泣きながら、早く着け、早く着けと祈った。
****
「二度と乗らない、魔導馬とか俺要らないし、強化の魔法で自分の足で歩くし」
「あのな、魔導馬っていうのは……まぁ、銀牙があそこまで張り切るとはなぁ」
冥界の端っこ、特殊な結界に包まれた領域に番犬所はある。
その入口、おどろおどろしい狼の彫刻と悪魔や天使、堕天使、人間の像が立ち並ぶ場所で俺はふてくされていた。
だってさ、馬のくせにドリフトするんだよ? すげージャンプして渓谷を超えたり、俺を振り落とすかのように深い森をジグザグと駆けるんだもの。もうジェットコースターで満足できねえや、ハハハ……はぁ。
『情けない、魔導馬を使うのはまだまだ先だな』
「うるせえよ、ザルバ。お前も体持てば分かるよ」
全く指輪のお前は良いよな、嵌ってれば良いんだし。
ふてくされ終わった俺は、埃を払いながら立ち上がり番犬所を見渡す。
神殿か何かだろうか? と言うか屋根の部分に牙狼の△マークのオブジェクトとか……あっ、よく見りゃ屋上に牙狼の鎧をモチーフにした石像とかある。
「ここが番犬所、魔戒騎士の本山……って言っても随分昔の話だがな。今じゃ、誰も来ない。昔はこれでも結構人がいたんだぜ?」
ロゼさんがそう言うが、この閑散具合を見るととてもじゃないが信じられない。
だが、番犬所の入り口から誰かが出て来た。
一人は黒い魔法衣若い男性だが……誰かに似ているような気がするが思い出せない。
もう一人は魔法衣ではなく、スーツを着た年配の男性だったが体から滲み出るオーラと立ち振舞いからとんでもない実力を持った人物だと分かる。
というか、震えが止まらねえ……。
二人がこちらまで歩いてくると年配の男性の方が口を開いた。
「……君が黄金騎士かね?」
「ッ……は、い」
たった一言だ、その一言を発するだけでもかなりの重圧が俺に向けられる。
値踏みでもするような目線は、不快とは思えなかった。
むしろ蛇に睨まれた蛙と形容しても良いだろう。それだけ俺は、目の前の男性に萎縮してしまった。
だが、次の瞬間男の拳がブレる。
「ッ!?」
「ほう、避ける。未熟と思っていましたが……中々これは」
間一髪だった。
掠った頭から血が流れ出すが、俺は全身に魔力を流して拳を構える。
実力が見たいのか? それとも――――。
「よそ見とは不用心ですな」
「なっ!? ぐぁっ!?」
気を抜いているつもりはなかったが、俺が気づかない隙を見て懐に潜り込んだ男は、腹部に鋭く拳を打ち込む。
腹部に当たった拳が魔法衣を貫通して、俺の体まで響く。
たまらず地面に転がりながら、俺は距離を空ける。
だが男は追撃の手を止めない。
「どうしましたか? 反撃をして来なさい」
「ッ!? ァッ!?」
イチ兄のような派手な一撃でも、あの会場で見たサイラオーグさんのような想いを込めた一撃でもない。
言うなれば洗練された機械のような正確な一撃。
的確に俺の急所をねじ込み、反撃しようにも全ての攻撃がいなされカウンターされる。
強い、強すぎる……今まで戦ってきたどんな相手よりも、格段に上だ。
俺の全てが通用しない。
「おりゃぁっ!!」
「甘い、もっと鋭くッ!」
顔に掌底を当てられふらつく視界。
だが、俺は引っ込められる腕を掴み、強引に捻ろうとするがどうやったのかさっぱりわからないほど手際よく、俺のほうが宙を舞って地面に叩きつけられていた。
「がぁっ……くっ……」
「剣を抜きなさい、未熟な騎士よ」
その一言よりも先に、俺は魔戒剣を引き抜き男に向けて振るうが。次の瞬間とんでもないものを目にした。
「ば、馬鹿な、魔戒剣が」
「この手袋は特別製でしてね。未熟な一撃を耐えるには事足ります」
男が手にはめていた手袋によって、俺の剣が止められていた。
嘘だろ!? ソウルメタル製の武器を受け止めるなんて、俺は本気で斬る気で振るったのに、なにもんなんだよこの爺さんは!?
「心を乱すな」
「ほぐぁっ!?」
動揺していた俺の気持ちが見破られたのだろう。
受け止められていた剣を弾かれ、がら空きになった俺の胴体にパンチと蹴りが連続して命中する。
たまらず喉までせり上がっていたものをぶちまける。
膝を付いて、男を見ると深く息をしながら構えていた。
ここまでボロクソにされてると悔しいと思う以上に尊敬するよ。俺もこの数ヶ月で大分実力をつけた、だがまだまだだって今はっきりと示された。
「あんた、名前は」
「……名前など不要。もし言うならばネムレスとでも呼んでもらいましょうか」
ネムレスと名乗った男性はそれだけ言うと俺に突っ込んでくる。
俺は防御態勢を取りながら、男性の一撃を防いだ。
「ほう……」
「黄金騎士舐めんな」
今度は俺から打ち込んでいくが、その全てが防がれ受け流される。
だが知った事かッ!! 俺は自分を信じる、今まで培ってきた俺の修業の成果をなッ!!
「動きが? なるほど、戦いに集中するほど動きのキレが良くなるタイプですか」
「いっつも皆に言われますよッ!!」
殴られようが、蹴られようが強引に前に進みながら俺は自分の体と魔戒剣を振るう。
どうせ、この人のように長年培ってきた技も、力量も俺にはない。あるのは今まで、イチ兄や師匠たち、そして強敵たちと戦ってきた経験値だけ。
荒削り? 隙だらけ? どうぞご自由に、それでも俺は勝ってきたッ!!
「なるほど自信ですか、その目に宿るものは……若い、だがそれだけです」
「なっ!?」
ピタリと体の動きが止められる。
いや違う、俺の体が止まったんだ……湧き上がるこの痛みは……なん……だ?
立っていられずに、魔戒剣を落として俺はその場でのたうち回る。
「ぐぁっ! があああああああああああっ!!」
『双葉、コイツは毒だ! やり過ぎだぞ、ネムレス』
「この程度で死ぬなら死なせてやったほうが救いだ。違いますか? ザルバ」
激痛と体の痙攣に襲われる中、俺はネムレスに言われた言葉に衝撃を受けた。
死が、救い? 今、コイツはそういったのか?
ふざけるなッ!!
怒りで頭が爆発しそうな熱さを感じながら、俺は立ち上がる。
「ふざ、けるな……死が救いだと?」
「そうです。この程度、児戯にも等しいこの戦い程度で心折れるのであれば私が君を殺します。そして次の黄金騎士が現れるまで守りましょう」
「黙れッ!! 死が、あんなのが救いであってたまるか!!」
脳裏に、両親の死ぬ寸前の姿がよぎる。
泣いていた、生きたいと願っていた、暮らしていた生活を奪われる怒りも感じた。
その全てを無に返すのが死だ。
冷たく横たわる両親はもう何も言ってくれない。
あんな姿が救いなんて俺は思わない、いいや俺は認めないッ!!
「死んで幸せな奴なんかいるかッ!! 俺は絶対に諦めない、死んでたまるかよっ!! 俺には――――」
脳裏に朱乃ちゃんの笑顔がよぎり、震える手を無理やり上げながら円を描き、下に振り下ろした。
「俺には帰りを待ってくれる大事な人がいるッ!!」
黄金の鎧が装着され、体を蝕んでいた毒を光が無理やり浄化した。俺は直立不動の体勢でネムレスを睨みつけた。
ネムレスはゆっくりと構えながら、ニヤリと笑って静かに脇から釵だっけ? そんな武器を取り出す……恐らくは奴の魔戒剣か。
武器があるなら思いっきり牙狼剣を振るってもいいだろうッ!!
「行くぞ!! ネムレスッ!!」
「いい気迫だ。最初からそうすればいいのです」
俺は体を回転させながら跳び、ネムレスは右腕を突き出す形で飛び上がる。
そして剣と釵がぶつかる瞬間、投げられた魔戒剣に俺たちの体が吹き飛ばされる。
いや、正確に言えばネムレスの方は片方の釵で器用にガードしたのだが、俺だけがまともに当たり鎧が体から解除されながら地面に転がる。
な、何回目だよ、コレ……土と恋人になりそうだな、ハハハ。
「そこまでだ。ネムレス、やり過ぎだ」
「そうですかな? 保護者気取りも卒業しなさい、ロゼ。あなたは長なのですよ」
「引退したお前さんが黄金騎士殺そうとしてたら止めるに決まってんだろうが、全く毒まで使い出しやがって」
ロゼさんが戻ってきた剣をくるくると回し、鞘に納める。
止めるのは良いんだけどさ、俺に当てる意味は無くないっすかね。
「少々熱くなったものですから。そこで止めるつもりがまさか鎧の召還で無理やり毒を浄化するとは」
「ったく、言っただろうがコイツは追い込まれるほど強くなるって、案外あのままやってたら腕の一本は持ってかれてたかもな」
「ふむ、それは面白いことです」
「はぁ……悪いな双葉、立てるか?」
「な、なんとか」
痛む体をなんとか起こして、尻餅をつく。
全く、魔法衣なかったら何回死んでたかわからねえわ。
というかこのジジイはやっぱ引退した騎士か。引退してこの強さってありえねえよ、泣きたくなるわ。
「そう悲しい顔すんなって、むしろ少しでも打ち合えたお前はやっぱ素質あるよ」
「牙狼を継いでいるのです、このくらいして貰わないと」
「……ふん」
なんか納得の言ってないというか、恨みの目線? いや憧れ? よくわからない視線を送っている若い男は一体誰ですかね。もしかして引退した騎士かな?
そう思っていたらロゼさんが、男の肩に手を当てながら紹介してきた。
「紹介するぜ、双葉。コイツの名前はマグダラン・バアルだ。あのサイラオーグの弟な」
「へー……えぇえええええええっ!?」
あぁああよく見ればサイラオーグさんによく似てる! でもなんか体から感じるオーラとかが頼りない? てか、この人も魔法衣付けてるってことは魔戒騎士なのか!
……いや、待て俺。今までの経験から言うとこのマグダランも、ろくな騎士じゃない可能性があるッ! ライザーしかり、フリードしかり、歳が近い魔戒騎士がろくなのがいなかったからな!!
だが、マグダランは不快そうに鼻を鳴らすと嫌々そうに、俺に頭を下げた。
「……初めまして、黄金騎士殿。私の名前はマグダラン・バアル、堅陣騎士ガイアと名乗っている」
嫌々そうに名乗ったマグダランはそれだけ言って、さっさと歩き去ってしまった。
俺はため息をしながら、体を地面に預ける……さすがに回復しないと一歩も動けねえや。
◯魔導馬
お馴染み忠犬ハチ公ばりに魔戒騎士を助けるUMA(誤字にあらず)。原作ではホラーを100体浄化した際に与えられる試練を乗り越えることによって召還が許される。この世界ではある程度力を持ち、大きな問題に対処した騎士が試練を乗り越えることによって召還が可能な上、認められた騎士は鎧を召喚せずとも魔導馬単体で召還することも出来る。ただし体力や精神力を持っていかれるため、長時間出していて鎧が召喚できない、なんてこともある。
◯ネムレス
元魔戒騎士と言うがその実力は高く、かつては「牙狼に最も近い男」と呼ばれたほどの実力者。ちなみに劇中使っていた釵はソウルメタル製の武器だが、魔戒剣ではなく純粋な武器であり、魔戒剣は別に持っている。手袋どころか、全身にソウルメタルの鉄板を仕込んでいる。ネムレスというのは自身で名乗っている名前で、本名は別にある。
◯堅陣騎士ガイア
『牙狼-GARO- 炎の刻印』で出て来た、作中唯一砕けた鎧。と初見の人には悪印象を与えるが、アニメ本編での活躍はまさに一騎当千、名前の堅陣に恥じぬ活躍をした鎧。色合いは濃紫色だが、所々に銀と のライン、手甲部と腰に三つの青水晶。先の大戦では牙狼と共に戦った仲間の一人であり、バアル家に連なる者が継承していたが戦死。バアル家に保管されていたがマグダランが引き抜き、鎧の後継者に選ばれた。
詳しい活躍が見たい人はDVDかBDでアニメを見るべし。炎の刻印は少しエグいというか最初が虐殺から始まるので飛ばしても良い(強姦の後のようなシーンもあるので嫌いな人はマジで飛ばすべし)。しかし練られた脚本と当代の黄金騎士レオンの成長劇は見もの。最終回は歴代でもトップクラスの出来なので見るのをおすすめする。というか全シリーズを見るんだ! そして買うんだ!! ただしパチンコは除く(何度も言う)
はい、出しました。コダマと尊士のような存在。ロゼも師匠キャラなのですが、双葉を溺愛しているためくっそ厳しい師匠キャラをここら辺りで。イッセーにおけるタンニーンのような役目、そして魔戒騎士としての生き様を見せてくれるキャラです。個人的イメージは魔戒騎士のゴンザ(なおゴンザはこんなに厳しくない)